苦い記憶
公園に行くのに、身支度を始めた。今日は兄を見習って少しおしゃれでもしてみるか。
セレクトは、僕の中で一番かっこいい黒の柄の入ったシャツに、下は青のダメージの入っていないジーパン、そして一番大事なお気に入りのキャップ。
ジーパンは伸びないので動きづらい、写真を撮るのには向かないのだが、おしゃれのためには仕方ない。最後に母が作ってくれた紐のブレスレットを付けて完成。
「じゃーん。どう母さん!おしゃれしてみたんだけど」
「珍しいじゃない。似合っているわよ」
お母さんは僕がおしゃれをした事を大層喜んでくれた様子。その上写真を撮りましょうかしら、とか言い出しす始末なのでお母さんを振り切りいそいそと家を出る。
ウキウキな気分で、狭い道路を歩いていると人影が見えた。見せるためのおしゃれだが、見られているのは嫌なので、キャップを深く被り少し小走りで公園に向かう。
少し息を切らしながら到着すると、いつもの公園が眼前に広がる。そして僕は安心する。この公園の毎日代わり映えのしない景色。花や木は変わっていくけども根幹の部分は何も変わらない。
そんなこの公園が好きなんだ。
僕の止まっている時間も、この地面の上にさえいれば花の様にいつか咲き誇れる時が来てくれる。
そんな想いを巡らせながら毎日の観察を始める。
今日は公園の南の花壇にあるチューリップが、一輪だけ高く伸びている事に気付いた。面白い様に同じ高さだった五輪の花が右から二番目の花だけ頭一つ抜けていた。
どうせなら真ん中が高ければカッコも付くのに、とツンッと高いチューリップをつついた。
「お前だけ育っちゃうとカッコつかないだろ」
写真では右側の三輪だけ写す事にして、なんとか左側の二輪を映らない様にする為に折れない程度に曲げてみた。
「こらっ。ダメでしょ!お花は大事にしなきゃ」
振り返ると美少女がそこにはいた。風でなびくセミロングの髪を押さえる姿が、絵になる女の子。身長は少し小柄で華奢、整った目鼻立ちをして肌は真っ白、荒げた声からは想像できないぐらい女の子らしい白い花柄のワンピースを着て少女は話しかけて来た。
2日連続で話しかけられるなど、この一年で一度も無かった。
しかもこんな可愛い女の子に話しかけられたことが嬉しかった。
けれど、昨日とは違い好意的ではないのが瞬時にわかった。
「ごめんなさい。でも......」
「でもじゃない、言い訳はしちゃダメ。公園の花壇は係りの人が大切に整備しているの。みんな楽しみにしているんだから、勝手に折り曲げたりしたらダメでしょ!」
駄目だ。人の言う事を聞く様なタイプではない。こうゆう人は教師などに向いている。自分が絶対的正義だと優越感に浸れるタイプ。正直一番苦手だ。こんな時は謝って逃げるに限る。
「そうですね...すみませんでした。以後気をつけます」
「そうそう、分かればいいのよ。今度からやめてよね」
はいと一礼してそそくさと公園を後にした。
せっかく可愛いのにな。けど絶対に好きにはなれそうにない子だよね。少し残念に思いながら下を向き大急ぎでで自宅へ向かう。
すると、少しずつ心臓の音が大きくなり汗が滴り落ちる。
家に着くと母がお帰りなさいと言っていたが聞き流し自室へと向かった。ベッドに入りすぐに寝てしまおうと思ったが、中々寝付けない。先程の出来事が昔の事件を思い出させて恐怖を蘇らせていく。思い出したくもないが、無理やり僕の海馬が結びつけてくる。




