鋳造しますよ
パパムイが大きな肉をぺろりと平らげる様を見ながら、
僕らも食事をすませた。
こう見ると、ギギリカとパパムイが言っていた話しが気になる。
ヴァレヴァレから来た連中の殆どが雌だという話だ。
何故だろう?
まぁ、察するならば、
戦いが出来るであろう雄は族長派閥。
そんでもって、使えない連中だけオルガ派閥ってな具合で色分けされていたとか?
その可能性がないわけではない。
だけど、番とかに鳴るんだろ?
スキクってのは・・・。
そうなるとやっぱり、雌が居るなら雄だって、
同じくらいいてもいいだろうに・・・。
でもパパムイは雌ばかりだ、
とか何とか、そう言ってたなぁ。
年寄りも多いのか?
雄が居ても子供か、年寄りとかなら、
多分、戦の手勢として招集されたんじゃないか?
もしかして、
ヴァレヴァレって本当に戦ばかりしている連中なのか?
だったらなんであんなにオルガでさえ戦い慣れていないんだろう?
取り敢えず無事昼食は終わった。
パパムイと弟子って言われてる10匹だけど、
午後は5匹だけついていったみたいだ。
パパムイは出かける際にギギリカにちゃんと「行ってきます」をしている。
律儀なもんだなぁ。
まぁ、パパムイは素直なのが長所だ、
難しい事に頭を悩ませる脳がないんだ。
イイヤツだなぁ。
さて、午後はンダンダの所に引き続き行こうかと思ったけど、
ギュギュパニが早々に僕等のところに来て、
取り敢えず聞いたようにやってみたがどうも変だと言うので、
再び、製鉄作業をしている場所へと向かう。
そこには最初見た時よりもスキクの数が多くなっている。
どうやら昼ご飯の交代で、鞴を踏むやつと休むやつで入れ替わる様だ。
「ギュギュパニ?どうした?」
「ん?そうだねぇ。話は聞いてるよ?この作業を3日は続けるんだろ?」
「あー。うんそう聞いてる。実際にどうだかは知らないんだけどね」
「まぁ、いい。ソレより変っていうのは、試しにこの穴っぽこに刺さっている石杭を抜いてみたんだ」
ギュギュパニが指し示す所には、
何かが流れ出て、少し広がった後が残っている。
そして、杭は戻されているのが分かる。
流れ出ているのは明らかに金属だ。
だけど、ソレが鉄かと言われるとどうだろうとしか言えない。
だって、製鉄なんて初めてだからね。
学校で素材についての勉強をした時に、
古代の人々がこんな感じのやり方で製鉄をしていたという話を、
頭の隅っこで憶えていただけなんだ。
そもそも、前世の僕らみたいな一般人は、製鉄業がどうなっているのかなんて知らない。
見たこと有るかと言われると、製鉄所に見学に行きましたという人でもなければ、
わかりようもないだろう。
かく言う僕は学校の工場見学ってのは、有名なジュースの工場を見に行っただけだ。
そう言えばできたてのジュースが飲めたっけなぁ・・・美味しかったのを憶えてる。
随分話がソレたけど、
ギュギュパニが何を行っているのかがまだ、掴めていない。
「ギュギュパニ?何処が変なんだ?」
「?何を言ってるんだぃ・・・火を扱っているのに固まる水が出ちまってるんだよ?可笑しいだろう」
・・・はぁ?
話さなかったか?
高熱で鉄鉱石を燃やせば、
鉄が溶けて、大抵の金属も溶けて、
それでギュギュパニの大好きなマガが出来るんだと・・・。
言ったはずだけどなぁ?
「何だい?あたしが変なことでも言ったかい?」
「う〜ん。えっと前に言わなかった?鉄鉱石を溶かして、その溶かしたのが鉄だって」
「それは聞いたさっ。憶えてるよ」
「その杭の辺りが鉄が流れ出る場所だよ」
「ん?するってーと、このへんてこな染みがマガなのかい?」
「前も言ったけど、ギュギュパニ達が言っているマガっていうのが、僕の言う”金属”に当たる言葉なんだよ。だから、マガと言われればそうだと答えるけど、ギュギュパニが思っている金属と同類かと言えば違うとなるんだ。言い換えれば、”マガ”にも種類が有るんだよ」
「・・・なるほど、それでポンピカはいつもテツとかそんな言い方をしていたのかい?」
「そう。そして、この流れ出たのはどう見ても銅だなぁ・・・しっかり褐色の色が出ているしね。混ざりが少なかったのかもしれない。何はともあれ、その辺りにまだ、銅が紛れていたんだなぁ・・・不純物が多くなると、出来上がりも狙った物が出来ると限らなく成るんだよねぇ・・・。原材料の精度をあげるには・・・本当に昔の僕の先祖がやっていたっていうか川を利用した精製をするしか無いかなぁ?それか、磁石でも有れば話は変わると思うんだけどねぇ・・・」
「色々と変な単語が出たけどねぇ・・・まぁ目をつぶっておこう・・・それよりそのドウっていうのは何だい?」
「それも”マガ”と言うか”金属”の言っ種類だ。これに錫を混ぜると、青銅になるんだ。青銅はすぐにいろんな加工が出来てらくだよ」
「・・・イマイチあたしじゃついていけないかねぇ?取り敢えず何だい?これは」
「狙っている金属じゃないけど、これはこれで使える物だから、取っておくといい、それにこれもれっきとした”マガ”だよ」
「・・・そうかい・・・やはりマガは作り出せたのかい・・・そうかぁ・・」
そう言って、漏れた物が少し斜面を流れ、
冷えて固まった褐色な物を爪の先で拾い上げるギュギュパニ。
マジマジと見ている。
「思ったより柔らかいねぇ?」
「そうかもしれない。純粋な銅はぶっちゃけ、柔らかいから加工しやすいんだ」
「こんなに柔らかいのにかい?」
「うん。これ単体でも使えると思うけど、これに錫とかニッケルとか色々と混ぜると、固くなったり色が変わったりするんだ。使い勝手が非常に良い金属だよ」
「・・・またわけのわからない単語が出てきたねぇ・・・」
「錫とかニッケルの事?」
「そういうのはどうやって見分ければいいんだい?」
「僕も出来上がったものしか知らないからなぁ・・・でも、鉱石なのは間違いないから色々試しながら発見するしか無いかな?」
「ふむ・・・じゃぁ、このドウってやつはこれで使えるマガなんだろう?」
「うん」
「・・・ポンピカ。これ使えるかい?」
「僕!?・・・まぁ、使えなくないよ?たいして良いものは作れないけどね」
「そうかい。じゃぁ、このドウってやつはポンピカが使いなっ。あたしはそれを見ながら学ばせてもらうよ」
・・・なるほど、金属を取り扱ったことがないギュギュパニでは、
何をどうすれば良いかさえわからないんだろう。
確かに知ってる僕が取り扱わないとダメな案件だなぁ。
「わかった。じゃぁ、見本は見せるよ。それでいいでしょ?」
「ああ、それで良い! ソレが手本になるんだ。気合いれるんだよ?」
なるほど。
僕は強く頷いてみせた。
ソレを周りのスキクがつぶさに見ているわけだ。
指揮系統がしっかりしないとこの仕事はやってられないだろう。
ギュギュパニも腹をくくったわけだなぁ。
頑張ってください。応援します。
色んな意味でギュギュパニはこういう行動を取ったんだろう。
まぁ、なかなかに面白い行動だなぁ。
受け取った銅の塊をウウダギに見せる。
不思議そうに見つめている姿が、子供らしくて微笑ましい。
「ギュギュパニ。すぐにやってみせようか?」
「・・・そんなに急に出来るのかい?」
「出来なくないよ。銅なら炭でも溶けるからね」
「溶かすのかい?」
「そうそう。溶かして、形に流して、冷やせば大抵の形が作れるんだ」
「・・・なるほど、じゃぁ、何が必要だい?」
「少し湿った砂と木の枠かな?」
「・・・わかった。木の枠はベベビドに言えばすぐに用意できるだろう。ウチの誰かに行かせるよ」
「じゃぁ、砂は自分でやるわ」
「そうかい?じゃぁ任せるよ。少ししたら戻ってきな」
ギュギュパニ達の所から川の方向へと向かう。
川の所で、炭を作ったり粘土こねたり作ったり、
更には、レンガを作ったりと結構色々してるんだけど、
その際に粘土周りの作る際に川の砂を混ぜると固くなる事が分かったんだ。
なので川の砂を積み上げている。
ただ、川から上がった砂をそのまま使えばいいかと言われるとそうでもなくて、
上がったばかりの砂は粘度があって、使い勝手が悪い。
更に水分の調整が非常に面倒に成る。
そのため、飼わず名を積み上げて乾かしているわけだ。
うん。乾いた砂の山が有ります。
ウウダギと木製のバケツに目一杯砂を詰め込んで、
川の水を少し振りまいておく。
少し湿っていたほうが、鋳造する時に型を残しやすいんだ。
湿った砂の入ったバケツはやはり思いの外重い。
正直、筋力が余り無い僕やウウダギには辛いなぁ。
でもまぁ仕方ないか。
そのまま、ギュギュパニの所へ。
「戻ってきたのかい」
「うん。重い」
「木枠ってのは言われたとおりの大きさにしたよ。これで良いんだろ?」
10cm四方位の木枠が二組。
注文通りで結構です。
「ソレでいいです。すぐに始めるから見てて」
「そんなにすぐ出来るのかい?まぁ、見てれば良いんだね」
僕は、ギャラリーが大勢居る中で、そこらに落ちている木の破片から、
クグナで形を型取り、ソレを半分圧縮した枠詰めの砂の上に置く。
ついでに手近な灰を表面に巻いておく。
かぶせるようにもう一つの枠を起き。
更に湿った砂を上から落としていき。
最後にギュウギュウと圧を掛ける。
静かに、慎重に蓋を取るようにして、
上に乗った枠を持ち上げると、
巻いた灰のおかげで断面が現れる。
そして、中に入れた木の型の凹型が、出来上がるわけだ。
木枠に型を取っている間、
ウウダギに並行して、
銅を小さな石鍋に入れて、
手近な所に有るコークスでありったけ溶かしてもらう。
コークスに風を送るだけで、かなりの温度に成るらしく、
あっという間に溶け切る銅。
僕が型枠を終えたおろには、
ウウダギの側で、もうドロドロで、
真っ赤に輝いている銅入鍋が・・・。
なんだか熱の光に照らされて、
ウウダギのお目々が妙にキラキラしてる気がする。
印象的だなぁ。
まぁまだ夕方くらいだけどね。
さて、早速注ぎ口を設けておいた型枠を合わせ、
蓋をした所に間髪入れず石出できたトングの様な物を使って、
真っ赤な銅入の石鍋を掴んで、サッと流し込む。
幸い、溢れないですんでよかった。
最初にとかした銅の体積よりも、明らかに小さい木型だから、
当然中の凹型もソレと同じ大きさなわけで、
中に流し込んで、注ぎ口からあふれるか溢れないかで、上手いこと出来た。
学校で金属を溶かして似たような実習を一回だけどした憶えが有るんだ。
その時に比べると随分うまく行った。
「これでいいのかい?」
ギュギュパニから声がかかったけど・・・。
確か流し込んだ後、中に気泡が発生するって話で、
ソレを防ぐためにバイブレーションをかけたりと、する場合も有るっていってたなぁ・・・。
あれ?ソレって石膏でやったやつだっけ?
いまいち憶えてない。
でも砂の型枠だからなぁ・・・振動かければ型が崩れるだろう・・・。
ならここは振動を与えずじっと我慢だなぁ。
「あとは冷えるのを待つだけかな」
「そんなのでいいのかい?」
「なんだと思ってたの?もしかしてもっと難しい事するとか?」
「・・・そうだねぇ。あたしゃ話に聞いていたヤツをやるのかと思ってたんだよ・・・なんだっけ?タ、タ、、タンキンとか言ってたっけ?石の槌で叩くんだって言ってなかったっか?」
「それは銅では、銅板に対してハンマー使ってツボとか鍋とか色々作れるんだけど、鋳造と鍛金はちがうよ?」
「ふむ・・・もしかして材料に寄って全部やり方が違うのかい?」
「・・・そういうことだね。鋼作るならやっぱり鍛金とか鍛造しなきゃいけないんだけど・・・いや、いけないわけじゃないんだけど・・・。要は素材と用途で色々自由度が高いっていう話だね。主に用途が重要かな?今回の鋳造は形を取るだけの作業だからね。物を作る時、金属ではこうやるのが簡単な方だと思うなぁ」
「ってことは、色々と素材が変わってくる度にポンピカに教えてもらわないとダメなのかい?」
「慣れでば、そうでもないと思うけどね。慣れるまでは、付き合うよ」
「そうかい。まぁ、それなら冷えて出来たらみせとくれ」
僕はウンと頷いて、ウウダギと作業が一段落したとほっと一息の休憩に入った。