嵐の兆候と建築
「さて、皆起きてるね?」
「ああ、こりゃちょっとヤバイな」
「なんとかしたいわね。集会場に戻る?」
「どうしたの?」
パパムイとギギリカは気づいたんだ。
だけどはじめてのウウダギには状況がわからない。
「ウウダギ、雨季の間にこうやって、雨の量が急に減った時は要注意なんだよ。」
「どうして?」
「此の後、力を貯めた風と雨が凄い勢いで押し寄せるからだよ」
「この小屋は?」
「その事についてだけど・・・三匹とも僕は集会場には戻らないでいようと思うんだ。」
「どうしてよ!?集会場のほうが安全よ?」
「ギギリカ。ポンピカはもしかしたら、いい方法があるって考えたんじゃないかな?」
「どんな方法なのよ?」
「そんなのポンピカに聞かなきゃわからないだろ?」
「それもそうか。ポンピカ?」
「さて、皆に聞きたいんだけど。集落の集会場は絶対安全かな?」
「・・・そうねぇ・・・去年の時は初めてだったからビクビクしてたわ。何時屋根が飛ばされるかわからないもの。」
「そうだったな。それに今年は、どうも屋根の作りが甘い気がするんだ。この間も屋根が飛ばされたろ?」
「集会場、安全、無い?」
「そうなんだ、今年は、ヤバイ気がする。族長も平静をよそおってるけど、たぶん危惧してるんじゃないかな?」
「なによそれ、皆で死ねってうこと?」
「冗談だろ?」
「?」
「族長は覚悟してるかもしれない。だけど、僕らが集会場をどうにかする事はできないだろ?」
「そうだけどぉ・・・」
「あの大きさだらからなぁ・・・。でも皆でやれば間に合うんじゃないか?」
「皆は外に出れないでしょ?水を克服したのは、この集落で僕ら三匹だけだよ」
「そうか・・・だとすると、材料も取りにいけないのか。それは厳しいな」
「パパムイまで・・・」
「そこで、苦肉の決断という事だ。集会場の皆より今僕らが生き残る事を優先したい。」
「・・・いいぜ。俺はやってやるさ。手伝うって言っちまったしな」
「わたしは・・・」
「ポンピカ。手伝う。」
「ウウダギ?」
ギギリカはウウダギに心配そうな顔で尋ねた。
それに対し、ウウダギはあっけらかんとした面持ちで答える。
「ウウダギは、ポンピカの子。ポンピカがやるって言えばやる。」
「そうだったわね・・・。いいわ。あたしも手伝う。協力するわ!」
ウウダギはとても器用だからな。縄も作れるように成ってる。
大活躍すると思う。
ウウダギが居てくれてよかった。
パパムイもやっぱり雄気がある。
言ったことはやるっていう所が好きだ。
ギギリカは優しいんだ。
強気な所があるけど、中身はやっぱり雌なんだな。
取り敢えず、方針を話そう。
「じゃぁ、説明するよ。強い風と雨が来るのは、多分数日後だ。それまでは、力を貯めてるから、夜も作業出来る。だから、今日からは寝る時間をきめないで、できるだけ作業をしたいと思う」
「いいわよ。」
「わかった。」
「うん」
「やる作業はまず、沢山の丸太と枝を集める。それとこの丘にある石を沢山集めよう。」
「どうしてそんなことするの?」
「それはね。まずは、水位があがってきても大丈夫なようにだよ。丸太を囲いにするんだ。そして、継ぎ目には、枝を横に並べてから泥を縫って乾かす。その後に葉っぱを巻いたりして、壁を作るつもりだよ。」
「結構な手間ね?」
「そんなの俺等だけで出来るのか?」
「やるしか無いんだ。それから、屋根を作るよ。木を使ってね。」
「木の屋根?そんなの出来るの?」
「普通、屋根は葉っぱだろ?」
「葉っぱだから飛ばされるんだ。木でやるんだ。そこに石を乗せる。」
「重くするってこと?」
「そうか・・・なるほどな。重ければ飛ばされないわけか・・・葉っぱじゃできないな」
「そういう事だよ。だからまずは沢山の木を持ってきて欲しい。僕は蔓を沢山集める。蔓から縄を作って貰うのはウウダギに任せる。」
「うん。わかった。」
「蔓?縄?なにに使うの?」
「屋根とか壁とかをつなぐためだよ。」
「なるほど、屋根の葉っぱをつなぐみたいに木を繋ぐのか・・・なら、屋根の木は枝の方がいいな」
「小さい枝は使わないからね。」
「分かってる。 よし!俺は、木を採ってくるぞ。」
「じゃぁ、あたしは、石を集めるわ」
「ウウダギは少し待っててくれ、蔓を沢山集めてくる。」
「わかった。」
こうして、僕らはすぐに作業に取り掛かった。
蔓は十分な量がすぐに手に入る。
なので、僕は自分の作業を手早く済ませると、集会場へと向かった。
集会場の場所は一番くぼんでいる。
そのため水位が下ったと言ってもマダマダ、水が大量にある。
丘から集落の入り口のあたりまでは、徒歩で向かった。
丘のあたりからの水位はヒザ下くらいで、歩行に支障がでないからだ。
集会場の元まで、は泳いでいく。
そこで、未だに吊るされている紐をよじ登り、集会場のドアを叩く。
ドンドン
中から、一匹のスキクが顔を出す。
「ポンピカか?どうした?」
「族長に話が有って」
「わかったちょっと待ってろ。」
そういって、顔を引っ込める。
しばらくすると、族長が顔を出す。
「どうした?なにかあったのか?」
「族長、ちょっと、話があるんです。」
「・・・ここでは言えないのか?」
「天気の件で」
「・・・そうか・・・わかった。少し待て。」
族長がそう言うと、一匹で、扉の外まで出てくる。
集落の正面にある縁側のような場所で、僕らはならんで話し始めた。
「”ミニョルン”についてだな」
「ええ」
ミニョルンは”台風”とか”ハリケーン”のような使い方だ。
「そっちは、どうなんだ?皆でこちらにはこんのか?」
「こっちだと多分屋根が飛びますよ?族長もしってるでしょ?」
「・・・どうだろうな」
「ごまかさないでください。」
「・・・まぁ、そうなっても、囲いが残れば、生き延びれはするだろう」
「そんな悠長なことでいいんですか?」
「だがなぁ・・・。お前たちの様に水に入れるスキクが居ない。打つ手がないのだ」
「その事ですけど、水位が低い内に、丘へ避難しませんか?」
「この水の中をか?」
「この集落、とくに集会場の下は水が多いですが、外まで行けば、それほど水は多くありません。」
「そうなのか?いままで、雨季に集会場の外へは出たことがないから知らなんだ」
「事実ですよ。」
「ふむ・・・。だが、そこまでの道のりがどうにもならんだろ?」
「なんとかなると思います。」
「真か?どうするのだ?」
「筏ですよ。筏。」
「イカダ?それはなんだ?」
「平べったい船と言えばいいですかね?僕らが使ってるのとは別ですが、大勢が一度に乗れます」
「ふむ・・・。それはすぐに作れるのか?」
「ええ。そんなに時間はかけません。」
「そうか・・・。だが、ワシは良いのだが、他のスキクはどうだろうなぁ?」
「そこは、族長に任せたいんですよ。ミニョルンが来るまでに、丘のところに皆が住める大きな家を立て始めています。その手伝いも必要でして・・・できれば皆も協力してくれると助かるんです。」
「ふむ・・・。わかった。すぐに返答出来るようしておこう。また明日にでも来るがいい」
「わかりました。」
僕が族長と話して、族長がドアへと手を掛ける。
ドアを開ける途中にチラっと僕の方へと顔を向けて一言。
「ウウダギは元気か?」
「勿論!とても頭のいいスキクですよ。将来が楽しみです。」
「そうか、やはりお前で正解だったな・・・」
そう言って中へと入っていった。
どうやら、族長はウウダギの状況を知っていたんだ、
だけど、一度きめた取り決めを勝手に反故にするわけにはいかない。
そこで、運良く決闘話が持ち上がったわけだ。
なるほど。意外に族長は先を見てるんだな。
マダマダ、頼らせて欲しい。
優秀な親が居る内に沢山学ばせてもらおう。
そのためには、今回のミニョルンをなんとしても生き延びてほしいからね。
そう思って、僕は丘へと戻る。
戻る途中、食べ物になりそうな植物を大量に採っていった。
丘まで戻って僕は驚いた。
物凄い量の木が積み上がっているんだ。
それも、多きを3つに分けてだ。
「凄い量持ってきたね?パパムイ一匹でやったの?」
「俺だけじゃないぜ。ギギリカも手伝った。運び込んでから木を分けたのはウウダギだぜ。」
「へー。」
「なに関心してるのよ。それよりもっと必要かしら?」
「んっとこんだけ有れば取り敢えずは大丈夫だけど、足りないと困るからまだ、木があるなら持ってきて欲しい。それとウウダギ。筏を急遽作ることになった。だから縄がある程度欲しいんだ。何本くらいある?」
「全部で、53本つくった。」
「上出来だ。よし。筏を作るぞ。」
「ちょっとまって。イカダってなによ?」
「何だそれは?」
「色々作業にも有用な船だよ。平べったく作った船って言えばいいかな?」
「へー。」
「ポンピカ?頭大丈夫?木で作った船なんて沈むでしょ?」
「それが沈まないんだ。まぁ作ってみよう。」
「・・・ホントかしら?」
ギギリカは半信半疑だけど、パパムイとウウダギが良く手伝ってくれる。
僕は、指示を出しながら地面に筏の作り方を説明して、
縄をつかって、大きな木をドンドン繋いでいく。
パパムイは、大きな木の枝を落として、落ちた枝を更に仕分けして、僕の元へと丸太を運んでくる。
長方形の土台が出来た。人間なら二人くらいは乗れるだろう。
スキクなら4匹乗っても大丈夫そうだ。
筏の足を組まなければならないので、石を下にしいて、浮かせておく。
大きな丸太が数本あるので、これを足にしようと思い、
短い二本を前と後ろに横にして筏に取り付けた。
多分これで浮くだろう。あとは、櫂だ。
時間がなくて、平べったくは作り込めないので、葉っぱを細い木に数枚重ねて取り付ける。
葉っぱの支えとして枝を横にしてくくりつけた。
これで櫂も出来た。
意外に時間はかからなかったので、試しに水へと浮かべる。
重さで、足が底についてしまった。
でも、浮力は感じる。
概ね成功だ。
「本当に浮くのね・・・」
「すげーな・・・なんで重いのに浮くんだ?」
二匹は不思議そうに見ている。
「これで、集会場の皆をここまで運べるね」
僕がそんな事を言うと、ギギリカがビックリした顔でこちらを向いた。
「ポンピカは集落の皆を見捨てたんじゃないの?」
「なんで?」
「だって・・・あたし達だけでもって・・・」
「まぁ、最悪の場合はって事だよ。さっき集会場にいって、族長に話してきたんだ。明日には移動が始まるかもしれない。」
「それで、イカダを作ったのね?」
「そうだよ。僕ら三匹以外は水を克服してないからね。何匹か纏めて運べるようにしようと思ったんだ。」
「そうだったのね。・・・ごめんなさい。」
「ギギリカ。謝らなくてもいいんだよ。僕は、族長との話しに失敗してたら集落の皆を見捨てるつもりだったからね。」
「・・・」
「でも、族長とは話せたし、ちゃんと説得できていれば、明日は忙しくなるよ。」
「そうね・・・。わかったわ、あたしも頑張る!」
「うん」
「じゃぁ、もう少し作業しよう。いいかな?」
「力仕事なら任せろ!」
「あたしもやるわ!ポンピカより力があるから!」
「なにやる?」
ウウダギが次の指示待ちに入ってる。
とても健気で可愛い。
「じゃぁ、早速僕がこの丘に線を引くからその通りに木を並べていって欲しい。」
「柵を作るのか?結構手間がかかるぞ?」
「そうねぇ・・・あたし達だけじゃ柵作るのだけで精一杯よ?」
「柵は柵だけど皆が思ってるような柵じゃないよ。大丈夫出来るから」
「わかったぜ!」
「いいわっ!」
返事はしなかったけど、ウウダギもウンウンと頷いている。
ウウダギもやる気満々だっ!
僕はノリノリで、地面に線を引いていく。
集落の柵はただ、木の棒を縦に突き刺して並べていくものだけど、
それは、外敵、つまり野生の動物や大きな猛獣が突っ込んできても大丈夫なようにしてるのであって、
水害に対する柵ではない。
僕が作る柵は壁であればいいんだ。
それなりに太い木は当初要所で使うだけで、基本的には、
沢山ある枝を横に積んで、
底に泥を縫って葉っぱを詰めて、
そんでもって石で支えるという物だ。
水が侵入しなきゃいい。
つまり、大きな労力が必要ない。
力仕事よりも手数が欲しい作業だけど、
四匹も居るんだ。
枝の組み込みはウウダギでも出来る。
それに、ウウダギはこの数日ずっと縄を作っていた。
手先が器用なのがココで活かされるとは思わなかったけど、結果オーライだなぁ。
線が引けた。
「皆、この角になっている所に少し太めの棒を二本ずつ立てるよ。」
「隙間だらけだぞ?いいのか?」
「いいの。隙間は枝と泥と葉っぱで塞ぐから」
「なるほど!それなら水が入らないわね!」
「ポンピカ。縄一杯ある。使って」
「ウウダギ。勿論だよ!ウウダギが作った縄がなければ諦めてたところさ」
「・・・うん。頑張る」
ウウダギの頭をなでてやった。
目を閉じて、されるがままのウウダギが可愛い。
何時までもなでていたい。
「ちょっと!ポンピカ!早く作業するわよ!」
「う、うん。ごめん。そっち行く」
ギギリカに叱られた。
パパムイ、ギギリカ、僕の三匹で、軽く穴を掘って二本の棒を建てていく。
一通り柱を建てたので、枝を入れていくんだけど、
三匹が作業している間に、ウウダギが少しずつ穴を埋めていってる。
気が利く子だ。
しかも、つなぎ目を縄で結んでいる。
出来る子だ!
「ウウダギ無理しなくていいからね。明日から皆でやり始めるから程々で小屋に戻るんだよ?」
「うん」
ウウダギはそっけなく返事する。
心配です。
「なぁ?ポンピカ」
「ん?」
「こんだけ広ければ屋根はそれなりに大きくなければダメじゃないか?」
「そうだけど、今作ってる柵は、外側の柵だからね。そんなに重要じゃないんだ。」
「えっ?もしかして、内側にも柵作るの?」
「うん」
「間に合うのか?」
「間に合わせるしかないよ。今日一日でココまで出来たんだ。大丈夫だって」
「そうかしらぁ〜?」
「ギギリカ。ポンピカがそう言ってるんだ、大丈夫さ」
パパムイは、いい雄だな。
不安がらせまいとギギリカに声を掛けるなんて。
取り敢えず、暗くなってしまったので、皆を小屋へと集めて、食事を摂ることにした。
今日の食事は、昨日せがんで来たとおり、ソーセージに葉っぱを巻いたやつと、魚。
「なぁ?夜も作業するんだろ?」
「まぁ、今日は大丈夫だと思う。明日からは少し夜の作業も増えるかもしれない」
「そうなの?」
「うん。」
今日の食事中は特に騒ぐこともなかった。
皆疲れてるのかもしれない。
「ポンピカ。眠い」
「いいよ。ちゃんと寝なさい。今日はウウダギが大活躍だったからね。しっかり休んでね」
「うん」
やっぱり真っ先に眠くなったのはウウダギだった。
だけど、パパムイとギギリカもこの後勉強をする気力はなかった。
ウウダギに続きすぐに眠りについてしまった。
僕も眠い、けどちょっとやっておかないといけない事がある。
木と石はそこそこ集まっているので、明日も引き続きパパムイに取ってきてもらおう。
それと、葉っぱはギギリカに取ってきてもらおう。大量に必要だ。
だけど、泥・・・いや、粘土だ。
こればっかりは僕じゃないと作れない。
だから明日は泥を集めるだけに成ってしまうだろう。
でも族長への確認もしなきゃいけない。
もし、族長の判断でGOサインが出た場合。
すぐにでも他の皆を輸送する事に成る。
そうすると寝床が足りない。
そうなんだ、寝床もそうだけど、食料も足りなくなる。
色々と足りなくなるだろう。
なので、取り敢えず少しでも食料と泥を寝る前までに確保しなきゃ成らない。
色々問題が出た場合に備えて、解決する材料は確保しておかなきゃいけないんだ。
パパムイやギギリカには悪いけど、明日からはもっとこき使わせてもらう。
だから、今日から僕だけは、皆より早く寝るわけには行かないんだよ。
言い出しっぺだからね。
こうして、小屋で三匹が寝息を立てたのを確認した後、僕は、細々とした事をこなしていった。
小屋の側に穴を掘り、其の中に泥を流し込み、土を混ぜてなじませる。
他には、葉っぱをできるだけ多く取って積んでおいた。
紐が大分必要になるので、蔓も大量に準備しておいた。
そして、多分僕は明日皆が起きるよりずっと遅く起きるだろう。
なので、葉っぱの裏に文字でその日やることを書き記しておいた。
一応三匹とも文字は読める様になっている。
じゃっかんパパムイが不安なだけでだけど。
指示内容は、食料集めをパパムイに、葉っぱ集めはギギリカに、蔓の剥ぎ取りと紐の製作はウウダギにと指示を書いておいた。
指示書を書いた後、限界を迎えて就寝したのは、もうすぐ夜が明ける頃だった。