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多数対一匹と形見分け


テルビューチェを使えば、きっと死者が出てしまう。

武器のどれをとっても手加減が出来ないだろう。

成れば最も得意とする・・・無手でお相手だね。


「おい!お前!・・・分かってるのか!?俺らは4匹だぞ・・・」

「う〜ん。足りないくらいかなぁ〜?」


「くそっ!生意気だ!尻尾ナシのくせに!」


さっきから突っかかってくる一匹が、ウザイけど、

どうやらスキクの中のリーダーなのかもしれない。


そいつが僕に躍りかかると同時に他の三匹も追随する形で武器を振り下ろしてきた。

正直単調過ぎて、ため息が出てしまうレベルだ。


これで、戦?

出来ると思ってるのかな?


全く・・・でも仕方ないんかもしれない。

侵略者騒動が有ったのは、もう随分前だ。

今に至っては、戦争なんてしてないんだしね。

戦うという事が儀式化してる部分も有る。

つまり皆戦う事に成れてない。


狩りは出来ても対人・・・いや、対知的生物の戦い方がすでに廃れているのかもしれない。

逆に可哀想だなぁとさえ思う。


そうじゃなきゃ、ザウスとか気位が高い連中のおもちゃになんかならなかっただろう。

お前たち四匹だけじゃない。


戦がどうのと言っている連中全てが被害者みたいなものだ。


先頭のスキクの武器は棍棒。

木をそのまま使っているようで、枝が途中から突起となっていて殺傷力がありそう。

でも振り抜く速度が遅い。


恐らく、スキクはザウスよりずっと筋力が無いんだ。

だから、当てづらいけど破壊力がある道具に頼る。

ほら、まだあんな所。


他のヤツの武器が、下手すると先頭のスキクへ当たりかねない軌道を描いてる。

自爆攻撃の何者でもない。


仕方ない。

族長が助けろといったんだ。


僕は先頭のスキクが振り下ろす棍棒を右手で横から巻取り、

そのまま手前へ、スキクごと引き抜く。


半分宙に浮いている状態のスキクだ、

少し力を入れれば身体の軌道なんて変えられる。


それに幸い僕の方へ体重が乗っている。

此のまま引いて、僕の後ろへと捌いていく。


すれ違いざまに右足で、後頭部へ、軽い当て身を当てて、失神へ。


次は、巻き込んで戦うはずだった前の壁役が居なく成ることで、

振り抜いている連中の策が徒労に消えていった。


標的を見失った三匹の武器は、そのまま力任せに地面の方へと吸い込まれる。

身体のバランスも崩れ、前のめりに身体を屈し、頭の位置が僕の胸当たりへと。


すれ違いざまに蹴りを放った勢いで右側の一匹へ側頭部へと膝が入る。

同時に右の拳が、正面左側に位置していた手斧を持ったスキクの鼻っ柱を軽く撃ち抜く。


左側から押し寄せていたスキクの丸見えな側頭部へと左手の掌底が襲う。


そして、最初の一撃で4匹のスキクが気絶する。

怪我をしたスキクは居ない。

誰も怪我をせず済んだ。


死んでも居ない。

完勝である。


僕は一歩引いただけだ。


結果、音を立てて4匹が地面へと転がってしまった。

あっという間の出来事であった。


「ふぅ〜。なんとか穏便に済んだかな?」


そう呟いて、後ろに控えていた族長へと目を向ける。


すると、確認するとでも言う頷きが返ってきた後、

族長が、四匹を確認する。


そして、また頷く。


「ポンピカ。良くやった。この者達は死んではおらぬ気絶しておるからな。言いつけを守ってくれたようじゃな」

「まー。仕方ないよ。今回は分が悪かったからね。少し卑怯な手段を使っちゃったけどね。」


「ワシからすれば、前代未聞の策じゃった。周りは誰も納得せぬじゃろう。」

「うん。流石にスキクは善良すぎるよ。嘘つきの僕としては、物足りないくらいだからね」


「・・・はぁ〜。なにはともあれ集落は救われた。礼を言う。」

「いや、いいよ。礼なんてさ。僕の為でも有るんだ。もし、ウウダギが傷つくと考えれば・・・流石に荒れるからね」


「・・・そうじゃな。さて、ワシが後を任されよう。良いな?」

「うん。僕は後始末つけるの下手だからね。年長者に任せるよ。疲れたしね。」


そういって、僕は離れた後ろで固まって集まっている集落の皆の元へと歩く。

集落の皆は、なんだかまだ状況が飲み込めていないようだ。


ただ、シシブブがうつ伏せに成り、切れた尻尾の処置をされている。

処置をしているのはギギリカかと思いきや、ウウダギだった。

そしてギギリカが補佐。


なぜだか、イイオオがシシブブのそばに座り、

シシブブを慈しむように見据え、手を取っている。


・・・ンダンダは?

僕、ンダンダがシシブブと仲良さそうだと思ってたんだけど・・・。


当のンダンダは、シシブブとイイオオを交互に見て口が開きっぱなしだ。


パパムイ、ズズナド、ベベビド、が固まっている。

パレンケの元にパチャクケチャクが顔を埋めて恐怖している。

パレンケは、顔に描いてある「なにが起きたんですか?」とね。


そんでもって、ギュギュパニは族長の後について、戦の後始末だ。


いや〜。

ちょっとやらかしすぎたかもしれない。


”バカ弟子。面白いものを見せてもらった。傑作だw”


そうだった。コイツだけは、アノ時僕がやった事を理解してたんだった。

ったく始末悪いなぁ・・・。


「ちょっとぉ〜。僕の名演技が精霊さんの今の一言で台無しな気がするんだけど?」

”ほう!あの口上の後の術も、アレも演技なのか?”


「いや、演技じゃないでしょ。演技だったらオルガクルガ死んでないでしょ」

”ふん。しかし、アノ術は、はじめて見る。まだまだ生命の力は開拓の余地が有るな”


・・・そうか・・・気功と武術を組み合わせての打撃は呪術には無いのか。

じいちゃんや叔父さんが、

道場の門下生に成るための条件の一つに設定している技。

中国の武術の中にはどの流派も暗勁と言う作法がある。


暗勁とは、簡単に言うと、勁力を他人に見せない技術の事だ。


他から見るとその拳打は通常の打ち込みと変わらなく見える。

だけど実際は、勁力がしっかりと入っている凶悪な打撃の事なんだ。


本来、暗勁は他者に技術が盗まれない為に開発された物だけど、

次第に対戦相手に行動の先読みをされないためのフェイクとしても用いられるようになった。


まぁ、詳しい話は置いておいて、

僕が使った暗勁は、達人のそれとは程遠い。

僕は達人じゃない。

だから、あえて距離と隙を大量に用意する必要が有った。


僕がオルガクルガとの会話に入る前から、

そして会話中、接敵した時、更に打ち込む瞬間までが、

全て勁力を練る事に費やしてしまったんだ。


こんな、下手な撃ち方では、じいちゃんや叔父さんだけじゃない。

父ちゃんや姉ちゃんにまでその動向が見抜かれる。


多分門下生の人にもバレバレなんだ。


そんな拙い暗勁を使い、放ったのも浸透勁と言われる物だ。

浸透勁とは、良く漫画なんかで聞かれる単語かもしれない。

だけど、名前からすれば中国武術の技のように見える。

実際には、中国武術に浸透勁という言葉は無い。


だけど、経験則や秘伝色々な条件を付けたり、

それとなく初期に教えられる物の中にこの浸透勁を打ち出す技術が詰まっていたりする。


そう、それを明確に論理体系化して、更に武術の技として昇華したものが

浸透勁であり、その作用っていうのはまさに漫画やアニメに出てくる。

それ、なんだ。


浸透するということは、なんだと言われれば、

液体の詰まった物を叩けば、その力が、中の液体へ伝わる。

そういうイメージだろう。


だけど、実際は考えれば分かる。

物を押す力が強ければ、物は押されるわけで、

力が弱ければ弾かれる。

ならば、どうすればいいのか?

その答えは簡単、弾かれずに力を伝えればいい。

と、言う結果なのだ。

強い力を中で反響させる撃ち方がある。

弱い力でも弾かれない撃ち方がある。


つまり、撃ち方で変えられるんだ。


僕は、暗勁を利用して、小さな動きに見せかけ膨大な量の気を練り、

隙をついて勁力を練り、更にその力を浸透勁として、放ったに過ぎない。


精霊さんが笑ったのは、恐らく僕の周りで大量の気、生命力が渦を巻いたからだろう。

勁力を練ると同時に気も練り込んだ。


苦しい演技の最中に有って、バレないかとヒヤヒヤしてたんだ。


かなり苦労したし前フリが長いので、何発も同じことは出来ないだろう。

しかし、今回は相手が油断してくれて助かった。


ギリギリのラインを踏み外さなくって本当に良かったよ。

一歩間違えば、ただのヘニョヘニョパンチに成ってしまったからね。


ちなみに浸透勁を攻略するには、内勁の鍛錬か、硬気功を習得しないと無理だ。


随分考えが、長くなったけど・・・。

どちらにしてもこれが、呪術の分野となるのなら

この世界にもし、魔法というものが有ったとしても対処は出来るだろう。


精霊さんは、僕がそもそも気功を習得してるとは知らないわけだしね。


「精霊さん。ちょっと気になる事が有るんだ」

”なんじゃ?ワシに聞かねば成らぬ事か?”


「多分、アンキロ・・・つまり四足のおおきな動物が死んだと思うんだけど・・・分かる?」

”う〜ん。抽象的過ぎてさっぱりじゃな”


「僕やシシブブが飼っていた動物の事なんだけどさ?」

”動物動物・・・流れから見てじゃが、ザウスが持っていた頭のことか?”


「察してくれると話が進めやすくていいね。」

”当たりか。それがどうした?”


「狭間にはその動物のヴァンが有るはずだよね?」

”想いが残れば、そうじゃろうな”


「想いってのは何処に残る?」

”何処というのがわからぬが、残る場所を聞いておるのか?それとも宿る場所のことか?”


「それなら、宿る場所のことが適切かもしれない。」

”ヴァンはどちらも残るのが普通じゃ。じゃが、肉体に残るヴァンは稀じゃ”


つまり・・・アンキロは何処に?残ったのかだけどぉ・・・もしかしたら残らなかったのかも?


「いいや、具体的に聞く。あの動物のヴァンは今存在してるかな?存在してるなら何処に有る?」

”ふむ・・・動物はあまり頭が良くない。動物のヴァンが残るは稀じゃが・・・ふむ、たしかに存在はしておるな・・・、ふむ雌じゃったか、随分執着が強いのう。”


「あー。うん。執着は有ったと思う。だって、卵産んだ直後のはずだったしね。」

”なるほど、さもありなんと、言う所じゃな。で?それがどうしたのじゃ?”


「う〜ん。言ってなかった事なんだけどさ?僕、気功と初歩の仙道と言う物を前世でじいちゃんに教えてもらってたんだ。分かる?」

”キコウ?センドウ?・・・流石にワシの知識でもそれが何を指しているのかはわからぬ。”


「気功ってのは呪術の事だとおもうよ。僕が呪術に成れているのはそのためだと思う」

”ほう。そうだったのか・・・しかし『形』は得ておらなんだな?”


「それは多分、前世では気、生命力がこっちより少なかったんだよ。扱う人も稀だったんだ」

”ふむ・・・。それで?センドウとは?”


「んっとこっちで言えば生命力を利用する術というところかな?いろんな事が出来るとは聞いてる。前世では効果がなかったんだけどね。多分生命力が多いこちらでは効果が出るかもしれない。」

”ふむ、話しとしてはそのセンドウを試すということか?・・・もしや先程の術はセンドウなのか?”


「違う。アレは、気功と武術の融合したものだよ。」

”ほう・・・。戦の術と呪術をかけ合わせたか・・・流石にワシでは思いつかなんだな。”


「まぁどっちでもいいんだけど、その動物のヴァンが居る所を教えて欲しい。」

”構わんが?”


「じゃぁ、ちょっとまってて」

”うむ。”


僕は、精霊さんと話しながらウウダギの元へと着いた。


「ウウダギ。大丈夫?」

「シシブブひどい。ポンピカも診て」


シシブブのお尻、尻尾が途中からバッツリ切れ落ちている。

断面は白い肉が見えているけど血が滲んではいない。

さっきも診たけど僕らスキクは尻尾があるのが当たり前で、なくなるとバランスが上手く取れない。

しかも、歩行の際には両足への重量負担を軽減するため尻尾にも体重を振っているんだ。

すでに尻尾をなくして久しい僕としては、

その体験談から来る経験で、それがどんなだかわかる。


「シシブブ。立てないんだろ?意識は有るだろ?」

「・・・ポンピカ・・・あたしは痛くて騒ぎを見てないんだけど・・・アンキロは・・・?」


その答えに僕は首を横に振るしか出来なかった。


「そう・・・。卵は?卵はどこに?」

「卵はまだ何時も族長が居る辺りに隠してある」


「じゃぁ、早くケルケオの卵と同じ所に持っていってちょうだい。じゃないと、生まれないわ」

「わかった。すぐに持っていくよ。」


「お願いね。」

「うん。」


視線をシシブブからウウダギに移す。


「ウウダギ手伝って欲しい。ここはギギリカに任せよう」

「うん。わかった。傷もう安全。葉っぱを塗った」


「うん。エライよ。ウウダギ、よくやってくれたね助かるよ」

「うん。」


ウウダギを連れ出す。

そして、オルガクルガが持っていた。

アンキロの頭部を僕は汚れるのも構わず抱きかかえる。


その光景は流石にウウダギには少々こたえただろう。

側で、小さくすすり泣くように「アンキロ・・・」っていってた。


「精霊さん。で?この動物のヴァンはどこ?」

”ふむ、では付いてくるがいい。”


精霊さんの案内で、集落を後にする。

ウウダギは、泣きながアンキロ、アンキロと呟いているんだ。

可哀想ッたりゃありゃしない。


多分、迷子の時、アンキロの所に行ったのもアンキロが優しいって事が、

頭に有ったのだろう、しかも、意外に仕草が可愛かったしなぁ。


ウウダギにしてはただの動物という枠ではなかったのかもしれない。


やはり、移動には時間がかかった。

すでに夜中だ。

だけどウウダギは眠りもせず、

しっかりと目を開いてついてくる。


精霊さんの案内でたどり着いたのは、

アンキロが卵を産んだ場所だ。

ここが一番思い出に残っているからということかもしれない。


”バカ弟子よ。お前なら分かるであろう?あの窪みの辺りじゃ。”


アンキロの巣の場所。

示されたのはそこだった。


だけど、久しぶりに来てわかった。

シシブブは殊の外、この場所を手入れしているんだ。

綺麗に干した草をひきつめたり、色々としていた形跡が有る。

ただ、それも、ここで行われた戦いの影響で、随分と荒れてしまったようだけど・・・。


「ウウダギ。悲しませる様な所に連れてきてごめんね。」

「アンキロは、なんで殺された?」


「シシブブ、パパムイ、ンダンダが逃げれるようにあの怖いザウス達を足止めしてたんだ」

「・・・アンキロ。優しい。僕好き。」


「アンキロはね?もうすぐ子供が出来る時だったんだ。だから体に力が入ってなかったのも負けてしまった原因かもしれない。タイミングが合わなかっただけかもしれない・・・でも、だからといって、殺されるのはイヤだよね?」

「うん。死んじゃった。」


「ウウダギ。話が変わっちゃうけど、この森にはね?沢山の死んだ生き物の心が残ってるんだよ。」

「心?」


「うん。僕が最近、何処かを見て話している事が有るでしょ?」

「うん。さっきも話してた。」


「僕はね。死んだ生き物が残している心を見て、聞けるんだ。」

「!」


「だから、今ここに来たの。」

「アンキロ?アンキロの心、ここに有る?」


「うん。精霊さんが、教えてくれたんだよ。」

「セイレイサン。優しい。」


・・・審議必要そうだけどね。

まぁいいや。


「さて、あまり時間は掛けれない。早速やることが有る。手伝ってくれる?」

「うん。手伝う。」


僕は、そこで、アンキロの残骸を埋めるための穴を掘ることにした。

途中、精霊さんが「何をしとるのじゃ?」とか、「何の意味が有るのじゃ?」とか、

煩かったけどね。


アンキロの体はとても大きい。

だけど、あの連中、食べれるところだけは一通り食べていったようだ。

肉の減り方が異常なんだよね。

骨と外皮、あとは内蔵の一部が散乱しており、

僕が持ってきた頭を入れてまとめると、大体、1mの立方体に収まるくらいだ。


掘った穴はもう少し大きい感じだけど、それでも十分埋葬できそう。


アンキロの残骸。

ここまで解体されていると遺体とは言えない。

集めるのに苦労するほど酷い扱いだったようだ。

でもウウダギは嫌な顔せずにしっかりと集めてくれる。


まぁ、食べる事で供養にはなるとは言え、

ヴァンの事なんかに関わり始めてしまった僕としては、

やっぱり前世の記憶のせいか、

埋葬という形を取るべきだと思ったんだ。


一通りの残骸を集め、

穴に放り込む。


「さてっと、精霊さん。この動物のヴァンはまだ、窪みに居る?」

”いや、この子供が来てから子供の周りで漂っておる。随分好かれていたようじゃな”


やはりな・・・。


「ウウダギ。今から少し変な事をすると思う。皆には言わないでね。」

「うん・・・。」


僕は穴の前に立ち、目を閉じる。

気を練り、狭間の世界へ意識を放す。


すると、先程の景色の中に数多くのヴァンが漂っているのに気づく。


精霊さん。

ここなら考えで話し出来るかな?


”ほう。自分でこちらに来れるのか。天に引き寄せられては居ないようだ。見違えたのう”


冗談はいいさ。

で?どれがアンキロ?


”アンキロか・・・ふむ、そこにおるやつじゃな”


ウウダギの周りを回っているヴァンの事?


”そうじゃ。それにしてもスキクに随分慣れているヴァンじゃな?どうやった?”


上手いことは言えないけど、飼ってたんだ。


”?動物を?飼っていたのか?・・・ありゃ、飼える動物ではないぞ?”


それでも飼ってたんだよ。

まぁいいや。

精霊さん。ちょっと僕がやること見ててよ。


”ふむ”


そこの漂うアンキロ。

僕が誰だか分かるね?


”おお。気づいたようじゃ。ふむ”


アンキロ。これからお前の身体の一部を使って、お前をそこに分ける。

分かれた身体の一部をウウダギとシシブブが管理する。

お前を忘れないように・・・。

そして、お前がウウダギとシシブブを守るようにだ。

了承してくれるなら、今一度、身体のどの部分に宿るか示してくれ。


”?宿るとな?・・・ほう、面白い。死者が生者を守るか・・・面白い発想じゃ”


頭の二本がお前の宿る場所だな?

わかった。そのままでいろ。

今から現界でその部分を切り取る。


”なるほど・・・面白い。”


次の瞬間、

僕は狭間から戻り、

アンキロが宿った後頭部に有る円錐形の尖った角を二本叩き折る。


本来なら根元にヒビが入ったり、欠損するものだけど、

取れた角は、完品な状態でぽろりと落ちる。


その角を拾い上げ、一個をウウダギに渡した。


「ウウダギ。今、アンキロと話して、この角二本に宿ってもらったんだ。一個はウウダギが持つ。もう一個はシシブブだ。いいね?」

「アンキロ?角?」


「そうだよ。アンキロがウウダギとシシブブを守ってくれるんだ。集落に帰ったらこれを加工して、ネックレスを作ろう。」

「ネックレス?」


「首飾りだよ。常に持っていなきゃね。」

「アンキロが何時も一緒?」


「うん。理解できたかい?」

「うん。」


少し、表情の曇りが取れたようだ。

さて、最後は穴を埋めよう。


僕は土を穴へと放り込み始める。

それを見て、ウウダギも手伝い始めた。

片手にはアンキロの角がしっかりと握られている。


心なしか、ウウダギの周りに光が灯っているようなそんな気がする。

まだ、生命力が少ないんだろう。


あとで、その依代に気功を使った生命力もとい、気の移動を教えておこう。

毎日ちょっとずつ送っていけば、きっといざって時には役に立つだろう。


作業は夜通し続いた。

一日中動き詰めだし、ウウダギとしてははじめての徹夜。

流石に現界だろう。


”ほう・・・。バカ弟子。お前は、すでにワシが教えるはずだった事を知っておったようじゃな?”

「精霊さんの知識の中に依代っていうものは有る?」


”ヨリシロという物は知らぬが、いまお前がやったのは、形見分けという儀式じゃ。ワシが教えもせず形見分けを行えるとな・・・流石に驚いておる。”

「なるほど、形見分けか・・・うん。そっちの方がしっくりくるね。」


”じゃが、形見分けとは、お前がやった様に死者に了解なぞ得ないのが普通じゃ。というのも死者からそれを申し出るのが通例じゃからな。お前は新しいことをやったのじゃ。新しい儀式じゃぞ?”

「でもこうやったら心が通った相手がヴァンのまま漂う必要がなくなるよね?利用の幅は増えたんじゃないかな?」


”死者を利用か・・・随分と酷い物言いじゃ。じゃが、死者を弔う姿勢、実にあっぱれじゃ。”

「まぁ、それはそれでいいよ。取り敢えず、さすがにウウダギが限界だ。ここで寝ていくか、背負ってでも集落に戻るよ」


”うむ、それが良かろう。ワシも今みた事から新しい儀式を思いつけるやもしれぬ。収穫はあった。嬉しい限りじゃ。しばらくは、狭間へ呼んだりせぬ。好きにしておれ”

「そりゃありがたい。じゃぁ戻るよ。」


”うむ。道中気をつけるのじゃ”


そこまで言うと精霊さんの姿が掻き消える。


「ウウダギ。ソロソロ戻ろう。穴も埋め戻した。後は土と木々がその身体を食べて、生きていってくれる。」

「うん・・・。アンキロ優しかった。」


「そうだね。ウウダギは好きだったんだよね」

「うん。可愛い。大好き」


んも〜。

僕はウウダギが可愛くて仕方ないんだけどねー。

角を小さい手でぎゅっと握るウウダギは、本当に可愛いんだ。

大切な物ができたんだね。

よかった。


帰る時、少しホッとしたんだろう。

流石に限界をむかえてしまったウウダギがよろけて倒れ込んでしまった。

文句を言わず、ずっと一緒にここまで来たんだ。

そりゃ疲れるよね。


流石に子供に無理をさせてしまった。

反省しなきゃ。


僕はウウダギを背負う。

ウウダギは気を失ってもアンキロの角を握りしめたままだ。

取り上げるわけにはいかないだろ?


落ちないようにそっと、アンキロの墓を後にする。


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