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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
40/50

電話

 千葉に行ってから一週間が経った。

お父さんに背中を押してもらって、やる気と覚悟は固まった。

けど、海歌さんからの連絡が無いことには、行動に移す事は出来ない。


焦る気持ちを抑える為に、部屋のベッドで横になりテレビでアニメを見ていると、主人公が落ち込んでいる友達を説得しているシーンだった。


普通はこういう所で胸が熱くなったりするのだろうが、僕は逆に冷めてしまう。


主人公は、元から強い人間で挫折をしたことが無いような、人生を送っている設定のヒーローっていう言葉がぴったりな男の子。


でも、そんな人に本当に辛い人の気持ちがわかるのだろうか?


僕には上から物を言っている様にしか聞こえない。


一緒に落ち込んで慰めてくれるのなら分かるのだが、強者の意見で説得されても僕には脅迫にしか感じられない。


だから僕は、弱い主人公がだんだん強くなっていくアニメが好きだ。

最初から強い人が凄い事をするのではなく、弱かった人が努力をして凄い事を成し遂げる方が本当はカッコいい筈だ。


「ピコーン」


携帯電話からメールを知らせる音が鳴った。

僕はベットから飛び起き、サイドテーブルで充電していたスマホを開けた。


メールは東さんからだった。


「空太、遥さんに話はしたぞ~。やっぱり謝りたいって言われたけど、待ってもらう様に説得しといた。遥さんの為にも早めに花火ちゃんの説得頼んだぞ!」


良かった。

遥さんは分かってくれたようだ。

東さんとカメ爺はきちんと役割を果たしてくれた。

後は僕が失敗しなければ、写真クラブは元どおりになる。


「ありがとうございます。こちらはまだ時間がかかりそうですが、なんとかしますので待っててくだ...」


メールを打っていると画面がいきなり変わりピコピコと音が鳴り出した。


画面には、「花火さん」という文字。


自分の目を疑い何度も目を擦るが画面の文字は「花火さん」のまま。


身体中から汗が吹き出し、一瞬体が固まったが早くしないと切られてしまうので緊張しながらボタンを押す。


「も、もしもし。空太です」


「あの、花火です。今から急いで病院にきてくれない?」


花火さんの声はとても消え入りそうなものだった。

鎌倉での事を気にしているにしても、おかしいと思うほどに。


「えっ、何かあったんですか?」


「うん...お...お姉ちゃんが倒れたんだって」


「えっ、どうゆう事ですか?」


「倒れた」その言葉の意味はわかっていても、脳が処理しきれなかった。


「私も向かっているから早く来て」


そう言って電話を切られてしまった。


海歌さんが、倒れた?

何の冗談だ。

そんな事が起こる訳が無い。


でも、もしかしたら本当かもしれない。

もし本当だったらどうしよう。


そういえば一年前も同じような事があった。

お父さんが、病院からおじいちゃんが危篤だと電話を受けて家族全員で向かった。

みんな車の中で神妙な顔をしていたけど、僕だけが嘘だと思っていた。


病室に行くと笑顔のおじいちゃんがいて「ドッキリでした」と言ってくれるのだと信じきっていた。


だから、病院に着いておじいちゃんがベットの上で顔に布を被せられているのを見ても全然現実が受け入れられなかった。


でも、いつも僕の頭を撫でてくれていた暖かい手が、こんなにも冷たくなっているという事実だけで、僕は「死」を受け入れた。


今回も同じ事が起きてしまうのではないか、その不安だけで僕の視界は真っ暗に覆われた。


寝巻きだった服のまま、部屋を出て玄関で靴を履いているとお母さんがやってきた。


「どこに行くの?」


「ちょっと、病院に行ってくる」


「そんな格好で?」


「うん。急いでいるから」


「ちょっと待ってて」


そう言って、お母さんは二階へ上がっていった。

僕はイライラして、足をドンドンと床に叩きつけながら待った。


「空太、これだけは着て行きなさい」


僕のお気に入りのパーカーを手渡されたが、その優しさを受け入れる事は出来ず乱暴に受け取った。


「じゃあ、行ってきます」


「うん。行ってらっしゃい」


玄関のドアを開けて僕は走り出した。

家の前の道を右に行って、大きな通りに出てからはひたすら真っすぐ。


いつもなら歩くには少し遠い程度のこの道が、急いで走っているはずなのに永遠に続く長い道のように、全然前に進んだ感じがしない。


車の走る音、人の笑い声、風の音すらも今は煩わしく全てが僕の邪魔をしているように思えてくる。


汗だくで病院に着くと、大きな時計は9時40分を指していた。


すごい時間がかかったと思っていたが、10分も経っていないのか。


僕はいつもの面会用のバッチを受け取らず、エレベーターに早歩きで向かい、矢印マークのボタンを連打する。


4階に着くといつもよりどんよりとした空気が流れている気がして、僕の不安を一層掻き立てる。


ナースステーションを過ぎて一つ角を曲がり405号室の前に着いた。


目を閉じ、一度大きな深呼吸をして勢いよく扉を開ける。


「失礼します!」

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