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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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車椅子

 チェックアウトを済ませ、僕たちは小町通りに向かう車中にいた。座席は昨日と変わらず、僕の両隣には清水さんと品川さん、もちろんおじいちゃんの方だ。


後ろには右端に冬乃さん、真ん中に花火さん、左端に遥さんの順番だ。冬乃さんが花火さんに寄りかかって話しかけ、花火さんがそれから逃げるように遥さんに寄りかかる。まるでドミノ倒しのように見えて面白い。板挟みな遥さんは可哀想だけど。


僕は清水さんの趣味の陶芸の話を聞きながら、和やかな気分で過ごしていた。小町通りの脇の駐車場に到着して、買い物するためのお財布をトランクから出していると、花火さんに話しかけられた。


「ねぇ、席変わってよ。冬乃さんがまとわりついてくるの」


「無理ですよ。僕じゃ対処不可能です」


「私だって無理よ。あのタイプの子苦手なの」


うーんどうしよう。あ、そうだ名案を思いついた。


「遥さんに変わってもらったらいいじゃないですか。あの人なら上手く出来るでしょ」


花火さんは、悩む素ぶりを見せた。


「遥さんには迷惑かけたくない...だから、やっぱり君しかいない。それに、変わってくれなかったらお姉ちゃんに言いつけるからね」


「それは...ズルくないですか」


僕は財布を強く握りしめて吐露した。

海歌さんの事を持ち出されたらぐうの音も出ない。

それを分かってて言ってくる花火さんは本当にズルい。



「じゃあよろしく~」


そう言って風のように走ってみんなの所に行ってしまった。

僕もみんなに置いて行かれないようについて行く。

はーー、どうしたものか。

正直僕も冬乃さんは苦手なタイプなんだが。


悩みながら通りを歩いていると、お土産屋さんの陳列棚に目を惹く商品があった。

断りを入れみんなから離れてお店に入ると、白い和紙に小さな花火のイラストがプリントされた扇子がいくつも並んでいた。


あの病室からは花火なんて見えないだろうし、夏っぽくていいんじゃないかな。

それに海歌さん、花火さんの事大好きだから花火も好きだと思う。

安直だとは思うが、女の子にプレゼントなんてした事ない僕にはこれぐらいが精一杯。


扇子を持ってレジへ向かおうとしたら、なんとなく花火さんにも海歌さんとお揃いの扇子を買ってみる気になった。

決して安くは無かったが、そんな気になっちゃったんだから仕方ない。


二つの扇子を一つに包んでもらい、お会計を済ましお店を出ると「キャッ」小さな悲鳴と大きな音がした。


聞き覚えのある声だったので音のした方へ急ぐと、尻餅をついている冬乃さんがいた。


「あの...大丈夫ですか?」


恐る恐る手を出しながら声を掛けてみた。


「イタタタ、うん大丈夫。それより荷物をお願いします」


「あ、はい」


辺りに散財した荷物をせっせと掻き集めていると、死角から手が伸びてきた。

そちらを見ると冬乃さんが落とした携帯電話を拾ってくれたらしい。


顔を上げると、その子は車椅子に座っていた。

絵画のように完璧な笑顔をした中学生ぐらいの女の子。

なんだか、その光景は病室の海歌さんを見ているようだった。


「あ、ありがとう...ございます」


「いえいえ、こちらこそすみません」


僕がその子に目を奪われていると、騒ぎを聞きつけた品川さんと遥さんと花火さんがやって来た。


「冬乃ちゃんどうしたの?」


「あ、おじいちゃん。えっとね、急いでたらこの子にぶつかりそうになっちゃって慌てて避けたら転んじゃったの」


「そうだったのか、ごめんねお嬢ちゃん。大丈夫だったかい?」


「はい、全然何ともないです。ぶつかってませんから、それより怪我はありませんか?」


ぶつかって来た冬乃さんの心配をするなんて僕より年下なのにしっかりしているな。


「うん、大丈夫!ごめんね驚かせちゃって」


「いえ、私も道の真ん中で止まっていたんですから。すみません」


見た感じ小学生ぐらいなのに、すごいちゃんとしている。

感心していると、ある事に気がついた。


「あの、一人みたいですけど。誰か一緒じゃ無いんですか?」


「いや、あの、一緒だったんですけど。お母さんが泊まってたホテルに忘れ物をしちゃって、喫茶店で待っているように言われたんです。けど、お店見たくて勝手に出て来ちゃいました」


「えっ、お母さん心配しない?」


遥さんがしゃがみこんで女の子に話しかけた。


「大丈夫。お店の人にお母さんが戻ってきたらケータイに掛けてもらうようにお願いしたから」


「でも、今みたいに危ない目に遭っても大変だし、お店に戻った方がいいんじゃない?」


女の子はシュンとした顔をした。

可愛そうだが、遥さんの言っていることは正論だし、本当に何かあっても困るから仕方がない。

そう僕も言おうと思っていると、今度は花火さんがしゃがみこんだ。


「じゃあ、私たちと見て回らない?」


「えっ、いいの!」

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