木こり仕事と夜ふかし
今、僕とパパムイそしてギュギュパニが揃って、背の高い木の前に居る。
この森、ジャングルだけど、ここに群生する木は成長が早いらしい。
そして、急成長する代わりに割と細い。ただ、どれも真っ直ぐ伸びるのだ。
と言っても一抱えも有る木もあるけど、それは樹齢がそれなりに長い木だけだ。
殆どの若い木は僕の胴体より少し細いくらいの物ばかりなんだ。
陽の光が下には届きづらいジャングルの中で、
陽の光を他よりも先に多く浴びる為にそういう進化を辿ったんじゃないかな?
なので、今僕の前の木はそれほど太くはない。
「で?何をするんだい?」
「ポンピカ。俺は読めてきたぞ」
「パパムイ?そうなの?」
「あれだろ?この木を切り倒すんじゃないのか?」
「大正解だ。」
「ほらなっ。ギュギュパニ。ポンピカはこんなヤツなんだよ」
「ほーん。なるほどねぇ」
パパムイとギュギュパニの会話が良くわからない。
何が「こんなヤツ」で、なにが「なるほどねぇ」なのかがさっぱりだ。
「ポンピカ。お前、木を切った事があるのかい?」
「ないよ?なんで?」
「木ってのは、とても強い生き物なのさっ。下手に倒すとどっちに倒れるか分からなくてね。機敏なスキクが必要になるんだよ。それを知ってて言ってるのかい?」
「ギュギュパニ。たぶんポンピカはそこら辺も知ってるんだ。だからここに来たんだと思うぜ。だろ?」
パパムイが正解。
というか、まかさ今まで計画性ゼロで木を切ってたんじゃないよな?
なにも考えてないのか?
大丈夫かなぁ?
スキクは頭が良いのになんでそのへん考えないんだろう?
「今まで、どうやって切ってたの?」
「そんなの簡単っ。力いっぱい石を打ち付けるのさっ!力と機敏さが必要なのさ」
ギュギュパニの言葉にうんうんと頷くパパムイ。
何ていうか、似たもの同士なわけだ。
恐らく力が必要って事で頭の足りない連中だけで、切ってたのだ。
そして、素早く倒れる方向を見極めて避けるっていう。
とても原始的で非効率的な方法しか考えつかなかったんだな。
「なるほど。じゃぁ僕の指示どおりにこの石斧を使って欲しい」
「・・・その石斧は・・・」
「ウルグズの物だけど今は僕のだよ。」
「ああ、すまん。そうだったね。で?どうやって切るんだい?」
ギュギュパニに石斧をもたせる。
ウルグズが持っていた時は重たそうにしていたけど、
ギュギュパニが持つとなんだか小さく見える。
随分軽く扱うんだなぁ・・・
「木って言うのはね。こうやって互い違いに切り込みを入れるんだ。そして一方だけ大きく木ってもう一方は少し浅く切るんだよ。そうすると浅い方に倒れるんだ。」
「へぇ・・・。わかったよ。試してみる。」
「気をつけてね。最初に浅く切るんだよ。」
「わかった。」
ギュギュパニが言われる通りに木に切り込みを入れる。
最初は受け口とされる。浅い切込み。
次に追い口と言われる大きな切り込みを入れる。
すると、浅い方へと軽く押すだけで、高い木がバリバリと音を立てて受け口の方へ倒れていった。
「・・・なるほど・・・こりゃ凄い。ポンピカ。これも例の知識ってやつかい?」
「そうだよ。」
「なるほど。こりゃ族長がビックリするわけだ・・・」
「ビックリしてないで、この木の枝を払って、丘に持ってくよ。あと12本は切るからね。」
「沢山切るんだな?」
「う、うん」
あれ?もしかして?
ギュギュパニもパパムイ並に数がわからない系?
流石にザウスだろ?スキクより頭がいいって聞いてるけど?
「ギュギュパニ。12ってのはな、3が四回だ。」
「パパムイ・・・。お前いつの間に数を覚えたんだい?」
「へへーwポンピカに夜教えてもらったぜ!すげーだろ」
「・・・ああ、たしかにな・・・そうか、3を四回か・・・わかった。」
パパムイ。意外に覚えてたな。偉いぞ。
そしてギュギュパニ。その歳からでも遅くない。
今夜から勉強しましょうね。
結局、12本倒せた。手元には合計13本。
落とした枝は、更に使えそうなので、パパムイに拾わせて丘に集めさせた。
此の分なら骨組みは大丈夫だろう。
まだ、夕暮れには速い。
木の運びで時間を取られるかと思ったけど、ギュギュパニが凄かった。
あの木を一匹で、引きずって運んでしまうのだ。
さて、骨組みの材料は揃ったな。
取り敢えず外見だけでも作り始めないと。
「パパムイ。手伝って」
「おう!次はなんだ?」
「今取ってきた木を僕が指示する場所に建てるんだ。出来る?」
「う〜ん。俺一人じゃ建てれないぞ?」
「ああ、それも大丈夫だ。工夫は考えてる。」
「そっか。ならいいな。やるぜ」
「ちょいとお待ち!あたしは?」
「ギュギュパニにはもう一個違うことを任せたいんだ、力がないと出来ないんだよ」
「ふむ。いいじゃないか。やろう。で?なんだい?」
「僕らが木を建てる場所に木が埋まる位の穴を開けてほしいんだ」
「地面にかい?」
「そうだよ。」
「道具は?」
「道具はこれ使って欲しい。」
僕が渡した道具は、石のシャベルだ。
手頃な木の棒の先に平たく先が尖った石をくくりつけただけの物だけど。
そこそこ試しに使ってみたがイケてる。
僕が、泥と土を混ぜる時に土を掘る為に使っていたやつなんだ。
「ふーん。これぇ?」
「そうだよ。それは、こう使うんだ」
といって、軽く実践してみせた。
様子を見ているギュギュパニの目が輝く。
すぐにあたしにもやらせろとシャベルを取り上げられた。
様子を見ていると、数度土を掘ると、うん。とでもいいたげな顔でこちらを見る。
「これは凄いな!これなら穴をすぐ掘れるじゃないか!」
「そうだろ?じゃぁ、指示するからお願いするよ。」
「まかせなさい。」
「ポンピカ?お前あんな物も作れるのか?」
「作れるよ?他にも一杯作れると思う。道具もそうだけど、武器も作れるよ。」
「武器!?本当かっ!?」
「うん。だけど、今は金属がないからあまり丈夫な物は無理だよ。」
「金属ってなんだ?」
「石よりも硬い物だけどね。この集落では見た事がないかな」
「ふ〜ん。そうか・・・金属ってのが有れば色々出来るんだな?」
「まぁね。でも今は避難所作るのが先だよ。」
「そうだったな。で?何処に木を建てるんだ?」
こうしてパパムイとギュギュパニに指定した場所を教える。
ギュギュパニは指定した場所に大体、一メートル位の深さの穴を掘ることに成った。
僕とパパムイはそこに木を運び建てる。
建てる時、ウウダギが作ってくれた縄が大活躍だ。
力の弱い僕が支える様に紐を引っ張り、逆側からパパムイが木の先に結ばれた紐を引っ張る。
こうして、木の根元を穴へと突っ込んでいった。
それを見ていたギュギュパニは関心したように頷いて、
自分が何をすればいいか体で理解したようだ。
僕らが建てるまでにドンドン穴を掘っていく。
真ん中に支柱を建てる。
柵の内側に支柱へと斜めに寄りかかる形で、
最初は4本木を交互に絡ませながら立てかけていく。
次はその下隙間なく4本。
さらにまた四本という形で、12本が一本の支柱へ寄りかかる形にした。
外から見れば、骨組みでも全部が支え合っている様な三角形をしているだろう。
ちなみに、支柱や寄りかかる木を結ぶためにウウダギが作った太い縄をつなぎにした。
これで、少しは頑丈だろう。
あとは寄りかかる12本の木の根本を固定するために、
支柱よりも少し細い木を止め金の様に縄をつかって固定していく。
骨組みだけを作るのに一日まるまる費やしたようだ。
完成する頃にはもうあたりは暗くなっていた。
「そろそろ寝なきゃね。明日には外側が出来ると思う。」
「ポンピカ。俺はもう疲れたぜ」
「パパムイ。だらしないねぇ、それでもあたしの子かい?」
「仕方ないだろ!毎日毎日ヘトヘトに成るまで作業してるんだ」
「ふーん。サボるのが好きなパパムイがねぇ・・・」
「ギュギュパニ。本当にパパムイは毎日集落の皆の為に全力で取り組んでるんだ。褒めてあげて欲しい」
「ポンピカ・・・。そうかい、そりゃわるかったね。パパムイよくやった!褒めてやろう!ほら。近くおいで」
「やだっ!だって、力いっぱい羽交い締めされるんだ!知ってるんだぜ!」
「なんだい?褒められるのが嫌なのかい?変わったスキクだねぇw」
「ぐぎぎ!ポンピカ!俺はもう寝るぞ!」
「はははwわかったよ。ゆっくり寝てくれ。僕は少しやることがあるからね。」
「ポンピカはまだ働くのかい?」
「うーん。言い出しっぺだしね。それに集落の皆の命に関わる事だし、手を抜けないだけだよ。」
「ふ〜ん。なるほどねぇ。」
ギュギュパニは、そう言って何かを考えている。
僕はそれをほおって置いて、近くの浅瀬に泥を取りに行った。
だけど、今日は随分と動いたせいか、泥すくいは早々に切り上げることに成った。
切り上げると言ってもすでに深夜を過ぎている。
早くウウダギをなでて寝たい。
明日は、ギギリカが採ってきた葉っぱを束ねて壁を作り始めないといけないし、
出来た壁の端から粘土を塗り始めないとイケないな。
結構重要な仕事が増えてきた。
ギュギュパニが居るので力作業は任せられるけど、
今日の様子を見ると細かい作業には向いてないな・・・となると、
食料を確保してもらう事に専念してもらうか・・・。
でもこの時期に居る動物はいないだろう。
川の動物くらいかな?
危険じゃないか?パッと思いつくのはワニくらいだし、
最悪アナコンダみたいな大きな蛇が出てくれば、厄介なんだけどなぁ。
まぁギュギュパニに任せるか。魚釣りは向いてなさそうだしなぁ。
そう思って、小屋に戻る。
小屋の中ではギギリカとパパムイが並んで寝ていた。
ギュギュパニは大きいせいか、小屋の端にデンとうつ伏せになっている。
四角い一面を独り占めだ。
焚き火はまだ残っている。
族長がまだ起きていた。
寝れないのか?
ウウダギが族長の側で寝ていた。
「族長?起きてたの?」
「ああ、そうだな。起きていた。」
「老体にはキツイでしょ?無理にでも寝ておきなよ。」
「ワシはそれほど体を使っておらん。気にするな」
「そう?じゃぁ、僕も寝るよ。」
「のうポンピカよ。」
僕がウウダギの横に寝そべると、族長が話しかけてきた。
だけど、もう僕の手はウウダギをなでている。
寝る準備は出来た。
適当に相槌でもうっておこう。
「ん?」
「お前は、この集落をどう見る?」
随分いきなりな話しの振り方だけど?
族長は多分、このようなタイミングをまっていたんだろう。
じゃなきゃ、早く寝てるはずだ。
「なんだよ?いきなり。」
「いや・・・、スキクは他の種と比べても随分と頭が良い。そう思わないか?」
何が話したいのだろう?
スキクの話かな?
確かに頭がいいと思う。
しっかり教育したり勉強を施せば、
もっと生活が豊かに成ると思うけどね。
「あー。確かにそこそこ頭がいいと思うよ?でも僕はザウスはギュギュパニしか知らないし、プンタのことも良くわからない。他にも頭のいい種がいるかもしれないだろ?」
「うむ。確かにそうだが、それでもワシが知る限りでは、一番の知恵持ちはプンタだが、次に頭が良いのは恐らくスキクだと思っている。」
ほう、族長がそう言うならばそうなのかもしれない。
歴代の族長なのだ、過去を遡ってもそう云ったんだ、間違いないだろう。
「へー。で?何が言いたいの?」
「頭が良いスキクは何故、此のような生き方をしているのだろうな?頭を使えばもっと楽に生きれると思うのだが・・・」
うん。僕もそれは不思議だ。
少なくとも教える立場の族長からして
生活にとやかく言ったり集落の発展になにも口を出さない。
族長が言う事じゃないのかもしれない。
でも、今は、族長の口からその話がでたわけだ。
「ふむ・・・。なるほど。確かにそれは僕も思ってた事だよ。頭が足りないと言われてるパパムイだって、実はなかなか賢いんだ。」
「パパムイがか?」
「うん。パパムイは話しや文字、数を教えてもあまり興味がなくて覚えないんだ。だけど体や手先、足、体を使う事に関しては、恐らく誰にも負けないよ。僕にも負けないと思う。飛び抜けて優秀なんだよ。」
「ほう・・・。そうだったのか・・・」
寝てるパパムイには、聞かせられないだろ?
天狗になられると、きっと収集がつかない。
言うならこのタイミングなんだ。
「それからギギリカは、まんべんなく何でも出来る。力も僕よりずっと強い。頭もいいよ。何事にも集中出来る性格だ。ギギリカも他と比べて優秀だとおもう。尖ってはいないけどね。」
「ふむ・・・。ウウダギはどうじゃ?」
ウウダギは天才だよ。
多分、抜きん出てる。
しかもウルグズの件のせいか、努力を怠らない。
まさに並ぶスキクが居ないほどの逸材だと思う。
「ウウダギ?ウウダギはねぇ・・・。なんと言っても頭が良い。多分、同じ年代のスキクに比べても飛び抜けてるよ。言葉が片言のせいで、成長が遅く見られてるけど、この数日で、僕が使う文字と数、それに計算まで出来るようになってる。教えた事をしっかり覚えているし、気も効く。」
「ふむ・・・。」
族長は随分と考えているけど、
スキク全体の話しじゃないのかな?
話を振ったんだ、流れを作って欲しい。
「族長は、この集落をどうしたい?」
「そうだな・・・。ワシはかつて北の族長をやっていたと言ったな?」
「ああ、そうだね。転生前の話か」
「テンセイ?」
「いや、こっちの話。”古き恩恵”の事だよ。」
「うむ。そうだ。・・・そこでもこの集落と変わらぬ生活をしておった。」
へー。変わらないんだ・・・それは可怪しくないか?
それを言ったらずっと変化がないってこ事だよね?
「そうなの?」
「ああ、そうなのだ。恐らくどの族長もワシと変わらぬ暮らしをしているはずだ。」
そうかぁ。
スキクってのは、そんな生き物なのかもしれない。
だから僕がやる事すべてが異質に見えるのかもしれないな。
「ふーん。」
「だがな、ポンピカよ」
「ん?」
「ワシはお前を見ていて、不思議に思ったのだ。」
「なにが?」
「お前は、自分で自分の環境を操作して、住みやすい環境を築いている」
「あー。そりゃ、そうだよ。不便な事はイヤだろ?」
「確かにな。だが普通のスキクはそんな事を考えぬ。」
ふむ。やはりそうなんだ。
スキクは変わろうとしないんだ。
どうしてだろう?
「なるほど。確かに現状で満足しているわけじゃないけど、不平不満は言わないよね?それは、僕も気になっていたんだ。なんでもっと自由にもっと快適に暮らす方法を見つけないのかとね。頭がいいのに勿体無いと思ってたよ。」
「うむ、そうなのだ、ワシ等スキクはプンタや神に与えられた命を全うする事だけしか考えていないのだ。」
・・・何か引っかかるな・・・
その言い方だと、プンタや神から啓示でも託されたとかなのかな?
僕には来てないけど?
今度、パパムイやギギリカに聞いてみよう。
「・・・なるほど」
「其の中で、ワシ等とは違う知識や技術、考えを持ったポンピカ。お前がこの集落に生まれた。」
「・・・」
「ワシはな。ワシ等スキクはこのままでは滅亡すると思っている。」
随分いきなりな展開だけど?
スキクが?滅亡って、どう考えればそうなるんだろう?
この世界のスキクの数が減ってるとか?
流石に族長でもそれはわからないでしょ?
だって、文字でのやり取りや、
よそからの言葉の伝達なんて見てないしなぁ。
「・・・それは、無いだろう?」
「いや、恐らくはそうなのだ。ワシ等の寿命が短いのは知っておるな?」
「そうだね。元人間の僕からすると四分の一程度だからね。短く感じるよ。」
「ほう、人間とは、80年も生きるのか?」
「族長は計算出来るんだね。」
「当たり前だろ。長い年月族長をしていたわけではない。」
確かにそれくらい出来ないと族長はやってられないか。
「そりゃそうだ。」
「ニンゲンから見れば短いだろうが、実際に長生きするスキクも居なくは無い。ワシの記憶の中では、120まで生きたスキクも居るのだ。」
へー。それは凄い。
単純にビックリだけど・・・。
だけど、120まで生きるスキクがいるってことは、
スキクの寿命は20年ではないって事だよ?
「えっ!?それは凄い・・・6倍?凄くないか?」
「うむ。だが、そのスキクは、特に丈夫というわけでもなく、力が強いわけでもなかった。」
随分くわしいな。
「へー。」
「ただ、強いと言えるのは、他に比べ特別に用心深く、肉をあまり食さなかったのだ」
似たようなスキクなら知ってる。
目の前に居るからね。
「・・・族長?それって」
「うむ。何代も前のワシだ。」
そりゃ詳しいわけだ。
「なるほど。」
「そのスキクは、”ジン”には一切かからぬ体質でな、小さいスキクの時、同年代のスキクが流行りの”ジン”で、全て無くしていたのだ。」
同年代のスキクがいなかった・・・か。
過去には随分強い病気が流行ったのかもしれない。
でも、僕は族長が言いたいことがわかった。
要は、皆が考えているスキクの寿命ってのは、ただの平均なんだ。
それも小さいスキクも入れた偏向された平均なんだろう。
しっかりした、数学の知識も統計を取る方法も知らないのかもしれない。
「・・・なるほど、族長が言いたい事がわかったよ。そういう事なんだね」
「察しが良いな。そうなのだ、ほとんどのスキクは小さい内に亡くなる。この集落でも毎年殆どが亡くなるのだ。ちょうどこの時期にな・・・」
随分声のトーンが落ちた。
代々見てきたんだ。
流石に心が痛むのかもしれない。
毎年ウウダギみたいな小さなスキクが成す術無く死んでいくのだ。
まともな神経じゃ居れないだろう。
「うん。そうだね。僕の年代のスキクは、パパムイやギギリカと僕を省けば、残ってるのが2匹だ。最初この集落に運ばれたスキクは50匹を超えていたはずだね。」
「ほう、そんな事も覚えて居るのか。さすがだな」
覚えてる。
というか、運ばれる最中に僕は目を開けたから。
そのせいで、集落に着いた時びっくりして声を上げたんだ。
そのせいで、族長にこうやって目を付けられたんだけどね。
「そりゃね。最初から記憶があるんだ。覚えないほうが可怪しいでしょ」
「そうだったな。・・・じゃが、思い出してみよ。同年代のスキク達は何で亡くなった?」
「・・・5割・・・いや、7割が”ジン”で亡くなったんじゃないかな?僕はあえなく亡くなる所を見ていないけど。」
「うむ。実際に”ジン”によって亡くなったスキクは、大方5割じゃ。残りの3割はウウダギの様な目に会って亡くなっていくのじゃ。」
ウウダギの様な目って・・・。
虐待って事?
そんなに皆、酷いの?
「・・・それって・・・」
「うむ。中には、死んだとだけワシに伝えて、腹に入れたスキクも居る。ウウダギの前にウルグズに預けたスキクもそういう結果になったのだ。」
えっ!?
じゃぁ、分かっててウウダギをウルグズに預けたの?
どうしてだ?
そんなのまた虐待されるって判ってたじゃないか!
「・・・じゃぁ、なんで、ウルグズみたいな親失格のヤツに預けるんだ?可怪しいだろ?」
「うむ。だが、それがスキクなのだ。ある程度の歳をとったスキクには、命の大切さを教えるために子を育むと言う教育を施しているのだ。」
でも、それじゃ、スキクの未来はないだろ?
子供は宝と言うものだ。
自分達の未来を切り開く唯一の道だよ?
それを自ら潰すような事してなにが楽しいんだ?
「・・・失敗してもって事?」
「そうだ。」
失敗してもやるって・・・。
流石に学ばないとダメだと思う。
そりゃ、滅びるしかないとおもう。
その辺は変えられないのかな?
なんでそんな悪習を続けるんだろう?
「それって、決まりとかなの?」
「決まりと言うほどではない。それが当然と言う風に教え込まれているのだ。」
教え込まれたって?
誰に?プンタや神とか?
・・・聞きたいところだけど・・・。
その辺はデリケートっぽいからまた折を見て聞いてみよう。
「其れはまた・・・酷いもんだね。で?のこりの2割は?」
「残りの2割の内、1割が小さな時の無理が祟り、亡くなる。つまり、一ヶ月を過ぎた辺りから仕事を始めるだろう?」
そうか、つまり事故死とか過労とかだ。
一ヶ月で体が育つとは言え、皆が皆、同じに育つわけじゃない。
ウウダギがいい例だ。
得手不得手も有るだろう。
「・・・それって、事故死?」
「そうだ。殆どが狩りに出た後、帰ってこれない場合だな。」
「そうかぁ・・・じゃぁ、寿命が短いっていう話しは一人前に成る前に殆どが亡くなるからって事なんだね?」
「ポンピカの言うとおりだ。生き残ったスキクの内狩りを専門に行うスキクは特に長生きは出来ない。常に危険と隣合わせだからなのだ。」
なるほど、一人前に成っても、長生きできないのがほとんどなんだ。
一人前でも罹る病気も有るだろう。
変な食べ物を食べたせいで、中ったりして、最悪命を落とす。
ここは不衛生な環境だし、中たるのも頻繁なのかもしれないしね。
「なるほど。族長、一人前になったスキクも”ジン”で死ぬんだろ?」
「そうだ。歳を経て行けば行くほど、”ジン”で命を落とす。だから、皆、寿命が短く感じるのだ。」
そりゃそうだ。
悪習もそうだけど、長生きすればするほど、
変な意味だけど、死ぬチャンスがやってくるんだ。
ちゃんと回避出来なければ、何方にしても命を持って行かれるわけだ。
「なるほど。で、族長はその事について、なんとかしたいと?」
「・・・そうだ。今までのスキクの慣習や、変わらない世界が、この怠惰な環境を産んでいると気付かされたのだ。気づく原因はポンピカよ。お前だ。」
ふむ。
そうか、きっかけに成ったんだね。
なら僕がこの集落、スキクに生まれたのは意味が有ったって事か。
嬉しいと思う反面、僕なんかが変えてしまってもいいのか?
とさえ思ってしまう。
だけど、族長は変わる事を選んだみたいだ。
「・・・なるほど。で?僕に何をさせたい?”ジン”?それともウウダギの様なスキクを減らす事?」
「欲を言えば、両方だ。」
うん。両方だね。
そうだ、片方だけどうにかしても仕方ない。
この際だ、僕が出来る事はやろう。
たとえ、神やプンタがダメだと言ったとしてもだ。
「・・・ウウダギの様なスキクを減らす案は思いつく。でも、”ジン”については、流石にすべてをどうにか出来るとは思ってない。僕の世界でも”ジン”で死んでしまうヤツは多かったんだ。だけど、スキクほどじゃない。」
「そうか、ポンピカの世界にも”ジン”は居るのか。それもそうか・・・居ない物を知っているわけもないからな」
「だけどね。族長。”ジン”は色々と種類があるんだ。ギギリカの事もそうだけど、似たような”ジン”やわかる範囲であれば、”クスリ”も作り出せるかもしれない。そのために呪術師を紹介してほしかったんだ。」
「それは、覚えておる。雨季が過ぎたらすぐにでも使いをだして、呪術師との連絡を取ろうと思っておる。」
「それなら。僕は異存ないよ。」
「うむ。ポンピカよ。なんとかこの集落を存続できるよう協力してくれまいか?」
勿論協力する。
協力するけど、族長は一つ勘違いしてる。
もし、僕がその事に手を付け始めれば、
族長の権威や威厳が低下するはずだ。
中には、僕を信頼して、族長の言うことを聞かなくなるスキクもでてくるはず。
そうなると、集落内で派閥ができたりといろいろと面倒になると思う。
「だけど、族長。もし、僕がその対策をやるとしたら族長が族長ではなくなるんじゃない?」
「それも覚悟の上だ。ワシは何代も族長を繰り返した。ここで、少しでも変化をもたらし、良い方向へとすすめるのであれば、ワシ一匹がどうなろうと構わん。」
なるほど。
肝は座ってるわけだな・・・ならば、やるしかない。
全力でだ。
「そうか。わかった。協力するよ、そもそも族長に言われなくともやろうと思ってた所だ。」
「そうか。それが聞けてよかった。」
「じゃぁ、僕は寝るよ。」
「うむ。ワシも寝るとしよう。明日は皆を説得せねばならぬからな」
「頑張ってくれよ?」
「ふん。老体に鞭打つような事を言いおって・・・全く、わかっておるわw」
族長はそう言って、横になった。
僕はウウダギをなでながら族長が話していた内容を考えて眠りについた。