キントレ
ギュギュパニの元へ向かう途中に結構良い運動をした気がする。
現在、僕の目の前には40匹近い小さなスキクの躯・・・、
いやもう本当にピクピクした状態でぶっ倒れてる連中が居る。
「ポ・・・ポンピカ・・・さん」
虫の息のデデンゴが此の後に及んで丁寧な言葉を使いやがる。
なかなか骨の髄まで、矯正されちゃってるね。
良いことです。
だからといって答えはしない。
だって、デデンゴでさえ不甲斐ないんだもん。
しばらく皆を見下ろす。
腕組みをして。
時間がかなり経っていたんだと思う。
気がつくと、視界の端っこにギギリカが棒立ちしてる姿が入ってきた。
何時来たんだろ?
「!? ギギリカどうしたの?」
「・・・なに?これ?どうして子供達がこんな事に?」
「ああ、デデンゴがね?ウウダギに勝ちたいらしくて、僕に体操を教えてくれって言ってきたんだ」
「・・・体操っていつもやってるやつよね?」
「違うよ?もっと本格的なやつね?じゃないとウウダギにまた投げ飛ばされるでしょ?」
「ウウダギが投げ飛ばしたの?デデンゴを?」
「うん。昨日投げ飛ばしてた。手首からキレーに螺旋を描いて、地面に叩きつけられてたよ」
「ウウダギってそんな事も出来るの?」
「どうやら僕の側で僕の事ジッと見てたんだろうね?学んじゃってたみたい」
「・・・ウウダギも不憫な子ね・・・これじゃウウダギに番が出来るチャンスが無いじゃない」
「・・・その発想は・・・なかった。どうしよう」
「そういう事言ってるんじゃないんだけど? まぁ、良いけど、それより此の子達本当に虫の息ね?ちゃんと治るの?」
「若いからね!大丈夫だよ。 きっと」
「怪しいわね」
「大丈夫だって! 多分」
「怪しいわぁ・・・」
「どう言ったら良いんだよぉ」
「どう言ってもダメだと思うわよ? まぁ、あたしには関係ないけど、ギュギュパニには見せないほうが良いわね?此の子達の親がギュギュパニだって知ってるよね?」
「・・・忘れてた」
「はぁ・・・。 もうすぐお昼よ?どうするの? あたし呼びに来たんだけど」
「どうしようか?取り敢えず昼ゴハンは、ここで食べさせようかなぁ?」
「どうやって?あんな鍋、ポンピカじゃ持ち上がらないわよね?」
「だよねぇ」
「ここは素直にギュギュパニに謝り入れたら? 子供をのしてごめんなさいって」
「その言い方すると多分僕が殺される」
「大丈夫でしょ?ポンピカなんだし」
「なんか今日、ギギリカ冷たくない?」
「冷たく無いわよ? ただ、ビックリしすぎて、あたしは関わりたくないなぁって思っただけ」
「・・・幼馴染の好で何とか成りませんか?」
「う〜ん・・・。ならないわねぇw」
「笑い事じゃないんだけどぉ?」
「もうこれは責任取るしか無いわね!ウン。頑張ってね!あたしは、お昼ご飯で呼びに来ただけっ!そう、呼びに来ただけだからねっ!じゃあね!早く来なさいね?」
そういって、僕を放置して戻っていった。
ヤバイ。
ギュギュパニに殺されかねない!
どうしよう。
やりすぎたか・・・!
う〜ん!にっちもさっちも行かないぞぉ〜!
「ポンピカ?コリャ何事だい?なんで子供達が寝てるんだい?」
なんでこういう時だけギュギュパニが来るんだよぉ!
「・・・皆、運動不足なんだよ・・・きっと」
「・・・これ、デデンゴもぶっ倒れてるじゃないか?どうしてだい?」
僕の後ろで物凄い殺気なんですけどっ!
ちょっと、本気で?本気で狙ってます?
「・・・すみません。デデンゴ筆頭に訓練つけてくれ的な事言われたので・・・」
「はぁ〜ん。で?此の有様かい?」
「ええ・・・。手かげんが苦手なもので・・・つい」
「もう昼って時に此の有様じゃねぇ? ねぇ?ポンピカ」
冷や汗が止まりません。
多分後ろ振り返るときっと、モノホンの鬼が居るに違いない。
絶対角生えてる!
どうしよう・・・どうやって切り抜けようかなぁ?
「はぁ・・・。話は聞いてるよ。 デデンゴが昨日ウウダギに投げ飛ばされたんだって? その話の最初は此の子等がポンピカに絡んだのが原因だってね?」
「・・・なんで、知ってらっしゃるのでしょうか?」
「変な口調はやめなっ! ったく。死んじゃ居ないんだね?」
「ええ、体力の限界なんだと思われます。はい」
「・・・そうかい。ってか教えてるあんたは、息一つ切らしてないようだけど?」
「ああ、僕は・・・そのぉ・・・慣れってやつですかね?昔は僕もこんな有様でしたよ?それはもうね」
「まぁ、仕方ない。だけど責任は取ってもらうよ!?」
「はい。すみません」
ギュギュパニがデデンゴを脇に抱えて反対側の脇に小さいスキクを5匹纏めて担いだ。
どんな筋肉してんだよ・・・デデンゴもう少しでギュギュパニに追いつくくらいデカイんだけど?
まだ子供なのにね。
デデンゴが異常なのか?
ウウダギも異常だけど・・・もしかしてウウダギの世代は宝の山?
「ポンピカ! グズグズしてないで三匹位抱えて来なっ!」
「へい!」
ここは素直に従っておこう。
逆らう理由がない。
多分これで許してくれるでしょ?
ギュギュパニに言われるがまま、
伸び切った子供たちを広場へ担ぎ込んだ。
様子を見ているウウダギが僕の所に来る。
「皆どうした?」
「疲れて寝てるの」
「疲れてる。わかった。喉やる?」
「お願いできますか?」
「うん」
「ありがとう」
まぁ、喉ポンポンはウウダギの十八番。
任せておけば昼飯を寝ながら食べれるっていう凄技だ。
「ポンピカ!その子で最後だ。こっちに並べなっ」
めちゃめちゃ機嫌悪いなぁギュギュパニ。
少し離れた所で、ギギリカがあちゃーって顔してる。
ギギリカ?ギュギュパニが近づいてたのタイミング的に気づいてたよね?
それでその顔してるの?
「どうやら並べ終わったみたいだね」
「へい!」
「ポンピカ?さっきから変な口調だけど、何処か悪いのかい?」
「いいえ。特にこれと言って悪いわけでも・・・むしろ体動かしたので元気です」
「そうかい・・・。本当なら此の子達にご飯をやる役目はあんただけど・・ウウダギがさっさと終わらせそうだね。ったくあんたら親子は、何やらしても大事だね」
「・・・ウウダギは優秀なんだ。守ってあげなきゃね」
「優秀だから守るのかい?」
「いや。可愛いからね。大切だよ」
「ふん・・・。すこしゃ、その気持ちをあたし等にも向けてほしいもんだね」
「・・・大丈夫。向けてる」
「どうだかねぇ」
「・・・」
ちょっと気まずいけど、
ウウダギが率先して喉ポンポンで、ご飯を喉に押し込んでいってる。
その様子を後から食事に駆けつけたパパムイが見て、
ワーワー騒ぎ始めたけど、案の定ギュギュパニの鉄拳で沈黙した。
因みに僕もその様子をみて吹いた勢いでゲンコツもらった。
あえて・・・。
「っつー!ギュギュパニなんで手加減しねーんだ?なぁ?ポンピカ」
「う、うん。僕はやっちゃった側だからね。なんとも言えません」
「?ところで、なんでこんなに子供が倒れてるんだ?変なもんでも食ったか?」
その直後パパムイにギギリカのゲンコツが・・・。
本当にパパムイって一言多いっていうか・・・危機感ないよなぁ。
「ったくあんたら揃うといつもくだらない事が起こるわよねぇ」
「なんで殴んだよ!」
「あんたは、殴られて当然でしょ?それともブタれたかった?」
「・・・ギギリカが一番好きだ!・・・」
「うん。知ってる」
「お、俺には・・・」
「うん。知ってる」
「!・・・ポ、ポンピカ・・・ギギリカが酷いぞ!」
「う、うん。取り敢えず謝ろうか」
「そうか! ギギリカすまん!機嫌直してくれ!」
「ったく。パパムイはぁ・・・今度食べ物の事いったらもっと痛くするからね?」
「お、おぉ・・・おおう!」
なんか、途中挫けたけど、持ち直したような返事だなぁ。
絶対何が悪かったか理解してない。
そこがパパムイだ。
うむ、誇らしく思えます。
「ったく。で?結局どんな体操したら、子供たちが倒れるようなことに成ったのよ?」
「え?僕?僕に聞いてる?」
「他にだれよ?」
「いや、僕だけど・・・」
「そりゃあたしも知りたいねぇ。なんでだい?」
「ん? ・・・怒らないでよ?」
「なんだい?やっぱり怒られるような事だったのかい?」
「そうじゃないけどさぁ?昨日ウウダギに投げ飛ばされただろ?デデンゴ」
「そう聞いてるねぇ」
「デデンゴがウウダギと同じ技を使うのは、骨格と言うか体格上、多分苦労すると思ったんだ」
「話が見えないねぇ」
「まぁ、デデンゴに向いてないと思ったんだよ」
「ほう」
「だから僕は、デデンゴにピッタリの動きを身につけさせようとしたんだ」
「ピッタリ?そんな事が分かるのかい?」
「うっすらね?正確かと言われると微妙だけど外れたことないからなぁ」
「ふぅ〜ん。で?デデンゴに向いてるってのは?」
「デデンゴは体格も大きいだろ?筋力も同世代からても抜きん出てる。ウウダギとは月とスッポンだ」
「?スッポンってなんだい?」
「あー。月と虫だって言うような言い回しだよ」
「なるほど」
「ウウダギには出来ないけどデデンゴなら出来るっていう方向の方がきっとデデンゴは喜ぶと思ったんだ」
「ほう。それで?」
「だから、打撃重視の基礎体力をつけようと思ったんだよ。きっと成長すればデデンゴの拳は岩だけじゃなくクウォンにも通じるくらいに成るよ」
「・・・」
「でね?練習っていうのが僕の習った武術はじいちゃんの系統だけど、基本が大陸の流れをくんでてね?それなので、やはり動く動きを学ぶためには動かないって言うことを学べっていうのが始まりなんだ。つまり動くな!っていうんをやったんだ」
「動くな? じゃぁ、なにかい?デデンゴ達は動かなかっただけで、倒れたのかい?」
「多分ギュギュパニは大丈夫だけど、パパムイやギギリカは倒れるよ?」
「想像つかないねぇ」
「動作は簡単なんだ。 パパムイ。いまから僕がする姿勢を真似てみてよ」
「俺に出来るのか?」
「難しくないよ」
「お、おう」
中国武術の基本。
じいちゃんも取り入れている筋力を鍛える動作。
実はインナーマッスルを徹底的に鍛え上げる動作なんだけどね。
中国風に言えば馬歩っていうやつだ。
馬にまたがる姿勢を地面の上でやるだけなんだけどね。
きっと習得に時間を必要としないだろうと思ったけど、
予想が外れたみたいだなぁ。
パパムイが僕の馬歩をトレースする。
「どう?」
「? どうって言われてもなぁ?こんな動作がそれ程なのか?俺にはわからねぇーや」
「続ける事に意味が有るんだよ。 あ、尻尾は地面に付けないでね」
「お?おお・・・。で続ける?どのくらいだ?」
「取り敢えず10分・・・って時間わからないよね?僕が良いって言うまでそうしてて」
「お、おう」
ギュギュパニとギギリカ、ウウダギ、そして脇でちらほら気になってる連中が見守るの中で、
パパムイが馬歩に挑戦しはじめた。
10分くらいは普通余裕のはず。
人間ならね。
尻尾も入れて三点で、基本体を支えているスキクは、
思いの外足の筋力が低い。
僕は尻尾が生えなくなったのでそうではないけど、
殆どのスキクは尻尾を地面に付けないと立っているのがやっとなわけだ。
まぁ、5分位で足がワナワナし始めるはずだ。
だって、デデンゴでさえ5分とかからなかった。
その後必死になるんだ。
今まさにパパムイが挙動不審に成り始めている様子から察するに、
きつそうだなぁ。
まぁ、10分経ってないよ。
クリア出来るかな?
ズザッ!
膝をついて前のめりにぶっ倒れたパパムイが上目遣いに僕を見る。
「ポ、ポンピカ・・・。これダメだぞ!無理!」
「まだ、10分経ってないよ?」
「・・・お前、こんな事子供にさせたのか?」
「うん。僕は3時間位、普通で居れる。そもそも尻尾がないからね」
「はぁ・・・。俺はダメだ。断念する。面目ねぇ」
「別に面目がどうのではないよ。これが出来ないと次の事が出来ないって話をしたかったんだけどね。まぁ、デデンゴも頑張ったかなぁ」
パパムイとのやり取りを見たギュギュパニが割って入ってくる。
「こんな事だけで、子供が倒れたのかい?」
「うん。今みたいにパパムイがヘコタレてるけど、僕はヘコタレルの許さないから、回数やらせたんだ」
「・・・あたしゃ、もっと酷い事されたのかとおもったよ。すまなかったね」
「いや、やっちゃったのは僕だからね。謝られてもしかたないよ。それよりギュギュパニもやってみる?」
「あたしがかい?」
「戦の準備が出来るザウスなんだろ?」
「・・・あてつけかい?」
「そ~じゃないけど。どう?筋肉はつくよ?」
「ふむ・・・。仕事がない時で頼むよ。此の後あたしも踏まなきゃいけないんでね」
「そうか、しかたない。ギギリカやってみる?」
「なんであたしに振るの?パパムイでいいじゃない」
「だって、パパムイが使い物にならないと、皆肉が食べれないでしょ?」
「それいったら、あたしが倒れれば、誰が皆のご飯つくるのよ?」
「・・・そうだった。 しかたないかぁ」
ギギリカのやり取りのところで、隣のウウダギが、
僕をキラキラした目で見ている。
クリックリで可愛い。
「ウウダギ?どうした?」
「僕やってみる」
「ウウダギは此の後、予定有るんでしょ?」
「うん」
「じゃぁ、寝る前にやってみる?」
「うん!」
取り敢えずウウダギがやりたい期分になったのでやらせるけど、
長く続かないだろう。
まぁ、物は試しってやつだね。