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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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 記念撮影も終わり席に着いた時、見計らったように料理が次々と運ばれてきた。

ラーメン、カツ丼、うどん、海鮮丼などそれぞれ好きなものを美味しそうに頬張っている。


「この海鮮丼、凄い美味しい!この店、最高!」


「冬乃ちゃん、このカツ丼も美味しいぞ。食べてみなよ」


「本当ですか~?一口もらいますね。ん、うっ、うまっ。なにこれ!」


「だろだろ~。冬乃ちゃんのも一口くれよ」


「嫌です!誰にも渡しません。楽しみに、好きなもの残しといたんですから」


「ケチだな~。いいじゃんかよ」


一番テンションの低かった冬乃さんが、東さんと一緒になって楽しんでいる。

ん~~、なんていうか納得がいかない。


二人を見た品川さんは一層嬉しそうにしている。

これも更に納得がいかない、直ぐに許しちゃうからワガママが増長していくんだよ。


僕もみなさんが食べ始めたので、イライラするのをやめてカレーに手をつけることにした。

見るからに田舎カレーであまり期待はしていなかったのだが、なんとも言えない美味しさ。

昔、東京のおばあちゃんの家で食べたカレーを思い出し、懐かしい気持ちになった。


「どうだい?美味しいだろ」


「えぇ、すごく。品川さんは昔通りの味でしたか?」


「うん。そのまんま。思い出も乗っかっているから最高に美味しいな」


「良かったですね。僕も何十年後かにまた来たいです」


「今度こそ潰れちゃっているかもね」


「ハハッ、そうかもですね」


小声でコソコソと二人で喋っていると、東さんがカレー頂戴と言ってきたので一口あげることにした。


「おぉ、美味しいっすね」


「ほんと、どれどれ私も一口貰えないかな?」


「いいですよ」


カメ爺は遠慮がちにスプーンでひとすくいした。


「美味しい!次頼むならカレーだね」


「そうだろ、そうだろ。私が何十年も覚えていた味だからね」


みんな僕の皿から一口ずつ取っていった。

みんなはもう食べ終わっていたので交換に一口貰うことも出来ず、満腹にはなれないまま食事は終わってしまった。

まぁ、食べるのが遅かった僕が悪いのだが、もうちょっと遠慮してほしかったな。



時刻は午後3時半、日が少し傾きかけた頃。


「やる事も尽きた事だし海へ行こうか」


その東さんの言葉により僕たちは今、稲村ヶ崎にいる。


僕が想像していた由比ヶ浜や、湘南海岸とは違う所謂ビーチではなく、一応海の目の前なのだが人影も十人やそこらしかいない寂しい海岸に僕らは降り立った。


「遥さん、本当にここが一番いいスポットなんですか?」


先程、車の中で遥さんが1番のスポットに連れていくと言っていたので僕も花火さんも相当期待していた。

それがこんな所だったので、花火さんは少しがっかりして口に出てしまったようだ。


「えぇ、そうよ。カメ爺や東さんと品川さんは何回か来たことがあると思うわ。夕日の写真を撮るにはここが一番なの。何故かって言うとね、なんと富士山が見えるのよ」


遥さんが指差した先を見ると、本当にあのなんとも美しい曲線を描いた富士山がそこにあった。


「凄い!鎌倉でも富士山が見えるんですね」


「少し遠いけど富士山が見える。方角的にあそこに太陽が沈むんですか?」


「時期にもよるけど、ダイヤモンド富士が見れることもあるんだよ。残念ながら、今日は海の方に沈むけどね」


流石カメ爺!

太陽の沈む位置まで完璧にわかるとは、カメ博士に昇格も近いかも。


僕達が話をしていると、塀に腕を置いてタバコを吸いながらしみじみと海の方を見る東さんが目に飛び込んできた。


今日はいつもよりオチャラケ度が3割減ぐらいなので気になっていたのだが、ここまで暗いムードを漂わせていると気になって仕方がない。


「東さん!どうかしたんですか?元気無いようですけど」


「分かるか?そうやって気付いてくれるのはお前ぐらいだよ」


「やっぱり何かあったんですね」


「そうなんだよ。俺さ、もう40近いだろ。なのにこんなデートスポットに爺さんや高校生と来ていて良いのかなって思ってさ」


「えっ、そんなことですか?」


心配する程のことでは無かったな、と思った瞬間東さんは僕の肩を掴んで真剣な眼差しを僕に向ける。


「そんなことってお前、爺さんですら、ここに奥さんと一緒に来たんだぞ。それに比べて俺と来たらもう5年も彼女いないんだ。この事の重大さがわかるか?」


「ええっと、あ、ほら、それなら遥さんがいるじゃ無いですか!美人だし。ねっ」


「ダメダメ、あの人はハードル高すぎ。なんでこんなクラブにいるのか分からないぐらいのハイスペックだからな。口説くだけ無駄」


「そうなんですか?意外とお似合いだと思いますけど。クールな遥さんと元気な東さん」


「そ、そうか?」


「ええ、それに結構お二人仲が良いじゃ無いですか。嫌いな男性に対してはあんなに気さくに接しないかと」



「うん...そうかもしれないな。良し!俺、遥さんにアプローチしてみる。ありがとうな空太」


暗かった顔が嘘のように明るくなり、東さんはスキップで遥さんの所に向かっていった。

正直、焚きつけた僕が言うのもなんだが、一回り以上離れた子供に背中を押される大人ってどうなんだろう。


「面倒なことにならなければ良いけどな...」

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