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予期せぬ出来事と戦い


「ポンピカ。ポンピカ。起きて!起きて!」


気持ち良い眠りの中、ウウダギの声がした。

まだ眠いんだけど・・・。


「どーした?ウウダギ」

「ポンピカ。大変。何か居る」


何かって?なに?

まだぼやける視界の中、避難所の中を見回す。


すると、僕以外のスキクが皆、

立ち上がり固まって戦々恐々としているではないか。

其の中にはパパムイとギギリカも居る。

集団の真ん中には頭が随分飛び出して、ギュギュパニが居る。

皆ギュギュパニを囲むように固まっているんだ。


「どうしたの?皆?」

「ポンピカ。外で音がする。大きい音。」


僕の横でウウダギが何やら怖がりながら必死に伝えてくる。

怖いってのは?なんだ?何か居るのか?


そんな事を思って、聞き耳を立てていると、

いつもどおり、外は大きな風と雨の当たる音しかしない。


「音?雨と風しか聞こえないけど?」

「違う、別の音。近く」


近く?そんな音聞こえないけど・・・。

でもウウダギの言ってる事は本当なんだろう。

なぜかと言えば、

僕とウウダギ以外は皆一箇所に固まっているからだ。

何かに怯えているんだろう。


「ウウダギごめん。詳しく聞かせて」

「外で、音がする。ドンドンズルズル」


ウウダギには詳しくは聞けないようだ。

でもドンドン?ズルズル?って音か・・・。

って事は生き物あたりかな?


まぁ、いいか、取り敢えず状況を確認しよう。

僕は、ウウダギと皆が集まっている場所へと近寄る。


「皆どうしたの?」


僕が声をかけるととたんにパパムイが僕の口に手を押し付けて小声で何やら喚く。

器用なことです。


『ポンピカ!静かにしろ!外にデカイ”クウォン”が居る!ヤバイぞ!』

「クウォン?なにそれ?」


『ちょ!静かにしろよ!気づかれたらこの避難所だって壊されるぞ!』

『なんだよそれ?そんなにヤバイの?』


『ヤバイなんてもんじゃないだろ!クウォンだぞ!クウォン!』


クウォンクフォンいってて何が何だかわからない。

もう少し、わかりやすいギギリカに説明を求めたい。


『パパムイじゃわけわかんないから、ギギリカ呼んでよ』

『・・・そ、そうだよな・・・ちょっと待ってろ』


パパムイがギギリカを呼んでくる。

何故かギギリカはひどく怯えている。

此のままだと、ギャ・ジャ・ズーにかかっちゃうんじゃ?


『ポンピカなによ・・・』

『なぁ、この状況説明してほしいんだけど』


『そんなの決まってるじゃない!外にクウォンがいるのよ!それも大きいみたい』

『大きい?・・・そのクウォンってなんだい?』


『ポンピカ知らないの?』

『ごめん。全くわからない』


僕がそう言うと、ギギリカはしゃがみ込み、

地面に絵を描く。


どうやら地面に描かれたのが、クウォンらしい・・・

らしいんだけど、どう見てもワニです。


『・・・ワニ?』

『ワニ?ってなに?』


『ああ、僕が知ってる動物だよ・・・どんくらいデカイの?』

『あたしは見てないけど、ギュギュパニが外を覗いた時にデカイって言ってたわ』


『ふーん。そんなに危険な相手なの?』

『当たり前じゃない!水辺の獣だよ!水を克服した。魔物って言ってもいいわ!』


『水を克服したねぇ・・・それって、ギギリカやパパムイも克服してるじゃん』

『・・・そうだけど・・・でも大きいらしくて・・・それにクウォンって尻尾がとても強いし、何よりあの大きな口よ。アレに噛まれると、間違いなく死んじゃう!』


確かにワニって顎の力が凄いとか言うし、あまりかかわらない方が良いよね。

でも、こんな状況で、避難所にちょっかいかけてくるのかな?

そもそも、なんで丘の上に昇ってきた?


・・・もしかして、結構水が上がってきてるのかな?

そうだとすれば、陸地で少し休憩してるだけじゃないかな?


まぁ、ギュギュパニに聞こうかな


「ギュギュパニ状況教えて」

『シッ!静かにおし!すぐ外に居るんだよ!』


「大丈夫だよ。どうせ、こっちに入ってこないだろうし」

『いいから声をださないでくれないか!』


『んもー。でー?どうなってるの?』

『・・・ありゃバケモンだよ。あたしよりデカイ。スキク程度なら丸呑みできそうなほどの大きさだよ』


そりゃ凄い。めちゃくちゃデカイな。

でもそんなに怯える必要無いだろ?

どうせ、雨が落ち着いたりすればまた水に戻ってくんだろうし。


『ふ〜ん。別にひと塊に成らなくてもいいでしょ。』

『そんなこと言ったってねぇ・・・あたしでも敵わないからねぇ』


まぁ、ギュギュパニみたいに力でどうこうするタイプには解決は無理かな。

それにこっちから手を出さなきゃ何もしないだろう。


『まぁ、こっちから何かしなきゃ大丈夫だと思うよ。』

『相手は、動物だよ?何を考えてるかわからないじゃないかい』


『まぁ、そうおもってればいいさ。取り敢えず、あまり皆を刺激しないことかな。そのうち限界がきてギャ・ジャ・ズーをおこすよ?騒がれてからじゃどうにも成らないだろ?』

『・・・でもねぇ・・・』


『まぁ、いいや、僕は寝るよ。まだ眠い』

『・・・あんたは、本当に何を考えてるかわかんないねぇ』


まぁ、どっちにしてもこっちからアクション起こさなきゃ良いだけだろう。

全く、騒ぎだけはゴメンだ。


そう思い、僕は自分のエリアへと向かう。すると、ウウダギが何故か棒を持って、立っている。

少しカタカタと震えてる感じがする。どうしたんだろ?


「ウウダギどうしたの?」

「怖い」


「怖くないよ」

「怖い」


ウウダギが怖がってしまった。

可哀想に・・・全く、スキク騒がせなギュギュパニだなぁ。


「エイ!エイ!」


突然、ウウダギが大きな声で、棒を振り始めた。


ちょ!待ってください!ウウダギさん!もしかして・・・

ジャ・ギャ・ズー?


今の状態で、それはマズイ!

マズイったらマズイ!

即座に僕はウウダギの口を塞ぎ、棒を取り上げる。


しかし、時すでに遅しであった。

ウウダギの声に反応したのだろう。

外に居たワニが、動き始めた音がする。

確かにズンズンと歩くというか、ズルズルと言う音もする。


ギュギュパニの側に集まっているスキクたちも恐怖で、

ガタガタ震え始めてしまった。

ついでに、ギュギュパニが手に持っている、

ヤリの様な物を構え始めている。


これは、随分とマズイ状況だ。

だけど、怖すぎてやっちゃったんだ。

ウウダギに言っても仕方ない。


ここは親である僕が責任を取るしか無いだろう。

まぁ、仕方ないか。

可愛いウウダギのやった事だしな。


僕は即座に、暴れるウウダギを抱えて、パパムイとギギリカに渡す。


「ごめん。ウウダギはどうやらジャ・ギャ・ズーだ。見境無くなってる。責任は僕が取るからウウダギを預かっててくれ」


そういって、僕は音のする方向へと駆け出す。

後ろの方で、パパムイが叫ぶ。


「おい!ちょ!まてよポンピカ! ちょ!暴れるな!ウウダギ!」


その声だって、ヤバイんじゃないか?


そんな事を思った瞬間に、避難所の壁にデカイ鼻が突き刺さって来た。

物凄い振動と揺れである。

折角漆喰風に誂えた壁もワニの頭突きにはたえれなかったようだ。


だけど、それ以上ワニが入ってこない。


これは、撃退するチャンスじゃないか?

そう思ったときには、ギュギュパニが凄い叫びと同時に、

ヤリのような物をワニ目掛けて突き刺そうと突進していた。


無計画過ぎる。

非常に非効率だし危険だろう。

本当に戦闘訓練とやらを受けてるのか?


それで良く狩りが得意とか言ってるな?

大丈夫か?


「ギュギュパニ!不注意過ぎる!」

「グロロロロロロロロ!」


ギュギュパニの様子が変だ・・・言葉を失ってる!

もしかして・・・ハッとなって族長を見る。

すると、族長が僕に頷き返す。


どうやら、ジャ・ギャ・ズーってのはスキクだけが成るものじゃなく。

ザーザース全体の特性なのかもしれない。


ヤバイな!と思って、再度ギュギュパニを見ると、力いっぱいヤリを叩きつけている。

それじゃ、意味ないだろうと突っ込みを入れたいところでは有るけど、

ジャ・ギャ・ズーの最中は理性が飛んでしまってる。


パパムイやギギリカの時もそうだった。

下手すると言葉さえ失うんだ。

恐怖への抵抗なんだろうけど、それじゃ持ち前の良さがすべて失われる。

だめだろ、此のままじゃ、何も解決しない!


どうする?


「ポンピカよ!”問題”を出す!解決できるか!?」


族長が大声で僕にそういう。

なるほど、わかった。

やってやろうじゃないか。


「族長。”問題”いただきました!」

「頼むぞ!」


族長から問題を頼まれた。

内容は押して知るべきである。

要は此の場を納めろってことでいいよね?


さて、ギュギュパニが邪魔でどうにも成らないな。


ワニは、一向に動く気配はない。

長く飛び出ている顎を避難所に突っ込んだまま、動けないようだ。

ギュギュパニのヤリもどきによる殴打では、傷一つ付きはしない。


恐らく、ワニは痛くも痒くもないのだろう。

なされるがままである。

でも此のままだと、何時ワニの機嫌が変わって中に落ち込んでくるかわからない。

そうなるとギュギュパニが危険だ。


其の前に錯乱しているギュギュパニを落ち着かせなきゃ・・・。

どうするかな?


取り敢えず声をかけてみよう。


「おい!ギュギュパニ!聞こえるか?」

「グロロロロロロロ!」


だめだ、こっちの言葉が届かない。

しかし、此のままギュギュパニを後ろから羽交い締めなんてのもできない。

僕には力が足りないんだ。


仕方ない。


僕は急いで、ギュギュパニへと近づく。

すると、タイミングが悪かった。


ギュギュパニが振り回しているヤリもどきが運悪く、ワニの鼻っ柱を直撃。

ワニが、力強く避難所の壁を突き抜けようと力をかけてきた。


徐々に顔を突っ込んできている中、

相変わらずギュギュパニは我を忘れて暴れている。


勢いを付けて、僕はギュギュパニの正面へと躍り出た。

なんとかして、落ち着かせるか下がらせなければいけない。


僕がギュギュパニの正面へと躍り出ると、一瞬動きが止まる。

少しは、理性があるんだろう。

僕は其の隙を逃さなかった。


右前の構えから強く左足を踏み出し、

左手で体重を乗せた掌をギュギュパニの鳩尾へと繰り出す。


見事に掌がヒットした。

一瞬、ギュギュパニがビクッ!っと成って、動きを止める。

その後、力が無くなったかのように膝からゆっくりと前のめりに倒れてしまった。


気を失ったんだ。

なんとか成るだろう。


僕はギュギュパニをここから下がらせるため、

パパムイとギギリカに応援を要請した。


「パパムイ、ギギリカ、ギュギュパニをそっちに下げてくれ、此のままだと危ない!」

「わかった!ちょっと待ってろ!」

「ポンピカ頑張って!」


二匹はすぐに飛んできた。

そして、うつ伏せになって倒れているギュギュパニを引きずり、

皆の元へと下げていくのを見守る。


僕は此の時、激しく後悔した。

気を抜きすぎていたんだ。


ギュギュパニが皆の元へと到着するまで、

後ろのワニの気配を感じ取れていなかった。


それに気がついたのは、

ギュギュパニを引きずって居たパパムイからの叫びだったんだ。


「ポンピカ!ヤバイ!危ない!」


パパムイの叫びに対してハッとなった僕は、

恐ろしいほどの激痛を味わった。


バツンッ!

「ぐわぁっああああああああ!」


ワニの顔がすでに真後ろまで来ていたようで、

パパムイの叫びで咄嗟に飛び退いてみたんだけど、

残念なことに、僕の尻尾がバツンと言う音と共に根本から千切れてしまった。

ワニは僕の尻尾では足りないとでも言うような雰囲気で丸呑みしていく。


しかし、そんな事はどうでも良い。

とんでもなく足と腰に広がる痛みで、意識が朦朧としてしまう。


重度のショック症状を起こさない分だけ助かっているけど、

今のままでは、身動きが獲れない。


ヤバイ。マジでヤバイ。

絶体絶命じゃないか!


ギュギュパニではないけど、前のめりに僕も倒れてしまっている。

これじゃ、対応できない。

ヤバイ・・・これじゃパパムイもギギリカも守れない・・・。

ウウダギも・・・みんなも・・・ん?


ウウダギ?

僕は目を疑った。

棒を構えて、僕とワニの間に居る小さなスキクの姿にだ。


「ポンピカは僕が守る!手を出すな!」


ウウダギ!だめだよ!

出てきちゃだめだ!


くそっ!足が動かない!

マズイ、ウウダギだけは、絶対守る!

絶対だっ!


「僕がポンピカを守る!ヤァ!」ペシッ


ウウダギ、怖いだろうに・・・

なんでそんなに、僕の事を?

だめだ、だめだよ!


「ウウダギ!さがれ!だめだ!」

「ヤダっ!ポンピカ!」


だめだったら!

言うことを聞いてくれ!


「ポンピカ!僕、ポンピカが好きなんだ!だから守るんだ!」

「ウウダギ!よけろ!」


ウウダギが僕の方を向いた瞬間。

ワニがウウダギを顎でしゃくりあげた。

あっという間に宙へと投げ出される。


そして、僕を超えて離れた場所に・・・。


ドサッ!


「ウウダギイイイイイイイイ!」

「ウウダギ!起きろ!」


投げられたまま、ピクリともしないウウダギ・・・。

ダメダ!ダメダ!ダメダ!


ウウダギ!ウウダギ!

起きてくれ!


「・・・くそう・・・ワニ公・・・てめぇ・・・いい加減いしろよ」

「俺の子に何してくれてんだよ・・・」


もう此の時、僕の頭の中は真っ白だった。

怖さもまったくない。

すべてが解放されたように清々しくさえある。


なんと言うか。

怒りが頂点を突破して、処理できない。

・・・なんだか、日差しの心地よい草原を歩いているようだ。

ああ、意識が・・・たもて・・・ない・・・。



◆◆◆◆


あたしはギギリカ。

パパムイとポンピカの親友。

この集落”ペチャック”のスキク。


今、目の前で起きている事が信じられない。

あんな大きいクウォンをポンピカは小さな体で、翻弄している。


ポンピカはそもそも少し変なスキクだった。

初めて会話した時も最初から言葉が喋れていたの。

ビックリしたわ・・・


でも今はそれどころじゃない。

ウウダギが!


「パパムイ!ウウダギを!」

「おう!」


パパムイは良い雄。

この上なく優しく、力が強く、そして、とても大切な・・・。


パパムイも怖いはずなのに

あたしが、動けないから・・・


パパムイがウウダギを担いで来たわ。

ウウダギは意識がない。

そりゃそうね。あんなに放り投げられたんじゃ。


「ウウダギ!ウウダギ!起きて!ウウダギ!」

「ギギリカ。あまり揺らすな!ウウダギが可愛そうだ!」


「ご、ごめんなさい」

「ウウダギの様子どうだ?何処か変なところは?」


あたしはウウダギの身体を隅々までさすっては確認する。

切り傷はない。

多少打撲したようなところがあるだけ。

重症ではないは・・・意識がないのも頭を強く打ったからね。


スキクは元々、木に登る習性があるわ、

だから爪も木を登りやすい作りなんだと族長に聞いたの。

それと、木の上から落ちても打撲で済むくらいの柔軟性が有るんだとも言ってたわ。


クウォンに投げ飛ばされた時はヒヤヒヤしたけど、あのくらいの高さだったら、

より柔らかい小さなスキクにとっては、問題なかったようね。


「大丈夫そう。少し、意識が無いだけよ」

「そうか・・・しかし、ありゃどうなってんだ・・・相手はクウォンだぞ」


「うん・・・ポンピカ・・・」




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