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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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あだ名の意味

 「この後、喫茶店でも行きません?」


写真撮影も一段落してみんなで片付けをしていたところに、東さんがそう唐突に言い放った。


「喫茶店ですか?」


真っ先にカメ爺が聞き返した。


「そうそう!いつも写真撮るだけで帰っちゃうでしょ。みんな写真を撮る為に来てるだろうけど仲良くなって損は無いしさ。色々な事して、もっと親睦深めましょうよ」


ウンウンと頷く清水さん。


「そうね、たまにはいい事言うじゃない」


遥さんも手を合わせ。


「そうよね。これからは写真以外にも色々とやっていきましょうね」


花火さんも静かに頷き賛同している。

カメ爺もとても嬉しそう。


「そうですか、分かりました。私も写真以外でもみなさんと交流したかったので言ってくれて良かったです。早速喫茶店でこれからの事、打ち合わせしましょう」


言い出しっぺは東さんなのにカメ爺が張り切って先導している。

相当嬉しかったのだろう。


この喫茶ライオンは公園から徒歩3分の所にあり、アメリカの山奥にありそうなログハウス風の建物。

中に入るとカウンターとテーブル席が4つほどで椅子など丸太の切り株のようで中々にお洒落な店内。

この道は通学でよく通っていたが、こんな喫茶店が出来ていたなど知らなかった。


店内には他のお客はいない様なので、二人用のテーブルを3つほど繋げて6人席にして男3人と女3人で横並びになり座った。

まるでテレビドラマで見る合コンの様な席順だったが、女子の間に入ろうとする猛者は流石にいなかった。


早速注文を済ませ本題に入る。司会はお決まりのカメ爺だ。


「えっへん。それでは、もうちょっと写真以外でも仲良くなろうということで何か案がある人はいますか?」


東さんがすかさずツッコミを入れる。


「宮本さん、固い固い。会議じゃ無いんだから。もっと雑談しながら話しましょうよ」


「ごめんなさい。なんだか緊張してしまってね。そうですね、では東くん仕事はどうだい?」


まだ多少固い様子。

そんなに緊張しなくてもいいのに。


「そうっすね。今の現場は中々暑くて敵わないっすよ。重いのとかは慣れてますけど暑いのは体が慣れていかないっすから。40度とか超えるんですよ。こまめに水と梅干し摂る様にはしてるんすけど、それを超える汗が出ますからね」


「そうか、八月はもっと暑くなるからね。気を付けないと」


「そおっすね。でも来週から扇風機追加するみたいなのでそこまでの辛抱っす。そういえば遥さんも会社暑いんじゃない?役所でしょ」


花火さんが不思議そうに首を傾ける。


「なんでですか?暑いのに役所とか関係あるんですか?」


「私の働く役所は県のだから、エアコンの温度は28度までって決まっているの。ホント暑くてたまらないわ。最近はクールビズが許されるから、前よりはマシになって来たけど。昔は真夏でも長袖ワイシャツにネクタイまでつけていたから、みんな干上がっていたの」


「へ~!じゃあ私は暑がりだから、役所とかには就職しない方がいいですね」


夏に部屋から出ない様にして、エアコンの冷風を浴びていた僕としては耳が痛い。


「そうね。エアコン以外にも色々と窮屈だしね。そうそう!それを言うなら、花火ちゃんと空太くんの学校はどうなの?やっぱり暑い?」


僕は行っていない為わからないので下を向く。

すると、花火さんが答えてくれた。


「全然暑くないです。エアコンはガンガンにつけて家より涼しいぐらい」


「え~そうなの今って。昔はエアコンなんて学校になかったわよ。よく夏場は倒れる人いっぱいいたけどみんな気にしてなかったものよ」


清水さんはジェネレーションだわ、と言って驚いていた。

ギャップが抜けていたが。


「今って親とかうるさいから、倒れたりすると苦情がすごいんでしょ?そうゆう理由で快適になっていくんじゃないかしら」


「まぁ昔より暑くなってますし、しょうがなくってのもあるんじゃないっすか。暑いっていえば、空太この前の葛山公園の話聞いたか?」


東さんは珍しく真剣な話をしていると思ったら話題を変えてきた。


「聞きました。宮本さんが、メールで長文で教えてくれました」


「そうなんだ。どんな文章だったんだ見せてくれよ」


「いいですか?宮本さん見せて」


「いいですけど、恥ずかしいですね」


許可も取れた事だし、ポケットから携帯電話を取り出しメールを見せた。


「ええッと、なんだって、凄い長文だな。よくこんなに事細かく書けますね」


宮本さんは照れた様子。


「いや、一応ね」


すると東さんが唐突にウヒャウヒャと笑い出した。


「どうしたんですか?」


「いやだってさ、ここ見てみろよ。宛名の所宮本さん(カメ爺)だって。空太、宮本さんのことカメ爺ってあだ名つけたのか?」


しまった。うっかり登録名をカメ爺にしているのを見られてしまった。

どうしよう。

どうしたら良いんだ。

とりあえず謝ろう。


「すみません...宮本さん。悪い意味ではないんです。親しみを込めてというか。本当にすみません」


宮本さんは笑いながら。


「いいよいいよ。謝らなくて。カメ爺ってどうゆう意味なんだい?」


「えっと...カメラを持っていて亀の甲羅みたいなリュックサックを背負っていたのでカメラと亀をかけまして。すみません」


「そうなんだ。いいネーミングセンスだね」


東さんは引き続きケタケタと笑う。


「いいじゃないっすか。これからはみんなでカメ爺って呼びましょうよ。いいっすよねカメ爺?」


「いいですよ」


みんなで呼ぶなんて事になってしまった。凄く申し訳なくなってきた。


「すみません。いいんですか?みんなに呼ばれても。止めましょうか」


「いいんだ。この歳であだ名で呼んで貰えるなんて嬉しい事じゃないか。カメ爺ってのも中々いいしね」


清水さんも、悪ノリをしてきた。


「宮本さんがそれでいいなら私もカメ爺って呼ぼうかしら」


私も~、と花火さんも遥さんも乗っかって。


「空太くん私にも、とびっきり可愛いあだ名つけてくれない?」


「えっと...どうしよう。思い付かないです」


その後に東さんが以前、舎弟と言われた仕返しなのか元ヤン、とあだ名をつけて、遥さんに思いっきり叩かれていた。


そういえば、僕も昔へんなあだ名を付けられた事があったな。

小学生の頃はかなりぽっちゃり体型で、体育の時に僕だけ跳び箱が跳べなくて跳び箱に跨っている様子がブルドックが座っているみたいだってクラスのいじめっ子によく馬鹿にされた。


恥ずかしくて悔しくて、でも怖いから言い返せなかった。

クラスでは気にしてないように振舞って、家に帰ってから泣いていたな。


どんな酷いあだ名だって、親友に言われればそこまで嫌じゃない。


気にするほどじゃないあだ名でも、嫌いな人から言われたら悲しくなる。


あだ名には、関係性が大切なのだろう。


僕には他人の感情の機微なんて難しいものは分からない。

だから、不用意にあだ名をつけることは、もうやめよう。


そんな反省をしていたら、いつの間にかみんな予定があると一人また一人と帰っていった。

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