集落への帰還と新しい糧
翌朝、随分と水かさが減っていた。
だけど、まだ僕が水に入っても足が届かない程度有る。
なので、そのまま進むことにした。
途中、スコールを避けるために木に船を巻きつけて、木の上で休憩タイムを取る。
もうすぐ集落だ。
今登っている木の天辺から集落が遠くに見えてきている。
目は良い方なので、集落の現状がなんとなくわかった。
既に皆は集会場へ集まって暮らしているみたいだ。
一際大きい集会場のドアはしまったままだし、外には誰もでていない。
まぁ、こんな洪水状態の中外にでてるのは僕位なわけだ。
取り敢えずスコールがやんだし、此のまま進もう。
でも木の実や、食べ物になるようなものが取れなくなっている。
たぶん集落の皆が急いで収穫してしまったので、この辺から食べ物が無いのだろう。
困ったなぁ・・・
まぁ、一日位ご飯を抜いても大丈夫だとは思う。
先に進もう。
集落に近づくにつれて、水かさが下がってきた。
それでも僕が入ってもまだ胸より下なわけだけど。
集落の入り口に着いた。
何時もの入り口。
木の枝や丸太なんかで、柵が集落の周囲を覆っている。
その北側と南側に門と言っていい作りの出入り口があるんだけど、
今、僕は北口にいる。
門はしっかりと閉まっている。
そして、門のところには流木のように流れ着いた枝や木々が折り重なって開けるのは無理そうだ。
たしか、一年前の様子を思い出すと、雨季が過ぎて集会場から解放されて一番初めにやるのが、たしか集落総出での集落周りの清掃だ。
確かにここまで積み重なった漂流物はそこそこ量があるし、そう簡単に排除出来ないだろう。
でも、今はとてもありがたい。
何故かと言うと、積み重なった漂流物のお陰で、柵を登れそうだからだ。
幸い僕の船は非常に軽い。ぶっちゃけこの大きさだと一匹では運べない大きさなんだけど、
折りたたみもできちゃう。
だから僕は急いで集落へと入るため漂流物の足場のところへと登り、船を丸めて一抱えにした。
葉っぱ5枚と木の棒数本だからな・・・。
思ったよりも携帯性が高い上に船としての機能はそこそこだ。
カヌーとしてみればなかなかじゃないか?
ちょっと自画自賛したい。
そんな思いを抱きつつ集落の中へと目を向けると、
案の定、水浸し。
いくら柵をしていても隙間には水が入るそして漂流物は柵の外。
漂流物の無い溜池みたいな状態になっている。
そして、其の中で凄い光景をみた。
魚の影がちらほらしている。
魚、漂流物が無いからよく見えるだけかもしれない。
もしかしたら外には魚が多いのかも・・・
食べ物がある。
僕はそう思った。
取り敢えず、魚は後にして、皆の元へと向かいたい。
折りたたんだ船をすぐに集落の中で展開。
そして、そのまま船に乗り、集会場へと向かう。
航海を阻む物が無いのが心地良い。
なんか楽しいな。
集会場へ着いた。
集会場の場所まで来る間に集落の様子を伺ってみたが、やはり殆どの家は浸水または、水没している状態だった。
こんな事をずっと続けてきたのかな?と、僕は改めて未開の文明なんだと実感したわけだけ。
あ〜、なんか前世の知識を利用して色々とやっちゃうのもいいかもなー?
でもなー、ここの文明って、鉄を使わないんだ。
作りたい物とかって鉄や硬い金属が無いとほとんど作れないんだけど。
なんとかできないかな?
それにスキクは、火を嫌う。
そう、食事にしても生で食べるのが一般だと、前にも言ったけど、集落全員がそうなんだ。
そしてその理由ってのが、ホント火を怖がる。
僕は前世の記憶があり、感情なんかも少しは残ってるから火を怖がりはしないんだけど。
パパムイやギギリカの火に対する怖がり様は、僕が見ていてビックリするくらいな物だ。
火を怖がる事が無い様に皆を説得できればいいんだけど。
そうすれば、色々と作れるものやいろんな事がドンドンできてくるはずなんだ。
やっぱり、火が必要だよね〜?
どーしたもんかな・・・
取り敢えず、皆に挨拶でもしておこう。
僕が集会場の側に船をつけて、漕ぐ棒を錨代わりに置き、集会場のドアを叩く。
バンバン!
結構な力で叩いた。
中でザワザワとする様子が聞き取れる。
そして、すかさず、中から声が聞こえた。
「だれだっ!何者だっ!」
「えっとポンピカです。ドア開けてもらえませんか?」
「なにっ!ポンピカ!?本当にポンピカか?どうやってここまで来た!」
「えっと、水に船を浮かべてきましたよ?」
「船?何だそれは?」
「まぁいいじゃないですか。ドアを少し開けて確認してください。」
「・・・ちょっと待ってろ、族長に話をしてくる。」
うむ〜。
遠回しなかんじだなぁー。
少し待つと、ドアの向こうで知らないスキクの声とギギリカとパパムイの声が聞こえる。
何か言い争っている感じがする。
そこへ、族長の声が一喝を入れた。
ふむ・・・どうやらドアが開くようだ。
ギィィ。
鈍い音と共に顔を出したのはパパムイ。
目が合った。
取り敢えず、「よっ!」ってかんじで挨拶したら目を大きく開けて引っ込んだ。
そして、また中で言い争いが・・・と思ったらドアがバーンと大きく開く。
「ポンピカ!生きてたのね!」
ギギリカだった。
まぁ此の通り生きてますよ。
ただ、昨日から少しお腹がへってるからなんとかしたいんだけど。
「ほほぅ・・・本当に生きていたのか。凄い事だ。」
族長もなにやら不思議な物でも見た!みたいな顔でこっちを好奇心に満ちた瞳を向ける。
「ほらっ!だからいったじゃん!ポンピカだって!」
パパムイは・・・まぁいいか。そりゃ顔合わせたからな。
「お前!本当にポンピカなのかっ!死んで化けて出たんじゃないのか!?」
コイツ誰だっけ?
今一、把握できない。
スキクの顔は皆ほとんど同じにしか見えないし、何時もいるギギリカやパパムイなら表情まで分かる。
だけど、族長も若干わかるんだけど、他のスキクはさっぱりとわからない。
そもそも、区別できない。
多分前世が人間だから美的感覚というかなんだろう?そもそも理解できないのかもしれない。
ふむぅ〜誰だっけ?
取り敢えず、いいや。
これまでの話しを一通り族長にしておこう。
「えっとですね。族長いいですか?」
「うむ。話してみろ」
「この船っていうやつを作って、水浸しの中を渡って来ただけですから」
「ほう、それが船という物か」
「ええ、小さいけど、これくらいなら僕一人で湖位は移動できますね。」
「ほほぅ!湖か!ふむ・・・なかなかどうして・・・」
「族長!こんな禍々しい物を作ると言うことは、やはりポンピカは邪霊です!直ちに集落から追放しなければ!」
「お前は黙っておれっ!」
おー。おこられてやんの。
さっきと違った知らないスキクだな・・・
「もう!ポンピカ!心配したんだよっ!」
「ギギリカごめん。でも”問題”解決のために出ていったんだけど、途中でスコールが来そうだったから引き返してきたんだ。失念してた。」
「そう・・・でも無事でよかったわ」
「ホントに無事でよかった。」
「ポンピカ!お前そのヘンテコな奴なんだ?」
「パパムイ聞いてなかったの?”船”っていう物らしいよ」
「”船”?ふ〜ん。それって、ポンピカが作ったのか?」
「どうなの?ポンピカ」
「うん。作ったよ。デカイ葉っぱを五枚位使ってるけどね。」
「ふむ、ポンピカよ。腹は減ってないか?」
「族長、それが、昨日からここまでの間にあるはずだった木の実が全く見つかんなくて、食べてないんです。」
「そうか。では一度こっちに来い。飯を食わせる。」
「族長!ポンピカの分なんて収穫してないぞ!」
「まぁ、一食分くらいはなんとか成るだろう?」
「そ、そうですが・・・」
「では何か?命を繋いで戻ってきた同族を無碍に放り出すか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「うむ、では異存はあるまい。」
「はい・・・」
あちゃー。メチャクチャ睨まれてる。
こりゃ、この集落から追い出される可能性を考慮しないとイケないかもな。
ふぅー。こんな事で、こんな事態になるなら戻らないで過ごせばよかった。
まぁ、族長にはそんな話を二匹の時にしてみようと思います。
「ほら!早く入りなさいよ!」
「あ、はい。」
ギギリカが差し出した手に捕まり、少し段差があるけどそれでも集会場の中へと入ることが出来た。
集会場の中はと言うと、薄暗くジメジメしていて、風通しが悪い。
非常に居心地が良い。
湿気がとても心地よいのだ。
やっぱり、僕はスキクなんだなぁと思う瞬間である。
室内にいるスキク達はというと、仲が良い同士で固まっていたりしている。
中には、今年生まれたばかりのスキクたちもいるようだ。
僕の年下の家族ってことに成るんだけど、一年後には僕と同じ位に成長するはず。
スキクというのは、前に話したとおり、生まれてから一年位で大人に成る。
各集落へと運ばれてから数日で目が開き、其の頃には既に二本足で立って動き始めるんだ。
今いる弟妹達はもう自分で歩ける位には成っている。
自分で立てる頃に成ると、集落の年長の者が親代わりとなって、餌付けとは言わないが、飯をもらえるように成る。
そうこうしていると体がそこそこ大きくなる。大体一ヶ月くらいかな?其の頃から仕事の手伝いが始まる。手伝いと共に言葉を覚えていく。
中には、呪術師なんかの勉強ってことで、草を摘んだり、なにか石の様な物をすりつぶしたりと様々な事をするスキクもいる。
僕は、狩りが得意な感じに思われたのか、狩りがメインだった。
僕の場合は、ちょっと特殊だったのは事実だ。
親代わりをしてくれたのが、実は族長なんだ。
だけど、族長が直接接してくれるわけではない。
もう歳なので、狩りを教えるにしてもそんな動きなんか出来ないからだ。
狩りを教えてくれたのは、側近のスキクだった。
このスキクはかなりの腕前だったと思うが、どうも頭が足りない。
まぁ、こうやれ!あれやれ!と言われたとおりにやってたからなんとも無かったが。
このスキクは数カ月前に大物を狩りに行くと言ったっきり帰ってこない。
恐らくもうこの世にはいないだろう。
幼少のスキクは非常に頭がいいと僕は思う。
だって、目が開いて一ヶ月ほどで、喋りだすわ、見様見真似で手伝いもし始める。
教えたことは一語一句覚えていたりするんだ。
半年もすると、その成長に陰りが出てくる。
其の先は、もう惰性になってしまうのかもしれないが、緩やかな成長に見える。
回りくどくなったけど、今僕の周りには、小さいスキクがワラワラと集まっている。
どうやら、僕がどうやって水を渡ってきたのか、と言う事に興味津々なようだ。
そんな中、族長が僕の隣に座り、族長までも話を聞きたいと言い始めた。
仕方ないので、正直に”問題”を解決するべく目的の場所まで、向かったが、途中で引き返してきた内容を話し、そして、雨を凌ぐ為に葉っぱを利用、それから閃いたのが”船”であり、これを作って、ここまで戻ってきたんだよ。という話をした。
「ほう、なるほどのう。それは面白い。ふむふむ」
「ねぇねぇ!船みせて!」
「みせてよー!」
などと、ちっこいのがせがんで来る。
どうしようかと悩んでいると、ギギリカが飯を持ってきた。
「ポンピカ、一食だけどごめんね。」
「構わないよ。此の後また外にでて、食べ物獲ってくる」
「えっ?雨の時は食べ物なんて獲れないでしょ?」
「そうかな?多分獲れるよ」
「えぇ・・・族長そうなんですか?」
「ふむ、ワシは其のような事はわからん。だが、ワシより以前の族長の話しでは、似たようなことをするスキクが居たという話を聞いたことはある。」
「へぇー。じゃぁポンピカは昔のスキクみたいな奴って事なのかしら?」
「ふむ、そうだな。恐らく長いスキクの歴史の中に度々でてくる”変わり種”だろう。」
”変わり種”
ほう、初めて聞いた。
と言うよりも、僕以外にも普通のスキクと違う事をする奴がいたんだな。
「じゃが、もし、ポンピカが言うように雨の時期に狩猟が出来るならば、この集落はより安定して、食べ物に困らないだろう」
「それ凄い!ポンピカ!凄いよ!」
「あ、ああ、そうだね。凄いね。」
「何よ!そんな返事じゃ気が抜けちゃうじゃない!」
「まぁまぁ、ギギリカ落ち着けよ。ポンピカだって今帰ってきたばっかりだろ?」
「そうだけど・・・」
「パパムイごめんね。」
「気にするなよ。それより、雨の時に狩猟ができるって話、俺も噛ませてくれないか?」
おお、なかなか雄な発言のパパムイ。
僕はパパムイのこう言うところが好きなんだ。
「構わないよ。じゃぁ、ご飯食べたらすぐに道具なんかを作ろう。すぐ出来ると思うから」
「おう!いいぜっ!」
「ふん!ポンピカ!お前が”問題”をどんだけ解決しているか知ってるが、ウソはダメダ!」
あちゃー。ここで絡んでくるのかぁ・・・誰だよ・・・困ったなぁ
「ウルグズよ。やっても無い事にとやかく言うな。ワシは許可をだす。お前は、お前が出来ることをしてればいい」
「ぐっ!・・・」
集会場の奥へと引っ込むウルグズと言われるスキク。
多分僕よりも数年先に生まれた奴だろう。
パパムイの狩りに同行した時、何度か見たはず。
いままで名前さえ知らなかったけど、なんで僕に突っかかるんだろう?
それでも、事を荒立てる事はしたくないしなぁ・・・
今、此の場で族長にそんな話しても仕方ないし、
仕方ない、ほっておこう。
僕は素早くご飯を、と言っても出されたのは、木の実が5粒
この量は平均的な雨季を過ごすスキクの食事量としては、多い方なんだ。
そう、雨季の間に備蓄している食料が尽きると集落全体に危険が及ぶ。
なので、最低限の量は3粒位で、それ以上は贅沢なんだ。
ギギリカが気を効かせてくれたんだろう。
ありがたい事だ。
それに、雨季でも食料がとれるならば、きっと雨季にでてしまう餓死も少なくなる。
どうしても生まれたばかりのスキクには、栄養が必要で、3粒じゃ足りないんだ。
大人は体に備蓄が備わっているので、少し少なくても自分の脂肪で賄える。
やはり、子供が死ぬのは辛い。
餓死を側で見守ることしか出来ないのは、それはもう苦行だろう。
それを克服出来るかもしれないと僕は言ってのけたんだ。
やるしか無いだろう。
もしかしたらウルグズは自分の子供、親役を引き受けたスキクが餓死してしまったのかもしれない。
毎年少なからず、何匹か死ぬから・・・そう考えるとちょっと可哀想に思える。
まぁいいや、取り敢えず釣り竿でも作るか。
幸いここまで来る間に集落の水没している場所に魚の影が沢山見えたわけだし、餌も木の実でもすりつぶすか虫でも吊るせばなんとか成るだろう。
ただ、針の部分だが、どうするかな?
「ポンピカ、それでどんな方法で何を獲るんだ?」
「ん〜?そうだなー・・・パパムイ。もう一回ドア開けてくれるかい?」
「?ああ、構わないけど」
ギィィ
パパムイは、集会場のドアを開ける。
外はもう日が陰りはじめている。
「こんな感じか?」
「うん。じゃぁ、ここから水の中を見てごらん」
僕はパパムイをドアの側まで呼びつけましたのドアの真下辺りの少し影を作っている場所を指差す。
そこには、さっきから魚の影がユラユラとしているんだ。
「・・・ん?”ブブ”か?」
「そう、”ブブ”」
ブブっていうのは、魚の総称の事。
「”ブブ”かぁ・・・ジズビなんてこの集落には無いぞ?」
ジズビとは、細長い棒の先に返しがついた槍の事。
つまり銛の事だ。
「ジズビを使わないで獲る方法を思いついたんだよ」
「ええ!どうやってだよ?」
「へへーん。釣りっていう手法だよ」
「釣り?なんだそれ」
「簡単に説明すると、長い棒の先に細い糸を垂らして、糸の先に返しが付いた針を仕掛けるんだ。そしてその針の先に小さな虫とかを付けておびき寄せるんだよ。」
「?ごめん。俺には理解出来ない」
「まぁ、試しにやってみよう!」
「お、おう!」
「其の前に、釣りに使う道具を作らないとダメなんだ。一緒に作ってくれる?」
「かまわねーぞ?」
「ねぇねぇ。その物作りって、あたしもやっていいの?」
「ギギリカは手先が器用だからむしろお願いしたい」
「じゃぁ、教えて。作るから」
「うん!じゃぁ早速作ろう!」
こうして、僕が蔓皮から糸を作る。
パパムイは、僕の指示で細くてしなる枝を見つける。
ギギリカは硬い木から小さい針を作る。
こうして、分担したお陰で、随分と早く作ることが出来た。
第一号の釣り竿。
「じゃぁ、早速備蓄の中にある小さな虫を一匹貰うけどいいかな?」
「構いやしねーだろ?小さいのなら誰も食わないし」
パパムイはそういって、集会場の奥にある備蓄庫から小さくて食べるには値しない虫を持ってくる。
この虫、どう見ても腐った物に湧く、ウジだ。
幸い、ウジはお魚の好物と相場が決まっている。
「じゃぁ、その虫貰うね。」
「ああ、だけど、本当にこんなので穫れるのか?」
「まぁ、見ててよ。気が長くないと出来ない事だからね」
「へー。」
僕は、ギギリカの作った針にウジをつけて、水面にポチョンと投げた。
普通、魚が警戒して逃げるものだけど、釣りという行為がどうやら無い地域なのが幸いしたのだろう。
すぐに魚が飛びついてきた。
結構重い!
そして、引っ張る力が強い!
「ぐぎぎぎぎ!だ、誰か!手を貸して!」
「おう!待ってました!」
パパムイが脇から竿に手を置きグイッと引っ張る。
その力強さにビックリした。
スキクってのは非力だけどその種族内でここまで、個体差があるなんてしらなかった。
パパムイの助けがあって、なんとか魚を釣り上げることに成功した。
いま僕の前では、ビチビチとはねる魚がいます。
でも、変わった魚に見える。
何ていうか、アマゾンとかにいるような?
ピラニアに似てるけど、大きさはもっと大きい。
具体的に言うと体長が大体僕の胸くらいまである。
デカイんじゃないかな?
「おおお!凄いぞ!ポンピカ!ブブだ!ブブ!オイ見てみろ!ブブが獲れたぞ!」
パパムイが嬉々として魚を皆に見せる。
すると、集落の奥で僕らの事を訝しんでいた年長者が、何だ何だ?というかんじで、近寄ってきた。
「ふむ、たしかに獲れたな・・・こりゃ凄い。そうは思わんか?ウルグズ」
「・・・たまたまだろ」
「ウルグズはこう言っている。ポンピカよどうだ?まだ獲れそうか?」
「やってみます。」
そう言ってまた、ウジを付けて放り投げる。
今度も放り投げてすぐにヒットした。
でも、糸が切れてしまった。
「ほら、やっぱりまぐれなんだ。」
ウルグズはそらみたことかと言わんばかりに睨みつけてきた。
僕は別にそんな目で見られても怒りはしないよ。
「ポンピカ!糸が!」
「気にしないでいいさ、糸は一杯作ってあるし、ギギリカも針を何個も作ってくれてる。」
「そうか!じゃぁ、次は俺がやっていいか?」
パパムイは空気をあまり読まない。
と言うか、読めない体質だ。
頭が弱いのが幸いしてるんだろうけど、まぁ、今回は助けられているから微笑んでおこう。
そして、また第二号の釣り竿ができたので、パパムイの第一投。
コレまた、すぐにヒットした。
パパムイは勢い良くグイッっと引っ張る。
するとバツンという音を立てて糸が切れる。
「あちゃ〜。何だこれ、弱いんだな?」
「そりゃそうだよ。糸だし」
「ふーん・・・わかったぜ。次は必ず獲ってやる!」
ハマったな。
釣りは魚との勝負と聞く。
僕はそんな趣味は無いけど、前世では釣りの愛好家が意外に多かった。
パパムイは、一度やった作業だといって、すぐに糸を新調して、針をくくりつけた。
針の先にウジを取り付けるのも成れてきた。
第二投目
コレまた、すぐに食いつく。
しかし、パパムイはすごく辛抱強く、魚が体力を消耗するまで、泳がせることに集中した。
いきなりグイッとはしなかった。
こういう所が本当にセンスがある。
パパムイが狩りの上段者であるのは、
一度の失敗で次からその失敗を繰り返さないという点にある。
状況が変わってもそれに対応する柔軟性もある。
そうこうしていると、魚の勢いが少し落ち着いてきた。
パパムイはその隙きを見逃さなかった。
そして、見事に同じ魚を釣り上げることに成功したんだ。
「ウルグズ見てみろ!偶然じゃなかったぞ!俺にも出来た!」
「ぐっ!」
パパムイが、何を必死にやっていたかわかったよ。
パパムイなりに僕が変な目で見られている事に気がついていたんだ。
やはりパパムイはいい雄だ。
「ほうほう。なるほど。コレならば食料に困ることはなさそうだな」
「族長!俺も出来たんだ!皆だってできるさっ!」
「パパムイよ。でかした!そしてポンピカよ。集落の為によくぞ新しい糧をもたらした!誇りに思うぞ」
「ありがとうございます。」
「へへーん!」
「族長!あたしは?」
「ギギリカよ。この細工、実に出来が良い!誇りに思うぞ」
「ありがとー!」
こうして、雨季の食料問題の一部が解決された。
この雨季の時期に餓死する小さなスキクが出ない事を祈る。
だけど、ウルグズの目がなぁ〜。
ありゃー相当恨まれてるな僕。
其の日は、魚が大量に獲れたため、
皆に振る舞う事で僕が居ても良いという話しに落ち着いた。
そのまま僕は、集会場で寝ることが出来た。