異常事態と重症
翌朝、先に起きていた皆が騒いでいる音で目が覚めた。
ウウダギも同じタイミングで起きたようだ。
2匹して「何が起きた?」と顔を見合わせた。
でも音からすると、ただ事じゃないと思う。
「ウウダギここに居て?なんかヤバそうだ。」
「皆大丈夫?」
「見てみないとわからない。」
「ウウダギも見に行く!」
「う〜ん。いいけど危なくないようにしてね?」
「うん。分かってる。」
ウウダギを置いていこうと思ったけど、
ウウダギはちょっとでも離れるのが、本来イヤなんだ。
だからだろう。
ついてくることに成った。
木を降り、皆が集まる場所まで駆け足で向かった。
そこには、ギュギュパニがパパムイの首を掴み掲げている姿がある。
ギュギュパニが族長の近くで、大立ち回りしたんだろう。
そこら中の食器や物が破壊されているし、
何より、他の皆がギュギュパニを怖がっている様子だ。
「ぐぐぐ!!ギュギュパニ!ぐるじいぞ!」
パパムイがもがいている。
ギュギュパニが片手でパパムイの首を持ち、
パパムイは苦しそうにギュギュパニの手をどけようとしている。
何が起きた?
どうしたんだろう?
「ギュギュパニ!何してるんだ!」
僕が叫ぶと、
ギュギュパニがこちらを見つける。
その姿を見て、何やら違和感を感じた。
何時ものギュギュパニとは違う。
まず、鱗の色が少しくすんでいる。
まるで・・・オルガクルガみたいな色に・・・少し近づいている。
その時点で、もしや?という予測がたった。
僕を見つけたギュギュパニは、パパムイを無頓着に放り投げた。
そして、猛烈な勢いで僕の方に突進してくる。
こりゃいけない!
ウウダギが巻き込まれるぞ!
くそっ!
耐えるのは苦手なのに!
僕の目の前まで迫っている。
ギュギュパニには僕しか写って無いだろうね。
困った事になった。
でも避けるわけにはいかない。
仕方ない。
僕は両手を広げて、足を前後に開き、
お相撲さんが、胸を貸すぞと言わんばかりに
踏ん張る。
その瞬間、物凄い衝撃と共に僕は吹き飛ばされそうに成った。
体に衝撃が走り、頭もクラクラする。
腰も悲鳴をあげてるし、胸なんか多分見えないけど内出血してるぞこれ。
何とか、後退りしながらでもギュギュパニの突進を止めることが出来た。
ウウダギは、事態をすぐに理解したのか、即座に木の上へ登っている。
「ポンピカ!ギュギュパニおかしい!」
「わかってる!多分オルガクルガだ!」
「はっはっは!なんだ?気づいたのか?尻尾ナシ」
言動が、やっぱり変だ。
恐らくオルガクルガの死体に入っていたヴァン。
オルガクルガのヴァンが何をどうしてか、
ギュギュパニに取り憑いたんだろう。
くそっ!厄介だな!
組み付いているギュギュパニがの腕が、僕の首へと伸びてきた。
それをさせるわけにはいかないので、咄嗟に身体の力を抜き、
横へと身体を捻って組み付いているギュギュパニから離れる。
僕の顔の前を虚しく、ギュギュパニの腕が通り過ぎていった。
「あっぶねぇ〜!」
「くそっ!ギュギュめ・・・まだ、言うことを聞かないのか・・・全く・・・」
「やっぱりお前オルガクルガだな?どうしてギュギュパニの中に入ってる?」
「おやおや、なんのことやら?あたしはギュギュパニだよっ!」
話も聞かず、また大ぶりで殴り掛かってきた。
速度は遅い。
よけるのは簡単。
スウェイで上体をそらす事でギュギュパニの拳が空を切る。
「っち!お前、やっぱり強いんじゃないか・・・なんであんな真似したんだい?」
「ふん。いいだろ別に」
「ったく・・・ギュギュが物凄く悲しがってたからね。・・・ははは。ちょうどよかったんだよっ!」
更に大ぶりで腕が飛んでくる。
これも一歩下がることで避けた。
「くそっ!なんで当たらないんだっ!前より若い身体だ・・・いくらでも動けるだろうに・・・やっぱり怠けていたのかねぇ?」
「はん。そんなわけ無いだろ・・・僕に負けてから隠れて戦の練習してたんだぜ?弱いわけない。むしろお前が弱かったんだよ。オルガクルガ」
「はーっはっは。言ってくれるじゃないか!だけどいいのかい?この身体はギュギュのだよ?お前が何かしてもあたしゃなんとも感じないけどねぇw」
「クソっ。それで、手が出ないとでも思ったのか?」
「手が出せるのかい?殺ってみればいいじゃないかwほら、心臓はここだよ?ほらぁ!」
くそっ!ギュギュパニの身体を乗っ取った上にギュギュパニが人質って最悪だ。
身体の動きが鈍いようだから今の内は、回避が可能だけど、
さっきみたいに突進してきたら危ないぞ!
くそっ!
「くっくっく。おい!バルバル!べネネズ!いい加減、そんな紐解いてこっち来なっ!」
するとあの轡を嵌められていた、オルガクルガに従う2匹は紐を互いの手を使って早々とちぎり、
拘束を解いき、ギュギュパニの後ろへつく。
僕を物凄い形相で睨んでいる。
チッ!
仕方ない。
ギュギュパニには悪いけど、死んでもらうしか・・・。
「ポンピカ!ギュギュパニは絶対に殺すな!ワシからの”問題”じゃ!」
なんだとおおおお!
酷いぞそれ!
族長!マジ空気ヨメ!
「はーっはっはw。お前らの族長も酷いヤツだねぇwまさに絶対絶命ってやつじゃないのかい?」
「・・・仕方ない。族長が言うんだ。なんとかするさ。」
「はっwどうやってだい?あたしだけじゃなくこの2匹も同時に相手するんだよw」
「ふぅ〜。いいよ。かかってきなっ。オルガクルガ。倒した後で、お前ひどい目に合わせてやるからな」
「いうねぇ〜!はっ!おい!2匹!アイツを拘束しろ!」
「おお!」
「はぁああああ!」
2匹が、襲い掛かってくる。
幸いだね。
本当に三匹同時ならヤバイけど、
あの2匹は弱い。
正直物の数じゃない。
だけど隙を見せちゃダメダ。
先に2匹を行動不能にしよう。
僕は軽いステップを踏んで、ギュギュパニを中心に少しずつ円を描きながら左へ離れる。
2匹のスキクは、猛烈に僕を追い回す。
ギュギュパニとの距離がある程度離れたタイミングで2匹が右側から襲ってきた。
掴み倒そうとタックルしてくる様子だ。
ステップをより軽く細かく踏んで、
ボクシングの左前のノーマルスタイルへとステップを切り替え、2匹を正面へと捉える。
2匹は同時にタックルしてくるつもりだろうけど、
互いの体が邪魔なのだろう。
一匹は先にもう一匹は少し遅れてのタックルだ。
しかも右よりのヤツが少し早い。
だから、ノーマルスタイルにしたんだ。
僕にタックルが当たる瞬間。
顎がこちらを向いているのを見逃さない。
そこへ、左フックからの左・右・左と1・2・3を脳天へとキメてやる。
パンッ!パンッ!パンッ!
軽快な音と共に一匹目の目玉がグルンを上を向いていくのが見える。
一匹目は、すでに意識がないだろう。
1・2・3の直後にサウスポーへとスタイルを変えて少し距離を取る。
そして、次のヤツに備える。
後ろの一匹が、前の一匹を押しのけ、タックルを押し通してきた。
今度は、右フックからの右・左・右アッパーの1・2・アッパーを叩き込む。
すると、顎が跳ね上がり、ガクンと力なく倒れた。
2匹共ピクリとも動かない。
さて、ギュギュパニだけだ。
「・・・なんだ。その動き・・・見たこと無いぞ」
そりゃ、知らないだろうね。
素手の超接近戦でボクシングに勝てる武術は無いんだよ。
相当な歴史が有るからね。
ただ、ステップだけでも体力をすごく消耗する。
短期戦向けの物だからね。
2匹を気絶させたあと、ステップはやめる。
「ふぅ〜。焦ったよ。危うく殺すとこだった。」
「っち!役立たず共・・・」
「オルガクルガ。お前、仲間をなんとも思わないのか?」
「仲間?なんだいそりゃw」
「この2匹はお前に名を捧げたんだろ?」
「ああ、そうだねぇ。だから死ぬも生きるもあたし次第だ!」
「なかなか、クズだね。オルガクルガは」
「はっ!だからどうした!!」
距離を取ったおかげで、体力を減らさずに済みそうだ。
走りながら、しつこく押し倒しに来るギュギュパニだけど。
それを軽く捌く。
右へ、左へと、最小の動きで、化勁を使い。
力を流し、反らし、弾いていく。
「くそっ!なんで捕まらないんだい!小さい癖に!」
「はははw。オルガクルガ。ギュギュパニならもう僕の事、捕まえてるぞ。お前はギュギュパニより頭が弱いなw」
「クソっ!・・・まぁいいさ。次は違う手で行くさ。」
そう言うとそのへんに有った石を掴み投げつけてきた。
めちゃめちゃ早い。
何とか避けたけど、石があの速度で当たったら洒落にならない。
「っち!これでも当たらないのか・・・ん?そうか・・・」ニヤァ
ん?ギュギュパニがウウダギを見てニヤっと笑いやがった!
・・・流石にギュギュパニでもやって良い事と悪い事はあるんだよ?
何時まで、乗っ取られてるんだ?
ウウダギには手を出させない。
絶対だ!
僕の意識が薄らいでいく。
全てが、そう全てが、幻の如く。
世界は止まり、
僕だけが時間の鎖から解放されたがごとく。
風も、音も僕を追い抜くことは出来ない。
脱力からの・・・。
ボスンっ!
薄い意識のなかで大きい音がする。
僕が、なにかしたんだ。
間違いない。
手応えがある。
そこで、ハッ!っとなった。
殺っちまったか?
意識が鮮明になるに連れて、
周りが良く見えるように成った。
僕は、今、ギュギュパニの懐へと密着している。
そして、鳩尾へと頂肘を繰り出していた。
・・・意識が薄くなると、危険な技使ってしまうようだ。
ウウダギに何かあると意識が飛んじゃう癖治さないと・・・。
こりゃギュギュパニ生きてないだろ。
殺っちまったなぁ・・・。
「ぐ・・・ポンピカ・・・済まなかったねぇ・・・不覚をとったよ・・・」
頭の上からギュギュパニの声がする。
良く見ると、鱗の色も元に戻っている。
オルガクルガが抜けた?
ギュギュパニ生きてる!
「ギュギュパニ!大丈夫か!?」
「あ・・・ああ・・・だけど息が・・・でき・・ない・・・」
「ああ・・・ゴメンちょっと、やりすぎた。」
「・・・オルガは・・・」
「分かんない。でも、ギュギュパニからは抜けたと思う」
「そうかい・・・。ちょっと寝るよ・・・」
「ギュギュパニ!」
僕はすぐに意識を失ったギュギュパニを見て焦った!
不味い状態だ。
自分でやってしまった事だけど、
やりすぎた。
どうする?
治せるかな?
一回、気を流して診断しないとダメそうだ。
「ウウダギ。終わったから降りてきて!手伝って!」
「うん!」
ウウダギが、木の上から降りてきて、
僕の側まで来る。
ギュギュパニの様子を見るなり、すぐに集落の皆の所へ走る。
バタバタと走る姿・・・可愛い。
・・・それどころじゃない。
取り敢えず、僅かでいい気を練る。
練った気を頂肘がめり込んだ辺りに流してやる。
気の広がりを診ようと思ったけど、広がらない!
これヤバイ!
鳩尾にクリーンヒットしてて、しかも気が通わないって不味いだろ!
急いで、気を大量に練る。
時間はかかるけど、間に合うかどうか・・・。
やるしか無い。
練った気を端からドンドン通わない場所へと指先から練りだす。
患部が気で浸るまで、覆い尽くすまで、
必死に注ぐ。
足りないときは僕の気も、利用していく。
しばらく、するとウウダギが何匹か連れて、湯と塩、
それからンダンダだろう、薬草を持ってきて、
せっせとギュギュパニを看病していく。
しばらく不毛かと思っていた気を垂れ流す作業に効果を出してきた。
はじめ患部は陥没してるような感覚だったんだけど底が埋まって、
水が満ちていく感じのように捉えられた。
だけど、まだ全然足りない。
気を練る作業に必死で、周りが見れない。
もしこんな時に気絶させた2匹が目を覚ましたら・・・。
いや、考えないようにしよう。
何はともあれ気を流し込む。
どのくらい流し込んだだろうか?
量にしてスキク丸々一匹分位を流したと思う。
気が陥没した面積と全然釣り合わない。
どこかで、漏れてるんじゃないか?
同じ作業が延々と続く、絶望に思えた作業だけど、少し変化が出てきた。
気が患部を満たしてきたんだ。
だけど、まだ満たしただけだ。
と、言うのも器に水を満たしたけど閉じ込めたとは言えないからだ。
気が陥没していた場所はまだなにか足りない様な様子がある。
大体は分かってるんだ。
だって、気が逃げていかない場所と患部を比べてみると、
逃げていかない場所には薄っすら血管の様な何かが有る。
比べて陥没箇所は、その薄っすらが無い。
これが気をせき止めて居るんだろう。
この薄っすらしたの、どう見ても血管に酷似してるんだ。
陥没箇所はそれがない。
綺麗サッパリ薄っすらした血管が無くなってる。
だからだろう。
これを何とかしなきゃいけないんだ。
この血管に酷似した感じ・・・これが多分、経絡とかいうやつだ。
じいちゃんが体の中には血管の他に似たような気の通り道があるんだって言ってたしね。
この場所を何とか埋め合わせないとダメなんだきっと。
神経を研ぎ澄ませ、
被害状態を再度確認。
大きな損傷があるのは、やはり頂肘がヒットした場所だ。
視界を現界に戻し肉体を確認すると、
胸の鱗が禿げる程度の被害だ、
それに比べ、狭間から見て取れる患部は・・・完全な陥没。
境目がバッツリだもんね。
相当、気を吹き飛ばしたんだろう。
満たした気が有ったとしても経絡が無いからきっと機能してないんだ。
それに機能してない証拠で満たしたはずの気が外へ逃げ始めてる。
う〜ん。
これじゃまた気を入れ直さないといけない。
どうしよう。
こんな時、精霊さんが居てくれれば対処の仕方を教えてくれるはずなんだけど、
なんかどっか行っちゃってるしなぁ。
う〜ん。
穴が空いた感じだから・・・。
蓋でもするか?
いや、それじゃ根本を解決できなさそうだ。
元々肉体に沿った気なんだから、
経絡をつなげるようやってみよう。
患部の境目、心臓に近いエリアの細部を確認すると、
綺麗に境目が出来ている。
境目の脈からは、
心臓の鼓動のタイミングで気が押し出されたりもしている。
つまりこの経絡を繋げなげるのは正解だろう。
繋げるって言ってもなぁ。
今ここに溜まっている気は僕の気なんだ。
ギュギュパニの本来の気ではない。
ってことは、
僕が何か出来る範囲はこの気に対して行うのが筋だろう。
僕の気、僕が出来る事っていうのは、
狭間の世界では、相手の気を取り込んだり払ったり、
それに僕自身の想いの強さで、『形』を作る事くらいなわけだ。
『形』
多分これが解決策だと思う。
『形』を作るとしてもだ、
実際に切れてる先。
つまり本来有るべき場所の『形』がわからない。
ギュギュパニの形。
ギュギュパニの経絡の『形』が、全くわからない。
でも、その『形』の図面のような物が判れば・・・あるいは・・・。
取り敢えず考えても仕方ない。
やろう!。
取り敢えず僕の気で、経絡と作ってみよう。
何となく延長するような感じでっと・・・。
気が粘りを持って、僕の思う通りに動く。
寄り集まる。
そして、管のような物へと形を変えていく。
そこで、僕は考えが足りないという事を痛感した。
血管の形は形成出来るけど、
何処にどう繋げばいいかわからないじゃないか!
なにか参考になるものはぁ・・っと・・・。
そうか!他のスキクの心臓周りの作りを見ればいいんだ!
「ウウダギ。ゴメン少し胸見せて!」
バチン!
イダッ!なんで尻尾が飛んでくる?
スキクは裸だろ?
何時もさらけ出してるじゃん!
良いじゃないか!
「ウウダギ!冗談とかじゃないんだ。ギュギュパニの身体の作りがわからないんだ。ウウダギを参考にしてみる!だから胸触らせて!」
バチン!
触るのもダメだったか!
「じゃぁ見せて!お願い!」
「ポンピカ・・・。わかった。」
ウウダギいい子!
なぜか胸を張ってる様子だけどそんな事しなくていいよ!