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こころ〜希望と絶望の摩擦〜  作者: 鈴本 貴宏
10/50

軽やかな宣告

 写真クラブから帰ってきてから二日後、自分の中で少し不味い事になってきているのを感じた。


いつもだったら夜の11時頃には寝ているのだがこの二日間は朝の9時頃にならないと眠りにつけない、そしてその後12時間以上も寝てしまっている。


そして何より体重が3キロも三日間で増えてしまっている。今までの経験的に体重が増えるのは危険なサイン。

一番体調が悪かった三年前は一年間で30キロも増えてしまった。そのせいで未だに少しぽっちゃり体型のまま。


だが今回は自分でその事に気付けるのだから本当に悪い時ではない。本当に危ない時はナイフを持って手首を切ろうとしている悪夢のような行動が先で体調が悪いなど考えもしない時だから。


そんな事にはもうなりたくない。

母に仕方なく病院行きたいと頼んでみた。

そしたら直ぐに母は電話して明日の予約が取れたよ車で行こうね、と運転が苦手なのに都心の病院に行ってくれるつもりらしい。

自分の仕事もあるのに、ごめんねお母さん。


病院に行けば先生がなんとかしてくれる。そう思うようにしてベットと壁とのわずが50センチほどの隙間に挟まれながらじっと長い夜が明けるのを待つ。



翌朝、母の運転で1時間半かけて病院へ向かう。

運転中は話しかけないようにしている。

見るからに運転が苦手そうに前かがみで運転している母の邪魔にならないように。

病院へ着きビルの谷間のぽかっと空いた空間に駐車をするときにも母の戦いは続いている。

何回も切り返して僕も視界を遮らないように頭を下げて、ようやく車を停められる。


ふぅ、と息を吐きさあ行こう、と車を出る。


ここからが僕の戦い。

病院へ入るエレベーターが1階、2階、3階と登っていき7階で止まるとそこは待合室。

受付で診察券を出して、席に座る。

いつも僕が座っている窓際の席がラッキーな事に空いている。よいしょと座り辺りを見渡す、視界には30代ぐらいの女性や50代ぐらいの男性など年齢層はかなり高い。

僕はもともと小児精神科に通っていたのだが15歳を過ぎ普通の精神科へ移った。

小児があるからか、この病院ではあまり若い人は見たことがない。


やはり、精神科に通うだけのことはあってチラチラと少しおかしな行動を取る人はいる。

自分の順番はまだかと一人入るたびに聞きに行く人や、独り言の声がかなり大きな人、びっくりするほど派手な服で色んな人に話しかけている人など。普通な人もいるが病院に来るたびに何人かは必ずこういう人をみる。

自分も数年前はそんな目で見られていたのだと思うとなんだか嫌な気分になり、そんな独特の雰囲気の待合室は1秒でも早く帰りたいと思えてくる。


「香木空太さーん。診察室へお入りください」


そう呼ばれやっとの思いで母と一緒に診察室へ入る。


「今日はどうされました。急な予約で、何かありましたか?」


「いえ......あの最近なんだか調子が悪くて」


「どうゆう風に?」


「よく昔のことを思い出して落ち込んだりとか、死にたいまでは無いですけど」


「ええっと...薬は半年変えていないな。そのせいかも、薬が少し弱かったかもね。お母さんから見てどうですか?」


「毎日行っていた公園にも最近は行かない日も増えてます。写真クラブに入ったのも体調悪いのに関係してるかも」


僕は深い闇でもがいているというのに先生はなんだか簡単そうにしている。


「そうだね。少し薬を変えてみましょう」


そう言った。もう薬を何回変えたことか、いい加減いつまで薬を飲まなければならないのだろう。

心の底の方で封印していた想いが弾けて飛んだ。


「先生...僕は、いつになったら病気が治るんですか?薬をいつまで飲み続けないといけないんですか?」


先生は、とても明るいなんでもないような顔で僕にこう言う。


「そうですね。だいたい30歳ぐらいまでは毎日出勤したりするようないわゆる普通に働いたりすることは出来ないと思いますよ。それまでは薬を止めることは無理ですね」


先生は続けてに脳の前頭葉がなんとかなど色々と言っていたが全く頭に入ってこなかった。


30歳.........


僕が生まれて16年。それと同じ時間僕は病気でいなければならないのか。

あと、14年。

早くこの現実から逃れたいと願う僕には余りにも強烈な言葉だった。

呆然としていると、じゃあ今日はそうゆう事で、と先生は僕と母に言い席を立ちいつもの様に僕たちも診察室を出て行く。


その日は、いつも病院の帰りに寄るレストランにも行かずに直ぐに帰った。

帰りの車の中で母が何か喋っていたが、何を言っているのか頭に入ってこなかった。

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