警戒と帰宅
朝、木と木が鳴らす。
高い音で起こされた。
何事かと思って飛び起きて、音のする方を見ると、パパムイ達がやってくる所だった。
少しドッキリしたけど、動物の襲撃とかじゃなくてよかったよ。
ギュギュパニも音で目が覚めたみたいだ。
ウウダギはすでに何やら始めている。
「ウウダギおはよう」
「うん」
「ギュギュパニも起きたの?」
「ああ、音でね。それよりなんだい?あの音は」
「多分鳴子だとおもう。前にウウダギに紐と木を使った侵入を知らせてくれる罠を教えたことがある」
「ナルコ・・・。確かに侵入がわかるね。すごいもんだ」
「うん。ウウダギはとても賢い。並の賢さじゃないんだよ。ね?ウウダギ」
「?ナルコがあれば夜、寝れるってポンピカ言った。作った」
もうコノ子最高すぎるだろ。
「おーい!ポンピカ!起きてるかー!コレなんとかしてくれー!」
鳴子の鳴った方向で、パパムイが縄に足を取られてもがいている。
パパムイの方向へと様子を見に行くと、
設置してあるのが鳴子だけじゃなく、
足止めをするための罠まで設置してあった。
それにパパムイが引っかかってるんだ。
ってか僅かな時間で鳴子だけじゃなく罠まで設置したね?
仕事早すぎないか?
・・・いや、もしかして、僕が夜中起きる直前まで作業してたんじゃないかな?
そうか・・・一匹で色々やってたんだ。
なんか申し訳無い。
子供に仕事させて親が寝ちゃうなんてダメな親だな僕は。
「パパムイー!少し待ってろー!今行くからー!」
大声でパパムイへと返事をする。
パパムイの後ろにはギギリカがバカ笑いしており、その後ろには4匹のスキク、
イイオオ、パレンケ、パチャク、ケチャクがいる。
イイオオはギギリカの笑いにもらい笑いしているけどパレンケやパチャク、ケチャクは、此方をみてなんだか青い顔をしている様子だった。
幸い、デデンゴが居ない。
集落に置いてきてくれたんだろう。
まぁ遠出できるのは小さいスキクではウウダギくらいだろうしね。
すぐに近寄り、パパムイが絡まっている罠を解く。
「おいおいポンピカ?こんな罠があるなら先に言ってくれよ。」
「これウウダギが仕掛けたんだよ。昨日僕が疲れて寝ちゃったからね」
「へ〜!ウウダギはこんなことも出来るように成ってんのか?」
「どうやらそうらしい。」
感心するパパムイ。
ギギリカが続いて声をかけてきた。
「ウウダギは?」
「あそこで、なにか作業してるよ?」
「そう、じゃぁギュギュパニを早く運びましょう。」
「そのことなんだけどさぁ」
取り敢えず、皆ギュギュパニの所へと集まって話し始めた。
昨日もう縫ってしまって、あとは運ぶだけだから気を使わなくてもいい、っていう話と、
ケルケオの運搬についてだ。
雌二匹が生き残り継続的に卵を温めていると言う話もしている。
当の雌ケルケオは首だけ此方に向けて、「何の話?:とでもいいたげに首を傾げている。
「まぁ、そういう事だからギュギュパニにはソリに乗ってもらわないでもいいんだけど?」
「そうだね。あたしはもう力もはいるからねぇ。歩くくらいは出来るよ」
ザーザースと言う生き物は本当に治りが早い。
そしてすぐに動けるように成る。
人間ではこんなことないだろう。
でも目の前にはすでにふらつきながらでも立ち上がりあしの調子を見ているギュギュパニが居る。
歩くくらいならか・・・。
殺したケルケオは血抜きをしている。
だけど引きずる事ができない。
重すぎるからだ。
コレをどうするか・・・それが一番の問題なんだけど。
「なぁ?ポンピカ」
パパムイが話しかけてきた。
「ソリ使って運ぶにしても丸々運ぶのは無理だと思うぜ」
パパムイもそういう考えに至ったみたいだ。
「じゃぁ、ここで解体する?雌の目の前で?」
そう言うとパパムイもグッとなってしまった。
ここで、パレンケが話をし始める。
「ポンピカ。もし目の付かない所ならいいというなら目隠しをすればいいのではないですか?」
「雌に?」
「ええ、そうです。そうすれば、少なからず直視はしないでしょう」
「なるほど。」
パレンケの建設的な意見の元、雌に目隠しをした。
大きな葉っぱで作った目隠しを。
すぐに解体が始まる。
流石にまる一日放置してる状態なので内臓は食べれない。
なので、皮と肉の部分だけ切り取り、葉っぱで包んでソリに積み込んだ。
というか三台のソリが一輪車みたいに成ってるのが気になる。
ベベビドがすぐにやってくれたんだろう。
パパムイとギギリカ、僕とウウダギで一匹ずつ。
イイオオとパレンケ達で一匹。
というかんじでガッツリ時間をさかれてしまったけど、
なんとか解体は出来上がった。
ソリ三台に満載の形で積まれている。
「ギュギュパニも手伝わせてごめんね」
「なにいってんだよぉ。あんたが手当してくれなきゃおっちんじまってたかもしれないだろう」
「ポンピカ、そう言えば、ギュギュパニの足よく治したな?どうやったんだ?」
「なに?気になるの?パパムイ」
「いや、俺よりギギリカが気にしててさ」
「なんでパパムイが代わりに言うの?」
「う〜ん。」
そんな事いってギギリカの方にふりかえって「だからギギリカから聞けばいいんだ」と話している。
なんでパパムイを挟んだ?
さっぱりわからない。
僕が首を傾げていると、ウウダギが寄ってきて、ツンツンしてきた。
顔を向けると、こう言う。
「昨日、ギギリカ、ギュギュパニ見捨てた。悔しい」
ふむ。
なんだか、しこりが出てるのか。
わかった。
「ギュギュパニとギギリカこっちに来て」
二匹を呼ぶ。
ギュギュパニは「なんで呼んだんだい?」とでもいいたげな顔。
ギギリカは申し訳無さそうな顔をしている。
「さて、ギュギュパニ。身体の調子は?」
「う〜ん。まだ本調子じゃない。というか動けるように成っただけだねぇ」
「そうか。ではギギリカ。昨日はギュギュパニを見捨てるような行動をとった事で悔いてるんだって?」
「・・・」
ギギリカが無言で俯いている。
それに対して、ギュギュパニが声をかけ始める。
「なんだい?ギギリカ。そんなことで沈んでるのかい?あたしゃ無事だよ。気にしないでほしいねぇ。」
「でも・・・パパムイをかばって・・・ギギリカをみすてちゃったし・・・」
「むしろ動けなかったパパムイをかばってくれて助かったよ。礼こそすれ、ギギリカを貶めるようなことはないよ。」
「でも・・・その後もギュギュパニの看病できなかったし」
「それは仕方ないことさね。あたしが動けないんじゃ、どうにもならなかっただろ?むしろお前たち二匹が仲間を連れてきてくれたことの方が何倍もたすかるよ」
「うん」
こんな調子でギュギュパニに話をさせて、ギギリカのわだかまりを解いていく。
少しは落ち込んでいたギギリカの気分も良くなっただろう。
パパムイが罠にハマってた時馬鹿笑いしてたのにギュギュパニの顔みたら一気に現実が見えちゃった感じだったのかな?
精神的なショックだったのだろう。
まぁ、幼少期にはそんなことが有ったりすると聞いたことがあるけど、
ギギリカはいままでそういう機会に巡り合ってなかったんだろうね。
「ポンピカ。少し良いですか?」
パレンケから話しかけられた。
「ん?どうしたの?」
「あのですね。ギギリカにも聞きましたが、このケルケオ倒したのって本当にポンピカなんですか?」
「あ〜。うん。二匹倒したよ。」
「やっぱり本当なんですね。・・・」
「どうしたの?」
「その戦いは壮絶なものだったのでしょうか?この現場が殊の外木々が折れていたり、石が割れていたりと酷い有様でしたから・・・。お怪我は?大丈夫だったのでしょうか?」
「僕は怪我してないよ。ウウダギがサイドワインダーで仕掛けられて尻尾噛まれたから、ついカッとなって一匹その場で殺しちゃったんだ。さっき解体してるときに皆が言ってたケルケオだよ。首が切り落とされてるやつ」
「切り落としたですか?あんなに切り口が綺麗なのは始めてみましたよ?クグナではむりでしょう?他の道具でも使ったのですか?」
「いや、素手で切り落としたよ。そのあとギュギュパニを襲ってたやつをおびき出して、そのへんでボーラとブラックジャックをつかって頭を潰したけどね。こっちは武器つかっちゃったからねw」
「・・・先程素手で切ったといいましたね?」
「うん。いったよ?ついウウダギ齧られて本気出しちゃったんだw僕はまだまだ未熟者だと痛感させられたよ。すぐにテンパっちゃだめだよねwははは」
「そうですか・・・ではこの周りの荒れようは?」
「荒れよう?」
僕が周りを見渡す。
確かに木々がおられたりしてるけど、
あれはギュギュパニに拳の使い方を教えるために実践してみせただけだよ?
「荒れようって言われてもどれも僕がギュギュパニにどうやって切り落としたかを説明するために実践してみせた武術の影響だけど?」
「やはり、そうでしたか。わかりました。いえ、他意はないのです。ただ、パチャクケチャクが妙に怯えてまして」
なるほど、もしかしたら他にも凶悪な生き物が居るかもと思ったのか。
うんうん。
パレンケは仲間思いでイイヤツだ。
「そうか。パチャクケチャクには、怯えなくていいよっていっといて。この辺の動物が襲ってきたら僕が倒してあげるからね。」
「・・・ええ。そうさせてもらいます。」
パレンケがパチャクケチャクのところで、何やら話している。
パチャクケチャクの反応は戦々恐々としたようすで僕を見ていた。
逆効果だったかな?
ソリの準備もできた。
ただ、この二匹まだ目隠しされているケルケオをどうやって運ぶかが問題なんだよね。
「ねぇ。だれかいい案ない?」
唐突に僕がそんな事を言うものだから帰りの準備をしている皆が僕の方を首を傾げて見ている。
「いや、この雌のケルケオをこのままにはして置けないでしょ?」
その事にギュギュパニが、たしかにと言うように頷く。
続いて、パパムイがならといいながら、雌ケルケオの顔を覆っていた葉っぱを取って、
ビックリするような事をいい始めた。
「ポンピカ。乗ってけよ」
「はぁ?」
「なに間抜けな顔してるんだ。どうせなら乗ってけばいいだろ?ここで手放したくないならだけどな」
「でも、卵は?」
「卵は纏めて、ケルケオに積んでおけばいいだろ?」
なるほど。
「でも、二匹いるよ?」
「じゃぁ、もう一匹にはギュギュパニが乗ればいいだろ?疲れねーんだから」
パパムイ頭いいじゃん。
そうしよう。
あとはケルケオ達がどう思うかだけど・・・。
ケルケオの前に立って、一匹の目隠しを外す。
外した後も「なに?」とでもいいたげに首を傾げている。
警戒心がゼロだ。
どういう事だ?
後ろの方からギュギュパニが話しかけてきた。
「ポンピカ。ケルケオはあんたを群れの頭だと学んだんだよ。だから抵抗はしないとおもうよ」
そうか。やっぱりボスに成りました。
「じゃぁ、ケルケオに乗る方法しらない?」
「そんなもんまたがるしかないだろう。」
と、いって僕の脇に手を入れるとそのままケルケオの背中へと運ぶ。
ケルケオはケルケオで、乗られるのに慣れていないだろうに・・・。
でもギュギュパニの言っていることは本当なのかもしれない。
抵抗なしで背に乗せてくれた。
・・・で?
乗ったけど、これからどうすればいいの?
手綱なんて無いしなぁ。
操縦ハンドルが無いのにどうやって命令をすればいいんだろう?
「ポンピカ。そのまま股に力を入れてご覧」
言われる通りまたに力を入れる。
すると、「クエッ!」っと一鳴きして、スクッと立ち上がった。
乗ってます。
でも勝手に移動しそうで不安この上ない。
「前にすすむにゃ。首の付け根を撫でればいい。泊まるにゃその付け根を叩けばいいよ」
なるほど。
でもギュギュパニ。進むと止まれしか命令無いのか?
方向を指示できないの?
「右に行きたきゃ右側の腹を叩きな、左なら左の腹だよ」
なるほど、それならできそうだ。
ってかそういう訓練してない個体でもそう出来るものなの?
まぁやってみよう。
「おし!行くぞ!前進!」
首の根っこを擦る。
すると、少しずつ足を前に出していき、卵を踏まないように前えと出す。
安全な場所へと進むと、首の根っこを叩いて止まらせた。
そこまで行くと、まわりから「おお〜!」という声が出る。
「流石ポンピカだな。」
「え?なにが?」
「調教してないケルケオに命令が伝わるなんてすげーことだぞ」
やっぱり調教ありきじゃねーか!
ギュギュパニ!このままだと不安で仕方ない!しかも降り方教えてもらってません!
ギュギュパニの方へと振り返るともう一匹のケルケオにまたがって、
立ち上がっているキュギュパニが居る。
なんだか誇らしげだ。
「ふふん。どんなもんだい!」
とでも言ってそうで、癪に障る。
「それじゃ皆移動始めるよ。ウウダギはポンピカの所に乗せてもらいなっ。ほかはソリ引いてくよ」
ギュギュパニが指示を出し始めた。
まぁ僕は乗るのに必死で何もできないです。
ウウダギが自力でよじ登ってきた。
僕の後ろへ陣取っている。
ウウダギも何故か誇らしげだ。
「へへ〜ん。ここは僕の席だからねっ!」
とでも言ってそうだ。
その間もケルケオは抵抗しない。
なんだろう?すごい警戒心のない。
野生の動物だよね?大丈夫なのか?
ギュギュパニの指示で皆支度を終える。
ケルケオの卵はそれぞれケルケオの首の辺に葉っぱで作った袋に納められて括り付けられた。
ケルケオも心なしか安心している様子。
さて、あとは戻るだけ。
だけどはじめての騎乗なわけで不安しか無い。
歩き始める。
ゆっくりと歩かないとケルケオのが早いらしく、徒歩の皆は着いてこれない。
なので、ゆっくりと歩けるようにケルケオの首の辺りをゆっくりと撫でてみた。
そのかいが有ってか、ケルケオはゆっくりと歩き始める。
乗ってて気づいたのだけど、
どうやらケルケオっていう生き物は首が自由に動かないと落ち着かないらしいんだ。
馬やなんかのように轡をして操作するわけにいかないということがわかった。
乗っている最中にギュギュパニの方を見ると、乗り慣れているのか、
色々と独自の操作を繰り出している。
随分楽しそうだ。
昨日死にそうだったはずなのになぁ。
集落まで、なんの問題もなく戻ることができたが、時間はかかった。
もう夜である。
とっぷりと日が暮れて、辺りは集落の中央にたかれている焚き火呑みが光っていた。
焚き火の前には決まって族長が陣取っている。
なんでだろう?
雰囲気的には映画とかで出てくるネイティブ・アメリカンとかの族長風な趣に感じる。
「戻ってきたか。何とか成ったようだな」
「族長予定が色々変わってごめん。」
「無事ならいい。それよりギュギュパニは大丈夫か?ケルケオに乗っている所を見ると無事そうだが」
「どうかな?傷口は縫ったけど、ちゃんと治る前に糸を切って抜かなきゃいけないんだ。様子見ながらだよ。明日くらいはちゃんと休養してもらわないとダメだと思う」
「・・・縫うか・・・まぁよかろう。して、成果はその二匹か?」
「いや、肉としてなら後ろにイイオオ達が運んでるよ。」
「・・・ふむ。随分収穫があったようじゃな。」
「まぁ、結構ヤバイ展開もあったけどね。何とか成ったよ。」
「そうか・・・。まぁ皆無事で帰ってきてくれたのだ。食事を済ませて身体を休めることだ」
「そうさせてもらう。」
族長から一言二言苦言がでそうだったけど、
後ろに居る皆がげっそりするほど疲れてそうだったので、
さっさと休息を取れという運びになった。
連れてきたケルケオは集落から少し離れた場所、
避難所の近くの木々に縄でつなごうとしたら、
思いの外抵抗にあい思案している間にウウダギが眠り始めてしまったので、
仕方なく先にウウダギをハンモックへと運ぶとその際、ケルケオが僕の後ろを着いてくる。
もしや?と思ったので、僕のハンモックの下に卵を並べると、
なんの抵抗もなくそこへと陣取ったのだ。
首ヘの縄をして逃げるのを防ぐと言うやり方もあったけど、
今の状態からすれば、まず逃げないだろう。
このケルケオ達は僕がボスと成るので、
恐らくボスから離れないと言う選択をしたに過ぎないのだろうと思った。
つまりボスから離れないわけだ・・・これは困ったなぁ。
僕がつきっきりで居なきゃいけなく成る。
うぅ〜ん。
まぁ、続きは明日にでも考えよう。
皆もう疲れてそれどころじゃない。
ギュギュパニもあんなにハシャイでいたけど、
結局は病み上がりの上、疲労したのですぐにダウンしてしまった。
まぁ、ギュギュパニの容態も明日診よう。
僕は寝ているウウダギをお腹に乗せて、
仰向けで星を眺めている内に眠りについた。