呼べっつたってねぇ?
「呼べ」っつったって、
そもそも今魂だけだから何も出来ないじゃん。
調査ほっといて戻れってか?
・・・すごく厳しい顔してる気がするんだよねぇ。
やっぱり爬虫類系の顔は表情が分からないなぁ。
まぁ、ほっとこう。
取り敢えずククルカンがわからないっぽいから、
実際に僕が中を覗くしか無い。
精神世界に黒ヤギ猿が居る。
多分既に僕の存在は感知されているはず。
向こうはそれで詮索する手段が有れば、
恐らく僕の体がある場所へ意識か霊体である魂を飛ばすだろう。
意識を飛ばされると魂としての僕は見えない為に見逃す。
それは仕方ない。
意識の界には黒ヤギ猿が居て僕が手を出せない。
魂の界には黒ヤギ猿が居ないけど僕が自由に動ける・・・。
どっちにしても僕が後手なのは変わりないか。
ここは腹くくって堂々と中を覗こう。
目視できる外枠の柵の辺りをグルッと回ってみる。
柵の付近から集落を覗いてみても生き物の気配がない。
それどころか、結構な日数放置された状態に見える。
嫌な予感しか無い。
僕はそのまま柵を越えて中へと進む。
手近なテントの中を覗く。
覗くと行っても物には触れることは出来ないので、
顔をテントの中に突っ込む感じだけど、
中は隙間からの光でそれでも暗くはあるけど見えなくもない。
一発目で嫌なものを見た。
小さく干からびて、ボロボロに成っているスキクが二匹・・・。
一匹はどうやら親で、もう一匹は子供だ。
嫌なものを見た。
二匹とも同時期に亡くなった様子だ。
二匹とも寄り添ってしがみついた状態で亡くなってるんだ。
こりゃ様子から見たら餓死意外にないなぁ・・・。
餓死した後誰にも気づかれず、
隙間風で風化して、ミイラ状態に近い位乾燥したんだろう。
カリッカリに成ってる質感が逆に可哀想でならない。
テントから顔を戻し、集落を全貌してみる。
ちょっと憂鬱だ。
恐らくどれも似たような状態なんじゃないか?
生きている連中が果たしているのだろうか?
ヴァレヴァレ自身、生きているとは・・・。
本当に怖い状態でしか無いなぁ。
心情的にかなり鬱っぽくなりそうだけど、
取り敢えず他のテントも覗いてまわろう。
ヴァレヴァレが生きていれば集落の真ん中にある集会所に居る可能性があるけど・・・。
此の分だとなんか違う感じもするよね。
集会所への道程に有るテントは全て見回った。
結果から言うと生きてるスキクは居なかった。
がら空きのテントのほうが多かったけど、
述べ8テント中、3テントだけ餓死したスキクが居た。
こりゃもうダメだわ。
まともじゃないけど、
此の場所は多分もう良いことが起きない。
ここまでヤバイとはなぁ・・・。
ヴァレヴァレは何を考えてこんな事をしたんだろう?
あと、気になる点が有った。
死体が有るにもかかわらずだ・・・。
ヴァン。
詰まり魂が一つも見えない。
これはありえないだろう。
多分どんな術か知らないけど、
なにか起きてるんだ。
その結果、黒ヤギ猿が?なんて考えてしまう。
さて、テントは一応回ったことにしとこう・・・。
もう、集会所を覗くとする。
明らかに周辺の気のバランスが可怪しい。
原因はそこだと分かる。
だって、陰の気がそこに集中してるんだ。
陽の気がどっかでフィルタリングされて、外へと流れている。
こうなると、
”妖”が出現してもおかしくない。
実際に”妖”は見たこと無いっていうか前世で体験したことがない。
でもじいちゃんの話に寄ると、平安時代とか良く出現したそうだ。
そんな歴史が有るんだそうだ。
多分今がそういう”刻”だと思う。
集会場の入り口の前に立つ。
依然として何かが起こるわけでもない。
明らかに可怪しい。
既に陰の気が集中しているエリアに入っている。
ククルカンはついてきてるけど、
表情が読めないはずの顔に明らかな筋が湧いてる。
眉間の変にシワが寄ってるし、
かなりご機嫌斜めなのではなかろうか?
僕が目を向ける度に『呼べ』と連呼する。
正直うざい。
陰と陽の気の境目がクッキリと判れていた。
詰まり、陰をい惹きつけて陽は外に出すそのエリアがそこできっちり判れているんだ。
自然界で似たような状態に成る場合があるそうだけど、
それでも境目はグラデーションに成るってじいちゃんが言ってた。
詰まりハッキリ判れているのは人為的・・・此の場合で言うと人じゃないからスキク為的?
言い直すの面倒い。
まぁ、なんにしても術を用いなければこんなしっかしとした結界を設けることは出来ない。
そう、これは結界だ。
外と内を分け隔てる。
詰まり界と界を分け隔てる行為が結界であり、
その界を定義するために術が必要なんだ。
此のことから、少なからず、
精霊さんよりももっと高度な呪術的技術力が高い輩が居ることが分かる。
ソレが恐らくヴァレヴァレ自身か?
もしくはあの黒ヤギ猿が関係してるかだなぁ・・・。
結界を越えたら、
僕の存在がどの界に居て、どういう行動を取っているか、
手に取るように分かるらしい。
更に高度な結界の組み方をすると、
奇門遁甲を用いた八門遁甲が行える。
八門遁甲ってのは遁甲盤に表示されている8つの門。
休門、生門、傷門、杜門、景門、死門、驚門、開門の8つの門を指すんだけど、
それぞれ、中心と成る場所からどの方向にどういった気が巡るのかという話なわけだ。
言ってる意味がわからないだろうけど、
要約すると、どの門(方向)から入っても良いけど、
中心の場所へたどり着くためには、
吉方の方向へと進まなければならないってことだ。
下手に込み入った八門遁甲をされると入ったら最後出ることができなくなるっていう話。
大抵が迷ったりしてしまうって話だ。
解決するためには遁甲盤を持ち、
正確に方向を割り出さないといけない。
まぁ、面倒な迷路を作り出すようなものらしい。
前世では中国でそういう思想が有ったそうで、
僕はじいちゃんからそんな話を聞いただけだけど、
漫画やアニメなんかにもよく取り入れられる要素でだったので思えている。
まぁ、考えを巡らせるだけなら誰でも出来る。
要はこの状況がなんなのか?それをハッキリさせないと話にならない。
いざ生身でここに来たら罠にハマってしまったとかだったらお話にならないからだ。
慎重に集会所のドアと言うか草を編み込んで作ったシーツと言うか掛け物を抜ける。
魂の界で、
現界で有る場所と似たような、
もしくは同じ様に見える人工物っていうのは、
その存在が固定確定しているっていう話だ。
魂の世界は自由なんだ。
世界が、その形をその形として認識していなければ、
その存在っていうのはその形を保てなく成るっていう話だ。
よくわかんないけど、要は、物を物として形作るのは認識だそうで、
なんやかんやあって、その存在が確定したんだそうだ。
じいちゃんの言い回しがよく分からなくて聞き流してたけど、
魂の界、今居る場所で物が物として存在していることが、
自然であるように見えて、
実は不自然だと言うことに気づいた。
大自然はそこにそう有るものだと思っていたけど、
時間が経つにつれて、様々な変化をするのが自然なわけだろ?
にもかかわらず、魂の界は現界のそれを模倣しているわけじゃなかったりするんだ。
様々に残っているものっていうかそういう物が見て取れたりする。
現界ではそこに岩が無いけど、
魂の界からそこを見ると大きな岩が残ってたりするっていうことだ。
そういう事を言いたい。
まぁ、考えが長くなるのは僕の悪い所ではあるものの、
少しでも考えをめぐらさないと、いざ現界で罠にハマる事を避けないといけないんだ。
さて、掛け物の中、
集落の中心で本来ならば活気が有る場所・・・。
集会場に踏み入ったけど、
陰の気が密集していて、その陰の気が明らかに僕の侵入を拒絶している気がする。
視界がぼやけて、暗く、普通なら見渡せる程度の広さなはずなのに、
奥が見えない。
こりゃ、ヤバイんじゃないかなぁ?
そんな瞬間、後ろからククルカンが僕の肩口を嘴で噛んで、
集会所から放り出される。
魂の界でそんな事が出来るのか?
物理法則が成立しないこの界でどうやって僕の体に触れたんだろう?
景色がグルンと周り、
ゆっくりと地面へと着地する。
外に放り出されたんだ。
ククルカンが入り口前で此方を睨みつけている。
多分これ以上入るなと言ってるんだ。
さっきちょろっと中を見た時生き物の反応が有るっちゃーるような、
弱いっちゃー弱いっていうか・・・曖昧な感じだったなぁ。
もし居るとしても一匹が限界だろう。
相変わらず精霊さんは見つからない。
でも多分だ、多分この現象の要と言うか柱にされてるんじゃないかなぁ?
こんだけ高度な術が使えるヤツが精霊さんを見つけたら、
そりゃ人柱ならぬスキ柱にするだろう。
なんだか僕の中で確定だと言う思いが強い。
そんでもって、一匹残るなら明らかにヴァレヴァレだ。
ブルググからの話なら、ヴァレヴァレは随分と術に精通してるって話だし、
エネルルからの話を統合するとかなりの食わせもんだという。
自分の集落を滅亡に進ませ、
その魂を刈り取り、
最終的には利用するっていうその暴挙はやべェ。
こりゃ気が狂ってるっていうレベルじゃないなぁ。
僕こんなのと対峙しなきゃいけないのかぁ。
シャ・グギのときより気が重い。
ってか酷だよなぁ・・・。
ククルカンも御冠っぽいし、一旦もどるか。
多分この集会所の奥に精霊さんがなんかエライことになってそうだ。
まぁ、最悪ダメでしたって族長に報告しよう。
どうせ精霊さんだし、ウウダギはそもそも良い顔しないしね。
戻ろう。