精霊さんを救出する冪か否かと、訪問者
「ふむ・・・。それは困った事だな」
「うん。流石に僕にも手が出せなかったんだ。相手が手を伸ばしただけで飛ばした意識が途切れたからね」
精霊さんについての報告会を開いている。
メンバーは族長を筆頭にギュギュパニ、エネルル、ブルググ、ウウダギ、僕って具合だ。
今回のメンバーにウウダギが居るのは、
ウウダギの一言で、僕が捜索救出を断念するからって理由らしい。
そんな事しないと思うけどねぇ。
でも、ウウダギがこれみよがしに拒否したら断念するだろうけど・・・。
まぁ、ウウダギファーストな僕としては、当然だからいいか。
「ポンピカ。その黒いゴツゴツっていうのは具体的にどのようなものだ?」
エネルルが妙に聞いてくるんだよね。
なんで気になるんだ?
対して、ブルググは下を向いたままだ。
まだ、交尾ショックが収まっていない様子。
結構大きな噛み傷がボクから見て右の肩にクッキリと残っている。
多分アレ、横で僕に質問してるエネルルがこさえたんだよね?
エネルルって鉄の心臓もってんのか?
正気か?
疑わしい。
「ゴツゴツっていうか多分ヴァレヴァレ集落を包み込む、こう・・・丸い感じなんだけど、表面がゴツゴツしてるっていうか、なんだろうね?」
「ふむ・・・。想像がつかないな・・・」
なんと言うか、
キリッとした面持ちで、考え込むエネルルの横では、
地面の一点をじーっと見つめてしまっているブルググが居て、
いたたまれないです。
「ふむ・・・。ブルググ、お前は気づいたことあるか?」
エネルルが突然ブルググに質問を投げかける。
ブルググはエネルルから質問がされるなんて思ってなかったんだろう。
ギョッとした目で、エネルルを見つめて言葉に詰まってしまった。
ブルググって意外に気が弱いなぁ。
「ブルググ?どうした?何か考え事か?悩みなら私が相談に乗るぞ?」
エネルルの追い打ちがすごく痛々しい。
ブルググは声は出さなかったが、口のかたちから「アウアウ」としか言って無さそうだ。
やべぇな。トラウマじゃんか。
「エネルル。その辺にしてやれ。交尾後の雄は非常に微妙な状態なのだ。気を使ってやってくれ」
いたたまれないのは族長も一緒だったらしい。
流石に苦言を呈した。
「ふぅ・・・わかりました。では、ポンピカにまた質問なのだが、そのヤギとか言うのはなんだ?」
「山羊?山羊猿の事言ってる?」
「ああ、それだ、ヤギザルとか言うのは何だ?」
「何だと言われてもねぇ。僕の知らない呪術体系の産物だろうとおもうよ?あの形から見ると、恐らく動物霊ってやつを合成したか、何かを全て括り付けた様な、なんかだろう。不明な点が多くてなんとも言えないんだよ。存在としては恐らく現界では目に映らないと思う。なので向こうから現界に手を出すことはかなりリスクを伴うし、程度も低くなるはずだ。ぶっちゃけ手出しはされないだろうと思うよ?」
「ふむ、では、その現実の側からヴァレヴァレへと潜り込むという話に成るのか?」
「う〜ん。まぁ、そうなるかな?」
そこまで言うとエネルルが考え込んでしまう。
何故考え込んだんだろう?
「ポンピカよ。ラマナイ様の救出は全てお前が行え。合わせて、シャ・グギを飼いならす問題も平行せよ」
無茶振り来たんだけど・・・。
族長?それ無理だぞ?
「族長!流石にそれは・・・。幾らポンピカだって無理がある!」
僕が何か言おうかと体勢を崩すより先に、
ギュギュパニが族長に文句を言ってくれた。
まさに其のとおりだ。うんうん。
「無理ではない。いいか?ギュギュパニよ。第四からの”願い”は随分前から来て入るが、それを達成できるスキクがまだ生まれていないとされていた。だが、今この集落にはポンピカがおる。そして、恐らくポンピカ以外に”願い”を成就出来るスキクはおらぬ。合わせてラマナイ様を視認できるのは、僅かな数しかおらぬ上に何かを出来るというのはポンピカ呑みだ。そして、ヴァレヴァレとシャ・グギの生息地は非常に近い・・・」
一石二鳥だよ。
そういいたいのか?族長。
流石に一度に事をなそうとは思わないんだけどなぁ。
「ポンピカ?こんな無茶な”問題”を本当に受けるのかい?」
なんで話が進んでるの?
まだ僕何も言ってないよ?
どうしてYESかYESみたいな選択肢で聞いてくるの?
ギュギュパニも族長の回し者か?
「えっと、まず整理しようよ。シャ・グギってかなりヤバイって話だよね?」
「まぁ、あたしでも一ひねりで逝っちまう自信はあるねぇ」
無理だろ。
ギュギュパニが、一ひねりで逝っちゃうなら僕でも無理だよ?
以前は前情報が乏しいから知恵使えばなんとか成るかな?くらいな気持ちだったけど、
この数ヶ月は結構動きが大きいでしょ?
知識だっていろいろ仕入れて、シャ・グギがどんだけヤバイか、
合流組の連中からそれとなく聞いてるんだけど・・・。
ぶっちゃけるとT-REXと変わんないらしい。
まぁ、T-REXは居ないわけだけど、それくらいやべぇらしいぞって事だ。
矮小なスキクで、へっぽこな僕が叶うわけねーだろ。
それに第一から聞いてるんだよ。
第四の”願い”ってやつ。
あれ、軍を作るつもりらしく、
第四ってのは思いの外、好戦的なプンタ何だそうだ。
たちが悪いって第一が言ってた。
ってか、第一も第一だよなぁ。
第二から第九までは全て第一のクローンって話だし、
中身が違うのも結局大元が一緒の何かを使ってとかよくわかんない知識を言われたのを覚えてる。
要約すると、第四=やべぇ。だそうだ。
う〜む。
考え込んでる此の時間、
ながければ長くなるほど、拒否できなくなるパティーンだなぁ。
どーすっかなぁ。
ウウダギは横で、「やるの?」とでも言いたげに見上げてきてるし・・・。
正直拒否したいんだけどなぁ。
どーすっかなぁ。
「ポンピカ。大丈夫。僕に考えある」
悩んだのを見かねたんだろう。
ウウダギがなんか考えついちゃったかもしれん。
其の場に居る皆がウウダギに注目する。
「マガの武器作る。大きい動物寝るクスリ作る。ケルケオ使う。他にも色々皆で協力して送り出す。そして、ポンピカは先にシャ・グギを仕留める。時期から卵ある。多分倒せばいいだけ、その後セイレイサンたすける。其の前に僕らが卵回収する」
皆が微妙に首を傾げた。
なんとなくわかったのは僕だけらしい。
一匹で行動しなきゃダメだというのは恐らく被害が出ないようにシャ・グギに相対した時だけだ。
ヴァレヴァレで術に引っかからないように出来るのは僕だけだから、
ヴァレヴァレには誰も連れていけない。
つまり、シャ・グギの手前までは、数匹連れていけるって話だ。
それなら賞味、なんとか成るかなぁ〜?程度かもしれない。
万が一、シャ・グギと長期戦を行う必要が有った場合。
補給物資がなければ戦い続けれない。
此の時当初なら捕獲になるけど、
卵がある可能性があるって話だ。
何処で聞いたか知らないけど、ウウダギはウソつかない。
だから恐らくそういう話をしていたのを何処かで覚えたのだろう。
って事は時期としては、産卵の時期である可能性が強い。
産卵は非常に体力を消費する。
つまり、動けなくなるはずだ。
雄が見守るタイプの生態系だった場合は雄一匹を相手にするだけで済む。
逆にターゲットが絞られるのは、攻略の仕方が容易だ。
ふむ。
悪くない。
これも恐らく話で聞いたんだろう。
金属の武器が有ればシャ・グギの外皮を貫けるんだろう。
どうしてか知らないけど、構造解析技術があるウウダギにかかれば、
恐らくという程度の計算でも信憑性がます。
つまり金属武器で倒せる可能性がある。
薬の件も同様だろう。
以前のケルケオの際にも気絶するヤツを使った。
アレはアレでやはり効果が強かった。
今回のシャ・グギは大きいって話だから、
それなりに大量か、濃縮に頼る必要は出てくる。
恐らくウウダギは濃縮方面の考えをしてるはずだ。
濃縮でなければ、効く量を持ち運ぶのに一苦労なはずだからだ。
「ふむ。ウウダギの案はそれでも良い。じゃが、対処はポンピカ一匹で行う事とする」
族長もなんとなく話が読めたらしい。
途中までとか、色々ヘルプはしても良いよと言ったわけだ。
だけどどちらの案件も対処は僕がヤレと言うわけだね。
まぁ、対処だけならいいかなぁ〜?
シャ・グギだけは、皆の力借りたい気もしないでもないけど、
まぁ、怪我されてもなぁ・・・死んじゃうのも嫌だしなぁ。
やっぱ、僕一匹で対処したほうが無難だな。
話し合いが大まかに纏まるくらいに、
集落の外周の方でザワザワとした雰囲気が漂う。
話し合いのメンバーが、皆でそちらを向くと、
これまた北寄りの東側の森の合間から、
二匹のザウスと其の後ろに、
大きく黒光りした鰐顔のザウスっぽいのが二匹、
大きな木製のツヅラみたいな物を担いで姿を表した。
・・・また厄介事になりそうな予感しかしない。
僕が、げんなりしている横でギュギュパニが
小さく「ん?ありゃ、第四のとこに出てったギリュリュじゃないかい?」
とかつぶやいてる。
「ギュギュパニ知り合い?」
「ん?ああ、一匹は、あたしより若い同族の雌だよ・・・親はあたしと同じオルガだ」
兄弟?いや、雌って言ったから姉妹か。
結構距離があるけど、
向こうはこっちにギュギュパニが居るのがすぐわかったらしく、
僕らの方へと一直線に歩いてくる。
「もう一匹のザウスは、なんだと思う?ギュギュパニ」
「・・・。もうそんな時期かい・・・」
変なつぶやきがまたもギュギュパニから漏れてる。
ふと、族長へと目をやると、
僕の視線に気づいた族長が「何も聞くな」とでも言うように首を横に振る。
どうやら聞いちゃいけない事らしい。
ウウダギはそれ程興味無いらしく、
最初に目を向けた後は、
どうやって僕を旅先でヘルプやサポートするかについて考え込んでるっぽい。
ぽいっていうか多分そうだ。
ブツブツ言ってる端々から僕の名前がポロポロでている。
次第に僕らの方へと近づいてくる二匹のザウスとザウスっぽいやつ。
遠目だったからよく分からなかったけど、
近くに来ると分かる。
今までと少し変わった感じのザウスだ。
ザーザースってもともと裸だ。
だけど、前を歩くこの二匹は毛皮を腰に巻いたり、
恐竜か何かのゴツゴツした革を羽織ったりと、
服として見れなくない格好をしてる。
すごい!
文明の香りがした気がする。
第四っていってたよね?
って事は文明が有るんだろう。
いいなぁ。
ってか後ろの二匹、よ〜く見るとザウスじゃない。
恐らくアレがクロデルって言うやつだ。
頭が悪そうだし、本能だけが目に現れている。
ソンな事を考えてる間にすぐ近くまで一団が来た。
「ギュギュパニ。久しぶりだねぇ」
「久しぶりも何も無いだろ、小さな時に一度会っただけだろうに」
「それを久しぶりっていうんじゃないかい?ハハハ。まぁいい、オルガの話し聞いたかい?」
「?どんな話だい?」
ギクッ!
オルガの話しって?
オルガを殺したの僕だよねぇ・・・。
これって問題しか無いよなぁ・・・。
ってかギュギュパニは、うまくボケ倒せるかな?
「何だい?こんなに近くに居たのに聞いてないのかい?鳥は飼ってないのかい?」
「ああ、最近飼ったばかりでねぇ」
「ふ〜ん。なら仕方ないか。ギュギュパニ、ビックリするよ。オルガのヤツ死んじまったってさ」
「へ、へぇ〜。 ・・・あのオルガがねぇ・・・」
最初の「へぇ〜」は要らなくないか?
知ってますって言っちゃってないか?
ギュギュパニはもしかしたら演技下手かもしれないなぁ。
「・・・知ってたんだね?」
「ま、まぁ、色々あるからねぇ」
「そうかい。まぁ、死んだ理由とかあたしはまだ聞いてないんだけどね。どうやら殺されたらしい」
ギクッ!
もう僕・・・ギクッ!とかするしかない。
そして、横目でチラチラと僕にどうすればいいかという合図を出すのは、
辞めてくれないか?ギュギュパニ。
「まぁ、どちらにしてもオルガらしいっちゃ、らしいね」
「たしかにねぇ」
「それより今日来たのは、もう時期なんだよ・・・分かるだろう?」
「ああ、その後ろのザウスが相手かい?」
「ああ、そうだ。一応一族の若手の中で最も強い雄だよ」
「・・・そうかい」
「なんだい?ギュギュ・・・不服かい?あたし等には拒否は出来ないのを知ってるだろう」
「ああ、分かってる・・・わかってるんだけどねぇ」
なんの話ししてるんだ?
族長?どういう話か分かる?
族長の目線を投げるとまたしても黙ってろと首を横に振る。
黙ってろってもなぁ。
「あー、えっと、どう言えばいいかな?ギュギュパニ」
僕が話しかけると、
ギリュリュとか言うのが、僕を見て鼻で笑った。
後ろに居る雄も笑いをコラえているっぽい。
なんか笑える要素あった?
ギュギュパニどう思う?
ギュギュパニに目をやると、
物凄い気迫で二匹の訪問者を睨んでいる。
んー?話が読めない。
「ギュギュパニ?どうした?なんか問題でも起きたか?」
「ポンピカ・・・」
僕がギュギュパニに話しかけた直後、
ギリュリュとか言うのが、持っている木の棒を僕の方に突きつけて叫んだ。
「スキクが口を挟むんじゃないよ!」
どうやら僕は歓迎されてないらしい。
因みに連れてこられた?
もしくは、着いてきたであろう雄は、
ギュギュパニの方へと歩み寄ってる。
クロデル達は、頭が空っぽな感じにそれぞれが、
何処かを向きながらぼーっとつづらを担いだまま突っ立ってる。
手を出してくる気配はないなぁ。
取り敢えず突き出された棒を手で払い除けながら、
「ギュギュパニ。問題が起きてるなら手伝うぞ?」
と、告げる。
「ポンピカ・・・」
ギュギュパニがしおらしくしちゃってる様子が、
余り良くない事が起きるんじゃないかと予感させる。
因みにギリュリュってのは僕に突き出した棒を払いのけられたので、
プルプルしながらまぁ、盛大に怒りを溜め込んでる。
んで持って、
ギュギュパニの側まで来た雄のザウスが、
ギュギュパニの腕を無造作につかもうと手を伸ばしたもんだから
反射的に僕が雄の手首を軽くいなし、
その勢いで合気を使い雄が中を舞う。
一瞬の静寂の後にズドンと言う音と共に、
雄が背中か地面へと叩きつけられ、あっけなく気絶した。
ギリュリュは今の事が理解できないらしく、
目を白黒している。
族長も腕を組んで「う〜ん」と悩んでいる。
ギュギュパニは、「ヤッチまたねぇ」とでも言いたげに僕を見て、頭を抱えている。
ただ、少し口元が嬉しそうだ・・・まぁ、いいか。
何はともあれ、僕がまたやっちゃったらしい。
エネルルは、口が開きっぱなしに成ってるし、
ブルググは地面から目を離さない。
っていうかブルググは、最初に二匹を見た跡すぐに目をそらしガタガタ震えてる。
ウウダギは、周りのことが目に入っていない、ずっとブツブツ言って、サポート案を纏めている様子。
さて、どうしたものか・・・。
それにしても、こういうトラブルの時って毎回カオスだよなぁ。
僕が、悩んでいる間に、いち早く意識を取りまとめたのが、
ギリュリュだ。
持っていた棒を僕の方に上段から振り抜いてきた。
「そこのスキク!何をしたっ!」
まぁ、そうなるよね。
ただ、この棒避けるのは簡単だし、そらすのも簡単だけど、
ここでなんかやると話が拗れるんだろうなぁ。
硬気功で、ダメージを軽減させて耐えよう。
多分ソレが一番無難だな。
気をねって丹田へと送り込む。
丹田周りの筋肉が緊張をしているのが分かる。
それと同時に体内の圧が上がった気がする。
打たれるところを調節すれば打撲痕も残らないだろう。
と、次の瞬間。
ギュギュパニが振り下ろされる棒を受け止めた。
「ギリュリュ。感謝しな、ポンピカに手を出すと・・・オルガと同じ目にあうよ」
酷くないか?その物良い。
「ギュギュパニ。その手をどけなっスキクに舐められちゃあたし等ザウスの役割が無くなるだろ」
「このスキク。ポンピカだけは、手を出しちゃダメなんだよ・・・」
「何いってんだい!?ギュギュパニらしくもない・・・たかがスキクだろう」
「ふぅ・・・だからあんたは、何時まで経っても他の役に選ばれないんだよ」
「ふんっ!そんなこたー知らないねぇ!あたしゃ、この役割が気に入っちまったのさ」
なんか、若い感じのザウスっていうのか?
ギュギュパニを若くした感じの発言だ。
にてるなぁ。
どうやらギリュリュとギュギュパニでは力の差が有るようで、
受け止めた棒を握ったギュギュパニの力に押されて、
身動きが取れていない様子だ。
これ、拗れるとヤバイ気軽るんだけどなぁ・・・。
後ろの二匹とヤんなきゃいけないのか・・・ハァ。
「クッ!流石にやるねぇ!ギュギュパニ! じゃぁこうしてやる!」 ”ホロロロロロー”
ギリュリュがなんかネイティブアメリカンがやるような叫ぶような歌う様な声を出すと、
後ろでぼーっとしてたクロデルがギリュリュを見る。
まぁ、展開的にそうなるよね。
「ギリュリュ!あんた!それはだめだっ!」
ギュギュパニも分かってたんじゃないの?
もう・・・。
ヤんなきゃいけないの?
結構巨体だよ?二匹だよ?
”ギャヴァ!ギャヴァ!シィー!”
「ギリュリュ!」
ギリュリュが命令を出した様子で、
それに従って、二匹の黒出るがぬぅ〜っと動き出す。
まぁ、流れで分かるとおり、
僕の方を目指していると思いきや、
クロデルはどうやら相当頭が悪いらしく手前で座っている、
族長へと掴みかかろうとした所を、
僕がザッ!と引きずってうしろに投げた。
族長は年寄りらしく、思いの外軽かったなぁ。
その様子を見ていたエネルルが、ブルググの腕を掴み引きずって其の場を離れる。
こうなると、まぁ、ウウダギが狙われるよね。
小さいウウダギは別に大した興味も無いらしく、
未だにサポ案に必死だ。
「ギリュリュ!やめろ!止めるんだよ!」
「こうなったのはギュギュパニ!あんたのせいでも有るんだよ!」
押し問答が続く中、
一匹のクロデルの腕がウウダギに伸びた。
流石にそれを許す僕じゃないので、
取り敢えず、丸太のごとき腕の肘関節のつなぎ目、
そこへと、発勁を叩き込む。
そらすのが目的なので中にダメージを通さない方向で打った。
だけど、思いの外威力が高かったらしく、
もしくは、見た目以上にクロデルが柔いのかもしれない・・・。
伸ばしたクロデルの腕が、逆くの字にまがってそのまますっ転んで地面に倒れる。
ズズン。
結構重い物が地面を叩いた音がした。
結構自重が重いのかもしれないなぁ、クロデルってのはさぁ。
仲間が倒れたのを目撃したもう一匹は、
すかさず、僕へとターゲットを変えて、
襲ってきたけど、そこそこ動きたトロい。
ぶっちゃけ、ノロマと言っていい。
足を一歩一歩踏み出すのだけで、随分とエネルギーを使っているらしく、
それでいて素早くは動けない様子だ。
体調不良なのかな?
クロデルってのはこんなものか?
振り回される腕も鈍い。
振り下ろす腕も重力に逆らわなきゃいいのに・・・って思うほど鈍い。
なんだろう?
本当に数センチで見ながら避けれる。
クロデルの向こう側ではギュギュパニが血相を変えて何かを言ってる様子。
もしかして、叩きのめしちゃダメとか?
でもウウダギに手を出されたからなぁ・・・。
まぁ、許せないんだよねぇ。
すぐに処理すれば、特に問題ないよね?
これ以上茶番には付き合えないしね。
次の瞬間には、振り回される腕の中をクロデルの懐まで潜り込み、
取り敢えず支えている足の膝関節を斜めに蹴りぬく事で、
膝関節に掛っていた自重のバランスを崩す。
すると、あっという間に自重に潰されて、
膝関節が逆向きに曲がりクロデルが自分の足を逆に折りたたむようにして、
前のめりに地面へと転がる。
さらに、うつ伏せになったクロデルの後頭部へと軽く打撃を与えることで、
意識を刈り取る。
前も言ったけど、俗に言う”首トン”は、実際には無理だ。
似たような事で同じ様な事が出来るのは、
後頭部への衝撃で、後頭部に位置した小脳へのダメージによる作用でしか実現できない。
小脳はあくまで、運動を支配する中枢とされている。
人間相手での実感でしか無いけど、
過去に何度かスキクやザウスに対して行ってわかった。
結果ザーザースの脳の作りは人間に告示しているという点だ。
要は形や配置が似ているっていうのが重要なんだ。
其の場所に衝撃を与えれば、
機能が麻痺すると判れば、
使える手段として増えるだろう?
まぁ、そんな訳で所見だったけど、
クロデルもザーザースと並ぶ生き物であれば弱点はほぼ同じというわけだ。
意識を刈り取るのは造作もない。
だけど、もう一匹が次に襲いかかってきている。
仲間である意識のないクロデルに目もくれず。
ってかぶっちゃけ踏みつけて僕へと襲いかかってくる。
こっちのクロデルは目が赤く、どうやら興奮している様子だ。
若干先程のクロデルよりも動きが大きいけど早い。
それでも種族としての特性かな?
まぁ、体が大きいがゆえの可動範囲と言うか空白に成る部分が寄り顕著に見えるんだ。
クロデルは力が強く、戦では重歩兵のように使われるらしい。
要は、鱗が硬く、皮膚は靭性に優れ、皮と筋肉の間の皮下脂肪が厚い。
防御にはもってこいの構造をしているらしい。
更にその巨体を此の速さで動かせる筋肉は機能として優秀だろうと思う。
だけど、僕からするととても遅い。
これでは反応速度が早くとも対処が出来ないで終わってしまうだろう。
色々見たけど、やっぱりバランスがいいのはスキクだなぁ。
力を得ようとすれば必然的に筋肉が大きくなって重くなり、
最終的に素早さが損なわれるんだ。
ハァ。まだ、僕の所にたどり着けない様子だ。
仕方ない。
大手を上げてのしかかるように襲いかかってくるクロデル。
多分噛み付くつもりなんだろう。
鰐によく似た形状の顔や顎、きっと破壊力はヤバイんだろうね。
襲いかかるクロデルは学習能力がない様子で、
先程のと同じように、足元ががら空きである。
教訓を叩き込もうかなぁ。
スッと懐に飛び込むと同時に足への打撃を行う。
すると先程のと同じ様に倒れ込む。
更に後頭部が丸出しに成る。
後頭部へと打撃を与える。
最終的に先程とおなじで、気絶する。
今度のは、先程のやつの真上で折り重なるように倒れ込んでいる。
っていうかすごく体が大きいね。
二匹が折り重なるだけで、僕の目の位置くらいまで有るんだからね。
「ふぅ。ギュギュパニ。取り敢えず殺しはしてないからね?それでいいよね?」
「ああ、感謝する。 ギリュリュ分かったかい? ありゃ化物なんだよ。あたしらじゃ勝ち目がないんだ。関わっちゃダメなヤツなんだよ・・・。ったく忠告は最後まで聞くもんだよ、まったく」
ギリュリュってのは、
今の惨状をみて、信じられないと固まってしまっている。
ギュギュパニはその硬直を見逃さず、さっさと拘束した。
ついでに雄はまだ気絶してる。
ってか久しぶりに動いたかもしれないなぁ。
「シーフー!。ポンピカシーフー!」
少し高い声で僕が呼ばれた。
シーフーって言われたのは、
僕が日頃体操と言うか武術を健康のためと思い教えている子供たちには、
僕を呼ぶ時は、”老師”と呼ぶようにといったからだ。
まぁ、老師だからねー、シーフーなわけだ。
わらわらと集まっていた子供たちが皆揃って僕に「シーフー!シーフー!」と言う。
流石に言われすぎて、こっぱずかしい。
「ちょっ!お前達、自分の持ち場に戻りなさい」
「ポンピカシーフー!今のはどうやったんですか?!」
「シーフー!実戦を始めてみました!恐縮です!」
「シーフー!もう一度見せてください!」
「シーフー!あたし達にもできますか!?」
もう、初めて、こう言うの見たのかな?
この集落って襲われたり、色々とイベントが多いからなぁ。
ワーワー騒いでる子供たちの横では未だに我感せずで、ウウダギがサポ案を練ってるしなぁ。
なんだろう?
すごくカオスだ。
「ちょいと!お前達、ポンピカが困ってるじゃないかい?自分達の持ち場に戻らないとぉ〜あたしが相手に成ってやるよぉ〜?」
ギリュリュと雄を拘束し終わったギュギュパニが、
子供たちを追い払うために怖いおばさんを演じている。
そういうのは出来るんだね。
子供たちがあっという間に、
それも蜘蛛の子を散らすっていうひょうげんにピッタリって感じに散らばっていく。
中には体が大きくて目立つデデンゴも含まれていたりするけどね。
「さて、一段落ついたかなぁ?ギュギュパニ」
「・・・ったく。あたしに任せてれば事なきをえただろうに・・・ったく。ありがとうよ。ポンピカ」
・・・腑に落ちない。
流れでは絶対僕絡んでたよね?
ウウダギが既に自分の世界から戻ってこないんだから、
相手を挑発なんかすればそうなるだろうに・・・。
本当に困ったねぇ。
「で?この二匹はなんで、ギュギュパニになにかさせようと?なんかの役割なの?」
「・・・ああ、まぁ、なんのことはない。この雄があたしの交尾の相手だって事だけさね」
「妹が交際相手連れてくるの?」
「ん?イモ? コウ・・? なんだいそりゃ?」
「ああ、簡単に言うと、妹ってのは血の繋がった年下の雌のことだよ。因みにギリュリュから見ればギュギュパニは姉となるかな?姉は自分より年上の血の繋がった雌の事だ」
「・・・あー。あれか、ニンゲンってのは以前言ってたね?カゾクという一族をつくるって、それの呼び方たのやつだね?」
「憶えてたの?偉いね」
「頭が悪いと思ったかい? それより、血の繋がった年下の雄はなんていうんだい?」
「弟っていうね」
「そうか。憶えとくよ」
ん?なんで弟の事きいたんだ?
「・・・ギュギュパニ。交尾相手はどうするんだ?ってか一族で決った行事なんだろ?今回の」
「まぁ、そうだけどねぇ・・・。 正直あたしゃ、パパムイや他の子供が多く居るからねぇ、自分の子供を持つ気に慣れなくてねぇ」
「ギュギュパニの一族も”ト”のザウスとかと同じで、カゾクと言うか一族で血統を作るの?」
「ムズカいい言い方をするねぇ?まぁ、そうだよ。あたしの一族は今までオルガがトップだったんだよ。だからオルガの言い分から誰が誰と交尾するってのは決められたんだけどねぇ」
「もしかしてギュギュパニって全部拒否してたとか?」
「・・・ああ、、拒否もするだろう。全てタイミングが悪かったんだ。前はパパムイを育てていたからねぇ」
「なるほど・・・。なんとなく分かったよ。でもコイツラ取っ捕まえても何もならないよね?どうする?」
「それをさっきから考えてるんだけどねぇ・・・いい案が浮かばないんだよ。ポンピカはどうおもうんだい?」
「う〜ん。正直話し振られてもなぁ・・・。まぁ今年も拒否でいいんじゃないかな?」
「・・・そうだねぇ。そうすることにするかねぇ」
なんか煮えきらないなぁ・・・。
ギュギュパニは交尾したくないのか?
まぁ、僕なら、あんなデカくて怖い年増の雌とは御免こうむるけどね。