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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
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一筋の光

 人の気持ちを推し量ることは出来ても、一緒に体感することは到底出来はしない。


毎日少しずつ登って来た山道を見ながらあと少しあと少しと、自分のゴールはもう少しだと見えないゴールを想像しながらカラ元気を出している所に登頂した人が通る。

ゴールはどのぐらいですか?何気なく尋ね。

まだ半分以上あるよ。

笑顔で答え頑張ってねーと他人事のように笑って下っていく。


今まで全幅の信頼をしていた。

だからこそ気付けなかった事だが、先生にとっては僕は数いる患者の中の一人で、僕にとってはたった一人の主治医。

こんな当たり前の感覚の違いにすら気付けていなかった自分の愚かしさには心底呆れる。


今まで心酔してきた神がただの人間だったと気づいた時のような落胆を感じた。


トントン、その音で現実へ引き戻された。


「入るぞー」


父だ、いつもなら何も言わずに入ってくる、粗方母から事情を聞いたのだろう。


「何?」


素っ気なく返事をした。

心配して来てくれたのだろうけど、今の僕には人の事など考える余裕はない。


「ドライブ行くか?」


「行く」


あっさりと即答した。


「じゃあすぐに行こう」


そう言って、真っ暗な部屋を出て、いつもの階段を降り母のいるリビングを無言で通り白い車へ乗りこむ。


「どこへ行きたい?」


「どこでもいいから遠い所」


「わかった、じゃあ走るからシートベルトな」


「うん。わかった」


それから30分ほどは何も会話はない。

いつも僕に何かあると父はドライブへ行こう、と連れ出してくれる。

高速道路に乗り快速に飛ばす中で見える人工的に作られたとは思えないほど優しく光る都会の夜景も今の僕からしたらとても煩わしいものに感じられる。


いつものことだが、父から何かを切り出す事はしない。僕が自分から喋り出すのを待っているように、全く口を開かない。


「今日病院で30歳までは仕事できないって言われたんだ」


父はうんと頷くだけ。


「今も学校に行けてないのに、30歳までこのままなのかな?」


「そうだなー......学校には行きたいのか?」


「行きたい!僕も普通の学生みたいに友達作りたい。それに勉強も出来るようになりたいし。大学にも行ってみたい」


「そうだよな、辛いよな今は」


「うん」


「今まで4年近くも我慢して来たのに、更に15年もだもんな。長すぎるよな」


「うん。想像も出来ないよ」


「でもな。以前と比べるとかなり良くなって来ているのはよくわかるぞ。あの頃なんて家から外になんか出れなかったし、毎日いつ自殺しちゃうかって俺たち全然寝れなかったもんな」


「そんなだった?」


その頃の事は殆ど記憶が無く、どんな状態だったのか実のところ本人なのに分からない。


「そうさ。目つきも悪かったし、雰囲気がすごく死にそうだった。だからなのか年々良くなって来ているのがすごく分かる。だからさ、もう少し待ってみないか?」


「待つの?」


「あぁ、今は何にもなくてすごく辛いと思うけど、もう少し待てば何か見つかるかもしれない。死にたくなるかもだけど、我慢して待てば、夢とかやりたい事とか絶対見つかるから」


「本当に?」


「絶対だ」


「わかった...もう少しだけ頑張ってみる。」


信じることは出来なかったがお父さんの為に空返事をした。


「そうだ、頑張れ」


そう言った父の目は僕には少し潤んでいるように見えた。

それを見てはいけないと、必死に眠いふりをしてじゃあ寝るね、と言って目を瞑った。


「起きろ、空太」


本当に寝てしまっていたようだ。


「どこ?家?」


「違うぞ、山だ。外出てみろ凄いぞ」


なんだろうと思いながら車を降りると、冷たい夜風によって揺れる木の葉の音、暗くて見えない前方にはかすかに湖らしきものが見える気がした。

すると、真っ暗な山中に満天の星が見えた。我先にと誰が一番輝けるかと競っているような光の塊たち。


「なにこれ凄い。プラネタリウムみたい」


「本物だ、本物。綺麗だろ。こうゆうのでも良いんだぞ、星が見たいとかどこかへ行きたいとか、何かを食べたいとか、なんでも良いんだ。とりあえず楽しいことを見つけろ。そうすれば人生楽しくなってくる」


まだ僕には人生を楽しいと思ったことがない。だけどなんだか今日少しだけ気が楽になった。

この気持ちをうまく言葉にできなかったので、うん、それだけ返事をした。


「じゃあ帰るぞ」


「えっもう?」


「あぁ、明日会議があるから6時半には起きないといけないんだ」


「そうなんだ。あんまり寝れないけど大丈夫?」


時刻は12時30分、今から急いで帰っても4時間程しか寝れない。

それなのに僕の為に来てくれたんだな。


「大丈夫だ!」


僕達は、星空を十分堪能することが出来ないまま車に乗り込み照れ臭いのか、あまり会話がないまま家路に着いた。


僕達が車から降りて玄関を開けようとすると母が勢いよく玄関のとなりの窓を開けた。


「どこ行っていたの?こんな遅くまで」


「星、見に行ってたんだ!凄かったよ。カメラ持っていけばよかった」


「いいなー。私も連れて行って欲しかったわ」


「ダメだよなー、空太。男同士の秘密の話しがあるからな」


「ねー」


「何よ、秘密の話って。まぁいいわ。男同士ってずるいわね」


僕と父は顔を見合わせニヒヒと白い歯を見せた。

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