まぁ、思い通りには行かないものだ
ザーザースがとりわけよく使う武器と言えば、
棍棒である。
木の根っこをそのままぶん回して使っているイメージそのままである。
ただ、ある程度石を加工する技術が育っている地域であれば、
少なくとも手斧に似た武器が存在する。
事実この集落ではギュギュパニが石の加工をするため、
石斧を持っていることが有った。
他にもクグナと言われる石器ナイフが最もポピュラーかもしれない。
現在ウチの集落は、完全にザーザースの文明を押し上げてしまっている。
その為、現在では新石器に寄る道具が出回り、ココ最近ではマガと称される金属が、普及を始めた。
こうなると、かなり僕の転生前に仕入れた知識が生かされ始める。
「ティティムは何でも使うって言ったけど、実際使った事がある武器ってなんだろう?」
「ん?そうだな・・・。選べて使うならパンタムか、ゴリテだな」
両方わかんないです。
「そのパンタムとゴリテってどんな武器なの?」
「知らないのか?ギュギュパニはパンタムの優秀な使い手だぞ?”ト”での期間、パンタムでのし上がったからな、オレは真似できねーけど」
そのパンタムって知らないんだよ。
早く答えください。
「・・・? で?どんな形してるの?」
「ん?形か? う〜ん、こーなってこーなって、小この辺がこうなってるやつだ」
抽象的すぎて身振り手振りじゃわかんないわ、
もう良い。
「イマイチ伝わんないから、取り敢えず、此処で待ってて、ベベビドのところからよさそうなの持ってくるよ」
「ああ、頼む」
相変わらずうるさい音の中で作業がよどみ無く続いている製材所。
その奥の方にベベビドが定位置で鎮座してる。
鎮座じゃないな、なんかしらの作業をしている。
最近鋼で、ノミを作ってやったら目が飛び出るんじゃないかと思うほど、
ビックリしておお喜びしたんだ。
それ以来ベベビドはノミと自分で作った木槌で、
なにやら作っている。
ノミも5種類くらい作ったもんだから使い勝手を確かめるにしても結構時間がかかると思う。
「ベベビド。聞こえる?ベベビド!ポンピカだけど」
「ん?なんだ?そんなに大声出さなくても聞こえるぞ」
「聞こえるんだね。まぁいいや。この間、模造武器を何種類も作ってもらったでしょ?」
「ああ、作ってあるぞ。彼処の長箱の中に入れてある好きなのを持っていっていいぞ」
「話があ早いもってくよ」
「ああ」
たわいない話しだ。
去り際にベベビドが何を作ってるのかチラッとみたら、
なにやら仏像みたいな造形の物を放っている様子だった。
何に使うのか?はてさて何を作ってるのかさっぱりだけどね。
長箱の中に俗に言うポールウェポンが幾つかと、
剣の形の物とか釘バットみたいなものや、
短剣も有れば、ヌンチャクみたいな物、
他にも様々に用途別に頼んだものが入ってる。
僕はもっぱらカランビット系列しか使ってないけど・・・。
多分、シャ・グギとやるなら槍か刺突系の武器使わないと急所狙えない気がしている。
結局斬撃と言うか切る系の武器っていうのは、
血管や臓器にダメージを与えられないと、
皮膚や脂肪で止まって、致命的なダメージを与えられないんだ。
それに刃物を使って、うまく切ろうとしても普通は相当訓練しないと、
動画とかでの藁切りとか出来ないらしいからね。
前世である程度じいちゃんに教えては貰ったけど、
実際に生き物を切ったりするっていうのはやってなかった。
まぁ、ケルケオの時は手刀で見事に首を落とせたのも手刀のほうが僕はうまく使えるだけで、
武器はどうかなぁ?と思うんだよね。
ぶっちゃけ、手刀で良くないか?もしくは、貫手とかならまだ刺突を再現できるのではないか?
少し僕自身が武器を使う必要があるのかって言う点も微妙ではあるけど、
毎回そうそううまく出来るわけでもないだろうし、
失敗したらしたで、自前の腕が台無しに成るのはいただけない。
逃げ腰に成るけど、やはり武器は必要な気もしないでもない。
浸透勁も使えるなら良いけど、
ぶっちゃけると、大きすぎる獲物に対しては、
急所を的確に狙わないと無理だし、
万が一抵抗された際、反撃を喰らったら一溜まりもないのは自明の理。
やはり武器はなんにしても必要かもしれない。
むしろ武器に熟練しなきゃ行けない気がしてる今日この頃です。
僕のはなしは置いておこう。
ティティムだ。
その良くわからない名前の武器は、
ギュギュパニが得意って言ってたし、
ギュギュパニは前、槍と言うか棒に対して特別な感情が有ったっぽい。
つまり選択肢は先程最初にあげた、ポールウェポン系列だろうと予測した。
ティティムも恐らくポールウェポンが得意なのかもしれない。
もう一つのゴリテってのがどんなのがわからない。
名前からしてゴリラしかイメージがつかない。
どうしようかなぁ・・・。
遠距離、中距離、近距離で選択して持っていこうかな?
そっちの方が無難かもしれないなぁ。
取り敢えず中距離用に素朴な木剣と、
近距離用に木短剣を抱えて、
ポールウェポンも背負ってってなもんで、
ティティムの所に戻る。
「なんだそれ?」
武器を抱えて戻ってきた僕を出迎えたティティムの一言だ。
正直お前の為にやってんだけど・・・とツッコミたいところだけど、
まぁ中身がパパムイとどっこいっぽいし言っても理解しないだろう。
可愛そうな子なのでほっとくことにする!そっちのほうが面白いからね。
「ティティムが此の中で使い勝手が良さそうなのを選べるかなと思ってね」
「オレが選んでいいのか?」
「なんのために着いてきたの?」
「ふーん。まぁいっか。ちょっと短いのから触らせてくれ」
そういって、木製の短剣を握る。
こう言っちゃなんだけど、さすがザウスだ。
体もでかけりゃ手もデカイ。
僕が持てば刀身が30から40cm位ありそうな短剣型の物でも、
ティティムが持つと、まるで果物ナイフくらいの感覚に見える。
柄の先で指もはみ出る。
流石に握りづらそうで見てられない。
ティティムもなんか「あれっ?」って顔して次に通常の剣タイプを握り始める。
木剣も結局の所、僕が扱うと刀身が80〜120cm位ありそうでも、
僕で言うところの短剣くらいの気軽さだ。
流石に柄の所ではみ出たりする事は無く今度はちゃんと握れている様子。
ブンブンと振ってみている。
「どう?」
「ん?こりゃ随分軽いな」
「そりゃ木製だからね」
「木製なのか・・・だけどこれ、獲物一つ殺せないだろ?少し頑張れば、獲物に刺さるかもしれないけどな」
「ん?それ見本だよ?試しの形で、ソレがそのまま武器ってわけじゃないからね?」
「へー。まぁ、そうか。オレ、マガで作ってくれって言ったはずだしおかしいな?と思ったんだ」
「そういうとこはシッカリしてるんだね」
「そうか?照れるじゃねーか!褒めたって撫でるくらいしか出来ねーぞ?」
「撫でなくていいから、取り敢えず、触り心地や使えそうかどうか・・・っていうかマガでその形ならどうだ?っていう話がしたいんだけど・・・」
「ほう!此の形にマガを作れるのか?」
「まぁ、正確にとは言わないけどね。作るつもりだから持ってきたんだけど?」
「そうか・・・。じゃぁ、オレそこの一番長いやつで良い」
「やっぱりポールウェポンを選ぶんだね」
「ポー? よく分からにけどな」
ティティムがポールウェポンを眺めているので、
使い心地とか聞きたいし、作るにしてもそのままってわけにも行かない。
何より今もたせてるポールウェポンはグレイブって言われる物で、
長い棒状の先端に剣の様な物が括り付けられているだけの形をしている。
グレイブはソレだけでも十分強いと思うけど、
もし、本格的にこれが良いって言うなら薙刀のほうが利便性が高そうなんだよね。
まぁいいや。
「何時までも眺めてないで、彼処の木に打ち込んでみてよ」
「ん?おお、そうか。やってみるか」
ちょうど、鍛冶場と製材所の間に広場の様に成っている場所があり、
川にも滝にも面していることから、その周りには沢山の木々が育っている。
別に伐採しているわけではないけど、
建物を建てる時にある程度伐採した上で、用地を確保したようで、
中途半端に残ってる切り株とかもそのままだったりするんだ。
これは武器を打ち込むのにとても便利そうだ。
試しとか練習場にできそうだなぁと思う。
まぁ、武器を扱うのが僕だけだから、
そういう所は、今までなくても良かったけどね。
ティティムがとりわけ大きく残っている切り株に向かって、
横薙ぎにグレイブを振り抜く。
スコーン!
ものすごく乾いて良い音がこだまする。
なかなか面白い。
ティティムは一度振り抜いただけで、
頭を傾げた。
どうやら、イマイチらしい。
「何処か気に入らない?」
「ん?いや、良いんだがな・・・どう言ったら良いんだ?この先端のやつあるだろ?」
「うん」
「これをこんな形にしてくんねーかな?」
そう言うと、地面に棒の先に大きな斧それも棒と比べても大きい、
斧の様な形を描いた。
ご所望は多分ハルバードだな。
まぁ、突くも切るも叩くも出来るっていうポールウェポンの代表だけど・・・。
「そうか、ちょっとまってて、まだ在庫が有ったはず。ハルバードなら気に居ると思うよ」
「なんだその、ハ、ハル?」
「ああ、見てから決めてよ」
「なんだか知らねーが分かったぜ」
再度、製材所へ入って、
長箱からハルバードを持ち出した。
どっちにしても全部木製だから殺傷性は低い。
試しだし、まぁ良いだろう。
製材所から出ると、
子供たちがワラワラと集まってきている。
子供たちがティティムに群がって、
ティティムが持っていたグレイブに興味を引かれたんだろうと思う。
いつの間にか子供たちのおもちゃとして、グレイブがティティムから子供たちへと・・・。
「あれぇ?皆、持ち場でなんかやってるんじゃなかったの?」
「シーフー!コレなんですか!?」
開口一番、そんな事を言う子供は、
いつも先頭を切って、僕に色々と教えを求めに来るスキクである。
名前は、憶えてる。
「ボバボボ?それティティムに貸したやつだから余り遊ばないでほしいんだけど」
「でも、ティティムが良いって言った」
ティティムはこの集落に来てから意外に子供たちと遊んでくれる良いおじさんをしている。
なかなかに人気なザウスだったりするんだ。
かなり子供に甘いのが見え隠れしている。
「ポンピカいいじゃねぇか。子供のすることだ。大目に見てやろうぜ」
「それは良いんだけど、子供たちが武器の扱いに興味持たれると、後で僕ギュギュパニに叱られるんだよ。余り子供たちにそういうのは教えないでおこうと思ってるんだしさぁ?」
「何いってんだ?”ト”ではザウスだって小さい内に”戦”がどんな物かをしっかり学ぶんだぜ?」
「へぇー。でもここ”ト”じゃないしねぇ」
「シーフー!これどうやる?教えて!」
ほらぁ。
絶対使い方とか教えろって言われるんだよね。
目に見えて分かってたことだけどなぁ。
ボブボボがそんな事を言うものだから後ろにワラついてる他の子供たちも、
一斉に「教えて!」コールが吹き出すわけだ。
シーフー発言のときもそうだったけど、
まぁ、連帯感があるっちゃーある子供たちだな。
因みにデデンゴは今居ない。
一発で分かる。
なんでかって言うと子供たちの大きさは、
既に僕と同じかそれよりも大きいほどに成長しているんだけど、
デデンゴはどのスキクの子供より飛び抜けてでかく成長してるものだから、
この集団の中に居ると、一匹浮いてしまう感じが否めない。
なもんで、今此の中に浮いてる感じのスキクが居ないことから、
デデンゴは多分採掘とか色々とお手伝い最中だろうと言うことだろう。
多分、何処にも馴染めないか興味がなかった連中がこうやって集まって、
ガキ大将をこさえては、
仕事場を練り歩いたりすることがあるぞ。
とは聞いてたけど、
僕の所にも来たね。
「ポンピカ。減るもんじゃねーんだ。子供たちに教えてやればいいだろ」
「わかったよぉ〜。 所で今渡したハルバードは使えそう? 使い方わからないなら教えるけど?」
「オレのことは良いさ、子供たちを優先してくれ。俺は俺で自由にやって見るからよ」
「ふぅ〜ん。まぁいいや。じゃぁ隣でやるわ」
子供たちの方に向き直って声を掛ける。
「こんな中で武器を使った事があるヤツいるか?」
誰も答えない。
「じゃぁ、製材所の中に長箱があるからそこから武器の模型を皆でここに持ってきてご覧」
「はーい!」
皆して元気に返事したかと思ったら、
バタバタと走り出して製材所に入っていく。
「おい、ポンピカ。そのハル何とかを使うんじゃないのか?」
「ハルバードはティティムがつかってよ。 子供たちは自分の好きな道具使わせるから」
「そうか・・・。じゃぁ、使わせてもらうか」
ティティムがまた、スコーンと大きい音をたてながらハルバードを振っている。
力の入り方は申し分ないと思う。
でも正直技量が見て取れるほど、
綺麗な素振りでもなければ、
いい角度で叩きつけているわけでもない。
多分手首のシメ具合がずーっと一緒と言うか握りっぱなしなんだ。
あれじゃ切っ先をコントロールできないだろ・・・。
扱い方が棍棒と変わっていないってのが、ちょっと怖い。
何回かの素振りを見てると製材所からベベビドに追い立てられる形で、
子供たちが出てくる。
それぞれに何やら道具を持っている。
「シーフー!見て見て!」
「シーフーこれを使う!」
「僕他のが良かったぁ」
「皆静かにしろ!シーフーが話せないだろ!」
こんな調子で、ワラワラと僕の元に集まるんだけど、
いやぁ・・・。僕とそう変わらない身長の子供がワラワラするのは流石に迫力有って怖くなくもない。
僕に群がる子供たちをよそに、
ティティムは何回かの打ち込みの後結構真剣な顔になってずっと武器を振っている。
殆どが横振りと縦振りしかやらない。
ハルバードは意外に利便性が高い武器なんだ。
足を払ったりもそうだけど打ち込みでも、
打撃も有れば斬撃も有れば、
刺突も出来るっていう優れものなんだけどね。
ティティムの使い方を見てると余り上手には使っていない。
まぁ、先に周りの子供たちに教えよう。
簡単な素振りとか、基本の使い方なんかを各々持っている武器ごとに、
説明して回るっていうかなり時間を無駄にする作業が流れる。
「シーフー。これ、動物も狩れる?」
「飛び道具じゃないと気づかれるからまず接近するのは無理だよ。ましてや、短刀では捌くのにしか使えないよ。」
「シーフー。タイソウと似た感じでつかえない?」
「良い所に目を付けたね。それは体操と組み合わせると相性がいい武器だよ。サイっていうんだ。憶えといてね」
「シーフー。もっとカッコイイ武器が欲しい」
「取り敢えずあるものしか無いから我慢してね」
「おい!ポンピカ。このハル何とかの使い方教えてくれ」
「はいはい、そこの握り方が逆手に成ってるって・・・ティティム一匹で出来るって言ってなかった?」
「しかたねーだろ?武器っていやぁ振り回すのが普通だろ?でもお前らの使い方のほうが多分良いと思うんだ。勘だけどな」
「・・・やっぱティティムは”戦”に向いてるかもしれないね」
「褒めるなよぉ〜!気に入っちまうだろ!」
「・・・取り敢えず一通り教えるから子供の列に並んでくんない?明らかに時間が掛かるんで苦労しそうなんだけど・・・」
そういって、その日は一日武器の使い方について説明するだけで終わってしまった。
やりたいことができなかったっていう典型の一日だった。