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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
7/50

写真クラブ

 カメ爺の誘いを受けてからの2日目までは、どんな人が居るのだろう、若い人が一人いるって言っていたけど女の子かな、など恥ずかしながら思春期真っ盛りな事を妄想して盛り上がっていたが、前日の夜から体調が急変した。


いつも予定の前日は体調を崩すのだが、中々慣れていってはくれない。両親は僕が久し振りに予定を作ってきた事に喜んでくれていたので、調子が悪い事を悟られて水を差すわけにはいかない。


そこで僕は、自室にあるベランダで気分を落ち着かせる事にした。当初このベランダは洗濯物を干すために使っていたが、僕がこの部屋を2年前に使いようになってから部屋に人が入ってきてほしく無いというワガママを聞いて使わないでくれている。


まだ僕が5歳の頃家の中でよくダンボールと座布団で囲いを作り、ここは僕の基地だと言って遊んでいた。


そんなことを思い出せるからなのか塀に囲まれたここに居ると、何故だか落ち着ついてくる。部屋の中にいると人に会いたく無いのに一人な事にとても物悲しさを覚える。だがベランダに出た途端外と繋がれた気がしてなのだか心が満たされるような錯覚に陥る。


そんなこんなで、三時間ほどベランダにて仰向けで寝ているとなんだか眠たくなってきたので、流石に外で寝るわけにもいかず部屋に入った。4時間しか寝れないが、短い睡眠にも慣れてしまっているので、特に気にすることなく眠りにつく。


「それにしても今年の梅雨は雨が少ないな。また、ダムが干上がっちゃうよ」


いつもより2時間も早いこの時間は、お昼の買い物帰りの荷物を持った主婦があちこちにいる。ここらで一番大きい、スーパーあずさは人混みがすごいだろうな。


満員電車を思い出して気持ち悪くなる。普段なら、絶対に公園に行きたくない時間帯なのだが、今日は仕方ない。なぜなら時間の約束をするのを忘れたから。


「教えといてくれたらこんな面倒なことには、ならなかったのにな」


公園について辺りを見渡してもカメ爺はいない。

まだ来ていないか、とベンチに座って待とうとしたが、先客がいたのでボロボロのブランコで待つ事にした。


隣でキーキーと漕いでいる幼稚園生らしき格好をした少年がとても楽しそうにしていた。僕もそうだったろうけど、あんな小さい子は悩みなんてないんだろうな。


待てど待てども、一向に現れないのでブランコを思いっきり漕いで、上の方に行った時に写真を撮る事を繰り返していた。


いつもより高いところから見る公園も中々に綺麗。

だが、写真では動きが早すぎてブレてしまいあまりうまく撮れていない。そんな事をやっていても来ないので、暖かい陽気に誘われてブランコで居眠りをして待つ事にした。



***

「おーい、起きてーーー」


なんだ、と起きてみるとカメ爺。

近くにある大きな時計で時間をみると午後の2時、相当寝てしまった。


「やっと起きた。ゴメンね時間言ってなかったから、寝ちゃうぐらい待たせたみたいで」


「いえ.........」


寝起きで思考が回らない。


「そうだ!写真クラブはどうなりました?」


「これからだよ、あと少しでみんな来ると思うよ。今日は全部で4人来るからね。みんないい人達だから緊張しないでいいからね」


はいと答えたが、緊張はしないと思ってもしてしまうのでどうしようもない。


「おっす!」


そう言って一人目が来た。ニッカポッカを履いて見るからに土木作業員だと思われるおじさんだった。

無精髭を生やして鋭い目つきをして日焼けした小麦色の肌、絶対怖い人だ。


「誰だ?」


少し怒気を含んだその口調に少々、いやだいぶビビってしまった。見かねた様子のカメ爺が間に入ってくれた。


「そうだった、(あずま)くんには言ってなかったけど新しく写真クラブに入ってくれる事になった…あれそういえば名前聞いてなかった。すまなかったね。私は宮本です、君は?」


「僕は香木 空太(かぎ そらた)です。よろしくお願いします」


「かぎ?珍しい苗字だな。鍵穴の鍵か?」


「えっと...香るに木材で香木です。名前は空に太いで空太です」


「香木空太...ププッ柿食う太か面白い名前だな」


「失礼でしょ東くん。『空太』カッコいい名前じゃないか」


小学生の頃からよく馬鹿にされて来たので慣れてはいるが、こんな大人にまで言われるとは。老若男女に笑われる名前の人物なんて僕ぐらいじゃないかな。


「気にしてないので大丈夫です…」


「悪い、悪い。俺の名前は東 喜多男(あずま きたお)ってんだ。何を隠そう東北男とよく馬鹿にされたもんだ。だから同じようなのが居たのが嬉しかったんだよ」


僕は同士がいた事が嬉しかったが、それだけに辛い気持ちもわかるので同情した。


「東北男、それは大変ですね」


「そうなんだよ。飲みでも仕事でも東北魂見せろーとか、俺は埼玉出身だっての。お前もこれからお酒飲めるようになったら大変だぞ、柿食って来たからいくらでも酒飲めるだろとか」


「え、柿食べると、お酒いくらでも飲めるんですか?」


「そうらしいぞ、俺も先輩に聞いたから詳しくは知らんけど」


えっへんと自分に注目を集めたカメ爺。


「それなら、私が知っていますよ。柿に多く含まれている、ビタミンCとタンニンがいいらしいですよ。なんでもアルコールを排出してくれるとか」


「そうなんですね。一緒に飲む人が知らない事を祈ります」


「そうだな、あんまり知られた話ではないからな。俺みたいな博識でない事を祈れ」


「東さんが博識?お酒が好きなだけでしょ」


「そりゃそうだけどよ。年下の前ぐらい威張らせてくれよ宮本さん」


その場が穏やかな笑いに包まれた。東さんも思っていたより怖い人では無い様だ。なんだか学校の休み時間みたいでとても懐かしい気持ちになった。


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