スキク嘘付かないと、あっけなさすぎ
連投稿です。
僕がそんな事を考えている瞬間いち早く動いたのは、ギュギュパニだ。
手に持った棒をトリケラ頭へと投げつけた。
ビュンと言ういい音と共に棒は見事にンダンダを掴んでいる手にヒット。
痛かったのだろう。
唸りを上げながらンダンダから手を放す。
そして、此方を一睨みすると踵を返し、走り始めた。
「あああ!あいつ逃げるぞ!」
パパムイが叫ぶ。
「ポンピカどうしよう!此のままじゃ逃げちゃう!」
ギギリカが泣き出す。
「ポンピカ。これ」
ウウダギがおもむろにボーラを僕に渡す。
なんだかんだ言って一番頭が回る子である。
僕はウウダギからボーラを受け取り、四手の縄の一本を掴み。
くるくると回し始める。
ヒュンヒュンと言う良い音と共に遠心力が十分に乗り始めたので、
そのままトリケラ頭の足へ目掛けて投げつけた。
思いの外、勢いが付いたのか、四手のボーラがつなぎ目を中心に円盤状に回転し、
トリケラ頭の足へとヒット。
その後遠心力が乗ったボールが、
逃げ場をなくした力を別の方向へと変えていく。
ものの見事にトリケラ頭の足をボーラが捕らえ。
絡みつく。
すると出すはずだった足が前に出せない状態に成り、
トリケラ頭は前のめりに顔から地面へズダーンと倒れ込んでしまう。
「ポンピカ。使い方?」
ウウダギが冷静にそう聞き返すので、
つられて僕も答える。
「うん。いい感じでしょ。」
そのやり取りを見ていた族長が何やらため息を付いた。
ギュギュパニが頭を抱え、どうしたものかと悩む。
パパムイは「すげー!アレ俺もやりたい!」といい。
ギギリカは泣き止んだ。
「ってことで、アレどうします?族長」
「まぁ、もう一度縛り上げて、事情を聞こう。それしかないだろう」
「ふーん。別に僕はやっちゃってもいいけど?」
「お前はすぐに殺しすぎだ。せっかく頭が良いのにどうしてこんな時だけ短絡的なんだ、全く」
といって、ため息を付いた。
この騒動はすぐに収束した。
トリケラ頭を縛り上げ、ギュギュパニの力でねじり上げながら僕らの前へ突き出される。
「で?なんで逃げたんだ?まぁ逃げる気持ちもわからなくないけどさ?」
「ぐぐぐぐ!くそっ!こんなに蔑まれたのは初めてだ・・・くそっ!不意さえ突かれなければお前などに負けるはずはなかった・・・」
ここに来てまだ、状況を理解してないよ?と族長に顔を向ける。
族長も本当に悩んでいる。
どんな点に悩んでいるかはわからないけど、
何方にしてもそろそろ決着付けないと後続が続く可能性もある。
決断のときですよ?族長。
「まぁ、良かろう。」
なにが良いのかわかりません。
「クロゥよ。お前はどうして、此のような暴挙に出たのだ?お前らの主である第四のプンタ”ゴエディ・グァ・ゲオ”の指図なのか?」
第四の方のザウスなんですね?
初めて知りました。
まぁ関係ないけどね。
「オイ・・・。スキク風情が気安く主の名を呼ぶな、穢れる。」
ああ、なるほど、こんな感じのザウスなんだな。
「ねぇ、ギュギュパニ。ザウスってもしかして皆こんな感じなの?なんていうか・・・その〜」
「ポンピカが言いたい事は、わかるがコイツみたいなのは多いのも事実だ。ザウスというだけで、上に立っている気分なのだろうけどね。ちなみにあたしはスキク生まれだからね。スキクを下に見るなんて事はないから安心おし」
ギュギュパニはスキク育ちというかスキクとして生まれたからね。
取り替え子だっけ?
なんでそんな事が起こったかは知らないけど、ギュギュパニは信じても良さそうだ。
「取り敢えずさ?トリケラ頭をどうするかだけど」
「ふむ・・・二度もポンピカに打ちのめされているからのう」
「俺は負けていない!不意を突かれただけだ!正式な立ち会いであれば必ず勝つ!」
ふーん。
負けも認めないのか。
随分と往生際が悪いんだね。
本当にプンタの守護してるのかな?怪しいよね。
「ねぇ、ギュギュパニ・・・」
「ポンピカ・・・皆まで言うな、分かっている。確かに往生際が悪いな。ここまで来ると流石にザウスとしての誇りも有ったものではない。・・・いいじゃないか。ポンピカ。決闘を行えば」
何言ってんのかさっぱりなんだけど?
面倒はごめんです。
一層のことどっかに捨てちゃおうよ。
どうせ、此の分なら一匹で生きていけないでしょ。
「ポンピカよ。クロゥが納得出来るならば良いがな・・・」
「族長までそんなこと言うの?・・・正直面倒なんだよ。こんなのに関わるのも時間の無駄でしょ?」
「そう言うな・・・。これも良い説得材料に成る。」
「・・・説得ねぇ・・・」
説得かぁ・・・。
多分族長は、他の集落から数を集める時にどのように話すか考えているんだろう。
嘘が言えない。嘘を付く頭がない、習慣がない種族だからね。
そんな種族だから、他所の族長が証拠の何かを持っていけば、それがどんなに荒唐無稽でも信じちゃうんだろうなぁ・・・。
ちょっと、想像するだけでも恐ろしいよ。
ほんとにさ・・・。
ってことでやらないとイケないのか・・・連戦なんだけど?
意外に僕、病み上がりなんですよ?
知ってるはずなんだけどなぁ。
まぁいいや。仕方ないだろう。
「わかったよ。族長。」
「そうか、済まないな」
「其れは良いとして、勝ち負けどうするの?何時もの降参か死亡でやる?」
「そうだなぁ・・・クロゥはどうする」
「ぐぐぐっ!話を勝手に持ち上げやがって・・・どうせ俺が勝つんだ。八つ裂きにしてやるさ」
「という事じゃ。どうだろう?」
「じゃぁ、まぁ戦えなくなるまでやっとくよ。良くて昏睡、悪くて死亡かな?そんくらいだと思う」
「ふむ。では決闘を開始しよう。二匹共獲物を持つのだ!」
族長の号令で、決闘が催される。
集落の皆が観戦する中、僕とトリケラは集落の中に結構広いスペースを設けた。
そして、相手と対峙する。
トリケラの獲物はやはり棍棒のようだ。
手元は細いが、先の方に成ると太くなっている木でできた棒。
対して、僕は、ウウダギに作ってもらったスリングを使うことにした。
「がははははは!何だ其れは!ただの紐ではないか!バカにしているのか!」
「御託はいいからさ。始めようよ。結構時間かかってるんだからさ?ホントならンダンダと薬草の事、覚えにいかなきゃいけないのに・・・ほんと、迷惑なトカゲだよ。全く」
「ぐぐぐぐ!キサマ!俺をトカゲといったな!絶対殺す!オイ!そこの老いぼれ!開始の合図だ!」
随分開始前から頭に血が昇ってるね。
まぁそう仕向けてるんだし、良い良い。
ほんと素直だこと。
「では、皆の者。試合を始める。 始めぃ!」
族長の合図がでたので、僕はスリングにはめていた石を素早くトリケラの目、目掛けて打ち出す。
スリングがどんな武器かしらないトリケラは、あっさりと高速で飛来する石を見逃した。
開始から数秒も経っていない間にトリケラは左目をやられうずくまる。
すかさず、距離を詰め、僕はウウダギに向かって尋ねる。
「ウウダギ!八卦は良い?」
その掛け声に対し、ウウダギが目をキラキラさせて「ハッケヨイ!ハッケヨイ!」とはしゃいだ。
僕はそのまま、うずくまるトリケラの額へと静かに拳を起き。
勁力を発する。
「ハッケ〜・・・ヨイッ!」
先日僕の身体は少し形を変えた。
身長が少し伸びた。
手の先に有った爪は失われて、鱗が少し残っているような痕があるだけだ。
人間の手というほど繊細にま見えないけどね。
それに一番形を変えたのが、足腰だ。
そう僕の足は今人間に近い。
犬猫の様な足ではない。
人間の足に近いんだ。
この足ならば、僕は発勁を使えるだろうと踏んでいた。
その予想は、正解だったようだ。
発勁良い。
僕が発したこの言葉だけど、
まぁ、そういう事。
勁力の発生が良いとか発気が良いっていう意味だ。
地面へ足をしっかりと起き。
大地との重心バランスを均等に保つ。
打ち出される拳へ地を踏ん張る足から伝わる力を、
関節毎に失わぬ様に波が伝わるように・・・。
中国拳法で言う、発勁と対して変わらない。
勁力ってのは力の事だ。
そして発勁とは勁を発することなんだ。
まぁ言葉に出すなら僕はアレがしっくり来るってだけで、
他の人は「イ”」とかそんな掛け声だったかな?
ただ発勁ってのは勁を発したら良いというものでもない。
腰を捻ることで得られる力の伝わる距離。
距離が長ければ、その分、遠心力の応用で勁力が増す。
なので、体の中を螺旋状に力が流れるイメージで行うのが基本なんだ。
そうすることで、実際、予想以上のパフォーマンスを発揮する。
そう発勁とはより小さな動きでより大きな力、勁力の移動を成し遂げ、
なおかつその勁力を失わぬように攻撃点へと伝えると言う技法に過ぎない。
この発勁は意外にも
多くの武術家がものにしているんだ。
ただ、クリティカルな形でそれを体現するには血の滲むような練習が必要に成る。
じいちゃんの発勁は凄かったんだ。
僕のなんちゃって発勁とは別物。
大きく太い樹木に拳を当てたまま、「イ”」と少し呼吸をするだけで、
大木の幹に砲弾でも打ち込まれたのか?ともう様なへこみが生まれるんだ。
更にその振動が伝わるのかよくわからないけど、
数秒後には木は丸裸、
若い葉までもが地面に落ちてしまったのだ。
その光景は流石に手品かと思ったけど、
じいちゃんが師範を譲った叔父さんの話じゃ。
「あれが出来ないと、師範に成れないんだよ。はっはっは」っていってた。
つまり叔父さんも出来るんだ。
困った事にそんな家族環境だったんだなぁ。
なもので、僕のなんちゃって発勁は本物ほどの威力はないけど。
まぁ頭に受けちゃったからねぇ。
・・・
・・・・・・
僕の発勁をまともに食らったトリケラは、音もなく前のめりに倒れ込んだ。
ものすごくあっけなく、試合開始数秒で決着が付いてしまった形だ。
見世物じゃないしね。
僕は辺りを見る。
シーンと静まり返るなかウウダギだけが
興奮したように「ハッケヨイ!ハッケヨイ!」とはしゃいでいた。
まぁ、このままここに立っているわけにもいかないし。
さっさと、族長やギュギュパニに確認してもらおうかな。
「族長かギュギュパニどっちでも良いから確認してほしいんだけど?ダメ?」
僕の言葉にハッ!っと覚めたようなギュギュパニが大急ぎでトリケラへ近寄る。
そして、確認。
その後、無言で首を振って僕の勝利が確定した。
その合図で、族長が決闘の終了を宣言してその場を収拾することに成った。
そして、ウウダギやパパムイ、ギギリカが待つ場所へと戻る。
「いやー。まいったよー。」
「ポンピカ!ハッケヨイ!」
「ウウダギ。八卦が良かった見たい」
「うん!」
ウウダギと話しているとパパムイとギギリカが興奮気味に話しかけてきた。
「おい!ポンピカ!あれ何やったんだよ!触っただけで倒れたぞ?」
「そうよ!何よアレ!呪術?もしかしてポンピカって呪術も使えるの?」
まぁ、原理が分かってないんだ仕方ないだろう。
「呪術じゃないよ。僕は呪術なんて知らないからね」
「そうなのか?じゃぁアレはどうやってやったんだよ!」
「そうよ!呪術しか考えられないじゃない!」
「まぁ、説明してもすぐに真似できるたぐいのものじゃないからね。それに何時も朝やってる体操の延長だからそのうちパパムイもギギリカも使えると思うよ」
「ま、マジかよ・・・あれ、タイソウだったのか・・・」
「えっ・・ウソ?あれがタイソウだったの?」
「そうそう。体操の延長かな」
「じゃぁ、そのうち俺もできるのか?」
「あたしも出来るのよね?」
「二匹共、体操を覚えたからね。ちゃんと真剣にやってれば必ず出来るように成るよ。時間はかかるけどね。」
「そうか・・・ハッケヨイだったっけ?」
「そうよ!ハッケヨイだわ!」
「ハッケヨイ!ハッケヨイ!」
ウウダギが大はしゃぎだ。
よほど嬉しんだろう。
まぁ、ウウダギを怖がらせた罪は償ってもらったしね。
それに何度も挑戦されるのは、こっちの身がもたない。
だからここでしとめました。
なにはともあれ、事件解決だ。
後始末は、族長とギュギュパニに任せよっと。
結構時間食っちゃったかな?
ンダンダは時間、空いてるかな?
う〜ん。
薬草見つけに行きたかったんだけどなぁ。
どうしたものかと考えているとギュギュパニがトリケラの死体がある場所から僕の方へと歩いてくる。
メチャメチャ怖い顔してる気がする。