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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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旅行!?

 「そろそろ、次回の撮影をどうするか決めませんか?」


カメ爺が、だらだらした空気を締め直す。

よくよく考えてみれば、こんなに個性豊かなメンバー達をまとめられているのは、ひとえにカメ爺の人格に依るものだろう。


みんないい人達だが、我が強いので、言い合いの一つでも起きても不思議ではない。

このクラブが成立していることを僕はカメ爺に感謝する。


「そういえば、最近は同じような公園ばっかり行っているわね。たまには違う景色も見てみたいかも」


清水さんは少々飽きてきているのかも知れない。

たしかに、同じ様な公園ばっかりなので、僕も飽きてきている。

まぁ、遠出は出来ないのでどうしようもないが。


「でも、この辺は公園くらいしか無いですよ。動物園とか植物園なら電車で1時間ぐらいの所にありますけど」


「でも、半年前に動物園なら行ったじゃないですか。それに植物園なら公園と大差ないですよね」


花火さんの言葉によって完全に行き詰まってしまった。

この辺の地域は、写真を撮るには不利すぎるのかもしれない。

山もなければ、海もない。

森もなければ、大きな川もない。

かなり遠くに行かないと絶景などには巡り会えない。

誰も彼も、黙り込んで頭を悩ます。


「じゃあさ。いっそのこと遠出しましょうよ。伊豆とか鎌倉とか」


東さんが唐突に予想外の意見を出した。


「でも、どんだけ朝早く出ても、日帰りじゃ難しいんじゃない」


カメ爺が、冷静に分析する。

だが、東さんは自信満々に人差し指を前に出した。


「泊まっちゃえばいいじゃないですか!みんな子供じゃないんですし、一泊くらい大丈夫でしょ」


「撮影旅行ですか!いいですね」


「わたし、海に行きたいです」


花火さんまで行く気満々の様だ。

まぁ、僕には無縁の話だからどうでもいいか。


「でも、品川さんも病み上がりだし。女性もいますよ。それに花火ちゃんと空太くんは、まだ学生です」


カメ爺は色々と心配なようだ。


「いいんじゃないかな。今まで、一年以上写真クラブで集まってきたけど、泊まりで出掛けようなんて話出なかった。仲が深まった証拠じゃないか」


品川さんは嬉しそうにカメ爺を説得する。


「それに、花火ちゃんと空太の親御さんにきちんと挨拶してから行けば大丈夫じゃないっすかね」


「そうだね、分かった。私がきちんと会って説明するよ」


僕も行く事になっていないか?

あれ、不味いな。

みんなに水を差すのは嫌だが、行ってから迷惑かけるのはもっと嫌だ。


「あの......すみません。僕は行けません」


「え...何で?せっかくだから行こうよ。」


花火さんが、一緒に行こうと言ってくれた気持ちは嬉しい。

だけどこちらにも事情というものがある。


「ごめんなさい。僕、電車に乗れないんです」


「なんだそんなことか。大丈夫だぞ、空太。俺の車で行けるからな。8人乗りだから全員乗れるぜ」


東さんはそう言ってくれたが、僕のために車で行ってもらうのはなんだか申し訳ない。


「でも...わざわざ車で行ってもらうのは」


「気にすんな。俺も電車なんて面倒だから運転する方が楽だ。何よりお前が来なきゃ始まらないだろ。ねぇみんな」


みんなが、つられて顔を縦に振る。

本心か、気を使ってくれたのかは分からない。

だけどその単なる言葉が、僕にはとても、とても心嬉しかった。


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて行かせて頂きます」


「それじゃあ、全員、参加出来るということで、場所はどうしますか?」


「海に行きたいです」


東さんの言葉に乗せられたのか、理由はわからないが僕は普段なら言わない事を口に出していた。

みんなの顔を見ると少し目を見開いている。

調子に乗ってしまったかな。

取り消したいな。


「そうか...そうか!海に行きたいか。じゃあ海に行こう。決定」


「そうですね。空太くんの初めての提案ですから、そうしましょう」


何故だか、東さんもカメ爺も、驚きつつ嬉しそうに見える。

とりあえず、怒られなくてよかった。


「私、鎌倉行ってみたい。湘南とか」


「おぉ、いいね。私も、昔は嫁さんとオープンカーでドライブデートに行ったもんだよ。懐かしいね。あの時食べたドライブインまだやっているかな...あそこのカレーライスが美味しかったんだ」


品川さんはしみじみとそう語る。

思い出の場所か、いいな~。


「何十年前の話だよ爺さん。そんな店もう潰れているに決まっているじゃん」


身も蓋もないことを言うなぁ。

でも、東さんがロマンチックな事を言ってもそれはそれで嫌なので、このままでいいのかもしれない。


「じゃあ鎌倉に決定だね。夏休みが終わる前がいいだろうから、2週間後ぐらいでどうかな。あとはメールで日程の調整をしようね」


「私は、メールできないよ」


「爺さんには、決まったら俺が連絡するよ。日にちはいつでもいいんでしょ」


「悪いね。頼むよキタ坊」


なんだかんだで面倒見の良い東さんは、やれやれと言いながらも、放ってはいられないようだ。


「じゃあ、解散よね。私、この後タイムセールあるから急がないと」


清水さんが、急いで荷物をまとめている。


「そうだ、花火ちゃん。今度、旅行用の洋服買いに行きましょうよ」


「良いですね。どこに行きます?駅の近くのデパートとかですかね」


やっぱり遥さんが海歌さんに似ているからなのか、花火さんはよく懐いているようだ。


みんなバラバラと帰って行ったので、僕も喫茶ライオンを出て、ふとある事に気づく。


果たして、両親は泊まりを許してくれるのだろうか。

ここ2年ほど、外泊などしたことがないので急に不安になってきた。

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