段取り開始
草原とは名ばかりと言っていい。
今、僕らが進んでいるルートは、
それなりに平坦なものでは有る。
所々ゴロゴロと大きい岩が転がっていたり、
倒木と朽ちた木々が行く手を塞ぐこともしばしば。
草原だけ有って、背の高い木々が密集しては居ない。
だけど、背の低い木がポツンと生えていたりと、
森とは違う特徴が見て取れる。
そう言えば話が変わるけど、
僕らはここまで来るのにかなりの道を作ってきている。
うん。
道と言うか獣道?
そんな感じだ。
アンキロが通れない様な所は全て避けて通っているので、
ウネウネと蛇行しているけど、
それなりに道幅が有るような感じに踏み均しているんだ。
それに木々が行く手を塞いでいればティティムが主体となって木々を倒して回る。
なもんで進行速度はかなり遅い。
ティティムは普段自分から何かをやろうとは思わない質らしく、
僕やベネネズ辺りが声を掛けると、重い腰を上げる。
ザウスのそれもかなり筋力が有るように見えるティティムのパワーは貴重だった。
筋力だけ見れば多分、
ギュギュパニやオルガよりも強い気がする。
ただ、同仕様もなく頭が悪い。
まぁ、仕方ないけど、
ティティムと比べるとやっぱりギュギュパニやオルガ、それにギリュリュは頭が良い。
もしかしてギュギュパニの一族は雌が優秀で、
雄は脳筋しか居ないのかもしれないなぁ。
育てられたパパムイもどっちかって言うと脳筋の部類だしなぁ。
多分教育の仕方が違うのかもしれない。
まぁ、そこは良いや。
さて、ただ一口に草原と言ってもずーっと地平線まで平坦というわけではない。
斜面の様な所や、見えないだけで崖っぽい所も有る。
遠くを眺めると、大きな山々があり、
その山と山の間に谷が見える所まで、草原が伸びているのが分かる。
今進んでいる場所はどちらかと言えば高い場所らしく、
この先はなだらかな下り坂の様な作りになっていて、
ずーっと先に見える川の場所まで降りていかなければならなそうだ。
この川は、谷まで続いていて谷の中を通っている。
なので、僕らは川沿いに進み谷を目指し、
谷を通って、山向こうの土地へと行くことに成る。
以前意識だけを飛ばした時に地形は少し頭に入れてあるので大凡間違いはないハズ。
ただ一つ気がかりなのは、
意識下の印象世界っていうのは随分と現実の世界と違うという事だ。
既に僕は初めての場所に来ているわけで、
意識で空を飛び、下を眺めているとは言え、
その風景というのは随分と違うものだ。
多分、動植物なんかが発するエゴが他の意識に関与するんじゃないかと思っている。
まぁ、そうとしか思えないんだ。
だって、今僕らが野営している場所も実は空から眺めた場所なのを憶えているんだ。
意識下での此の場所の印象は、
だだっ広い草原にサイケデリックな花々が咲き乱れ、
動植物が生命力を盛大に吹き出している様なものだったけど。
現実の此の場所は、
草原と言っても地面が少し硬く、
石がゴロゴロしていて、枯れ草が絨毯の様になっている場所だ。
キャンプするにしても、
焚き火一つ作るのに掘り起こさないと燃え広がりそうで怖い。
まぁ、草が多いので、索敵に対しては音が要に成る。
なので、草が良い警報代わりと成るわけだけど、
ハンモック生活が板につき始めた僕なんかは地面での寝起きは微妙に体が疲れる。
ゴロンと寝れば草の絨毯の下には、
結構尖った石やら岩の先だったりと痛い思いをここ数日しているわけだしね。
さて、此のまま何事もなく谷を越えれるなら良いんだけどね。
ってか、其の前にシャ・グギ狩りが待ってるんだよなぁ。
よーく考えると草原の所でT-REXと思われるシャ・グギと対峙するのは無理が無いか?
・・・。
森の中で、身動きを封じてやれば少しは勝算が有るような気がするけど・・・。
まぁ、シャ・グギが追ってこれればだけどね。
森の中で歩きづらいにもかかわらず餌を追跡するだろうか?
すぐ側に草原で、見通しも良い場所に餌が有るわけだ。
僕らが美味しい餌だと思ったとしても・・・。
気を引くだけで一苦労なきがする。
「なぁ?ポンピカ」
「ん?」
「お前さ?シャ・グギをどうやって狩るんだ?」
「え?取り敢えず持ってきてるこの毒ツボの毒を塗った武器で傷を与えれれば、幾らシャ・グギだってただじゃすまないと思うからね。弱ったところを襲おうと思うよ?」
「・・・?なんでそんな卑怯な事をするんだ?雄ならもっと正面からシャ・グギを止めれないと雌にモテ無いぞ?」
「・・・。僕、雌にモテたいとか思ってないんだけど・・・それに死ぬよりはマシでしょ?クロウスボウだって持ってきてるんだし、遠くから取り敢えず毒矢をブチこむよ」
「う〜ん。オレはちゃんと正面から戦ったほうが良いと思うけどなぁ?どう思うベネネズ?」
「えっ?オレに何か意見求められても答えれないぞ?」
いきなりベネネズに話し振っても聞いてないだろ?
そして、聞いてないのに何とか答えようとするのはどうなんだ?ベネネズ。
「そうか?ポンピカの作戦はうまく行くと思うか?」
「あー。多分うまく行くと思う。なぜならポンピカは卑怯な事が得意だからだ」
なんだろう?僕の評価はすごく低い。
どいつもこいつも二言目には僕が卑怯者で姑息で、ずるいという。
生きるためにはソンな事言ってられないだろうに・・・。
まぁ、言わせておけばいい。
生き残ったほうが勝ちだ。
多分。
「ほーん。なるほどな。確かにポンピカは姑息で卑怯だ。うん。じゃぁ大丈夫そうだな」
何をどう理解して納得したのか小一時間問い詰めてやろうか?
少しティティムの株がココ最近の働きで爆上がりしてたのにココに来て急降下だ。
ってか僕のこと卑怯だの姑息だの言ってるのに僕の横によく座れるよね?
やっぱり足りないんだろうなぁ・・・。
なんだろう?パパムイのほうが可愛く思えてくるなぁ。
そんな事を繰り返して居る。
数日なんの変哲もない荒れた草原をひたすら進む。
一日で進める距離は暫定だけど此の場所草原で、約20Km程度だろう。
ぶっちゃけ遅い。
でも足場が悪かったりする中で、よく進んでいるように思うなぁ。
もう数日移動すれば、シャ・グギのテリトリーと言われている場所にたどり着くらしい。
と、言うのもテリトリーを知っているのはヴァレヴァレの連中らしく、
其の中でもよく長距離の移動をするチームに所属している連中、
つまり、オルガクルガのチームに所属している連中って事だ。
そこで役に立つのがベネネズだ。
ベネネズはエネルルにベルルベを人質ならぬスキ質に取られていたということも有り、
族長派の情報にもある程度精通したと見られる。
まぁ、そんな中で、シャ・グギに付いてのテリトチーや習性なんかの情報も持ってるんじゃないかと、
思わないでもない状態なわけで、まぁ、交尾ショックや色々の中で連れてこれたのが、
ベネネズとベルルベだったんだよね。
「ベネネズ。ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?なにが聞きたい?」
「シャ・グギの生態っていうか習性とか詳しい事は分かる?」
「この間話した事以外は憶えていない」
この間話したこと・・・。
以前も僕はベネネズに話を聞いている。
内容はこうだ。
シャ・グギっていうのはそもそも個体を示す名前らしく種族としての名前は、
”ムベンベ”っていうらしい。
前世でなんか聞いたこと有る語句だと思う。
イマイチなんだったか思い出せないけど・・・。
まぁ、置いておいて、
昼に活動する事が分かっているらしい。
夜は森の中でも定位置にすを設けて寝るらしい。
警戒心が非常に強いらしい。
巣を作る習性が有るらしい。
一匹の大型のムベンベを中心とした社会構造を取っているらしい。
小さいコミュニティを設けているらしい。
声を使った会話を行うらしい。
嗅覚がとても良いらしい。
体が大きいらしい。
シャ・グギは其の中でも特に大きく見上げるほどであるらしい。
非常に狡猾らしい。
肉を好んで食べるらしい。
狩りの能力は余り良いとは言えないらしい。
獲物は基本横取りを行うらしい。
・・・そんな話を聞いた。
つまり、狙うなら夜で、睡眠中の奴を遠巻きから狙撃する必要が出る。
もし見つかれば仲間よろしく襲われるということだ。
鼻が良いらしいので、風下からの接近しか望めない。
幸い狩りの能力がそれ程高いものではないそうだから、
逃げ切れる可能性も無いわけではない。
まぁ、望みはある。
ただ、僕はできればもっと詳しい詳細は知りたかった。
例えば具体的に何処が寝床か?とかだ。
「ベネネズ。巣を作るって言ったよね?」
「ああ」
「何処ら辺にあるか分かる?」
「・・・流石に知らない。多分、オルガ様なら知っていたかもしれない」
「・・・なるほど」
「もういいか?ベルルベが心配だ」
「ああ、いいよ。ごめんね」
ベネネズが戻り、
野営の支度を続けている。
ティティムはご自慢の武器を構えて襲撃に備えている。
まぁ、いつもの感じだ。
・・・さて、オルガに聞いてくるか・・・。