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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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夢中で

 「早く映画が始まらないかな」


祈るようにそう呟いた。

すると花火さんは、僕の腕をトントンと突いて小さな声で話しかけてきた。


「ねぇねぇ。猫街って、音楽も良いんだって。結構、話題になってた」


腕をいきなり触られて、心臓がキューッと縮こまった僕は、なんとか平静を装って言葉を返す。


「そうなんですか。詳しいんですね」


「うん。私、この作者の他の映画好きなの。だから、けっこう調べたんだ」


「どんな作品を書いている人なんですか?」


「そうだなー。あれは、知っているんじゃない?『僕に嘘をつくその日まで』」


「あっ、知ってますそれ!友達の間で流行ってました。確か3年前ぐらいに映画化されましたよね」


その時期は、僕が学校に普通に通えていた最後の頃。

友達に誘われていたけど、結局行かなかったんだよな。


「私、その映画を見て『僕嘘』に出てくる制服に似ているから、西海高校選んだの」


「そうなんですか...」


すると、急に映画館の照明が暗くなり、スクリーンに上映時の注意映像が映し出された。


僕達は会話を打ち切り、スクリーンを見つめた。


やっと映画が始まった。


最初は正直あまり興味が無かったのだが、見始めると凄く面白い。


野良猫のように一人で生きてきた主人公の広正が、家猫のように人懐っこいヒロインの沙夜と恋をするという内容。


主人公の友達になる闘犬のようなヤンキーの俊朗。

恋のライバルになる、忠犬みたいなヒロインの幼馴染である賢人。


などの、動物をモチーフにした登場人物達のクラスで起こる、高校生らしい甘酸っぱい恋の物語。


ラストシーンに出てくる、田んぼ道を大人になった二人が、手を繋ぎ犬を二匹連れて歩くシーンでは涙が出てしまった。


エンドロールも終わり、照明がついた。

集中しすぎて全く見ていなかった花火さんの方を見ると、目をウルウルさせて前屈みのまま固まっていた。


「花火さん。終わりましたよ」


「うん、終わっちゃった。面白かった?」


「はい、物凄く!」


「私も!」


僕達は、興奮覚めやらぬまま全く手をつけていないポップコーンを片手に、7番スクリーンを出た。


受け付けを出たところで、僕はさっきの約束を思い出し、前を歩く花火さんを呼び止めた。


「あの、花火さん。ポップコーンのカップどうぞ」


「そうだった。でも、君もこの映画気に入ったみたいだから自分で持ってなよ」


「ありがとうございます。あ、そうだ!チケット貰ったんですから、海歌さんにお土産買いに行きませんか?」


「いや、いい」


花火さんは素っ気なく僕の提案を断った。


「そうですか。じゃあ僕は少し買ってきますね」


「だから、いいってば!」


「あっ、はい」


いきなり、どうしたんだろう。

まあ、花火さんが嫌なら海歌さんへのお土産は、またの機会にするか。


「じゃあ、帰ろう」


「はい」と言いかけたところで、ふと本来の目的を思い出した。

僕は、花火さんを説得するために今日来たのに、映画を観ただけで帰る訳にはいかない。


「あの、どっかで映画の話でもしませんか?」


こんな大通りで、説得するのは気が引けたので、映画を口実に誘ってみることにした。


「えっ、まぁいいよ。でも、そんなにこの映画気に入ったの?」


「はい。せっかく映画見たのに、このまま帰るのはどうかと思って」


「うん、そうだね。じゃあどこに行く?」


「えっと、じゃあライオンでどうですか?」


「あの喫茶店?ま、いっか。家の近くまで帰ってからの方が帰りが楽だね」


「じゃあ、行きましょうか」


バスに乗り徒歩も合わせて15分ぐらいで、喫茶ライオンへ着いた。


「チーーン!」


花火さんの後に続いて店内に入ると、扉から前回とは違う音が響いた。

そういえば、前回来た時も違う音だったな。


「鈴、変えたんですね」


厨房から出てきた店長さんに向かって何気なく聞くと、恥ずかしそうに笑いながら手を頭の後ろに回した。


「いや~、趣味がコロコロ変わりやすくてね。半年前と比べると、あちこち変わっちゃってるんだ」


「あっ、ホントだ。メニュー立ても変わってますね」


「アハハハ。常連さんには一貫性がないってよく怒られるんだけど、やめられなくてね」


「そうなんですか。でも、前のより良いと思います」


「そうかな、ありがとう。メニューも少し変わっているから見てみてね」


「はい」


僕は、先に席に着いた花火さんの向かい側に座った。


早速メニューを手に取り、何が変わったのか見てみることにした。


「仲良いんだね。あの人と」


「えっ、そうですか?」


「だって、あんなに楽しそうに話してたじゃん」


「それは、多分お客さんだから愛想よくしてくれているんだと思いますよ」


「君って、ネガティブだね」


ネガティブ?

でも、もし店長さんに街で会っても話しかけてはくれないだろう。

その程度の関係で、仲が良いとは言えないと思う。


いや、もしかして...


「ネガティブなんですかね?」


「うん。凄く」


「そうなんだ...」


初めて自分がネガティブという事を認識した。

以前から、前向きな性格では無いと思っていたがネガティブだったとは...


僕が落ち込んでいると、花火さんはお構い無しに映画の話を始めた。


「それで君は、どのシーンが一番よかった?」


「えっと...やっぱり一番はラストシーンかと」


「私も!あの手を繋ぐシーンは最高だった。それと、あの犬の意味は理解できた?」


「はい!広正が、賢人の飼っていた犬を連れて歩くって事は、約束を守って賢人に認められたって事ですよね」


「やっぱりそうだよね!ラストシーンの間がどうだったのか気になるよね」


「確かに、気になります!」


この後も、二人で子供のように夢中で映画の感想を話し続け、僕がネタが尽きかけても、花火さんは話し足りないようで一方的に喋り続けた。


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