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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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夢だったら

 水浸しのまま、家に入るとお母さんが駆け寄ってきた。


「どうしたの!とりあえず、お風呂に入りなさい」


「いい、大丈夫」


「空太、何があったの?」


「海歌さんが、死んだんだ」


「海歌さんって、前に言ってた花火ちゃんのお姉さん?」


「うん。一昨日、死んだんだって」


「とりあえず服を脱ぎなさい。着替え持ってくるから」


お母さんは、表情を変えずにそう言った。

なんでそんなに、冷静でいられるんだろう。

自分と関係ないからかな。


バスタオルで体を拭き、お母さんが持ってきた服に着替えた。


「じゃあ。僕、部屋に行くね」


階段を上ろうとすると、お母さんは僕を呼び止めトントンとソファーを叩いた。


「ここに座りなさい」


「行くね...」


僕は、早く部屋に行って寝てしまいたいんだ。


「いいから!座りなさい」


「ごめん」


僕は階段を上がり、部屋に入りゆっくりと扉を閉めると、その場で力が抜けて座り込んだ。


海歌さんは、本当に死んじゃったのかな。

病気だって事は知っていたけど、人間ってこんなあっさり死んじゃうのか。


明日から、何を希望に生きていけばいいんだろう。


とりあえず、寝てしまおう。

もう考えたくない。


全てが夢だったらいいのにな。



翌朝、入ってすぐの床でそのまま寝てしまっていたようで、お母さんの扉を開けた衝撃で起きた。


「ごめん。大丈夫?」


「うん」


「部屋入っていい?」


「いいよ」


僕が、扉から退いた瞬間お母さんが抱きしめてきた。

ビックリして立ち尽くした僕を、お母さんは1分ほど抱きしめ続けた。

そして、パッと手を離し真面目な顔をして僕に質問をする。


「お葬式は、いつなの?」


「明日」


「じゃあ、急いで制服探さなきゃ」


「いいよ。行かないから」


とてもじゃないが、死んだ海歌さんの顔なんて見たくない。


「行きなさい。行かなかったら絶対に後悔するから」


「嫌だ。行きたくない」


「ダメよ。私が引っ張ってでも連れて行く」


「なんでそんなひどい事するの。お母さんらしくないよ」


お母さんは、いつでも優しくて僕の味方をしてくれていた。

なのに、なんで今は僕の気持ちを理解してくれないんだ。


「空太、あのね。学校に行けとか、勉強しろとかそんなことはお母さん言わないわ。空太が病気なのも分かっているから、無理させる気は無いの。でもね、今回は違うの」


「なんでよ!なんで分かってくれないの!」


壁を思いっきり叩いた。

それでも、お母さんは話をやめない。


「大切な人を失う気持ちなら、お母さんにも分かる。お葬式に行きたくない気持ちもわかる。でも、いつかは亡くなったっていう事実を受け入れなきゃいけないの。その時に、お葬式に行ってなかったら絶対に後悔するから」


「それでも、死んだ海歌さんの顔を見たくない」


「でも、その人はきっと空太と会いたがってるよ。自分の為だと行けないなら、その人の為だと思って行く事はできない?」


その言葉は、ズルすぎる。

僕が、海歌さんの為と言われたら断れないの分かって言っているのかな。


「じゃあ、少し会いに行くだけなら...」


「そうね。じゃあ私も一緒に行くね。難しい事は気にしないで、空太はその人にちゃんとお別れを言うのよ」


「うん...」


お母さんは、立ち上がって笑顔でこちらを見る。


「じゃあ、朝ご飯は何食べたい?好きなもの作ってあげるよ」


「いらない。寝たい」


ご飯なんて、食べる気にはならない。

それよりも早く、また寝てしまいたいんだ。


「そうね。明日の為にも休まないとね」


ベッドで、横になり目をつぶる。

お母さんは、お別れをしなさいと言っていたけど、僕はそんなのしたくない。


お別れしなきゃいけないぐらいなら、海歌さんの所に行きたいな。

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