ヴァレヴァレ集落の生の実情
只今、山を越えました。
僕は何もできないまま、ククルカンの一匹に掴まれて飛行中です。
依然として、身体の自由はありません。
悔しいです。
ってかあんだけ移動の苦労を考えていたのにもかかわらず、
こんな短時間で移動しちゃうなんてねぇ。
やっぱり、飛行機は早いなぁ。
・・・。
何?このエレベータっていうか自動で運んじゃうシステム。
快適かと思いきや、自由がないのが玉に瑕。
旅客機に乗ればエコノミーだって、サービスの一つは出るかもしれないのになぁ。
この旅客機はサービスが悪い。
クレーム付けてやる!
とか頭の中で考えるだけは自由なんだよねぇ。
景色が独りでに流れていく。
そう言えば、風が当たらないなぁ?
なんかあるのかな?
そもそもククルカンってのは何度見ても頭と翼と身体のバランスが可怪しい。
笑っちゃうぐらい顔が長いし、
こう・・・パッと見ると、
頭の長さが、首から足までの距離くらいって言えば分かるかな?
そう、半分は頭なんだ。
ありえないだろ?
地上をその翼の先端についている鉤爪を使って歩いていたけど、
そんときだって嘴が地面に擦れていた。
嘴だけで身体からはみ出るんじゃないか?
そう思う様な長さなんだ。
要は、飛べるはずがないんだ。
まぁ、僕の知識が正しいとは思わないけど、
飛べる形してないんだよなぁ。
翼の大きさは確かに大きいけど、
前後の重心は完全に前にバランス過多なんだよ。
後ろについてる翼がこれを支えるなら、
相当な揚力が必要じゃないかなぁ?
でも現に飛んでるんだよなぁ。
ホントどんな仕組みなんだろう?
謎すぎる。
まぁ、考える時間はたくさん有る。
身体の自由が効かない分、
思考に集中できるような気がしないでもない。
ん〜・・・。
なんか早々にヴァレヴァレに着いちゃいそうだ。
此の辺りの景色は魂の界から見ているから分かるけど、
魂の界からの景色と、意識の界の景色、
どちらとも違うのが分かるなぁ。
あー・・。
あの岩場の辺りには魂の界では小さな可愛い木が立ってたけどなぁ。
意識の界では大樹で、サイケデリックな色してたなぁ。
現界では、そこに木が無い。
なんで覚えてるかと言えば、
意識の界で見た時、目立ったからだ。
岩は大体同じ様な形をしてるけど大きさや、
削れ方が微妙に違う。
此のことから分かることは、
残留思念の様な物が存在して、
場所に固着する可能性が有るってことだ。
これを的確に分析できるように成れば、
多分サイコメトリーの様な手品が出来るだろう。
まぁ、僕はそんなのどうでもいい。
でも、世界はこうも違うんだという事が面白くも有る。
浸っている内に、
周囲の景色がガラッと変わり始めた。
木々が枯れて、
水が干やがり、
岩が崩れ、
砂が焼けている。
何十年も太陽の影響を受けてしまったかのような・・・。
そんな印象の場所が出てきたんだ。
魂の界ではここまで酷いものじゃなかった。
現界はかなりヤバイ影響を受けているのが丸わかりである。
思った以上に影響が出ている。
中心部と思われるヴァレヴァレに向かって砂漠化が進んじゃっているんだ。
こりゃ、治るのかなぁ?
気のバランスがこうも崩れるとこんな事に成るのか。
ってか、こうなったのってどのくらいの期間で成ったんだろう?
エネルルやブルググに聞いた話じゃここまでじゃないはずだ。
確かに獲物が取れなくなっていたらしいし、
何より、食べ物や飲み物には困っていたけど、
全く無くなるわけじゃ無い印象の話だった。
詰まりエネルル達がウチに移住する直後くらいに大きな変化があったわけだ・・・。
大きな変化?
きっかけ?
・・・。
精霊さんが居なく成った時期。
嫌なかぶり方するなぁ・・・。
探偵じゃないんだし、
僕が推理するようなことでもないんだけど、
やっぱり、精霊さんが柱にされた術の影響だろう。
こんな事出来るの術を使った”妖”の召喚しか無いんだよ。
自然現象を生き物が自在に操るっていうのは相当難しいんだ。
僕がいた時代でさえ、自然をコントロールすることは無理なわけで、
呪術の類での話では昔出来たようだと言う逸話が残っているけど、
そのどの例も祈祷や祈りで、神様が起こした奇跡とされているくらいだ。
詰まり、呪術や魔術とかそういう類でしか”妖”を呼び出せないし、
収めることも出来ない。
現状、陽の気が充満しているけど、
その気に当てられて、生き物が逃げたり死んだりしている様子だ。
かなりヤバイ。
その生き物が死ぬっていう現象が更にヤバイんだよなぁ。
生き物には少なからず魂と言うか気が溜まっているから、
それが死と共に放出された場合、
呪術の影響下では、今回のような柱に引き寄せられるらしい。
生き物の死とともに元凶が寄り強い働きを起こすってことだ。
これ、ヴァレヴァレ自身も生きてる可能性が低くないか?
なんだこれ?自殺のようなそんな術だぞ?
あたりの惨憺たる光景に胸が痛くなる。
そんな中、コアトルたちのうごきに変化が有った。
中心であるヴァレヴァレが見えてきた頃合いのことだ。
高度が段々と下がり始め、
飛行速度も徐々に下がり始め、
最終的にはコアトル全体が地面へと着陸した。
グクマッツが先頭で僕らを振り返っている。
ってかずっと思ってたけど、グクマッツの胴体周り、
あれどんくらいあんだろう?
かなりデカイんだよなぁ。
下手すると直径2〜3m有る気がするんだけど・・・。
長さも相当長い。
最初に有った数日前の頃より大きく成ってる。
明らかに膨張してるんだ。
しかも、最初に見た頃葉あの岩場の崖の上で蜷局を巻く程度だったはず。
今は高層ビル位の高さに鎌首を上げてるような気分だ。
見上げて首が痛い。
でけぇ。
『眷属よ。この先に”混沌”が現れた』
突然響くようなうなり声とともに、
聞こえてくる声・・・。
この声、言葉。
僕の前世で使っていた日本語だ!?
ええ?
日本語使えるの?
ってかなんで?
「え?なんで日本語話せるの?」
『眷属よ。この先に”混沌”が現れた』
同じ事を言う。
僕の中のククルカンがなんとも闘士を奮い立たせている様子が伝わってくる。
地面に着いてから僕は身体の動きが元に戻っていることに気づいた。
だけど、なんと言うかコアトル全体からの影響というか、
グクマッツからの圧力の影響は未だに効いている様子。
多分。この声と言うか言葉は僕の理解できる言葉に置き換えられたっていう。
そんな流れじゃないかな?
グクマッツの喉や口は動いた形跡がない。
どうしよう。
これ僕一匹でヴァレヴァレに特攻してこいって言ってるよね?
「ちょ・・・できれば一匹付けてくれません?僕一匹じゃ無理かもしれない。シャ・グギみたいなのが出てくると流石にまたやられる」
Guuuuuuu『コアトル同行せよ』
どうやら伝わった。
一匹のコアトルが僕の後ろを四つん這いに成ってついてくる。
僕も僕で勝手に足がヴァレヴァレの集落へと向かい始めている。
かってに動く足に力を込めると、
すぐに主導権が僕に戻るけど、
気を抜くとすぐにまた勝手に動き始める。
まぁ、しゃーないか。
しばらく歩くだけだ。
自動歩行させとこっと。
離れた位置から、
警戒もせずズンズン歩く。
集落の前まできても依然として自動歩行。
焦りはない。
なぜならすでにこの集落に生き物が居ないのが分かってるから、
襲われることはない。
ただ、こう言っちゃアレだけど。
この集落に入った瞬間に感じたんだ。
ゾワッとした何ていうか寒気?
しかも、周囲は爬虫類である僕らスキクでも・・・暑いと感じるほどの気温だ。
湿度が低く、それでいてやけに太陽の光が差してくる。
差すというより刺さるなぁ・・・。
痛い。
正直痛みを感じるほどの太陽光が降り注いでる。
こんな中じゃ生き物が生活は出来ないだろう。
集落の門らしき垣根っぽい所を入る。
すぐにテントが有るので中を覗くのかと思いきや、
自動歩行は真っ直ぐ集落の中心、
集会所を目指しているようだ。
僕の後ろにはコアトルが一匹。
何も考えて無さそうな、
意識も無さそうな・・・。
自我がないんだろうなぁ。
ロボットチックな表情だ。
生き物に見えない。
そんなのが着いてくる。
耳を澄ましてもやはり動きはない。
風が強めで、埃と言うか砂が舞っている。
視界はいいほうだ。
ズンズン進む。
正直そろそろ自由行動させて欲しい。
力を入れれば元に戻るけど気を抜くとダメだしなぁ・・・。
取り敢えず此のままだなぁ。
結構距離が有る。
疲れは出ない。
ボケーッと歩いていると、
すぐに集会所へと着く。
すると突然身体の自由が戻ってきた。
・・・。
後ろのコアトルも此方をジッと見てる。
なんならその嘴をしゃくり上げて「イケ」とでも言ってる。
くそっ!
いきゃーいいんでしょ?
多分此の中に呪術の核、
精霊さんを柱にした呪物が有るはず。
なんならヴァレヴァレが居るかもしれない。
多分望みは薄い。
生き物の気配がないからだ。
木の蓋みたいなドアらしきものが傾いているのでそこから入るんだと分かる。
集会所はどの集落でも似たような作りをしてるんだね。
ただ、この辺はミニョルンの影響を受けないのか?
床が上がってない。
地面に着いてるんだ。
でもエネルルとかの話じゃミニョルンの被害は有ったって言ってたはず。
なんだろう?
これじゃ集会所として役に立たないだろに・・・。
まぁ、いいや。
取り敢えず中を覗こう。
傾いた木のドアに手をかけた所で、
動きを止めた。
なぜかと言えば、
猛烈な腐敗臭が拭いだしてくるからだ。
思わず貰ってしまった。
ウップ・・・。
ちょっとお腹のものが出ちゃった・・・。
ちょっとこれ準備なしで中入れないぞ?
後ろを振り返るとコアトルがまた「イケ」としゃくってくる。
・・・絶対後で仕返しするからね?覚えてろよ?
取り敢えず片手で、鼻を塞いで、
何とか臭いをごまかして中を覗くと、
悲惨な状況が見て取れた。
スキクの死体が腐って骨が露出して肉や内臓がドロっとしてるんだ。
虫が湧いてるし、何よりブンブンしてる。
これ・・・。
無理だって・・・中入れないよ。