心の支え
翌日、僕は花火さんからメールの返信がない事が心配で、海歌さんの病室の前にいた。
「いつも頼っちゃうな」
そう頭を掻きながら、ノックをしていた。
「はーい」
いつもの海歌さんの声だ!
なんだか、この声を聞くだけで膨れ上がった不安や迷いが溶かされるようだった。
「おはようございます。いきなり来ちゃってすみません」
「空太君じゃん!どうぞどうぞ」
「あの...まず、お土産です」
小町通りで買った、扇子の入った小包を手渡した。
「わざわざ買ってきてくれたの?ありがとうね」
海歌さんは、袋を丁寧に開けて扇子を取り出した。
「扇子?可愛い!花火の柄じゃん」
なんだか海歌さんの顔が、ヘアゴム買ってあげた時の瑠璃ちゃんに少し似ていて笑えてくる。
「喜んでもらえてよかったです。女の子の喜ぶものが分からなくて、不安だったので」
「綺麗だよ。センスあるじゃん、扇子だけに...それでなんで二本なの?」
急いで質問を被せたところを考えると、ダジャレはスルーしてという事かな。
「花火さんと、お揃いで買ってきました。なんとなくそんな気になったので」
「そうなんだ。それで花火ちゃんは元気?」
元気?意味がわからない。
「何のことですか?」
「花火、旅行から帰ってから一回もここに来ていないのよ。てっきり空太君は会っているのかと思ってた」
花火さんは海歌さんにも会っていないのか。
相当塞ぎ込んでいるのかな。
「その事なんですけど...旅行で少し喧嘩というかいざこざがあって」
「へー、何があったの?」
「まず、旅行で瑠璃ちゃんという車椅子の女の子に会ったんです。その子が一人だったので、花火さんの発案で一緒に買い物をして、その時はすごく楽しかったんですけど...別れた後に、遥さんが瑠璃ちゃんの事を不憫って言ったことで、花火さん怒っちゃって...お店を飛び出して電車で帰っちゃったんです」
海歌さんは僕の拙い説明を真剣に聞いてくれていたが、不憫という言葉を聞いた後からは憂いに満ちた表情をした。
やはり海歌さんでも、不憫という言葉は傷つくのか、まぁ当たり前のことだけど。
「そっかー。うん、それで?空太君はどうするの?」
「どうしたらいいのか分からなくて...悩んでいたらここに来ていました」
「ふふっ。ありがとう!私を頼ってくれたんだね」
「はい。お姉さんならどうにかしてくれると思って」
「でもね、今回の件は私は何もしないよ」
海歌さんの意外すぎる答えに僕は言葉を失った。
まだ、出会って短いけど海歌さんは、僕の中で既に灯台のような存在になっていた。
この人の言うことは全て正しいことで、僕はその灯りを辿ってさえいれば、いつも正解の道を歩いて行けると勝手にだが信じていた。
「なんでですか?」
僕は縋るような目で見つめた。
そんな僕を見て、海歌さんは笑っているのか悲しんでいるのかよく分からない顔を僕に見せた。
「私の居ないところで起こった事だから、当人達で解決した方が良いと思うんだよね。それに空太君なら、私が居なくてもなんとか出来る!信じてるよ」
信じてると言われても、僕にあんな顔をした人を助けることなんて出来る筈がない。
自分すら助けることが出来ていない僕に、他人を助けることなんて...
「無理ですよ。買いかぶりすぎです」
「大丈夫!」
「無理です!」
「頑なだね~...うん、じゃあ特別にヒントだけ教えてあげよう。まずね、人を助ける時には、その人がどうして欲しいかじゃなくて、自分がどうしたいかを考えるの」
「自分がどうしたいかですか?」
「そう!どうして欲しいかを考えちゃダメよ。他人の考えなんてわかる訳無いんだから、そんなの心に響かないわ。だから今回は空太君がどうしたいか、これからどうなって欲しいかそれを考えるの」
「僕は、二人を仲直りさせたいです。それで、みんなでまたみんなで楽しく写真を撮りたいです」
この言葉はスーッと体から自然に出た。
これが僕の本心なのか。
だったら、僕は写真クラブに全く関係のない海歌さんに助けてもらって胸を張って仲間だと言えるのだろうか?
言える筈がない!
だったら僕は......
「うーん...70点!まぁ合格かな。じゃあ私にお願いすることがあるでしょ」
またこの人は僕の考えを全て読んでしまう。
海歌さんがエスパーなのか、僕が分かりやすいだけなのか、まぁどちらでもいい。
「あの、写真クラブのみんなに海歌さんの事を教える許可を頂けますか?」
「OK!言っていいよ。あともう一つは?」
「もう一つは...あの、花火さんに僕と会ってもらえるように頼んでくれませんか?」
「正解!花火の事はなんとかするから頑張ってね空太君!」
「はっ、はい...頑張ります!」
やっぱりここにくるといつもお姉さんの笑顔に救われる。
自分でなんとかしなきゃとは思うけど、やっぱり海歌さんに頼るのはやめられないだろうな。
「じゃあ、旅行がどうだったのか詳しく教えて」
「はい、まず冬乃さんって人が......」
その後は、嫌な話は一切せず二人で楽しい話を面会時間ギリギリまで話し尽くした。
まるで本当の家族のように自然に笑顔が溢れて、このまま時が止まってしまってもいいとさえ思えるほどに楽しかった。




