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エネルル


私は、エネルル。

ヴァレヴァレの集落で族長であるヴァレヴァレの元、

子供として生を受けた。


族長は通常のスキクとは頭一つ、秀でた存在であった。

私はその叡智の一端を小さな頃より厳しく教え込まれた。


族長曰く、

「この世にはスキクほど、愚かな存在は居ない」

なのだそうだ。


小さい時分は其の事について余り深くは考えていなかったが、

歳を重ね次第に族長の叡智が僅かでも身につき始めた頃、

真実に行き着いた気がした。


”スキクほど、愚かな存在は居ない”

事実である。

私は、族長から教えられた、”疑問”を持つこと。

”嘘”というものが存在する事。

”深く考える”という事。


この3つについて、

スキクは全くと言ってよいほど行っていないのだ。


交流の最中。

他集落の知恵者とされる族長連中。

他にも古くから知識を蓄えていると言われる者に至っても、

全てに当てはまった。


ヴァレヴァレの族長だけが異常なのだ。

ヴァレヴァレの族長だけがたどり着いたのだ。


私はその叡智の一端を受け継いだ。


・・・その私が・・・。


今回不穏な動きを起こしたボロンガの集落。

オルガクルガの雌の子供が在中していると聞いていたが、

それが、スキクに正式な戦いで敗れたそうだ。


ザウスにスキクは勝てない。

小さいスキクでも分かる話だ。


・・・なぜ其の様な嘘を?

いや、ボロンガは殊の外、嘘という事に鈍感な集落だ。

彼処の族長は古い族長と聞いている。

しかし、その古さからか硬く、

そして物分りが良くはないと親であるヴァレヴァレが言っていた。


私は族長へ、その真偽を確かめる必要があると提案した。

其の結果、此の集落の中で唯一、

ボロンガと関係があるオルガクルガが調査のため指名を受けた。


実際はオルガクルガ自身が、その話を何処からか聞きつけたのか・・・。

自薦してのことだった。


結果、オルガクルガを見送る際、

以前より族長へ事あるごとに反発をしていた者達への戒めにと、

旅立つ者の縁者を族長が残して行けと告げる。


数匹の小さな子供が私の手元に残った。

族長は「その子供はエネルルが管理しろ」という。

管理?


子供は宝だ。

それを管理とは・・・。


腑に落ちない事もあるが、族長の判断は、常に正しいものだった。

それを考えると、この子供たちは何かの役割があると、

私は考えに至った。

そのため養育するのではなく管理することにした。


数日、数週経つ頃、

また、ボロンガの話が、族長へ昇ってきた。


曰く。

「クワントゥ・イギス・クロゥを討ち取ったスキクがボロンガに居る」

だそうだ・・・。


クワントゥ・イギス・クロゥ。

この集落にも一度顔を出したのを憶えている。

かなり大きなザウスだった。

頭が私の上半身を覆ってしまうほどの大きさで、

腕は、家を支える樹木程も太い。

足は重いであろう自重をしっかりと支えていた。


なかなかの強者に見えたのだが・・・。


それにしてもまたしてもザウスを・・・。

今回は試合で負かしたとかではない。

殺したのだ。

討ち取ったのだそうだ。


ありえない。


しかし、その内容を確かめる前に調査を送り込んでいる。

オルガクルガが全てを明るみに出すだろう。


しばらく、集落は安定していた。

狩猟が常である者達は獲物が少なくなっているという話を頻繁にしていたが、

現状では、微々たるものだ。

毎年、同じ量以上取れるという事はまずありえないのだ。


まぁ、三日に一度肉が口に入れば、スキクは死なない。

十分に生きていける水準だ。


時間が経ち、そろそろオルガクルガがボロンガへ到着する頃だ・・・。

オルガクルガの事だ、話を纏めて、あわよくば、ボロンガを手中に収めかねない。

族長へ其の事について、進言はしてみたが、一言で否定された。


「ありえない」


その時の族長の顔がものすごく険しいものだったのを憶えている。

私なんかよりずっと深く考え、幾重にも策を弄している族長らしからぬ顔だった。



・・・時は過ぎ。

オルガクルガからではなく・・・。

ボロンガから直接の鳥が来た。


以前よりの「余ったスキクは居ないか?」という話しではなく・・・。

オルガクルガが敗れた・・・。

そんな一報だった。


流石に耳を疑ったが・・・。

此の時、族長が天を仰いだ。

もう、どうにもならない・・・。


そう、族長が万策尽きた時の癖だ。

天を仰ぐのは、全ての策を一から思考せねばならなく、

全てが後手に回ってしまい。

策がものの見事に外れてしまう合図だ。


どうやら、私の知らない所で、

ボロンガの中に相当のスキクが出現したのかもしれない。


「エネルルよ・・・。オルガの配下を纏め、ブルググと共にボロンガへ迎え・・・道中ブルググの言うことをしっかり聞くのだ。良いな」


突然考えもしていない指示を受けた。

何故私が?

何故ボロンガへ?

私はまだ未熟です。

まだ学ばなければならないことが多く残っている・・・。


ブルググは、族長の右手とされる雄のスキクだ。

知恵があり、族長も知らぬ事を良く話す。

また一風変わったスキクであることは間違いなかった。


・・・一緒にボロンガへ?

果たして、道中はどのようなものになるのやら・・・。



それは、集落を離れて一週間目に始まった。


「エネルル様。族長からの指示です・・・。皆への食料を制限してください」


愕然とした。

ブルググは何を言っているのだ?

子供も居るのだぞ?


確かに持ち出した食料は微々たるもので、

足りない分は狩りを行わなければならないが・・・。

それでもまだ、許容範囲の範疇のはず・・・何故だ?


確か昨日、ブルググが鳥を使い族長と何やら話をしていた様子だが・・・。

それにしても制限とは・・・。


しかし、族長の指示では・・・私ではどうにもならんではないか。


「ブルググ・・・。本当に族長の指示なのだな?」

「お疑いですか?」


・・・疑う。

が疑うことで、この先ブルググとの仲にしこりが残るのもまたやりきれない・・・。


「・・・わかった。だが、子供への食料は制限をしない・・・それでも良いか?」

「構わないかと思われます」


其の日から成体のスキクへの食事制限が始まった。



しばらく、ボロンガへの道のりが続く。

ココ最近まともに食事を摂っていない。

子供への配給も既に制限が必要なほどに成っている。


「・・・ブルググ。狩りはできそうか?」

「今日の天気絡みますと、もう少し距離を進んだ先が良いかと思います。休憩も含め日陰で行ってはいかがですか?」


「そうか・・・皆へ其の様に伝えよ。もう少しで狩りを行うと」

「かしこまりました」


ココ最近、ブルググの様子が変だ。

変を通り過ぎているかもしれない。

異常と言える。


自分も食事制限を行っているはず。

しかし、何時にもまして鱗の艶も良く。

羨ましいくらいだ。


しばらく狩りで何とか足りないながらも凌いでいる。

今日で、集落を出て、2週間を過ぎた・・・。

折返しは、とうに越えている。


ヴァレヴァレの集落では長が狩りの収穫を一度見定める習慣がある。

知らない者が毒を持つ動物を狩ってきてしまう事があるためだが、

その風習は旅を続けるこの集団でも同じのようで、

私の前にその日の成果が献上という形で並ぶ。


私は毒が入っていないかなど、

確かめるために少しずつ色々な部分を口に入れることで、

その獲物が安全であると証明しなければならなかった。

そのため私自身はそれ程、やつれるようなことはなかった。


しかし毒味もせぬブルググは何故痩せ衰えぬ?


ブルググにはそもそも肉が殆ど配られることはない。

むしろ拒んでいるほどだ・・・。


日頃から其のへんの木の根や葉などを口に入れる癖があるのだが、

まぁ、腹が減っていると言うことは分かるが・・・。

肉を口にせねばそのうち幾ら元気に見えても死ぬに決まっている。


「エネルル様」

「なんだ?」


「後、わずかでボロンガです。族長からの指示が出ているのですが・・・」

「どの様な話だ?」


「ボロンガに着く1日ほどの距離で、一度ボロンゴの様子を鳥で確認しろとのことです」

「そうか・・・。しかし、皆も其の頃には満身創痍だろう・・・。無理はこれ以上させるわけには行かぬのだが?」


「族長からの指示でございます」

「・・・仕方ないか・・・」


「ご理解いただけて良かったです」

「・・・」理解はしておるが・・・納得はできぬ。


親も何を考えているのか?

ココまで辛い旅だとは聞いておらぬ。


私より、着いてきた皆、

特に子供たちの衰弱が酷い。

なんとかしなければならぬ・・・。


狩りもそれ程うまく行っておらぬ。

なぜかわからないが、

毎日上がってくる獲物が1つ減り、2つ減りと減っていく。

大きく収穫が有ったと騒いで見れば、

一呑みで無くなってしまいそうな小物を大量とは言わぬが、

ある程度獲れたと騒いでいただけだった。


あと一週間も無い・・・。

目的地のボロンガがどれほどの場所かなど、

そうか・・・確かヴァレヴァレに届いた鳥の話では、

食料が豊富だと言っていたのを憶えている。


本当だろうか?

もし、オルガクルガが生きていて、

オルガクルガがボロンガを占拠していた場合・・・。


あまり考えたくもない状況だ。

オルガクルガは、親としての性質が強すぎる。

そのため、誰でも子供として育てようと無計画なのだ。

そのせいで、オルガクルガの子供と言われる者達はことごとく狩りの獲物が行き届かない。


一度、オルガクルガが族長へ直に文句を言ってきた事がある。


何でも、狩りの獲物を献上するのをやめると言い出したのだ。

まぁ、分からなくはない。

オルガクルガも子供を養わなければならないのだ・・・。


ここに居る殆どがオルガクルガの子供ということもあるが、

戦を専とする我が部族がここまで狩りが下手だったとは思わなんだ。


鳥の話に聞いたボロンガでは狩りを専従しているのは一匹だという。

他にも獲物はあるらしいが、

私ではいまいちわからない言葉が多く憶えていない。


その上で、オルガクルガが占拠していれば・・・。

それは、オルガクルガによるボロンガ壊滅という事になりかねない。


これは、流石にいただけない。

もし其のような事を起こした場合。

少なからず第四の耳に入る。

そうなれば、オルガクルガはその宿命を捨ててしまったと言われ、

最終的には、ザウスの討伐集団がヴァレヴァレ・・・いや此の場合ボロンガを襲うことに成る。

我々が居ても同じだ。


鳥によるオルガクルガ死亡の報告が「実は嘘であった」。

その可能性のほうが、大きいという事実がどうしても拭えない。


どうにかして、オルガクルガの生死をしっかり此の目で確認しなければならないのだ。

親としては多くの戦スキクを育てた者だったが・・・。


恐らく、族長も其の事が気になっているのだろう。

あえて一日手前で確認を取れという話なんだろう。


「エネルル様?どうしたのですか?」

「・・・少し考え事をしていたまでだ」


「そうですか。ですが、しっかり前を見ていただかなければ困ります」

「・・・そうだな。皆を率いる私が前も見れないでは危ういな」


「左様でございます。間もなく最終の場所です。そこからはボロンゴまで一日くらいでしょう」

「・・・早いものだな」


「そうでございますね」

「・・・」ブルググお前は絶対何かをしている。


皆がここまで疲弊しているのも関わらずお前は、以前と変わらない。

肋も出ていなければ、腕が細くも成っていない。

良く子供を前に其のようなことが出来る・・・。


・・・そう言えばブルググは子供を任されることはなかったな・・・。


まぁよかろう。

それよりも、オルガクルガの安否・・・いや、生死を聞き出さねばならないな。


ボロンガまで一日の距離。

ブルググに言いつけ、

すぐに鳥を飛ばさせる。

夜にも関わらずボロンガからすぐに返事が来た。


私が一番懸念している事。

オルガクルガの生死だが・・・。

話が複雑なのだそうだ。


何度か話に聞いた例のスキクが殺したらしい。

それが真実であれば良いのだが・・・。

続報で、オルガクルガを見張るために族長から預けられた5匹のスキクが、

綺麗に死んだそうだ。

・・・あやしい。


そして、オルガクルガの子供だけが助かったという話だ。

これは明らかだ。


オルガクルガは生きている。

どんな仕組みかはわからないが、

オルガクルガはボロンガと結託した可能性がある。


でなければボロンガから鳥の返事が来ることはない。


「エネルル様・・・どうお考えですか?」

「恐らくオルガクルガは生きているだろう・・・どの様な手段を使ったかわからないが、ボロンガと結託したに違いない」


「やはりエネルル様もそうお考えですか」

「ブルググもか」


「ええ・・・。それで、エネルル様は此の後どういたしますか?」

「・・・」


どうする・・・。

此のままボロンガに赴けば、恐らく私とブルググは拘束されて、

恐らくそのまま食べられてしまうだろう・・・。


第四の耳に入れば、

更に厄介な話に成る。

まぁ、其の際は私とブルググは居ないのだが・・・。


かと言って、ここから戻るわけにも・・・。



私がそんな事を皆の前で考えていると、突然、

後頭部に鈍く刺さる痛みが・・・意識を失う間際、ブルググの声がした。


「すみません。族長の指示です」


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