ギギリカの焦り
ドアの辺りで、しょげているパパムイに僕は優しく声をかける。
「パパムイ。始めようか。」
「・・・親友だと思ってたのに・・・」
酷い言われようだ。
しかし、もう族長から”問題”として出されてしまったんだ、諦めろ。
「まぁ、ほら?もしパパムイが僕みたいにちゃんと泳げたらどうなると思う?」
「ポンピカみたいにか?」
取り敢えず、パパムイの気分をほぐそう。
あわよくば美味いこと持ち上げて気分良く協力してもらう。
「そう。もし、スイスイと気持ちよく泳げる様に成ったらかっこよくないか?」
「・・・そうかなぁ〜?」
ちょっと、声に力が戻ってきた。
「そうさ!雌なら死の世界から平気で帰ってくるような雄をほおって置かないんじゃないか?」
「・・・そ、そうか?・・・そうかな?・・・そうかもしれないな!」
なんだか目に力が湧いてるような感じだ。
表情は相変わらずわからないけど。
「もし、僕が雌だとしたら水を克服した雄なんて聞いたらほっとかないよ?」
「そういうものか?・・・そうだよな!な!そうだよな?ギギリカはどうだ?」
おーい!そこでギギリカにフルな!
「もう!ポンピカ!なに口車に載せようと思ってるのよ!」
「チッ!」
「おい!ポンピカ!どういう事だよ!」
もー!ギギリカにフルと絶対怒るに決まってるだろ?
「あああ!もう!族長からの”問題”なんだから協力しろよ!」
「うぐっ!」
「パパムイ・・・頑張って・・・」
ギギリカ。
もし、ギギリカが雄だったら絶対この役はギギリカに任せたんだけどなぁ。
仕方ないか。
でも身体の使い方は常に狩りをしているパパムイには最適だとおもうんだ。
多分、あっさりとこなすと思う。
「ほら、親友だろ?協力してくれよ。」
「ぐぐぐ・・・今ほど親友がいることを悔やんだときはない・・・だが俺も雄だ!やる!任せろ!」
さすが雄気のパパムイ。
あっさりと立ち直った。
エライけど、それほどの決意じゃなくても出来ます。
ちゃんと教えるから付いてきてください。
そう言ったパパムイをドアの所に吊るしている紐のところまで招く。
パパムイは、水面をみて、震えているけど、多分寒いからじゃない。
そんなに怖いことかな?
「パパムイ。僕が先に下に降りるから声かけたらゆっくりでいいので紐で降りてきなね。」
「お、おう」
僕がさっそうと水の中に降りる。
結構水かさが減ってる気がする。
十分足を付けて立てる位の水かさだ。
「おーい。パパムイ。」
「お、おー!」
掛け声と共に、ゆっくりとパパムイは紐を伝って下ってきた。
そして、尻尾が水面に付く辺りに成るとピタッと止まる。
「パパムイ?どうした?」
「だ、だめだ・・・これ以上は・・・」
「パパムイ!雄だろ?親友だろ?」
「うぐっ!」
パパムイに発破をかけたことで、勇気を出したのか少しずつ尻尾が水の中に入っていく。
次第に足が水面に付き、そして、水中へと・・・
結局ゆっくりでは有ったが、地面に足を付け、水中を歩行して僕のところまで来た。
「どうだ?そんなに怖いか?」
「・・・生きた心地がしねぇ」
なんでそんなに牙を剥いたように歯をだしてるんだ?
威嚇でもしてるのか?
「それよりこれから顔を水につけるから剥いた牙はちゃんとしまっといてね。」
「えっ!そんな事出来るわけねーだろ!」
いちいち文句が多い。
「やるのっ!やるんです!お手本見せるから」
「本当にやんなきゃダメなのか?」
諦めが悪い。
「この泳ぐ練習ってのは、どんなにやっても顔は水に触るんだから諦めろよ」
「そうかぁ〜。きついなぁ〜」
なんか諦めが入ったみたいだから丁度いい。
僕は「見てろ」といって、足を曲げ、グッと鼻に力を入れて体ごと水中へと潜る。
息が続く限り耐えたら、呼吸をするために水上に顔を上げた。
するとパパムイは僕を驚きの目で見たまま固まっていた。
パパムイは多分、今の見てなかった。
「ちょっと!パパムイ!ちゃんと見てろって言ったじゃん!」
「・・・ポンピカ・・・大丈夫なのか?水の中に居たぞ?お前」
「そりゃ潜れば水中だよ!いいからパパムイもやるの!」
「マジかよ!本気で言ってたのか?」
「当たり前だろ?これ族長からもらった”問題”なんだし、ちゃんとやってるんだよ」
「そ、そうだったな・・・俺もやんなきゃダメだよな?」
「勿論。」
「ぐっ・・・わかった。顔を水につけるんだな?」
「そう、息を止めて水中に入るんだよ。」
「い!?息を止める?」
「いいからやってよ!先に進まないんだから!」
「お、おう・・・今日のポンピカはなんか怖いな・・・」
ちょっと興奮してしまった。
反省反省。
何はともあれ、パパムイが息を止めて一気に水の中に潜った。
あんだけ怖がってたのに凄いな。
勇気有るな。
しばらくしても浮上してこない。
何時まで潜ってんだろ?
ちょっと不安になってきたので、水中のパパムイを引っ張り出してみた。
「パパムイ!大丈夫か?」
「んお?ああ、思ったほど怖くなかった。」
あれ?肺活量の差?
体格あまり違いはないはずなんだけど?
「息、良く続いたね?」
「そうか?喉の袋に空気貯めればあのくらい大丈夫そうだな」
喉の袋?
もしかして、舌の裏側のスペースの事かな?
・・・なるほど、凄い発見だ。
次から僕もそれを真似よう。
「そうか。でも水の中はそれほど怖くなかったろ?」
「ああ、たしかに」
まぁ、ちょっと驚かされたけど、今度は泳ぎの練習をさせよう。
「じゃぁ、次は、泳ぎの練習だけど」
「おう!もう怖いものないからなっ!任せろ!」
パパムイの言い所。
それは、頭が足りない事。
さっきの恐怖は何処行ったんだ?
まぁ話がすすむから楽なんだけど。
教えてる方の身にも成ってほしいな。
僕は、そのままパパムイにクネクネ泳ぎを披露する。
すると、僕の後ろから見様見真似で泳ぎ始めた。
パパムイ。
いいやつだな。
そして、そのまま近場の屋根へと上がって日光で身体を温めた。
思いの外すんなり泳ぎの練習が完了したわけだ。
族長もドアの所で、こっちをアングリしながら見てた。
パパムイに泳ぎの特訓を施した後、そのまま二匹で少し集落の中を泳ぎまくった。
すると、またまた、新しい発見があった。
目にゴミが入ったり泥が入ったりすることが怖かったので、
僕は常に水の中では目を開けなかったけど、
そんな前知識の無いパパムイはガン開きして潜っていたようだった。
本来なら目が充血するとかしても良さそうだったんだけど、
結果から見るとそうならなかった。
それは、僕らスキクはどうやら水の中に目が入る瞬間に
無意識で、瞬膜と思われる薄い2つめのまぶたを閉じる様に成ってるみたいなんだ。
意識して瞬膜を閉じようとするとすごく難しい。
でも水や小さなゴミなんかが飛んでくると、反射的に瞬膜を閉じる癖がある。
どうやら、水中では瞬膜をずっと閉じている為に目が保護されて、快適に水中を見渡せた。
そして、一連のスキクの機能を考えると、多分、スキクは水に強い種族のはずなんだ。
本当にトカゲなんだな。
其のお陰で、集落の中で水没している家々を見て回った。
其の際、丁度いい細い木の棒を見つけたので、パパムイにこれで魚取れるんじゃないか?
と提案したら、何かピーン!ときたようで、嬉々として棒を持って魚を置い始めた。
結果、二匹で抱えられない程の大量の魚がとれた。
今まで釣りにかかっていた魚以外の種類も居た。
パパムイって、適応能力がすごく高いんじゃないかな?
頭は足りないけど、やって出来ない事といったら頭を使う事だけだしな。
そんなこんなで、集会場に戻った。
「ポンピカよ。見ていたぞ」
「族長!どうでした?出来たでしょ?」
「ああ、たしかに出来た。出来すぎだ。」
「出来すぎですか?」
「パパムイよ。お前はどうだった?」
「ん?怖いのは最初だけだったな。一回水の中に入っちまったらもうやるしか無かったw」
あー、なるほど。
パパムイは最初に諦めてたか。
それなら大胆に成れるってもんだ。
「で?族長、”問題”は完了でいいですよね?」
「言わずとも分かるだろう?合格だ!」
「やったー!ほら!パパムイも!やったー!」
「お、おう。や、ヤッター!」
「うむ、では、水の中についての訓練はパパムイとポンピカが担当することにする。それで良いな?」
「え?ええ、まぁいいんじゃないですか?なぁ?」
「俺も?」
「パパムイよ。お前は、良く協力した。皆が認めている。」
「お、おう・・・そうかな?俺なんかが認められたのか?」
「勿論だ。この集落で水を克服したスキクはお前とポンピカだけだからな。凄いことだ」
「凄い事だったのか・・・まぁ、それならいいか。」
なんかあっさりしてるなパパムイ。
と言うか、多分、一連の流れが全然分かってなかったってのが正解だな。
なんか、巻き込まれて、イヤイヤ水の中に入って、潜って、泳いで、魚摂って、
帰ってきたら褒められました。ってとこだろう。
パパムイらしいや。
「族長、一ついいですか?」
「なんだ?」
「僕やパパムイの今回の件でわかったことが有るんです。」
「む?それは?」
「多分僕らスキクは水に強い。水との親和性が非常に高い種族です。」
「・・・うむ〜・・・にわかには信じられんな」
「そうでしょうか?パパムイも結局、泳ぐまでに障害と成る物がほとんど無かったように思いますし、何より、泳ぎ始めたら体が勝手に動くような気がしました。」
「ふむ・・・そうか、それは一つの意見として心に留めておこう」
「ありがとうございます。」
族長は随分難しい顔をしていた。
いや、雰囲気がだけど、多分難しく考えているんだと思う。
何より、前世でもそうだったけど、年寄りほど、頑なで頑固なに成るようだし、
今回の泳ぎの件は若い連中から始めたほうがいいかもしれない。
こうして、その日は船の扱いをしないまま終わった。
ギギリカは船を見ながら複雑な心境のようだった。
船を貰うってことは、泳がなければイケナイって事に気づいたんだ。
翌朝も快晴だった。
朝からなかなかの蒸し具合で気分が良い。
スコールが夜中に過ぎ去っていったみたいだ。
さて、今日はパパムイに船の使い方を教えようかな
ギギリカには悪いけど、流石に泳げないんじゃ万一の時、危険だし
そう思って、パパムイをつれて、集落に船を二艘浮かべる。
僕とパパムイの分だ。
「パパムイ。今日は船の使い方だよ。」
「おう!待ってました!」
パパムイはとても元気だ。
ギギリカはというと、何故かうつむいている。
「ギギリカ、ごめんね。」
「・・・ポンピカ・・・あのね・・・」
「ポンピカ行こうぜ!」
空気を読まないパパムイの強引な引っ張りに集会場の外へと連れ出される。
最初は水の中からだ。
パパムイは昨日あんなに怖がっていたのにもう成れている。
昨日の心の葛藤は何処へ行ったのか聞いてみたい所だ。
「さて、パパムイ船の脇から乗り込むんだけど・・・」
僕が船の乗り込みについて説明を始めると、後ろの方でバシャーンという音が聞こえた。
振り返ると、バシャバシャと暴れる様にもがいてるギギリカがいた。
ハッ!となった僕とパパムイはすぐにギギリカの側へ。
「ギギリカ!何やってんだよ!」
「ギギリカ!?無茶はするなよ!」
パパムイと僕の二匹で支えると、ギギリカはなんとか落ち着きを取り戻した。
「どうしてこんな無茶したんだ!」
パパムイが憤慨している。
僕にはギギリカの気持ちが分かっていた。
きっと、船をもらったからとかではなく。
何時も三匹で一緒に居たのに
急に一匹だけ仲間はずれにされた気持ちに成っちゃったんだろう。
だから居ても経っても居られなかったんだな。
今日は、仕方ない。ここまで成っちゃったんだ。
ギギリカの泳ぎの練習をしよう。
「パパムイ。あまり怒らないであげて欲しいんだ」
「だって!ギギリカにもしものことが有ったら!」
パパムイはとても仲間思い。
特にギギリカは同じ泉育ちだ、真の兄弟も同然。
心配する気持ちは他のスキクよりも強いのかもしれない。
「うえぇ〜ん。ごめんなさ〜い」
ほらー。泣かせちゃったじゃん。
もう、雌は一度泣かせるとあやすのに一苦労なんだよ。
・・・仕方ない。
「ギギリカ。聞いてくれるか?」
「うぅ・・・」
「今日は僕ら船の使い方より、ギギリカの泳ぎの特訓をしようと思うんだ。」
「ポンピカ!?正気か?」
「パパムイ。ギギリカだって、一匹で寂しくなるより、水の中に飛び込んでも一緒に居ようとしたんだ。気持ちは分かるだろ?」
「ああ・・・そうだな・・・だけど、こんな事するならちゃんと言ってくれ。危なっかしくて見てられない」
「ごめんなさい・・・」
「まぁまぁ。パパムイも分かってくれたみたいなんだし。泣き止んだら早速泳ぎの練習でもしよう?」
「うん」
「そうだな。・・・っま、ギギリカの事だ、すぐに覚えちまうだろうなw」
パパムイは本当に良い奴だ。
とても心根が優しいんだな。
ギギリカも何時もは強気な所が有るけど、
やっぱりこういう事は三匹でやらないとダメだよな。
こうして、ギギリカの気分が戻った頃合いで、泳ぎの練習を始めた。
「昨日パパムイがやってたの見た?」
「うん。みた。」
「こうやるんだぞ!」
突然パパムイが潜り始めた。
手順もヘッタクレもない。
それじゃダメだろ。
「パパムイ!順序があるんだから」
「はははw」
ギギリカには大ウケだったからOKだ。
パパムイが水中から顔を出した頃合いで、仕切り直し。
「まぁ、いきなり過ぎたけど、今のパパムイみたいにゆっくりやってみて」
「うん」
「おう!」
なんでパパムイが返事するのかわからない。
でもギギリカと一緒にいれて嬉しそうだ。
ギギリカは、ゆっくり顔を水に漬けていく。
そして、多分恐怖心が無くなったのだろう。
水中からこっちを覗き始めた。
まぁ、隣にパパムイが揃って潜ってるから安心感はあるんだろうけど
この二匹は見てて楽しい。
っていうか、完全にバカが二匹並んでる。
なんだか、少し楽しく成ってきた。
僕も潜ろう。
水中で三匹が見つめ合った。
二匹ともしっかり瞬膜が出ていて、水中で目を開けている。
そんな中パパムイが自分の鼻に枝をさして笑いを誘ってくる。
それをみたギギリカが盛大に吹いて水上へと戻る。
僕らも水上へ。
ザパーン。
「はははwパパムイ!ひどいわよ!」
「そうか〜?」
「パパムイ。練習中だから笑いを誘わないのw」
こうして、三匹は泳ぎの練習をした。
パパムイが言っていたようにギギリカの適応能力は非常に高かった。
あっという間にパパムイや僕が教える事を吸収して自分のものにしてしまったんだ。
「もうこれなら泳ぎは大丈夫そうだね。」
「そーだな!もう俺より早く泳げるしな!」
「ありがとう!二匹とも!」
ようやく元気を取り戻したギギリカだった。
思いの外、ギギリカの泳ぎ習得が早かったので、少し船の習得にも手が出せた。
出せたと言っても船に乗り込む訓練だけだけどね。
そんな事をしてるとあっという間に一日が過ぎ去ってしまった。
僕らは、外でワイワイやりながら、泳ぎや船の乗り込みをやっている間、
集会場のドア付近では、先日パパムイに教わった釣りが出来るスキクが、
僕らを眺めながら釣りをしていた。
そこそこ成果が上がっているようで何よりだった。
その内、ちゃんとした船が作れるように成ったら、
近くの湖や川で漁を行えるように考えてみてもいい。
試行錯誤するとおもうけど、何事も始めなければ芽は出ないからな。
あとは、魚の養殖なんかも考えたり、それからそれから・・・
色々夢が広がる。
やっぱり集落全員が船を使えると生活の幅も広がりそうだな。
まぁ、将来のことをとやかく言っても仕方ない。
なにせ僕らスキクには長い時間なんて無いんだ・・・
寿命が短いっていうのは、結構キツイものだな。
なんか気分が落ち込んできちゃった。
切り替えていこう。
しかし、なんでスキクは寿命が短いんだろ?
前世で、「鶴は千年。亀は万年」なんて言ってたはずだし、
実際に亀もガラパゴスかどっかのリクガメがエライ長く生きたという話もきいた。
う〜ん。なんだろうな?寿命って・・・
ダメダ、こんなことばかり考えてちゃ気分が良くない。
取り敢えず寝よう。
こうして其の日は眠りについた。
翌朝、どうやら先日からスコールの時間帯がずれたようだ。
朝は快適に起きれるのがいい。
よし、今日中に船の使い方を二匹に叩き込もう。
そうすれば、また色々と出来るだろうしね。
そう思って、僕は二匹に話しかける。
すると、ギギリカの様子が可怪しい。
「ギギリカ?どうした?」
「わかんない・・・なんか体が熱いきがする」
「ギギリカ・・・大丈夫か?なにか食べ物持ってくるぞ?」
「ううん。大丈夫・・・少し寝てる」
こりゃいかん。
恐らく病気だ。
こうなると何が原因かわからない。
んーこういう事の知識が無いのは辛いな・・・
族長に聞いてみるか。
そう思い、族長にギギリカの事を話した。
すると、族長が急いでギギリカへと近寄る。
じっと見つめて、その後、鱗の薄い所に手を置いた。
しばらくして、族長が僕に向き直る。
神妙な面持ちに見えた。
どうやら、やはり病気なんだ・・・
なんとか出来ないかな?
そんな事を考えていると、族長が僕だけを部屋の端へと招く。
そこで、内緒話でもするかのように小声で話し始めた。
『ギギリカは”ジン”が取り憑いておる。』
『”ジン”ですか?・・・もしかして病気の事を”ジン”というのですか?』
『・・・病気?それがなんなのかは分からぬが”ジン”が取り憑くと、体が熱くなり、やがては衰弱して死んでしまう。・・・体力のある雄は生き残る場合があるが・・・雌となると・・・それにあの”ジン”は他のものにもうつる。厄介なのだ。』
ふむ・・・風邪だな。
『そうですか。では、どう対処しようと?』
『・・・ポンピカはギギリカと仲が良いから辛いだろうが・・・ギギリカはもう。それに他のものにうつる前にここから外に出さねばならん。』
なるほど・・・病にかかれば処置なしとみなして集落から離されるのか。
ふむ、となるとこれはもう、治すしか無いな。
『そうですか。では、僕に良い案があります。やってもいいですか?』
『なにを言っておる!お前も”ジン”に成ってしまうぞ!』
『ああ、それなら大丈夫ですよ。なんとか出来ると思います。』
『・・・本当か?』
『はい。取り敢えず、皆に伝染らないように集会場からは出ますけど、準備に一日ください。そしたら僕とギギリカだけで、外へ出ますので』
『・・・そうか・・・わかった。皆の者にはワシから話そう・・・』
『そうしてもらえると助かります。取り敢えず早速準備します。』
『そうしてくれ・・・必ずギギリカを助けてくれ・・・』
なんだかんだ言っているが、族長もギギリカを助けたいんだな・・・
『すいません。それと、今の集落の中に一度でも”ジン”を患って助かったスキクはいますか?』
『ふむ・・・居ないこともない・・・が、ポンピカには、ちとキツイかもしれんな』
『どうしてですか?』
『そのスキクがウルグズだからだ』
ここでウルグズがくるのか・・・困ったな。
でも、まぁいいや、どうせいつかは絡むんだし、
今絡んでもいいだろう。
『わかりました。じゃぁ、僕が直接聞きますよ』
『いや、ワシが聞こう。どんな事を聞きたい?』
族長って、結構気が利くんだな。
まぁそれならそれで助かる。
『えっと、治るきっかけとか食べた物とか聞きたいですね。』
『ふむ・・・わかった。聞いておこう。』
『ありがとうございます。じゃぁ、僕は準備に入ります・・・あと、一ついいですか?』
『なんだ?』
『パパムイが此の”問題”に絡むと思います。パパムイも同行させていいですか?』
『パパムイ・・・わかった。雄ならばいいだろう。』
「じゃぁ、いきますね。」
これで、三匹が離れずに済む。
ギギリカが病で寂しく成った時、また放り出されたとか思わないで済むな。
族長に感謝。
僕は、ギギリカの横で心配そうにしているパパムイに話しかける。
「パパムイ、ちょっといいか?」
「ん?」
『小声で話す。周りに聞かれるとマズイ』
『ああ、かまわねぇ』
『頭の足りないパパムイには説明するのは、メンドイから、簡単に言うと、ギギリカは”ジン”が取り憑いてる』
『・・・そうか・・・そうじゃないかと思った・・・』
『まぁ、そう気を落とすな。僕が治す』
「!なに!それは本当かっ!」
『しーっ!静かにしろ!皆に聞こえるだろ!』
『ああ、済まない・・・で?俺に話したって事は、俺も手伝えるんだろ?』
『うん。お願いするよ』
『ははは。やっぱお前は俺の親友だ!絶対にギギリカを助けるぞ!』
『ああ、絶対助けよう。』
こうして、寝ているギギリカをパパムイに任せ、僕は外で作業を始める。
前もって、パパムイには、水と甘い虫をすりつぶした物をもたせた。
頻繁に与えろ含ませてから。
それと、意識を失うような素振りがあったらすぐに呼びに来いとも言っておいた。
万が一意識がなくなれば、一大事だ。
そこまで悪化すると、僕には打つ手がない。
心配していても仕方ない。
手早く小さくてもスコールを凌げる小屋でも作らなきゃ・・・
でも土台とかそういう物が必要なんだ・・・火を炊かなきゃいけなくなるからな。
雨季じゃなきゃこんな苦労はしなかっただろう。
取り敢えず水面から顔を出している大きな岩を見つけよう。