旅出る直前
ティティムとギリュリュ、
それに二匹のクロデルがこの集落に来てから二ヶ月は経つ。
そろそろ僕も準備できたし”問題”を片付けに行こうか悩んでる最中だ。
クロデルは既に全快しているんだけど、
ティティムとギリュリュは一向に”ト”に戻る気配がない。
もしかして、何がなんでもギュギュパニとの交尾を済ませる算段だろうか?
多分、いくら待っても無理だと思う。
ティティムに鋼の刃がついた形でハルバードを与えた。
結局作ったのは僕じゃなく、ギュギュパニが作ったんだ。
なんだかんだ言って、ギュギュパニは面倒見が良い。
僕はこういうのが作りたいんだけどっていう話をした後一度お説教を受けたが、
最終的にティティムに与えるんだという話からそれならと、
ギュギュパニが僕の鍛造を真似ながら作った。
かなり出来が良い。
ぶっちゃけ僕より上手い。
もう僕が作らなくていいじゃんって思った。
なので、旅と言うか”問題”に挑む上で必要と思われる物は、
全てギュギュパニが拵えてくれたんだ。
さらにパレンケに話を持ちかけて、
膠と革を使ったハードレザーの防具を用意してもらえた。
ハードレザーっていうのは、
簡単に言えば膠を染み込ませた革を柔らかい熱々の内に形成することで、
形を作るという技法なんだけど、
厳密には、
膠を溶かした溶液に革を沈めて、
芯まで浸ったところを木製の型に貼り付けて、
それを今度専用のハンマーで叩いて伸ばす、
更にそれを繰り返して何枚もの革の層を作った辺りで、
石灰をまぶして乾燥させるとまぁ、そこそこの重さは有るけど、
弓矢なんか通さないハードレザーと言われる物が出来るんだ。
現在の僕は人間の頃に比べると、
鱗が有るし、背骨や肘や膝とかに大きな瘤と言うか、
そこまで鋭利なものではないけど、棘が出ている。
なので、防具をスキクである僕の体に着ると成ると、
かなりの制約が出てくることがわかった。
なので、要所要所の弱そうな部分をハードレザーで補うように、
着用の鎧を作った。
まぁ、かなりの部品点数に成ってパレンケが少しおかしな感じに成ってたけど、
交尾ショックからこっち神経をすり減らしていたので、
少し開放的に成るくらいは良いだろうと思う。
僕が揃えた武器は、オーソドックスな物ばかりだ、
丸盾と剣という簡単なものだ。
あと、カランビットとブレイカーは金属製にした。
完璧に近い。
これで、接近での格闘での勝率は高くなる。
丸盾もパリィ専用な小さい物だ。
具体的に言うと、
拳2つ分くらいの金属と木で作られた円形の物で、
左手に抱えて口撃された時に此方から迎えて口撃を叩いたり、
反らしたり、受け流したりするためだけの物だ。
小さく作ったのも相手より早く動けるようにと、
視界を盾で塞がないためだ。
もう一つ用意した剣は、細剣と言われる物だ。
刃を付けていない。その代わり、こっちでも攻撃をそらすことも出来る。
尖った太い針を思わせる作りのもので、刺突を目的に作ったものだ。
ようは、切った、叩いたと言っても、
皮や脂肪で止まってしまっては意味がない。
実際に獲物を仕留めるのに使われる行為っていうのは概ね、
刺突に限られる。
なぜかと言えば、
一番イメージが出来るのは皮膚を広く切るだけの力を一点に集中できれば、
その攻撃は内臓へと容易にダメージが届く。
刺突が致命打であるのは常なことだ。
生き物の大半は血液が流れている。
更に各種臓器が筋肉とその上層部に脂肪と皮膚という壁を用意している。
それだけ守らねば生物は生きていけない。
つまるところ内蔵にダメージが出れば、
多くの動物は死ぬのだ。
血が流れれば死ぬのだ。
最も容易に内蔵や血液にダメージを与えられる攻撃の種類というのか?
まぁ、そういう物は、刺突がダントツである。
槍然り、ナイフで斬りつけるより刺すだろ?
刀だって、結局は刺すわけだ。
剣道の突きはその練習だしね。
ただ、取り回しを重視したために、
もし、相手が武器を持っていた場合を考慮しての、
パリィシールドってやつが必要に成った。
ただ、僕は無手での所作のほうが向いているかもしれないけど、
武器に頼ったほうが効率的だし、容易なのが利点だ。
体力の消費も抑えることが出来る。
シールドも最初、
十手のほうが良いかな?と思ったんだけど、
もし大きな動物相手だった場合、
十手では受け止めることが出来ないと思ったんだ。
そもそも自分より大きな動物の打撃等を受け止めるつもりはないけど、
それでも大事な部分をカバーできそうなのがシールドだっただけだ。
う〜ん。
結構悩んだんだよね。
まぁ、こんな物の使い方って言うのもじいちゃんが河原で、
教えてくれたたわいない遊び程度のことではあるんだけど、
実際に使えるかは、実践しないとわかんないや。
揃えるだけは揃えたし良いかな?
「ポンピカよ。そろそろ頃合いか?」
「族長はなんでそんなに僕を行かせたいの?」
「それは”問題”だからじゃな」
「族長と精霊さんは余り接点ないよね?」
「シャ・グギの捕獲は重要だろう」
「まぁ、そっちは確かに重要なのかもしれないね」
「まぁ、準備が出来たのなら数匹見繕って旅をするのだ」
「でも、いいの?数匹って言ったって、この集落殆どが皆お腹大きいよ?」
「・・・確かに・・・連れていける雄は皆、雌の食事で手一杯ではあるな・・・」
「だからもう少し落ち着いたらで良くない?」
「う、う〜ん・・・。しかしなぁ」
「ん?もしかして僕がこの集落に居るのがマズイの?」
「何故、マズイのだ?」
「マズくわないんだね。じゃぁ、精霊さんが早急に必要な事態にでもなったの?」
「!・・・」
「成ったんだね。なんなの?」
「・・・ポンピカよ。少し森で話そう」
「ああ、他に聞かれたくないんだね」
頷いた族長の後に続いて、
森の中へと分け入る。
ってか、年寄りであるはずの族長の腰とかが、
以前よりシャッキリして曲がっていないのが気になる。
すごく元気そうだし、
鱗のツヤも最初の頃より全然違う。
痩せこけていた腕とかも既にパンパンとまでは行かないけど、
そこそこ筋肉質で、太く成ってる。
明らかに60代のお祖父ちゃんから、
30代の叔父さんくらいに若返っている気がする。
気がするのは、僕の感覚がスキクじゃなくて、
人間だからさっぱり読み取れないだけだけど。
多分若返ってるはず。
だって、森の中を歩く姿が堂々としてるし、
力があるしね。
そんな事を考えてると静かな森の中で止まる。
「ふむ、ここなら良いか」
「で?聞かれたくないのってなに?」
「丘の石のところは知ってるな?」
「ああ、知ってるよ?」
「ワシがあそこで、焼き物を作っておったら、見知らぬ生き物を見かけたのだ」
「見知らぬって?どんな形?」
「そうじゃな、簡単に言えば、プンタの様な生き物じゃった。プンタと何かをつなぎ合わせたような・・・そんな形じゃったな」
プンタって、確か両生類なんだよね?
カエルさんって名前つけるほどカエルに酷似してたのが第一だ。
他のプンタがどんな両生類科知らないけど・・・。
「そのプンタってのは蛙に似てた?」
「カエル・・・確か、お前の昔の記憶の動物だったな・・・ワシでは分からぬが」
カエルっぽい絵を地面に描いた。
「ほう・・・。まぁ似たりじゃな。確かに目が大きかった。ワシが知っている第一のプンタはまさにそれに似ておる。確かにプンタはカエルじゃ」
「その見知らぬ生き物もにてた?」
「ふむ・・・似て居たかもしれぬ。もっと細くて、ヒョロリとしておった。顔もどことなくカエルに似てはいたかもしれぬ。ただ、尻尾が有ってな、さらに表皮が滑っておったのだ」
ん?それはプンタじゃないね。
なんだろう?
サンショウウオみたいなものか?
「そうじゃな、色も黒とクダモノのような色の斑点が体全体を覆っておったな」
なるほど・・・わかんないや。
でもまぁ、多分表皮が滑っていてってことでサンショウウオっぽい感じなんだろうと思った。
「で?本題なんだけど・・・その生き物が?なんかあったの?」
「ああ、そうじゃな、その生き物は古い言葉を使いおってな、ワシが知ってる最古のことばで、旧き者が語る言葉だったのだが、その言葉で、ラマナイを此処へ連れてこいと命令されてのう」
「命令って・・・聞く必要無いだろ」
「いや、恐らく旧き者の眷属やもしれぬと思ってな・・・引き受けてしもうたのだ」
「・・・随分軽率な事したね」
「まぁ,そういうでない。ワシだって、怪しいとは思ったが、その生き物はあの丘の石の隙間へ、スルッと入って消えて亡くなったのだ。それをみて、ワシはアレは眷属だと確信したのでな」
あー。
もしかして、第一がなにか困ってるのか?
僕に直接言えばいいのに・・・まぁ、気を利かせてくれた可能性もあるけど、
どうしようか?
一度プンタに会うか?
でも、今回は精霊さんが居ないから体を放置させるわけに行かないんだよね。
・・・なんか対策できれば良いんだけどなぁ。
まぁ、いいか。
つまり、精霊さんを「呼んでこい=助け出してこい」なわけだ。
「呼んでくる期間とか決められちゃったりしてないよね?」
「してはおらぬが・・・。声や雰囲気からすると切羽詰まっておるようじゃしな・・・」
なるほど、緊急事態な可能性があるのか・・・。
わかった、取り敢えず、第一はこの集落に加護や恩恵を与えてくれているから必要不可欠だ。
そうなると、第一の”お願い”は聞かざる終えないわけだ。
わかった。
もうちょっとぶらついていたかったけど、
やるしか無いのね。
「そうか。でも、そんな話なら集落で話してもよかったじゃん」
「・・・恐らくワシがみた眷属は、普通のスキクが触れてはならぬ、禁忌とされている生き物でな、噂程度でしか知っておらぬ者だ。ワシでさえ実際に見るのは初めてじゃったし、なにより、噂とは随分違う形であったが、間違いないと確信したのじゃ」
・・・そんな禁忌な生き物がホイホイでてきちゃマズイだろ。
ってか第一が相当ピンチなのかもしれない?
ん?ってかあれ?
普通のって・・・。
「・・・普通のスキクはって、僕に話してよかったの?」
「お前はもう普通ではない。見れば分かるじゃろ・・・もしかして、普通だとでも?思ってたのか?」
すごいビックリしたお目々してるけど、可愛くないからね!
そうかぁ。
僕普通じゃなかったんだなぁ・・・。
「・・・じゃぁ、そろそろ最終の準備して出かけるよ」
「すまぬな」
族長と話した後、集落に戻った僕は、
取り敢えず何匹か連れていけるって話なので、
見繕うことにしたわけだけど・・・。
「どうしようか?ウウダギ」
「ん?」
「連れてくの誰にしようかって話」
「今、誰も連れていけない。雌、皆お腹大きい。子供出来る」
「だよねぇ・・・。タイミング悪いよね?」
「悪い」
「どーしよかなぁ〜」
「んー。ポンピカ」
「ん?」
「ティティム連れてく。ギリュリュは此処に居る」
「ティティムって、ザウスだよ?しかも他所のだよ?」
「大丈夫。ギュギュパニにお願いする」
「んー。ん〜?」
「ティティムが行く。ギュギュパニと仲良くなる。言う」
あー。なるほどね。
それ良いね。
「じゃぁ、ティティム連れて行こうか。他に荷物持ちがほしいんだけど・・・」
「ベネネズ。ベルルベの二匹動ける」
「えっ?交尾してないの?」
「ベネネズ交尾しなかった。ベルルベも大きい。二匹動ける」
なるほど。
じゃぁ、三匹お供してもらうかね?
「ウウダギありがとう。しばらく居なく成るけど、一匹で大丈夫だね?」
「うん。僕大丈夫。でも早く帰ってきてね」
可愛いなぁ。
とーちゃん早く仕事終わらせて帰ってくるわ。
ウウダギに相談して正解だった。
なんだかんだ言って良く皆のこと知ってるし、
細かい事もよく気がつく。
なもんで、ティティムの所に向かうと子供連中と戯れている。
更にそこにクロデルの二匹も子供達にじゃれられて困り顔している。
「ティティム。少し話がしたいんだけど・・・」
「ん?どうした?」
「早い内に”問題”を解決しに行かなきゃダメそうなんだけど」
「ほー。アレだよな?シャ・グギ捕まえるってやつ」
「そうそれ、それと、ラマナイってのを助けに行くってやつね」
「2つも同時にやんのか?」
「そなんだよぉ。今回なんか厳しいこと言われちゃってね」
「ほぉーそれで?なんで俺にそんな話しすんだ?」
「いまさ?集落の殆どの雌が卵孕んでるでしょ?」
「ああ、交尾が有ったって話だな。俺はまだだけど」
「ティティムさ?僕についてきてくんないかな?」
「えっ?なんでだ?そんなの俺関係ないだろ?」
「関係ないんだけどさ?もしついてきてくれるならギュギュパニとの仲取り持つよ?」
「やる!行く!」
即決。
結局ティティムとは余り話さないですんだ。
ティティムには後ほど声を掛けると言ってその場を後に、
次に向かったのは採掘場。
採掘場はここ数ヶ月全然見に来ていないので、
正直何処までどんなに成ってるか、怖い。
採掘場が見えてきた。
縦穴が有った場所は木材による蓋がかけられていて、
縦穴の横には少し大きな小屋が設置されている。
その小屋なら多分5匹くらいは寝泊まり出来る感じだね。
小屋の前では、大きな難いの変わったスキクが鉱石を取りまとめている。
取り敢えずそいつに話しかけよう。
「すいませーん。ベネネズいるー?」
「ん?ポンピカ?」
ん?知り合いだっけ?
全然知らない顔知てるし、
何より鱗の色見たこと無い位褐色。
初めて見るんだけど・・・。
「なんだ?」
「えっと、ベネネズいるかなぁ?って」
「? だからなんだ?」
「いや、ベネネズに用事なんだけど?」
「ポンピカ?大丈夫か?少し見ない間に物忘れか?」
「はぁ?ってかお前誰だよ」
「何いってんだよ。俺だよ。ベネネズ」
「・・・」
変わりすぎだろ!
体格とか骨格や鱗も以前と別じゃねーか!
「ちょ!見ない間に変化し過ぎなんだよ!」
「はぁ?俺そんなに変わってねぇよ」
「いや、変わった。ってか別物。所見で判断できないくらいに別物」
「そんなことねーだろ。ベルルベも見分けつくし、バルバルだってわかるぞ?」
「それ日頃から居るやつだろ?」
「ギュギュパニだって、分かるぞ!」
「しらねーよ!取り敢えず、ちょっと話あるから聞いてくれよ」
「ったく、なんだよ」
「僕が受けてる”問題”の事聞いてる?」
「ん?シャ・グギのやつか?」
「それそれ、それに仲間つれてって良いって話があるんだ。なのでベネネズとベルルベ連れてく」
「ちょっとまてよ。なんで俺と子供連れてくんだよ」
「他のつれてけねーんだよ」
「なんでだ?」
「バルバルもそうだけど・・・みんな交尾の後のショックが酷いし、何より雌が大量に卵孕んでて使えねーんだよ」
「あー。そうか、確かに・・・。なら他にも交尾してないやつ居るだろ」
「他は食材の収穫とかで忙しいんだよ・・・とりあえず卵産むまで雌が何も出来ないからね」
「う〜ん・・・。そうすると俺のとこだけか・・・」
「まぁ、交尾しなかったのが少なかったんだ。悪いとは思うけど、何とか付いてきてくれないかな?」
「俺は良いけどな・・・ベルルベはお前のこと怖がるぞ?」
え?そうなの?
僕子供に怖がられてるの?
「・・・そうなの?」
「ああ、何でもクロデル潰したんだってな?」
「ああ、この前ね。取り敢えず足折ってやったけど、もう治ったし子供にたかられてるよあっちで」
「二匹だって?」
「まぁ、二匹だったけど?」
「クロデルに勝てるスキクなんておかしくねーか?」
「そんなこと言ってもねぇ。それにこの旅にはザウスのティティムもついてくるよ?」
「ザウスが?!なんで?スキクに従うのか?どうして?」
「すごい疑問だろうけど、そういう話なんだけど・・・」
「ウソだろ? マジか・・・」
「・・・で?付いてくと俺等はシャ・グギの囮に使われるんだろ?」
「なんで?囮はしないよ。ってかなんで仲間を囮に使うの前提なんだよ?」
「だって、シャ・グギだぞ?絶対一匹でどうにか出来ねーぞ?クロデルとわけが違うんだぞ?」
「いや、ズルはしないよ。ちゃんと僕だけで対処するから大丈夫」
「ポンピカがやってる最中、俺等どうしてれば良いんだよ?」
「安全を図るなら、木の上で待機してるか寝てるでも良いと思うよ」
「マジかよ・・・」
「マジなんですが・・・」
「取り敢えず、そういう事で近々連れてくからね?そのつもりで居てね」
「・・・ベルルベには会っていかないのか?」
「僕のこと怖がるんでしょ?」
「まぁ、そうだな・・・」
「ベネネズからちゃんと伝えておいてよ。それでいいさ」
「お、おう。取り敢えず準備だけしておくわ」
「はーい」
手を振って、お別れした。
なんかあのまま採掘場の中に入ったら、
もっと変化があるだろうし、
正直ついていけないからベルルベではないけど怖い。