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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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刹那の夕陽

 「何二人でイチャついてんだ?」


こんな時に空気を読まずに割って入ってくるのは東さんに決まっている。

後ろを振り返りジトーッとした目で東さんを見る。


「なんだその目は。俺、なんか悪いことしたか?」


「いえ、なにも。全く。全然」


本心でないことを口に出すとやはり不自然な口調になる。

すると、東さんは僕の肩に手を回して、花火さんから少し距離をとった。


「お前は、花火ちゃん狙いなんだろ。協力してやるから俺にも協力してくれよ」


「え...違いますよ。狙ってませんよ」


「じゃあなんでいつも花火ちゃんの事ばっか見てんだよ」


「見てませんよ。色々あって気になってるだけで...」


海歌さんの事は喋らない方がいいので、説明のしようがない。

それにしても、そんなに見ていたかな?


「やっぱり、気にはなってんだ。いいんだよ隠さなくて」


東さんが、おちょくった顔をしている。

説明して誤解を解きたいが、出来ないもどかしさで、なんだか本当にイライラしてきた。


「遥さんの事は出来る限り協力しますから。僕のことはほっといて下さい」


「分かったよ。悪かったって」


そう言って東さんは肩から手を離した。

いかんいかん、つい声を荒げてしまった。


「何話してるんですか?私だけのけ者にして」


「いや...あの...」


僕が口ごもっていると東さんが、助け船を出してくれた。


「空太に、俺の花火ちゃんにちょっかい出すな、って説教してたんだ」


「私、東さんのモノじゃないです。あと、ちょっかい出されてないですよ」


「それならいいんだ、うん。あ、みんな来たぞ。あと15分ぐらいで陽が沈むから準備しないと」


説明口調で東さんは、そそくさとこの場を離れていった。

代わりに残りのメンバーがやってきた。


「空太くん、いい写真は撮れたかい?」


「いえ、難しくて...けど夕日では綺麗なの撮ります」


「そうだね。夕日は昼間より撮りやすいから、案外驚くような写真が撮れるかもね」


カメ爺の言うことは正しいことが殆どなので、夕日には期待が出来そうだ。


機材をセットしながらお喋りをしていると、やっと空が紅く色づいてきた。


みんな一様にカメラに向き合い、各々シャッターを切る。

先程まで、青に支配されていた空が赤に侵食されていく。

その刹那とも言える短い時間に、飛びっきりの輝きを放つ太陽を待ち焦がれていた。

しかし、写真にして3枚。

普段何気なく見ている夕日は、美しくゆったりとした時間に感じる。


でも、ファインダー越しに見るそれは、まるで一瞬のように過ぎ去っていく。


太陽が完全に沈むと、撮った写真を確認する。

この作業は写真をかじっているモノには当たり前らしく、全員同じ行動をとった。

そして、写真ファイルの中で目を惹く一枚を見つけた。

それは、波が引きかけの頃に沈む太陽と、その光が水面に淡く映し出されて、水面にレッドカーペットができたような風景。


これを誰かに見せたいと周りを見ると、考えていることは同じで、それぞれすでに...。


「あの...品川さん、僕の見てくれませんか」


「いいよ。一番自信があるのを見せてくれるかい?」


緊張しながらカメラを手渡し、表情を伺う。


「綺麗だね、よく撮れているよ」


「本当ですか?ありがとうございます」


ホッとした。

僕の感覚は合っていたようだ。


「あ、でもね。このままじゃ日の丸構図だからコンテストでは入賞は難しいよ」


「そうですか...」


日の丸構図の意味は分からなかったが、入賞出来ないという言葉の方が心に刺さった。


「でもね。ここをトリミングすれば、もっといいと思うよ」


「トリミングってなんですか?」


猫の毛を刈る方のトリミングじゃないとは思うけど。


「写真の不要な部分をパソコンでカットする編集のことだよ」


「パソコンでやるんですね。さっそく家に帰ったら挑戦してみます」


「そうだね。これからは写真を撮るだけじゃなくて編集も覚えなきゃね。編集ってすごい写真がよくなるから」


「そうなんですか。みんなやっているもんなんですか?」


「私はやっているよ。編集ソフト使ってね。東くんも遥さんもやっているって言ってたよ」


隣で片付けをしていたカメ爺が、会話に入ってきた。

東さんまでやっているとは驚いた、パソコンとか苦手そうなのに。


「当たり前な事なんですね」


「真剣にやっていたら、編集もしたくなってくるからね」


すると、東さんがこっちに手を振っている。


「おーい、そこの3人。宿の時間があるからそろそろ行くぞ。ただでさえチェックイン遅らせてもらってるんだから」


「あ、はーい!」


僕も大きく手を振り返す。


「じゃあ行こうか」


そうして僕たちの1日目の写真撮影は終わりを告げた。

この後、宿の豪華な食事に、広い温泉、ふかふかな布団、なんとも贅沢な旅館にワクワクを抑えきれずに夜中の2時まではしゃぎ通した。


家族と行く旅行も楽しかったが、仲間と行く旅行は言葉では言い表わせない喜びがある。

僕は、掛け布団を頭まで被りニヤニヤが止められずにいた。


「帰ったら直ぐに海歌さんの病室に行こう。話を聞いたら、喜ぶだろうな。フフフフフッ」

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