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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
22/50

初勝利

 またまた、風鈴が音色を奏でる。

今度は遥さんと花火さん、その間に品川さんだと思われるおじいちゃんが挟まれている。


いかにも弱々しいその見た目からは、東さんから聞いたようなパワフルさは微塵も感じられない。


「やぁやぁ諸君!久しぶりだね。三ヶ月ほど休んでしまった。すまないね」


口を開くと、なんとも野太いしっかりとした声。

あの細い体のどこからあんな声が出るのだろうか。

みんな席を立ったので僕もつられて、席を立つ。

カメ爺は入り口まで歩いて行った。


「お身体の方はもう大丈夫なんですか?」


「あぁもう万全だよ。だけど日課のステーキとビールを医者に止められちゃってね。今は2日に1食だけだよ」


いやいや、2日に一食でも多いと思う。

聞いていた通りパワフルみたいだ。

東さんもいつもよりかしこまっている。


「相変わらずですね。本当に元気そうでよかったっす」


おじいちゃんは東さんをぎらりと睨みつけた。


「まだ茶髪なのか、キタ坊。お前もいい加減年なんだから、言葉遣いとかももちゃんとしなさいよ」


「すみません、でも茶髪はやめないです。俺のアイデンティティですから。でも言葉遣いは気をつけるっす」


「アイデンティティ?なんだそれ。横文字はわからないよ」


みんな意味が分からないようで、見兼ねた遥さんが説明してくれた。


「自己同一性とかですけど。分かりづらいので簡単に言えば、自分らしさみたいな事ですよ」


「キタ坊意味わかって言ったのか?」


「も、もちろん。じこどういつせん?ですよ」


「いえ、自己同一性です」


「分かってないじゃないか」


その場が爆笑に包まれる。

みんな東さんのことだと遠慮なく笑うみたいだ。

なんだか少し不憫に感じられる。

まぁでも、僕も結局吹き出してしまったが。


「そうそう、品川さん。この子とは、初めてでしょ。この前クラブに入ってくれた香木空太君です」


笑っている場合ではなかった。

初めて会ったのに挨拶がまだだった。


「はじめまして、空太です。カメラ初心者なので色々と教えてください」


「ほう。若い子はこれで二人目だね。はじめまして品川と申します。キタ坊が迷惑かけてないかい?」


「はい全然。すごく楽しくさせてもらってます。あの...東さんとは昔からの知り合いなんですか」


あまりにも仲が良さそうなのと、キタ坊と呼んでいたので気になった。


「そうなんだよ。こいつの親父さんと同級生で飲み仲間でね、生まれた時から知っている。キタ坊をこのクラブに誘ったのも私だよ。だから意地悪されたら言って、こいつ引っ叩くから」


慌てて東さんが割り込んできた。


「そんな事しないっすよ。空太とは、大の仲良しだもんな」


「ええ、そうですね」


大の仲良しと言われるとそこまででは無いと思うが、適当に返事をする。


「じゃあ座りましょうか。マスター、席をくっつけてもいいですか?」


カメ爺に言われて店長さんが出てきた。

席をくっつけてくれたが、6人分の席しかなくカウンターから椅子を一つ持ってきてくれた。

僕が、長方形のテーブルの短辺の位置の、所謂お誕生日席に座った。


「じゃあ席に着いたところで、飲み物でも注文しましょうか」


店長さんを再び呼び、大人達はコーヒーと紅茶を頼み、僕と花火さんはオレンジジュースを注文した。

カッコをつけて紅茶を頼もうかとも思ったが、花火さんがオレンジジュースを先に注文してくれたので素直に飲みたいものを飲むことが出来そうだ。


「品川さん、体はどこが悪かったんですか?」


「少し肺が悪くなっちゃってね。少し入院していたんだけど、今はすっかり良くなったよ」


東さんが違う違うと手を振った。


「大したこと無いんすよ。昔から大袈裟なんです」


ここで少し疑問に思っていたことを聞いてみた。


「あの...東さん。僕が最初に写真クラブに来た時に、宮本さんに長老いつ復帰するんですかって聞いてたじゃ無いですか。なんでなんですか?本人に直接聞けばいいのに」


「空太、俺たちにカメ爺って呼ばせといて、お前は宮本さんってどうゆうことだ。カメ爺ってちゃんと呼べよ」


完全に話をはぐらかしてきた。

たが、確かにカメ爺と呼ぶのに抵抗があったので痛いところを突かれてしまった。

オレンジジュースをずずっと飲み干して、なんて答えようかと考える。


「ちょっと待て、キタ坊。長老って何のことだ?私の事そう呼んでいるのか?」


バレた、と不味そうな顔をして目を逸らす。


「えっと...えっと、ごめんなさいっす」


あの東さんが、ただただ平謝りをしている。

僕もあだ名をつけた身としては、自分もこうなっていたかもしれない、と考えるとゾッとした。

もうあだ名をつけるのは金輪際やめよう。


「まぁいい。空太君だっけ。宮本さんに私の事を聞いたのはね。私からの連絡を無視しているからだよ。やな奴でしょ」


「ちょっと聞こえが悪いっす。空太あのな、この爺さんは俺を事あるごとに呼びつけるんだ。酷い時はリモコン取るのが面倒だからって理由で、わざわざ遠くから家まで行ったこともあるんだぞ」


僕を含め他の人はあまり目を合わさずに素知らぬ顔をしていたが、花火さんが露骨に嫌な顔をした。


「それは確かに嫌になるかも」


東さんは仲間を見つけたと言わんばかり。


「そうでしょ。ほら爺さんみんなそう思うって」


「リモコンとるだけというのは大袈裟だろ...他にも何かあったと思うけどな...」


品川さんの目が完全に泳いでいる。

それをみた東さんも勝ち誇った嬉しそうな表情。

確かに今回ばかりは東さんが正しいと思う。

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