変わった鍛錬と弟子
さて、しばらくぶりに本格的な鍛錬でもしようかな?
レンガ作りが滞ってしまうけど、それは仕方ないかなぁ。
毎日一応、気功と套路はやってるんだけどね。
朝一にやったり寝る前だったりとバラバラだけど、一応体は動かせるようにはしてる。
でも事、戦闘に成るってわかってるなら少し本格的にやんないとダメかな?
ギュギュパニの話しからも分かるように随分強いんだそうだ。
気をしっかり練り込まないと、大きさからも力ですぐ負けるだろう。
う〜ん。
僕は、ものづくりだけやってたいんだけどね。
さて、ちょっと、森に入ってこよう。
ウウダギが寂しく成らないように声は掛けていこう。
「ウウダギ。いいかな?」
「うん。なに?」
「ちょっと一匹で森行ってくる。少しの間だけど、寂しくないからね」
「僕も行く」
「ウウダギ、できれば一匹がいいんだけど」
「ヤダ、ついていく」
はじめてかもしれない。
ウウダギがダダを捏ねるのは・・・。
まぁ、そこまで言うならついてこさせるか。
「わかったよ。じゃぁ、ギギリカごめんね。話の途中で」
「構わないけどなんか問題でも起きたの?」
「う〜ん。まぁね。でも族長に聞いて欲しい。僕からは言えないかな」
「ふ〜ん。・・・わかったわ。ポンピカ気をつけてね。ウウダギもよ」
「うん。ギギリカ行ってきます」
ウウダギがちゃんと挨拶する。
エライ。
ちゃんと成長してる。
「ギギリカ夕方には帰るから」
「はーい。あとでね」
そう言って、森へ向かう。
森の手前でベベビドが居たので、話しかける。
「ベベビド。ちょっと急ぎで作ってもらいたい物があるんだけど」
「なんだ?いきなり」
「地面に描くよ」
「おう。」
地面へ、握り手のついたラケット状の鈍器の絵を描く
「ふむ。すぐできなくはないぞ」
「これの材質は、できれば硬い木で作って欲しい一日くらいで作って欲しいんだけど」
「硬い?何に使うんだ?」
「武器」
「・・・ギュギュパニはなんと言っている?」
「作ってもいいってさ」
「ふむ・・・。厄介事でもあったのか?」
「まぁ、そんな所」
「わかったすぐに作る。」
「御願いします。僕とウウダギは少し森へ行ってきます」
「帰りは、何時くらいだ?」
「夕方」
「じゃぁ、それまでに作れるように急いでおく」
「ありがとう。」
「おう。いってきな」
「はーい」
ベベビドと別れて、森の中へ。
しばらく進む、別に行きたい場所があるわけではない。
今、僕は、気功を行いながら森の中を歩いている。
森の気を体内へと流し込んで、それと同時に気を張り、
自分が鍛錬にふさわしいと思える場所。
つまり気分が良いエリアを探しているのだ。
「ポンピカ。どこまでいく?」
ウウダギがしびれを切らしている。
「ウウダギ。僕は、近い内にどこかのザウスと戦うんだ。だから力をつける為に少し訓練をしようと思ってるんだよ。」
「族長の言ってたやつ?」
「そうそう。」
「強いの?」
「ギュギュパニに聞いたけどどうも強いらしい」
「ポンピカ勝てる?」
「わかんない。でもやるなら万全の体勢に持っていきたいんだ」
「うん。わかった。でもどこ行く?」
「今ね。気を張り巡らせて、僕が訓練をするにふさわしい場所を探してるんだよ」
「うん。わかった。ついていく」
ウウダギは理解力が高い。
無駄な事をあまり聞かない。
それがとても助かる。
今は、気を操作するのに神経を使っているから、
会話もおぼつかないんだ。
修行不足だったなぁー。
もう少し、頑張ってやっとけばよかった。
まぁ、後悔してもしかたない。
しばらく、気分の良い方向へと足を向けていると、
苔むしった、大きな岩がむき出しで転がっている場所へたどり着く。
一瞬で理解した。
ここが僕の修行場所だって。
苔むしった岩を中心に3メートル位の空き地があり、
囲むように木々が覆い茂っている。
その木のどれにも苔がびっしりと茂っており、
なんだか幻想的な雰囲気さえ醸し出している。
前世で、物の怪の女の子のアニメ映画があったけどそこに出てきそうなそんな場所だ。
岩も高さ5メートルはあるだろう。
下手すると一軒家くらいの大きさがある。
それがなんと言うか不自然なバランスで突き立っているように地面から出ているんだ。
そして、地面と岩の間には少しくぼみがあって、雨宿りもできそうな雰囲気である。
足を止めて、じっくり観察をしていたい衝動が凄い。
「ポンピカ?」
ウウダギが僕を正気に戻してくれる。
連れてきてよかった。
「あ、ああ。ありがとう。ウウダギに話しかけられなきゃ正気で入れなかったかもしれない」
「!ポンピカ!ここはダメ!ポンピカおかしくなる!」
ウウダギが血相を変えて飛びついてきた。
「大丈夫。もう大丈夫だよ。ウウダギのおかげ」
「ホント?」
「うん。しばらく僕はここで瞑想する。なんか変な感じがしたら声をかけてくれると助かるよ」
「メイソウ」
「そう瞑想。目をつぶり、辺りの気に集中して、会話のようなやり取りをするんだ」
「話す?」
「うん。此の辺りの気は僕が欲しい気なんだと思う。とても染みて力が沸いて来るよ」
「うん。わかった。変なったら起こす」
「うん。お願いね」
「任せて」
岩の窪みへ進み出て、そこへと腰を下ろす。
足を組み、座禅を行い始めた。
スキクやザウスの一部は足の構造が鹿とかの足によく似ている。
つま先立ちのような構造なんだ。
僕はクウォンとの戦いの後、目覚めると人間の足腰に変わっていた。
凄い変化だったんだけどなぁ。
皆それをすんなり受け止めてたよね?不思議。
まぁ、今の僕は、そのまま人間と同じく座禅を組める。
というか尻尾もなくなっちゃってるしね。
最近じゃ、尻尾があった辺りにお尻っぽい膨らみができてきてる。
尻尾の切り口がいつの間にか鱗で覆われて、塞がっちゃったんだ。
もうスキクと呼べなくないかな?
まぁ、いいや。成っちゃったものは仕方ない。
痛みもないし、良しとしよう。
座禅を組む。
目を静かに閉じ、辺りの気に集中を始める。
しばらく気を感じていると勝手に体が揺れ始める。
これは、霊動という物らしい。
抵抗せずに動くのがコツ。
身体の悪い所や、気が滞っている所を体が気に反応して自然に修復を始める為に動くらしい。
じいちゃんがそう言ってた。
だから、抵抗しない・・・抵抗しないけど感覚からするとクワングワン揺れてるんだけどなぁ。
いいのかな?まぁ、痛く無いしむしろ気持ちいい。
ふぅ〜。しばらく此のままいよう。
「ポンピカ?大丈夫?」
「・・・大丈夫。今動いてるでしょ?」
「すごく動いてる。地面に頭打ちつけようとしたり、壁に頭叩きつけるような動きしてる」
「・・・そこまでひどいの?」
「うん。すごい。」
「・・・まぁ、これは霊動っていう作用だから気にしなくてもいいよ。体が気に馴染んでいる証拠」
「わかった。見てる」
ウウダギが心配するほど動いてるのか。
つまり僕の体はそれだけ、負担が大きかったってことかな?
まぁいいや、抵抗しない。
しばらく霊動が続いたけど、ある瞬間から身体の負担がスッと抜ける感覚がある。
それを感じた後、今度は座禅の姿へ体がゆっくり戻り、今度は逆に動きが無くなっていく。
呼吸だけの動き。
ウウダギがボソッと「あ、止まった」って言ってるから止まったんだね。
さて、ここからが本格的な修行だね。
ウウダギにしばらく静かにするように言わなきゃ。
「ウウダギしばらく此のまま動きが無いから、声はかけなくていいよ。」
「わかった。でも変なら起こす」
「うん。お願いね」
辺りの気をどんどん体へ流し込んでいく。
僕の体の中が此の辺りの気で満ちていく。
気分がとてもいい。
意識が薄くなる。
でもまだ、自分を保てる。
大丈夫、時間はまだある。
辺りの気を感じる。
僕を中心に背には大きな気の塊、
濃密で、それでいて量が膨大、枯れることもないように思えるほどの圧倒的な存在感。
僕の前の方には、ウウダギの気配、
いや、気配を通り越して脳裏に姿が・・・ソワソワしている。でもジッと我慢もしていそうだ。
更にその奥には森が広がる。
僕を中心にどんどん辺りが手に取るように見えてくる。
見える。
そうだ、脳裏に僕を俯瞰で僕が見ているようだ。
辺りが、輝いて見える。
木々、草花、苔に至るまで、全てが呼吸をしている。
気をすい吐き出し、また吸う。
視界が広がる。
どんどん広がっていく。
集落が見えてくる。
ギュギュパニが、まだ族長と何か話している。
パパムイが獲物を持ち帰ってきている最中だ。
イイオオは今日、漁をしている。
パレンケは笛の練習をしている。
パチャクケチャクは揃って歌に合わせて踊る。
ベベビドは僕が言った物をすでに完成させているようだ。
あれ?僕の側に知らないスキクが居る・・・誰だろう?
ウウダギは・・・僕を起こそうとしてる。
まだまだ、視界が広がる。
・・・少し、意識が薄く成りすぎている気がする。
ヤバイ、これ・・・戻れるかな?
まずくないか?
意識が自分に引き寄せられない。
あれ?まずくないか?
ヤバイ!どうしよう!
ちょ!視界がどんどん広がってる。
止められない!
誰か!
僕を起こして!
ヤバイ!
ウウダギ!ウウダギ!
意識が、どんどん削られる!
まずいよ!
誰か!
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ポンピカ!しっかり!目を覚まして!起きて!」
ハッ!・・・戻れた?
ウウダギ?
「ポンピカ!大丈夫?ずっと意識無い!危ない!」
「・・・ああ、うん。ゴメン危なかった。」
「もうダメ!これダメ!ポンピカ危ない!」
「わかったよ・・・。ウウダギ。だからそんなに泣かないで?ね?」
「わかってない!ポンピカ危ない!」
「ゴメンって・・・ね?謝るから」
「これやっちゃダメ!」
「うん。僕も少し調子にノリすぎた。流石に意識が消えかかったよ。危なかった。後悔してる」
「もう絶対ダメだからね!」
「うん。もう絶対しないよ。」
「ホント?」
「うん。ホント。危ないってわかったからね。」
「・・・わかった。」
「ウウダギ。ちょっと気になったんだけど、ここに知らないスキク来た?」
「?来てない」
「そう?」
「ここ、僕とポンピカだけ、音しない、匂いない」
「そっか。じゃぁ、気のせいだったのかな?」
「どうしたの?」
「さっき意識が飛んじゃう時に、ウウダギの後ろの方に一匹スキクが居たように見えたんだ」
「見えてない。ポンピカ目を閉じてた。意識ない」
「そ、そうだよね。僕の勘違いかもしれないね。」
「うん。勘違い。もう遅い、夕方なるから戻る。約束」
「うん。そうしよう。」
「ポンピカ動ける?」
「うん。すごく調子がいいよ。羽が生えたみたいに体が軽いよ」
「ポンピカ、羽生えてない。」
「そうだね。じゃぁ、帰ろうか?」
「うん!食事する」
「そうしよう!僕もお腹減った!」
ウウダギがニッコリしてくれた。
それから2匹で走って、集落へ向かう。
体が軽かった。
森の中なのに障害物が全てヒザ下にあるような気がするんだ。
実際は倒木とか色々有ったんだけどね。
ウウダギが必死についてくるのが見えたので、速度を落としたけど、
僕はまだ、全然走れそうだった。
集落に着く。
そこから、何事もなく、食事をして、就寝についた。
集落に着いた時、
色々確認はしたんだ。
やはりベベビドが頼んであった武器を完成させていた。
パパムイは結構早い段階で、集落に獲物を持ち帰ったようだ。
イイオオは漁で魚を大量に獲得している。
ギュギュパニと族長は僕が集落へ戻ってからも話し込んでいた。
パレンケは手に笛を持って、悪戦苦闘している。
パチャクケチャクは、何となく音楽的なリズムを刻みながら踊っている。
・・・やはり見たままだった。
どういうことだろう?
千里眼的な事が起きたのかな?
就寝時、ウウダギを撫でながら色々考えている。
「ポンピカ。メイソウはダメ。絶対」
「わかったよ。今は寝るだけだからね」
「うん・・・僕、置いてかないでね」
「・・・ウウダギを置いてくわけ無いだろ。可愛い僕のウウダギ」
「うん。約束」
「約束だよ。」
ウウダギが安心したようで、
僕の胸の上に顎を乗せて寝息を立て始める。
寝顔も寝姿も可愛い。
大切なウウダギ。
僕の子供。
置いてくわけ無いだろ?フフフ。
僕も寝よう。
流石に気は充実しているけど体はつかれたみたいだ。
すぐに睡魔が・・・、
ああ、眠い・・・。
Zzzzz。
”おい、そこのお前、起きなさい。”
”聞いておるだろう。起きろと言っているんだ。”
?だれ?
まだ眠い。
ってか寝てるんだから起こさないでよ。
”ふむ、声は聞こえるのか。ならいい。少し話しをしよう。”
え?どうして?僕眠くてしかたないんだ。
明日にしてくれないか?
”お前が寝てる間しか、会話ができない。”
何よそれ?
っていうか、あんた誰だよ。
”ワシか?・・・そうだな、ワシは精霊とでも呼んでくれ”
精霊?何言ってるの?あんたスキクじゃないか。
”ほう、見えておるのか。器用な奴だ”
・・・どうして見えてるんだろう?
”それはお前が昼間、空を飛んだからだ。あれは危険な術だ。安易にやるものではない”
術?なにそれ。
魔法のこと?
”マホウ?・・・よくわからぬが、まぁ不思議な力の事だ。”
不思議な力・・・言ってて恥ずかしくない?
”ふん。バカにしおって、まぁいい。その事で話をしに来たんだ。”
・・・なにそれ。
僕に精霊さんがなにか教えに来てくれたとか?
そういう事?
”ふむ・・・。教えに来た、と捉えてもらって構わんな”
へー。
精霊さんってそんな感じなの?
”・・・まぁ、ワシはこの辺の呪術師をしておったからな、未熟者には教えるのが当然だろう”
呪術師?
それって、族長に頼んだから来たの?
”いや、お前が空を飛んでいる時に偶然見かけてな、気に成って見てたらあっという間に天に引き寄せられたろ?”
ああ、そうかアレって天に引き寄せられたんだね?
”うむ。よほどこの世に執着がなかったようだからな、其のようなヤツを天はすぐに引き寄せてしまうのだ”
なるほど。
もしかして天に引き寄せられるって事は、
完全に引き寄せられちゃったら、死んでた?とか?
”肉体は死なずとも、お前自身は死んでしまったであろうな。”
そっか、危なかったんだね。
でも戻れたよ。
”ふん。戻れたのではない。ワシが戻したのだ!このバカタレが!”
えっ?そうなの?
ウウダギの声で起きたはずだけど・・・。
”あの子供か?あれはお前を導く良い柱と成った。アレが居なければワシとて簡単には戻せんかったな。お前は運が良い方だ”
そっか。
ウウダギのおかげでもあるんだね。
”うむ。まぁ、そんな話はどうでもいい。お前、ワシの弟子にならぬか?”
弟子?きなり?どうして?
”見ておれぬからだ。まぁ其の一言に尽きるか。”
見てられないってことかぁ・・・。
でも精霊さんの弟子になって何すればいいの?
”ワシから学べ。ザーザースの世界では役に立つ。”
う〜ん。
それって呪術師の勉強ってことかな?
”そうだ。しかしそこらの呪術師とはわけが違うぞ?ワシは本物だからのう”
なにそれ?
本物と偽物がいるってこと?
”うむ。そうだ。ザーザースの中でまともな呪術が使える者は、もう、おらぬからな”
・・・あれ?精霊さんって、もしかして死んでるの?
”肉体はとうの昔に朽ちている。自然の力に想いを残しておるから精霊となったのだ。”
ふ〜ん。
やっぱり幽霊なんじゃないか・・・。
精霊も確かに霊だね。
”お前は本当に口が悪いスキクだな・・・。まぁ、良い。ワシが決めたのだ、お前はワシの弟子にする”
・・・まぁ、いいかな?
どうせ呪術師に色々聞くつもりだったんだしね。
”そうかそうか。ならば、今日はゆっくり休め・・・明日また来るでな”
・・・寝不足にはしないでね。
”はははw馬鹿者!さっさと寝るがいい”
・・・怒られた。
あぁ・・・また、眠くなる・・・ってか夢の世界でも変な事起きるんだなぁ。
Zzzz。