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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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久々の失言

 清和病院の面会時間が分からなかったので、どの病院でもやっているだろう、お昼過ぎの時間にお姉さんの病院に足を運ぶ。


ナースステーションを通ると昼御飯の後だからか、忙しなく仕事をこなすナース。

それを尻目に、僕は平日のこんな時間にも関わらず学校にも行かずに見舞いに来ている。

一見優越感を感じそうになったつぎの瞬間、その逆の感情へと変わっていく。


病室へノックを2回した、どうぞー、の言葉を待ってから部屋の扉を開く。

前回感じたような神々しさの様な物は感じられなかった。

当たり前だな。

だけと、代わりに安心感を強く感じ取った。


「おはようございます、お姉さん」


とびっきりの笑顔で手を振っている。


「おはよ!来てくれてありがとうね。さぁ座って座って」


「はい、ありがとうございます」


誘導されるままに椅子に腰掛ける。

一息つく間もなく早速、本題に入る。


「それで、なにか用事がありましたか?」


「ないよ」


一点の曇りのない瞳でそう答えた。


「えっ、じゃあ本当に話し相手に呼んだだけですか?」


「そう!私暇なんだよね。両親も仕事しているしさ。土日は一日中いてくれるんだけど、平日は来れても夜だけ。だからちょうどいいと思ってさ」


ちょうどいいって言い方には少し引っかかったが、まぁお姉さんならしょうがないか。


「それで、なんの話をするんですか?楽しい共通の話題なんてないですよ」


「あるじゃない、花火の事が。写真クラブではどんな感じか聞かせてくれない?」


まるで餌を待つ犬の様にキラキラさせた目をしている。

よほど人に飢えていたのか、花火さんが好きすぎるのか。


「そうですね。花火さんはクラブでは、よく遥さんっていう女性とよくしゃべっていますよ。僕たちにはあまり見せない表情も遥さんにはよく見せていますし」


「へ~。どんな人なの遥さんって」


「大人の女性って感じですかね。年は30歳ぐらいで、すごくカッコいい人ですよ。お姉さんと少し似ているかも」


「えっ、私カッコいい?」


恥ずかしそうに髪を触るお姉さんをみているとこっちも恥ずかしくなってきた。


「お姉さんじゃなくて、遥さんです」


照れ隠しに否定してしまった。


「でもその遥さんに似ているんでしょ?」


「まぁそうですけど、お姉さんが30歳になったらあんな感じかなって人です」


そう言葉に出した瞬間何か喉の奥で引っかかるものを感じた。

急いで、お姉さんの方を見る。

さっきまでキラキラしていた目が、すりガラスの様に生気をなくして空っぽみたいに見える。

僕は声を失った。

なんて事をしてしまったんだ。


「あぁ...ごめんね。30歳か...遠いね。」


失念していたが、この人は心臓の病気で、治らないと言われているのだった。

そんな人に10年以上先の未来の話をしたら悲しくさせてしまうのは、当たり前じゃないか。

自分は何と浅慮な発言をしてしまったのだろう。


「ごめんなさい。お姉さんの気持ちも考えずに、変なこと言っちゃって。本当にごめんなさい」


「いいの、いいの。こっちこそごめんね。気を遣わせちゃったね」


普段は明るいお姉さんの本当の胸の内を垣間見た気がした。

いつも明るいのはみんなの為で本当はすごく辛いんだろう。

そんな当たり前のことを失念していた。


どうしたらいいか分からない。

下を向いて黙り込んでいることしか出来ない。


「あー...そういえばさっきからお姉さんって呼んでいるけど名前で呼んでくれない?」


今まででは、あり得ない程ぎこちないお姉さんの顔。

相当気を使わせちゃっているな。

だが、僕のできる最大限は、その優しさに乗っかることだけ。


「名前でですか?」


「そうそう、花火だけ名前で私がお姉さんじゃ友達のお姉さんみたいで距離感じるの」


「そうですか。じゃあ#海歌__うみか__#さんでいいですか?」


「本当は海歌ちゃんがいいけどそれで許す。じゃあ友達になった記念に私のとっておき見せてあげる」


そう言って、病室の白い新しめのロッカーから取り出したのは、一冊のスケッチブック。


「私ね、2年前に絵を描き始めたんだ。見てみて、これ最近の自信作」


そこには、一面に紫陽花が咲いていて、雨なのか一本の傘をさした女の子が二人で相合傘をしながら笑顔で散歩している様子が描かれていた。

そこまで上手くないのだが、この絵に僕はすごく引き込まれていった。


「これっておねえ...海歌さんと、花火さんですか?」


「そうなの。私、病院から出れないからさ、気分だけでも行った気になれるように絵で描いたの」


「いいですね、楽しそう。場所はどこですか?なんか見たことがあるような」


「そりゃあ、あるでしょ。三ツ石公園だもの。ちょっと誇張しているけどね」


「どうりで、見たことがあるようで無かったんですね。海歌さんも三ツ石公園好きなんですか?」


「行ったことはないんだ。花火がいつも写真で見せてくれるから、何度も行ったことあるような気はしているけどね」


「写真を見て絵を描いているんですか?」


「そうだよ。この絵は、この前花火が持ってきてくれたこの写真を見て描いたの」


そう言ってアルバムを見せてくれた。


「すごい枚数ですね」


「そうなのよ、毎日、今日の一枚とか言って病室に持って来てね。私ね、広い景色を描くのが好きなの。だから、そうゆう写真を花火はいつも持ってきてくれるの」


花火さんが、みんなから距離をとって、公園の全体的な景色を撮っていた所を何回か、見かけたことがある。

お姉さんの為だったんだ。


「でもね。私が絵を描くのに参考に出来るように写真やっているって本人は言うけど、絶対に花火の方が楽しんでいると思うの」


「海歌さん、花火さんのこと話すとき嬉しそうですね」


「嬉しいよ。妹が好きになれる趣味を見つけられたのよ。私が絵を好きになれたことよりも嬉しかった」


「自分のことよりもですか?」


「当たり前じゃない。妹ってのはそれだけ特別なものよ」


本当に大切にしているんだな。

けど、急に僕は不安を感じた。

こんなに花火さんを大切にしている海歌さんだからこそ、以前言っていた花火さんを守ってくれる人が見つかった時、海歌さんはいなくなってしまうんじゃないか。


そんな予感がしてならない。

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