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キョンシーと、拘束


腰を落とし、手近でブラブラしている一匹に近づく。

すぐにキノコ粉を吹きかけてみた。


驚くべきことに・・・。

気絶しない。


若干動きがギクシャクし始めたけど、動いている。


実に不思議だ。

このキノコは鼻に入るとすぐに意識が飛んでしまう。

一瞬に真っ白な世界へと。


でも、このブラブラゾンビ達は、どうやらソレが効かないみたいだ。

もしかしたら完全に意識というか脳のほとんどの部分が機能停止している可能性が有る。

具体的に考えるなら、

大脳が有ったならば、大脳の殆どが機能停止しており、

小脳の方のみ動いているんだろう。


其のせいで、目に映る情報は大脳で処理されるため、

その機能が損なわれている現在は、

匂いなどの鼻の機能、音などの耳の機能が処理される小脳へと主導権が有るに違いない。


ふむ・・・。

本当にゾンビっぽい。


まぁ、噛まれたからと言って感染とかしないからいいけどね。


しかし、どうしたものかなぁ。

殺っちゃうのは簡単なんだけど、

できれば生かしておきたい。


何とか無力化しないとなぁ・・・。

取り敢えず一匹は、手元のボーラで何とか拘束できそうだけど、

残り7匹・・・どうしよう。


うむむぅ。

ふと、精霊さんが目に止まる。

精霊さんはどうやら僕の近くに居るブラブラゾンビを凝視しているんだけど、

何やら真剣に目を凝らしているんだ。


ソレを見て、僕も見鬼で、ゾンビを覗いてみた。

すると、面白いことが分かる。


僕はソレに気づき、精霊さんへと顔を向けると、

精霊さんも同じ思いらしい。


こいつらブラブラゾンビは、ヴァンに必要な”想い”が欠落してるんだ。

何処をどうやったか知らないけど、”想い”のほとんどの部分が欠落してしまっている。

今ここに居るブラブラゾンビのわずかに残る”想い”はか細く、

それでいてすぐに消えそうなんだ。

だけど、一匹分のお生命力は保持しているように見える。


僕風に言えば、この状態は殭屍・・・。

そう、殭屍、キョンシーだ。


魂が欠けている。

魂魄の魂の部分がだ。


こりゃ・・・。

この8匹はもう手遅れだなぁ。


キョンシーかぁ。

実物を見るの初めてだ。


ただ、映画とかに出てくる手がピーンと成っているタイプより、

完全にゲームとかで出てきそうなゾンビっぽい動きだ。


ブラブラゾンビ改め、スキキョンか?

いやキョンスキーかな?

スキクなんだし、やっぱり名前は残したいなぁ。


そんなくだらない事を考えていても事態は一向にいい方向には行かない。

まぁ、めんどくさいけど、取り敢えず暴れなそうだし、拘束してしまおう。


眼の前の一匹を後ろから鼻を掴み、

声が出ない状態から体重をかけて、足を引っ掛ける。

そのまま前のめりに倒れてやった。


スキキョンは、なんの受け身も摂らずそのまま前のめりにバタンと倒れ込んだ。

本当に生命反応が有るのか不安に成るレベルで無防備に倒れ込んだんだ。

強い衝撃が走ったと思うけど、結局大して行動を阻害したことにはならないようだ。


というのも、倒れ込んでも結局歩く動作をやめようとしないからなんだけどね。

すごいなぁ。そんな執着が有るのかな?

逆かな?無いからこそ?


でもウウダギの縄で足と手を縛り、

尻尾を足に括り付ける。

長い鼻も縛りあげれば、

スキキョン芋虫の完成。

これで動くことはできないだろう。


ボーラも回収して、一匹ずつ縛り上げていこう。


二匹目、三匹目と順調。

いつの間にか精霊さんも僕の隣で、様子を見ている。


”ポンピカよ。あのフッってやるヤツは何じゃ?新しい術か?”


正直答えたくない。

だって、今潜伏しながらスキキョン捕まえる作業の真っ最中だしね。

声出したくないんだけど・・・。

取り敢えず無視しながら、淡々と作業をこなす。


一応シツコすぎるようならそれなりに聞いてますよっていうサインは送ってやる。


まぁ、ごちゃごちゃとうるさかったけど、

何とか全部のスキキョンを拘束できたので、

精霊さんに声をかける。


「精霊さん。流石に隠密中に話しかけられても答えられないでしょ」

”ん!? ああ、そうじゃったか。ワシはてっきり遊んでおるのかと思ったわ”


「何処をどう見たら遊んでるように見えるの?このスキキョン・・っていうか、精霊さん的に見て、このスキクはどう?”想い”が抜けてるでしょ?」

”うむ。それは分かっておるぞ。確か、お前が言っておったな?此の様な状態をキョウシとかいうのじゃろ?中身が空っぽっていう話じゃな”


「憶えてたんだね。まぁ僕も本物のキョンシーを見るのは初めて何だけどね。仮説だけであった物がこうして眼の前に居るのはなんだか少し感動を覚えるよ」

”ふむ・・・しかし、そのキョウシとはえらく危険なものじゃと言っておったのう?”


「うん。此のまま放置すれば、良くて死亡、悪くて鬼が入って、殭屍が殭屍鬼になる」

”また新しい話じゃな?そのキョウシキとはなんだ?”


「殭屍は分かるでしょ?魂魄の内、魂が脱魂してしまった状態だけど、そこに鬼が魂の代わりに入ってくることが有るんだ。そうなると殭屍が鬼を取り込んで、殭屍鬼って言われるように成る」

”ふむ・・・ソレが、最終的にオルデゴと同じだというのだな?”


「まぁそうだけど、オルデゴ・ブンデダの件はオルデゴにブンデダが入ったので、まだ良いほうだよ。鬼って言っても同族で、異質ではなかったんだからね」

”・・・その言い方からすると、入るそのオニとやらによってはもっと酷い結果になると?”


「多分ね」

”ふむ・・・では、コヤツ等は捕まえずとも良かったのではないか?そんな危ういものを残す必要はなかったじゃろう”


「それがさ?一応考えている事が有るんだ」

”ふむ・・・。それはワシに教えられぬ事か?”


「別に言ってもいいんだけど、分かるかな?」

”まぁ、話してみてもおらず分かる分からないを言っても仕方なかろう”


「そうだね。 えっとね。殭屍っていうのは、殭屍鬼に成るって話したでしょ?」

”うむ”


「僕が住んでいた国の昔の呪術の系統に陰陽道って言われるものがあったんだ。まぁ、名前なんてどうでもいいんだけど、僕が使う仙道を元に独自の発展していった呪術形態なんだよ」

”ほう・・・”


「その陰陽道の中に代表的な呪術で”式神”っていう物が有るんだ」

”ふむ”


「その式神にコイツ等が使えるかもしれないんだよ」

”ほうほう。なるほど・・・さっぱりじゃな”


「まぁそうだよね。簡単に言えば、似ている物は似た性質を持つっていう考えから派生した魘魅に関わる呪術だよ」

”更にわからぬな”


「そーだなぁ・・・。殭屍鬼から殭が抜けるとどうなる?」

”キョとはなんだ?そもそも何を言っているか既にわからぬ”


「・・・殭ってのは、硬直を意味する。まぁ、今現状は動いているから完全に殭屍かと言えば違うんだけどね。それでも、時間は掛かっても既に殭屍へと向かっているのは事実だ」

”ん?うむ・・・何がいいたいのじゃ?”


「さっきも言った話だけど、似ている物は似た性質を持つっていう話しでね?殭屍から殭屍鬼になって、殭屍鬼から屍鬼に成る。そして・・・式になり、式神へと至るんだよ」

”?ほう・・・そういうものなのか・・・じゃが、シキガミとやらが何かワシは分からぬ”


「そうか、まだ色々話してなかったもんね?そうだよね・・・」

”・・・そうじゃなぁ・・・一段落ついたらワシにお前の時間を貸せ、其の時間でワシにお前の知っている事を叩き込んでくれぬか?”


「今もそうしてるじゃん」

”そうではなくてだ、もっと本格的にじゃ”


「まぁ、いいけど・・・何はともあれ、精霊さんは其の状態で取り敢えず現界の物に触れる様に成ってからだって言わなかった?」

”・・・練習はしておるぞ?練習わな・・・”


「まぁ、頑張ってください」

”うむ”


精霊さんも結構マメに頑張ってるのは知ってるんだよね。

でも、なかなかうまく行ってない。

それでも、その技術が手に入ればかなりたくさんの事が出来るように成るハズだ。

そうなれば、精霊さん自身もきっと嬉しいと思うんだよね。


さて、これからどうしようか・・・。


”ポンピカよ。そんな悠長にしていてよいのか?”


精霊さんがそんなことを言うものだから精霊さんを見ると、

精霊さんはキノコの粉で気絶してる連中の方を見ている。


気絶してる連中・・・確かにパパムイもそこそこの時間で起き上がった。

まる一日持つわけじゃないだろう。


精霊さんが言ってるのは、アレ等を拘束しないでいいのか?

って言ってるんだろう。


まぁ、そうだよね。

明日にはまた起き上がってくるだろうし、

その時、襲撃を受けたと思えば、交渉の余地もないだろう。


・・・手元のウウダギ縄は全て使ってしまったしなぁ。

変わりの縄を作るにしても大凡100匹分の拘束縄だろ?

無理だよね?


どうするかなぁ。


・・・ん?

ながーい縄紐を作って、

それで全員をつなげれば、そうそう暴れることはないだろう。

互いの動きが邪魔でろくに歩けなくなるだろうしね。


それでいこう。


気絶している連中が起きないうちに作業を終わらせなきゃいけない。

結構急ぎで、辺りの長い草を刈っては、編むを繰り返した。

此の辺りに生えている草は繊維がとても強い。

茎の一本をそのまま引っ張っても僕の力では、

千切ることができないほど強いから十分縄としては扱えるだろう。


作業を進める。

その間、精霊さんには、気絶してる連中に変化がないかを見張ってもらう。

まぁ、作業の時に精霊さんのちょっかいを受けないようにするっていう方が大きいけどね。


クグナを使って、

バッサバッサと根本から刈りまくる。


その間も芋虫と化したスキキョンは、

依然としてウニョウニョしてるわけだけど、

何かをするような動きはない。

拘束されているということに気づいていないようだし、そっとしておこう。


黙々と作業が進む。

ウチの連中が合流するのは早くて夜中。

もっと前に集合をかけてはどうだろうと言われるけど、

ソレだと食料集めが間に合わないだろうとギリギリまで踏ん張ってみたんだ。


さて、そろそろ縄が完成する。

全部で25本の長い縄が出来上がる。

丈夫さもいい感じだし、

イケると思う。


「精霊さん。縛り上げ始めるよ」

”うむ。皆気持ちよく寝ておるわい”


気持ちよくではないと思うなぁ。

まぁ寝るのと気絶は別物だからね。


「取り敢えず、端っこから縛り上げていくね」

”うむ”


外周の端っこから順に5匹ずつ纏めて、

首、手、足を繋げて縛り上げていく。

こうすれば、5匹のウチ誰かが勝手に動こうものなら、

他の4匹の首や足が閉まるし、引っかかる。


まぁ動けないってことだ。

我ながら楽ちんな事を考えついちゃったね。


この作業も何事もなく終わる。

終わったんだけど、縄が2本余る。


ふと、周りを見ると、

確かに合計10匹がどうにもならない状態なわけだ。

そして、キッチリ100匹ここまで来たらしい。


100匹かぁ・・・。

まぁ、これ全部ウチの住人に成れば確かに大きくなるけど、

やっぱり回るか微妙だよね。


今なら始末できるかもしれないけど、

気絶してる連中を手にかけるのは流石に違う気もする。


だからといって、スキキョン達を手にかけてしまえば、

僕の将来の手足が無くなりそうで、それも微妙だ。


結果から言えば数を減らすことはしないほうが良いだろう。

諦めよう。

もっと集落が大きくなる方法と、

皆が飢えない様にする方法をドンドン実行していくしか無い。


エネルルとあの雄、

そしてスキキョン達は、別々に縄で縛り上げる。


「ふぅー。 一段落ついたよ」

”ふむ。毎度毎度苦労しておるようじゃな?仲間を連れてこぬからこうなるのじゃぞ”


「連れてきても、狙われるだけだよ。まぁ今回は僕一匹の方が楽だし良いかなぁ」

”まぁ、そういうことにしておこう。それより時間ができたじゃろう?呪術について教えを受けたいのじゃが?”


「ええ?今から?」

”そうじゃ、さっき言っておったじゃろ?なんだか気になることを言っておったな?”


「どの辺?」

”オニがどうのとキョウシキがオニとくっつくとか?そんな話しじゃったな?”


「ああ、式神のこと言ってる?」

”それじゃ!それはすぐにできぬのか?見てみたい”


「う〜ん。良いけど、いきなり見せてもきっと精霊さんにはできないよ?魘魅のほうが向いてる気がするしね」

”それじゃ!それも聞きたい。お前は色々と術の事を知っておるようじゃ。まるで、旧き者が扱うかのようなものだ。ワシもその真理にたどり着きたいのじゃ”


「真理ってほどじゃないと思うけどね?ただの知識だよ。それにこっちの世界じゃないと試せないんだ。向こうじゃ論理だけで立証は無理だろうしね」

”まぁ、何でも良い。何から始める?なにかできないか?”


う〜ん。

正直何をやってみるかなぁ?

式神を作るのも結局、このスキキョンに色々やってから出来るのであって、

そう簡単に出来ることじゃないんだよなぁ。


魘魅であればすぐに出来るかな?

なにか無いかなぁ?


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