結界と山羊猿
取り敢えず、一度近くで見るだけにしよう。
山頂から見下ろすゴツゴツの結界へと向かう。
意識だけだと、天へ引っ張られないというのがわかった。
多分、魂で来てたら、此の山頂までは来れないだろう。
そのずっと前に天へ引っ張られてしまうと思う。
見える距離なのですぐに移動出来ると思ったけど、
移動する瞬間、ふっと、嫌な予感がよぎった。
その為、結界の随分手前に移動することにした。
一瞬の切り替わりの後に結界を眺めれる位置まで移動。
そこで、やはりすぐに結界を見るべきではないなと改めて思ったんだ。
ゴツゴツした結界の頂上には
ザウスくらいの大きな猿?というか、山羊?のようなものが空中に座り込んでいる。
その座りかたがまぁ。ヤンキー座りってやつだ。
だから山羊には出来ないだろう。
だけど猿っぽい足の形はしてる。
それに足や手の爪先が山羊だ。
顔もヤギとしか言いようがない。
あえて言うなら誇張された山羊とでも言うのかな?
まぁ、大きな角が巻いてる。
山羊は山羊で、黒い方の山羊だろう。
目の中まで真っ黒で、瞳孔の周りが金色っぽく光ってるように見える。
なぜそんなに詳しく言えるかというと、
相手の山羊猿もこっちを見ているんだ。
そこで分かる。
山羊って普通顔の側面に目が着いてるじゃん?
この山羊は前に着いてるんだ。
だからすごく不自然に目玉だけが飛び出るような感じで正面に着いているので印象深い。
じーっとこっち見てるなぁ。
完全に気づかれてるし、なんだろうアレ。
ってかアレって結界となんか関係してるのかな?
そろ〜っと右回りに移動してみる。
すると、その都度僕に目を向け直してくる。
完全にロックオンされてるなぁ。
ってかなんだろうアレ?
見たこと無いし、あんな生き物居るのかなぁ?
ってか意識の世界であんな感じに見えるってどういうことだろう?
謎ばかりが深まる。
でも、これ以上近づいちゃ不味そうだなぁ。
少し近付こうとするだけで、
ヤンキー座りから腰をあげようとするしね。
此のままで観察したほうがいいかな?
ってかこれで戻ったほうが良さそうだなぁ。
精霊さんには悪いけど、なんかヤバそうなやつが居るんじゃだめだ。
またの機会を探すかヴァレヴァレに乗り込むしか無いだろうな。
さて・・・戻るか。
これと言って精霊さんの足取りが掴めていないけどなぁ。
でも憶測だと、あの結界の中に居てなにかされてそうだなぁ。
ヴァレヴァレってのは随分と腕の立つ術士なんだろう。
ってか集落一個をまるまる結界に閉じ込めて、
外から見えなくする上に、
あんな見張り番まで用意してるんだ。
相当だよね?
コリャ手出ししないほうがいいかなぁ?
でも見つかってるよね?僕・・・。
どうしたもんかなぁ?
と、考えて帰路につこうと思った矢先だ。
山羊猿がスクッと立って、此方に手を向けてきた。
その瞬間に黒い物がビュッと飛んだかと思うと、
あっという間に僕は自分の体に戻っていた。
「・・・」
「?ポンピカ。戻った」
ウウダギが僕の顔を覗いている。
相変わらず可愛い。
首がくるっと回ってる。
「ポンピカ。何かあった?」
「あぁ・・・。ちょっとヤバそうなのに会ったよ」
「大丈夫?」
「この集落には手を出さないと思う」
「違う、ポンピカ大丈夫?」
「僕?僕は意識だけだったからね。なんとか戻れるよ。ただ、少しクラクラするけどね」
「なら少し休む」
「そうさせてもらおうかな」
ウウダギがいつの間にか枯れ草を敷き詰めて作ったベットが僕の横に有る。
ってか随分日にちが経ってしまっていた可能性が有るなぁ。
毎度のことだけど、意識や魂の世界って時間の経過が掴みづらい。
でも、戻ってきてそうそう頭が痛いし本当にクラクラする。
少し寝よう。
ウウダギの言葉に甘えて、
ベットに寝転んで寝てしまった。
「ポンピカ。起きる」
「ん〜・・・。あ、ウウダギ。おはよう」
「おはよう違う。今夜」
「ん〜?」
よく見ると真っ暗で、
焚き火をウウダギが炊いていた。
焚き火の横にバッタを木の串にさして焼いているのが目に入る。
「ポンピカ。ご飯食べる」
「あー。うん。もらうよ。お腹減ってるっぽいしね」
ウウダギに渡されたバッタがものすごくいい匂いしている。
まるでエビを焼いた時のなんとも言えない匂いと同じだろうか?
バッタの首の辺りを手でむしると、
中からエビと似たような中身が出てくる。
からを向いて夢中でむしゃぶりついた。
横目でウウダギを見ると、
ウウダギは皮ごとバリっと音を立てて美味しそうに飲み込んでる。
子供だからかな?
飲み込む瞬間になんでか目を閉じるんだよね。
ソレが本当に美味しそうに見えるんだ。
可愛いしね。
「美味しいね。バッタ」
「うん。僕バッタ好き」
ウウダギは昆虫をよく食べる。
野菜もよく食べるんだけど、肉や魚よりは昆虫を好む。
「ウウダギ。精霊さん見つからなかったよ」
「うん。わかった」
余り興味がなさそうだ。
「多分ヴァレヴァレの集落に囚われてると思うんだけどねぇ。見つけれなかったんだよ」
「ヴァレヴァレ?遠い」
ウウダギは一瞬で計算でもしたのか?
目がキョロキョロと上の方を弧を描くように動いた。
「ここからだとどのくらいかかると思う?ケルケオ使うとどのくらいかな?」
「う〜ん。ポンピカ一匹なら、全力で行けば2週間程度で往来できる」
「ケルケオ使って?」
「うん」
「ウウダギはヴァレヴァレの場所しってるの?」
「エネルル。聞いた。あっちの方向。100匹で一ヶ月、小さいスキクも一緒。ソレくらい」
なんとなく断片で話されるからわかりにくいけど、
それでもウウダギはエネルルからの話でおおよその距離を割り出している様子だ。
そこから考えると、まず2週間で言って帰ってこれるってことだ。
・・・。
なるほど。
実は、正直言うとあの山羊猿が気になって仕方ない。
ヴァレヴァレの術の構成というか、どんなものなのかって言うのも知っておきたいなぁ。
ブルググあたりならある程度しってそうだなぁ。
でも今繁殖期でみんなパーに成っちゃってるしなぁ。
どうするかねぇ。
「ウウダギ。僕何日意識が飛んでた?」
「4日」
・・・結構な日数ここで座ってたみたいだ。
よく獣やなにかに襲われなかったなぁ。
「獣とか来なかった?」
「ん?来た。皆ポンピカに興味なかった」
「ウウダギは?」
「隠れてた。木の上」
なるほど。
どうやら、意識がない僕は動物から見れば死体扱いなのかもしれない。
まぁ、被害がないならいいかな。
「4日って事は、集落はどうなってるかね?」
「多分、そろそろ皆戻るはず、族長の話」
なるほど、じゃぁ、一度集落に戻るか。
ってか体が固まって痛いなぁ・・・。
後でまたストレッチ頑張んなきゃなぁ。