状況確認と気功
「パパムイ。他の皆は?族長とかギュギュパニは?無事かな」
「ん?ああ、無事だぜ、ただ、集会場の後始末がなぁ・・・ちょっとキツイなぁ」
「・・・あたしも中は見てないけど、遠くから臭うからね。きっと酷い事に成ってるわ」
そりゃそうか、最後に見た時、相当キツイ光景だったしな。
その後始末は誰がやるんだろ?
ギュギュパニ?それとも族長?
族長一匹じゃむりだ、ギュギュパニが加わっても随分かかるだろうし・・・。
僕だったら、早々に焼いてしまうけどね。
其の方が手っ取り早いし、成仏してくれそうだ。
火葬っていう習慣がないからなぁ・・・。
火葬の習慣を付けてもらいたいんだ。
病原菌が発生したら尚更マズイだろう。
「その集会場だけど・・・」
「年配のスキクがやってるわ。若いスキクには刺激が強いっていって、手伝わさせてもらえないのよ。」
「ああ、俺達は、狩りしかやることがない。まぁ、好きだから良いけどな」
なるほど、族長も随分気を使うんだな、
まぁ、そうすると、若いっていうのはここに居るスキクだけか。
・・・ん?あれ?デデンゴは?
デデンゴは何してるんだ?
「なぁ、デデンゴは?どうしてるんだろう」
「デデンゴかぁ・・・」
「デデンゴねぇ・・・」
どうしたんだろう?
なんか問題でも有るのか?
「そう言えば、デデンゴの親は?やっぱり・・・」
「そうなんだ。だから親がいないんだ。」
「いまは族長が面倒見てるわ」
そうか・・・やっぱりなぁ。
大ぐらいだって話だし、
ちゃんとご飯たべてるだろうか?
ふむぅ。可愛そうだけど、仕方ないだろう。
僕が引き取るわけにもいかないし、
なんだかんだ言って、ウウダギだったから良かったけど、
もし素直なスキクじゃなきゃ手がかかるだろう。
そうなると僕がやりたい事ができなくなる。
それは困る。
そう考えると、ウウダギで良かったよ。
いまは少し甘えてるけど、そのうち離れるだろうしな。
そう思ってウウダギを撫でる。
可愛い。
久しぶりに撫でたなぁ。
ってかお腹もイッパイだわ。
「そう言えば、ウウダギはデデンゴの事しってるの?」
「ん?デデンゴ。ご飯イッパイ」
それしかわかんないの?
どんなスキクなんだろ?
「どんなスキクなの?」
「ん?食いしん坊」
まんまかw
まぁ、そのくらいしかわかんないかぁ。
まぁ良いだろう族長がみてるなら取り敢えず大丈夫だろうし。
さて、体がまだ今一鈍い、
少し寝ようかな?
「皆、ちょっと寝るよ。ちゃんと回復したいし」
「おう。そうだな。でもちゃんと起きろよ?」
「そうよ。ポンピカ本当に死んだみたいだったんだからね」
「一緒。寝る」
ウウダギは一緒に寝てくれるっぽい。
嬉しい。さてさて、回復するまで、どんくらいかかるかな?
ちゃんと動けるように成ってからやりたいことが沢山有るんだ。
それにギュギュパニと族長とも話さなきゃイケなさそうだしね。
まぁいいや。眠い。
こうして、起きて直ぐだったけど、また其の日は睡眠に付いた。
翌朝、というか起きたら翌朝だった。
本当に十分寝た。若干寝すぎて頭が痛い。
体の方は随分動けそうだ。
スキクの体って凄いな。
あんなに消耗しててもすぐに戻るんだ。
此の分なら、一週間位で元通りかな?
ウウダギはまだ寝てる。
僕にずっとひっついてるんだ。
可愛いだろ?
でも今日は、少しでも早く体を戻す為に気功でもやろう。
気功ってのは、なんだかんだで、誤解が多い物なんだ。
実際に気っていうのが有るかはわからない。
でも、血液の流れや、内臓の重さ、脳の重さや、
様々な自分の身体の中の感覚っていうのは、
自分で確認しながらだと、感じ取れる物だ。
そして、なんでかはわからないけど、
たしかに怪我や病気の治りが早くなる。
身体の静養にもとても役に立つ。
そう、じいちゃんは体操みたいな物だから習慣づけると良いと言ってたけどね。
実際、じいちゃんは凄い元気だった。
気功をやり始めてから、病気を罹った事がないってのが自慢だったし、
凄いなぁと思って、教えてもらったんだ。
気功には大きく分けて、二種類の使い方がある。
それが内功と外功だ。
内功ってのは、気や血の巡りとかを良くしたりする事で、
身体の自然治癒力を上げていく物。
外功ってのは、ちゃんと出来る人がほとんど居ないって聞く。
じいちゃんは小さい時に凄い気功の達人って人に会った事が有るらしい。
其の人はもちろん外功も出来る人だったんだそうで、
なんでもじいちゃんの目の前で、ロウソクを離れた先から消したりできたらしい。
其の話を聞いた時、驚いたけど、ロウソクを消すくらいなら指で摘んだほうが楽だよね?
ってじいちゃんに言ったら、若干キレ気味に怒られた記憶が有る。
まぁ、それは置いといて、外功ってのは要は、内功が身体の内側に作用するものだとすれば、
其の逆の外側、つまり身体の外に効果を出すような物の事らしい。
だから、気を操るという行いがドンドン上手くなれば、そのうち出来る様に成るそうだ。
まぁ、僕は自分の健康維持にしか興味がなかったから外功ってのは習ってない。
でもイメージはわかるよ。
漫画でもそんなのイッパイ有るでしょ。
まぁ、いいや。
取り敢えず内功の為に気を練る事から始めよう。
気を練るっていうのは、気分の問題かもしれないけどね。
でも長い間、集中してやっていると、気っていうものを感じるように成ってくる。
実際、そういう感覚があると知った。
其の感覚が現実なのか?と言うと、正直わからない。
でも、気を感じると認識してれば、きっとそこには気が有るんだ。
良くわからないけど、まぁ錬功を始めよう。
スゥー、ハァー。
スゥー、ハァー。
スゥー、ハァー。
僕は呼吸法によって、気を体内へと送り込む。
そして、体の中へ入った気を血管内へと送り込むよう感覚を巡らせる。
此の時イメージも大事だ。
気は血管を通り、各部へと流れていき、
流れた気はそこで、細胞一つ一つに元気を吹き込む。
そして、吹き込まれた新しい気の変わりに古い気が、呼吸の元、排出されていく。
そういうイメージをする。
錬功の場合、目的は気を練る事に有る。
気を練ると言うのは、
大気中に有る気を取り込み、
身体の中で良い気を残し、
悪い気をそとに排出する作業の事だ。
そして、より多くの気を体に行き渡らせ、
保有出来る気の量を増やすって事だ。
なんか難しいけど、簡単に考えると人体がフィルターなんだと考えるとわかりやすい。
大気中には良い気も悪い気も入り混じっている。
そして、体の中にも悪い気が発生したりする。
だから、人体のフィルターで良い気だけ体に残し、悪い気は外に出す。
ってことなんだろう。
僕は気ってものが、イメージや感覚、感情、精神活動に反応するものなんじゃないかと考えている。
例えば、気分が良いっていう表現が有る。
これは、良い気の割合が良いってことなんだと思う。
だから気分が良いなんだろう。
逆に気分が悪いっていうのは悪い気が体に溜まってるんだ。
つまり、練功ってのは、気分をドンドン良くしていけばいいだけなんだ。
気分を良くするってことがフィルターを通すと言うことだと思えば簡単だろう。
そうすれば、良い気が体中に巡る事に成ると、僕は考えたんだ。
じいちゃんもそんな感じだと言っていた。
うん。わかりやすい。
それに一番効果があるのはやっぱり呼吸法、そして、瞑想だ。
手っ取り早く、道具も必要ない。
朝の良い陽気に自然界の気を体に取り込めば、気分は良くなる。
取り込む手っ取り早いのは吸う事だ。
だから呼吸が重要なんだろう。
そして、効率の良い呼吸っていうのが、先人たちが編み出した、呼吸法って事だ。
うん。呼吸法ってのは大事だな。
スゥ〜ハァ〜〜〜〜。
うん。何っていうか気分が良い。
とても気持ちも良くなってきた。
体に力が入る。
うん。良い良い。
「なぁ?ポンピカ?なにしてんだ?」
突然後ろからパパムイの声がする。
ビックリして振り返ると避難所の入り口で、
怪しいものでも見ているような顔のパパムイが居た。
「ああ、呼吸してるんだよ。気功をやってるの」
「コキュウ?キコウ?なんだそれ?」
「ん〜。簡単に言えば、怪我や病気・・・ジンが治りやすく、早く治る方法だよ。」
「なに!そんな事出来るのか?」
「うん。昔から僕はそうやって、健康を維持してるんだ。だからギギリカのジンにも罹らないって自信が有ったんだよ。」
「へぇ〜。すごいなそれ・・・俺も出来るのか?」
「出来るよ。生き物なら全部が出来るはずだよ。」
「そうか。俺も生き物だしな!できるのか!」
「やってみる?」
「おう!教えてくれ!」
パパムイに気功を教え始める。
「パパムイ。まずは楽な体勢を取ってみな」
「ん?こ、こうか?」
パパムイがだらりと手をさげて、だら〜んとした。
「そうそう。力の抜け具合もいいね。そのまま目を閉じて、」
「おう」
素直なパパムイ。
「それから頭の中で、パパムイがとても過ごしやすい場所を思い浮かべるんだ。気分が落ち着いて、其の場所にずっと居たいっていう場所。気分が良い場所をね」
「お、おう・・・。 おおぉ〜」
なんだか。「おお〜」しか言わなくなってないか?
まぁいいけど。
「そしたら鼻からゆっくり息を吸って」
「わかった。」すぅ〜。
「我慢しなくていいよ。吸ったらつぎは最後まで吐ききる」
「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「また吸って」
「すぅ〜〜〜〜〜〜」
「はい。吐いて」
「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「どぉ?気分がいいだろ?」
「おう・・・なんだか凄く気分が良いぞ?」
パパムイがゆっくり目を開けると、自分の体をジロジロと見回す。
どうやら、凄く気が充実したんだろう。
良い事だ。
「それが気功だよ。」
「へぇ〜。こんな事で怪我が治るのか?」
「怪我をしたら一度落ち着いてから、そうやって、怪我をした部分の痛みを和らげるように想像すると治りが早いんだ。」
「へ〜。なんだか不思議だな?」
「そうかな?」
「ああ、不思議だ。なんだか、俺も呪術が使えたような気分だぜw」
「ははは。呪術とは違うと思うよwでもこれは色んな事に使えるんだ。」
「へ〜?例えばなんだ?」
「そーだな〜・・・。例えば、この間やったタイソウの練習覚えてるか?」
「おう!覚えてる毎日欠かさずやってんだw体の調子がよくなるからな」
「へー。パパムイって意外にしっかりしてるんだなw」
「そうか?体を動かすのはとても良いことだ。ここ来る前にも一通りタイソウしたぞ」
「そっか。凄い!」
「お、おう・・・そうかなぁ〜?」
「そうさ!飽きないってのが一番だからね」
「なるほど、飽きないかぁ・・・確かに俺は頭が足りないからなw飽きるって事がないんじゃないか?」
「はははw」
「おい!笑いすぎだぞwはははw」
やっぱりパパムイは親友だ。
とても気の良いスキクだな。
「まぁ、タイソウでも気功を使いながらだと効果が凄く伸びるんだ。例えば力が増したり、とかね」
「なに!力が増すのか?それは良いことを聞いた!今度からキコウをしながらタイソウしよう。うん。そうしよう。」
「体操をする時の気功は、強くしたい身体の場所に力が集まるような想像をするんだ。」
「おう!わかったぞ。」
「それはそうと、どうしたんだ?避難所になにか探しものか?」
「お!そうだった。忘れてた。 ポンピカが起きたって話を皆にしたらウソツキ呼ばわりされたんだ。」
「ええ?なにそれ?」
どういう事?
「集落の皆はお前が死んだと思ってるんだよ。だからウウダギをここから離してたんだ。」
なるほど・・・え?ってことは僕、死人ならぬ死スキクとかに成ったの?
もしかして、もう少し目覚めるのが遅れたら僕も集会場の死体といっしょに、
処分されてたんじゃないか?
怖っ!
「なるほど、じゃぁ、僕を呼びに?」
「ああ、そういう事だ、ウウダギも起こして集落に来てくれ」
「ウウダギまだ寝てるよ?」
「ポンピカが居ない時はずっと寝なかったり、不安でオロオロしたりしてて疲れてたんだと思うぞ」
「マジ?ウウダギそんなに僕のことを?」
「なんだよ。ポンピカ気づいてなかったのか?」
「いや、どうなんだろう?気づかなかったよ」
「う〜ん。ウウダギはポンピカが大切なんだ。だから一緒に居てやらないとだめだろ」
パパムイがまともだ・・・今日は雨降るのかな?
「そ、そうだな。ごめん。じゃぁ、ウウダギを起こすよ」
「おう、その間、俺は先に集落にいって皆に話しておくぞ」
「わかった。すぐ行く」
ウウダギが寝ている側へ向かうと、
気配に気づいたのか、目を覚ます。
ぱっちりおめめ。
寝ぼけた様子がない。
つまりさっきの聞いてたのか。
「ウウダギ行こう。」
「うん」
隠すこともないし、まぁ、いつもの流れで、
ウウダギを抱っこして集落へと向かう。
ってか内功は成功したようだ。
昨日起きたばかりで、もう歩けるし、ウウダギくらいなら抱っこ出来る。
もしかしたら、スキクってのは回復が早いのかな?
それか、生命力が強いのかもしれないな。
あとは、さっき気功をしてる時に気がついたけど、
此の辺りはとても気の量が多くて濃い気がする。
導引、気を呼吸で取り込む上で、その動作の事を言うんだけど、
導引の時に気の量が多く感じ取れたんだ、
そして、体の中で気を練る時にとても濃密な感覚が有った。
気を活用するに当たり、ここは条件が良いのかもしれない。
もっと気功の腕を上げてみるのも良いかもしれないなぁ。
僕の腕の中でウウダギがご機嫌で居る。
なんだか嬉しそうに周りをキョロキョロしてるんだ。
良い事でも有ったのかな?
起きたばかりだし、いい夢でも見たのかな?
なんだか僕も気分が良い。
体に力も入るしね。
ただ、お腹は減ってる。
やっぱり病み上がりだなぁ。
集落までの道のりでわかったことだけど、
どうやら、ミニョルンで溜まった水はすでに引いているようだ。
ぬかるみも無い。
うん。ミニョルンがちゃんと過ぎ去ったんだ。
雨季も終わった。
もう少しで、収穫の時期が来るだろう。
そうなると、このジャングルが騒がしくなる。
色々とね。
ウウダギにとっては初めてだしな。
たくさん学んでほしいよ。
僕だって二回目だしね。
一緒に色々と発見していこうね。
集落が見えてきた。
集落を囲っていた柵が全部撤去されている。
みんなで取り外したんだろう。
ここから集落を一望出来る。
なるほど、だから集落に水が貯まるのか。
というのも、ここから見る集落は、すり鉢状になっている。
そして、一番深い場所が中央の大きな建物、集会場だ。
なので、水の量が最も多かったわけだ。
ふむ、でも去年も思ったんだけど、
集落の住居だ、毎年水浸しになって使えなくなるのが分かってるのに、
雨季が終わればみんなで解体して、もう一度立て直す。
だから、作りが簡素で、耐久性がないんだ。
スキクは別に屋根がなければいけないわけじゃないし、
それでも良いとは思うけど、もう少しどうにか成らないかな?
ってか、この窪地にどうして集落を作ろうと思ったんだろう?
立地的には最悪だよね?
なにか理由が有るのかな?
僕だったら水害が少ない場所を選ぶけどね。
今見ている集落はすでに中央の集会場以外の住居が撤廃されている。
廃材は集会場の元へと一緒に積み込まれている状態だ。
恐らく弔うと言う意味で、全て燃やすんだろう。
本来スキクは遺体を燃やさない。
遺体の処理は土葬が基本だ。
だけど、恐らく経験則で、”ジン”に関わる死体は、
燃やすのが一番と分かっているんだろう。
族長の記憶の中では、恐らく其のことが頭に有るため、
今回は火葬をすると言う結論になったんだと思う。
スキクは火を怖がる。
だから本当に苦渋の決断の様な思いなのかもしれない。
僕はウウダギを抱きかかえたまま、
集落の皆が集まる場所へと向かう。
皆、作業をしているようだしね。
しかし、本当に臭いな。
集落の外からも臭う。
完全に腐ってしまったんだろう。
集会場の様子も見ると、どうやら今回のミニョルンが
相当威力の有るものたっだとわかる。
屋根が吹き飛んでいるんだ。
骨組みはちゃんと残ってるのに屋根が無い。
コレじゃ集会場に居れば共倒れだったな。
まぁ避難所で正解か。
そのまま皆が作業している場所まで歩いていく。
ウウダギは抱っこが良いらしい。
離れる様子がない。
甘えん坊に成っちゃったかな?
どっかで、区切りは付けないといけない気がするな。
でも、心配かけちゃったわけだし、暫くはこうしていよう。
目の前では、せわしなく皆が動いている。
デデンゴまで手伝っている状態だ。
多分、死体の処理が一段落するから、駆り出されたんだろう。
ここからなら、感染もなさそうだしね。
手はいくら有っても足りない状態っぽいし・・・。
あっパパムイが僕に気づいた。
僕はパパムイに手を振る。
「おい!皆!ほら言ったとおりだろ!ポンピカだぞ!」
わざわざ大きな声で、そう叫ばなくてもいいのに・・・。
パパムイが僕が来たことを皆にアナウンスする。
すると、各々の作業の手がピタリととまった。
続いて、僕の方をジッと見始める。
暫く沈黙が有った後、族長が僕の前に歩み出てきた。
「本当にポンピカなのか?」
何を言ってるんだろう?