ワガママと後始末
目を開けると、
何故か、避難所の平たい石の上に立っている。
どうやら戻ってこれたみたい。
外はまだ暗いから、それ程時間はかからなかったみたいだ。
さっさと、自分の体に戻ろう。
霊体での移動って本当に便利だなぁ。
あっという間に僕が寝ているハンモックの場所までたどり着く。
見ると、僕が寝ている。
ウウダギは珍しく、僕の横で寝ているね。
ウウダギもそろそろ親離れし始める時期かな?
親としてはまだまだ可愛いウウダギでいてほしいんだけどね。
そう言えば、精霊さんの姿がない。
ウウダギが寂しがるだろうからって、こっちに残ったはずなのになぁ?
何処ほっつき歩いてるんだろう?
まぁ、いいや。
流石にプンタと話すってのは気が滅入る。
なんというか圧迫感が凄かったからね。
僕が自分の体に霊体を重ねようとすると、
何故か、体に入れない。
なんでだろう?
強い力で、押し戻される。
そんな感じがする。
これはまずくないか?
霊体でずっと居るわけには行かないだろ?
本体は目の前なのになぁ。
もしかして、思いの外長時間体から離れると戻れなくなるとか?
そんなことかな?
でも、色々な前例を見るとそんなことはなさそうだしね。
なんでだろう?
もう一回重ねてみよう。
・・・。
あー。わかった気がする。
だって、薄目開けてるもん。
「ちょっとぉー。精霊さん・・・僕の体に潜るのやめてもらえない?困るんだけど」
ビクッ!「・・・」
「狸寝入りしても、バレバレだからね?なんで、『ビクッ!』って、なるんだよ・・・」
「・・・Zzzz」
「ほらー。わざとらしいなぁ・・・。どうしようかな?自分の体だし我慢すれば良いかもしれないなぁ・・・取り敢えず一発殴るか」
!「お、起きておるワイ! 何を物騒な事言うておる? ワシが案内せねばプンタに会えなかったのだろう?」
「ほら、起きたじゃん。っていうか、なんで僕の体勝手に使ってるんだよ?」
「・・・それはぁ・・・のう? ほら、アレじゃよアレ」
「なに誤魔化そうとしてるの?目的は何?」
「・・・ウウダギがかわゆーてのう・・・生きて触ってみたかったのじゃ」
・・・それは分かる気がする。
気がするけど、ダメだろ。
「・・・取り敢えず僕の体返してよ」
「・・・それがのう? この体は、どうやらワシに入っていてほしそうじゃ!」
ぶふっw
「おい!なめてんの?なんで僕の体に僕以外のが入るのを許してるんだよw少し考えてものいえよw少し面白かったけど・・・」
「ちがうんじゃ!そうじゃないんじゃ!」
「じゃぁ、なに?なんでまだそこから出ないの?」
「・・・むむむ・・・出たくないのじゃ・・・」
素直すぎる・・・。
・・・ワガママ・・・年寄りのワガママかぁ・・・。
でもそれ僕の体なんだけど?
そのワガママは聞いてられないなぁ。
「・・・ワガママは良いから、早く出なよ。殴って追い出すよ?」
「・・・ふん!やってみせよ!この体は想いに強いからのう!生半可な想いでは叶わぬぞ?」
いけしゃーしゃーと・・・。
どーしてくれようか・・・。
「本気で殴るからね?精霊さん耐えれる?」
「う・・・も、もちろんじゃ・・・」
「言ったね?殴るからね?いいね?」
「・・・わ、わかったのじゃ!出れば良いんじゃろ!出れば!」
すぐには、出てこなかった、
ぐずった挙句、少し体から出てきた頭の部分を、
強引に掴み、引き抜いてやった。
其の際に「ヒィィィィ!」とか言ってたけど・・・。
「・・・なんで僕の体に入ってたの?あれからそんなに時間経ってないでしょ?」
「?何を言っておるのじゃ?プンタに会ったのじゃろ?どのくらい会話しておった?」
・・・?ん?
えっ?・・・結構な時間話したけど・・・。
狭間と現界での時間は、主観で随分と変わるよね?
それ程時間経ってないはずだよ?
「プンタとは随分話したけど・・・それ程、狭間に居た時間は無いはずだけど?」
「・・・なるほど。プンタにも困ったもんじゃなぁ。 まぁ良い。 お前がプンタに会いに行ってから、既に3週間は経っておるぞ。その間、ワシが体を使い、生命維持をしておったのじゃ」
えっ!?3週間も?
じゃぁ、今、3週間も後なの?
「其の様子じゃと、実感がないようじゃな。まぁよい。取り敢えず、体に戻って朝まで休むが良い」
さっきまで嫌がってたじゃん?
なんでいきなりそういうの?
諦めが着いたの?
言われなくとも、さっさと自分の体に戻るよ。
精霊さんが入っていた時は体に入れなかったけど、
今はすぐに体を重ねることが出来た。
頭が、重なると同時に身体の感覚が戻っていく。
ついでになんだかお腹がイッパイで苦しい。
これ、精霊さんが大量に食べたな・・・。
しかも眠気がすごくて、そのまま意識が消えていった。
翌朝、起きると、ウウダギが僕の顔を覗いている。
「おはよう。結構戻るのに時間掛かったみたいだね。一匹にさせてごめんね」
そこまで言うと、
ウウダギの目に大粒の涙が湧き出して、僕の顔に落ちてきた。
「寂しかったの?ごめんね」
「大丈夫。僕分かってた」
分かってても泣いちゃうよね。
ホント心配させちゃった。
ごめんね。
僕は、ウウダギの喉をなでてやった。
気持ちよさそうに目を細めて、撫でられるウウダギは、
やっぱり可愛い。
さて、起きて、皆に挨拶しに行こう。
多分、この3週間の間、精霊さんがしでかしたであろう事を、
謝って回らなきゃ行けなさそうな予感だ。
「ウウダギ取り敢えず下で、体操しよう。それから皆に顔だそう」
「うん。わかった」
なんだか声に貼りがある。
随分元気そうに返事してる。
相当、寂しかったのかな?
まぁ、仕方ないか。
木から降りる。
なんだか身体の感覚が変だ。
なまってる。
すごく、動きに無駄がある。
これ・・・精霊さんは何もしてなかったんじゃないか?
もしかしたら食っちゃ寝しただけだったりして・・・。
運動の”う”の字もしなかったとか?
それは困るなぁ・・・。
メンテナンス位はしてもらわないと、困るよ。
勝手に身体使ったんだからそれくらいしてくれてもいいのになぁ。
「ポンピカ。動き遅い」
ウウダギに指摘された。
分かってます。
「どうやら、精霊さんは運動しなかったみたいだね」
「運動する。言った。ヤダって言ってた」
・・・ウウダギの忠告は無視するなよぉ・・・。
「仕方ない。少しでも取り戻そう」
「わかった。一緒」
どうやら、ウウダギも一緒に運動するようだ。
動かなくなった筋肉っていうのは、
あまり激しい動きを急に行うと、反動が来てしまうんだ。
なので、僕は少しずつの運動を行う必要がある。
だけど、こういう時はとても理にかなった動きがあるんだ。
中国拳法とかで行われるヤツ。
套路の中でも老架式っていう動きの遅い物なんだけど、
老架式ってのは、基本、身体の動きや、
身体を動かした時の身体への負担までを全て体現することで、
なまった身体をほぐしたり、基礎の筋肉を作ったり動きの精度を上げたりと、
とても重要な物なんだ。
これさえやっていれば、
基本身体は外部からの負荷に対しある程度の対応が、
自ずと取れるようになる。
まぁ、インナーマッスルも鍛えられるし良い事ずくめだ。
「ウウダギ。僕の動きをしっかり見てるんだよ?」
「うん」
太極拳の套路が体操として、有名であって、
さらに老架式が老若男女にも出来ることから、
意外にやっている人が多かった・・・大陸の方々だけど。
僕は太極拳を元にじーちゃんが編み出した。
老架式に対応した套路を始める。
一巡するまでに体内時間では30分もかかる。
これを、三回は繰り返さないといけない。
一巡目を終える。
「ウウダギ。今のが体操だよ。これを速さを落としてゆっくり行うことが大事だ」
「わかった。ゆっくり」
二巡目。
ウウダギは一巡見ただけで、完全コピーが出来てしまう。
力が無いけど、動きはそもそもスムーズだ。
頭が良いのが直に身体へフィードバックするんだろう。
見た動きを真似ることが出来るのはすごいなぁ。
しかも、なにがどうやって作用しているのか、
おおよその予測は着いていそうだ。
なぜかと言えば、片足をあげて、地面へと震脚しなければならない場所がある。
それを老架式では震脚の動作もゆっくり行って、
地面に足がついた時の地面から身体へ流れる力の動きを全身で受け止める動作があるんだ。
それをしっかり真似ているので、ただ、形を真似ているだけではなく、理解していると分かる。
二巡目を終えると、
汗がびっしょりだ。
ウウダギも喉の下と耳の横には少し滲む感じの汗が出てる。
「結構辛いでしょ?」
「大丈夫」
顔が大丈夫って言ってない。
鼻の頭にシワが寄るほどキツイようだ。
「ウウダギもう一巡やるんだけど、着いてこれる?」
「うん。大丈夫」
「無理はしないようにね?」
「うん」
三巡目。
これは今の僕でも辛い。
体力が落ちているのが丸わかりだ。
身体の可動範囲も萎縮し始めていたようで、
二巡目でやっと、元の可動範囲へと戻った様子。
三巡目は鍛える意味で重要そうだ。
ウウダギには流石に辛そうだ。
なんとか三巡目が終わると、
少し腰をおろした。
ウウダギもそれをみて、腰を下ろす。
「どうだった?」
「3回は無理」
「ウウダギはまだ小さいから三回は出来なくていいよ」
「うん。大きくなったら頑張る」
ウウダギはニッコリしてる。
僕と一緒に何かをやることが楽しそうだ。
「さて、休憩したら皆の所に行こうか?」
「うん。多分、族長がプンプン」
・・・精霊さん?なにやらかした?
少し気がかりでは有るけど、
ウウダギと一緒に集落へと向かう。
何時も見慣れた風景。
だけど、何処か違う。
色々違う・・・あれ?
あんな物何時作ったの?
3週間でそんなに変化があった?
・・・あっちにも、
こっちにも・・・。
これは、プンタが言っていた話しの中で、
監視しないとダメたよってやつじゃないのかな?
まぁ、いいや。
族長がウウダギ曰く、プンプンらしいけど、
プンタから聞いた話しを少しすれば、
また違うだろう。
僕とウウダギが集落に顔を出すと、
いきなり、パパムイが挨拶してくる。
「おっ!ラマナイじゃんか!今日は何して遊ぶんだ?」
・・・精霊さん?
遊んでただけか?
「・・・ポンピカなんだけど・・・」
「えっ!?そうなのか?」
「精霊さんが入ってないでしょ?」
「・・・ああ!ホントだ!ポンピカじゃないか!?無事だったのか?」
無事だったのかって・・・。
精霊さんは僕がどうなってるとか言ってたのか?
酷いことに成ってそうな予感しかしない。
「あれだろ?中身が獰猛なカエルに食べられちまうって言ってたぞ?どこもなんとも無いのか?」
あれ?そうなの?
プンタって意外に怖い感じなの?
そういう事?
精霊さんが着いてこなかったのって、もしかして食べられちゃうからとか?
まさかねぇ・・・。
「・・・特に問題はないかな?むしろ精霊さんがなまけたおかげで体がだるい」
「はははwそりゃしかたねーよwだって、食っちゃ寝したり、何もしないでぼーっとしたりしてたからなw」
クッソっ!
精霊さんひどくないか?
もう少し僕の身体の事考えてくれよ!
「あ、パパムイ。ラマナイ起きてきたの?」
「ギギリカ。ポンピカだってさ。 戻ったらしいぜ」
「そうなの?よかったぁ・・・あのままラマナイだったらあたしポンピカの事嫌いに成るところだったわよ」
ギギリカにまで迷惑かけたの?
「本当にポンピカなの?」
「うん。どうやら精霊さんが皆に酷い事して回ったみたいだね・・・僕の身体つかって」
「そっかぁ。ポンピカは何処言ってたの?」
「プンタに会いに行ってたんだよ」
「・・・プンタ?どうして?」
「精霊さんが居場所しっててね。それで話しがてら会わせてくれるっていったから着いてったら、此の有様だね」
「・・・そっかぁ・・・でも、可愛そうだね」
「?なにが?」
「ラマナイ結構、雌に色々してたわよ?あたしとシシブブで間に入って止めたけど・・・」
「・・・いや、ホント、ごめんなさい。なんていうか・・・僕がやったことに成ってる?」
「ポンピカっていうかラマナイがやった事って皆理解してるけど、身体がねぇ・・・ポンピカだからさぁ?」
「・・・もしかして、酷いことになってるのかな?僕記憶がそもそも受け継がれてないから・・・わかんないんだけど・・・」
「多分、中身がポンピカって判れば大丈夫じゃない?パチャクケチャクにはちゃんと謝っておけばいいと思うしね」
・・・なんかやったんだね?
精霊さん・・・溜まってたのか?
そりゃそうだよなぁ・・・何千年も一匹でしかも霊体で過ごしてれば、
そりゃ溜まるだろうけど、
それを僕の身体使って解消するのはどうかと思うけどなぁ。
「わかったよ。取り敢えず、パチャクケチャクには謝る。理由はわかんないけど・・・」
「そうね。それでいいと思うわよ。それから、埋め立ての所だけど、あとで見に来てよ」
確かに色々変わってそうだしね。
後で見に行かなきゃね。
「わかったよ。あとで見に行く」
はぁー・・・さて、族長の元に・・・っていうか、
族長見るからにプンプンだなぁ・・・。
なんだろう、手招きしてる。
怒られに行くの?
どうして?
僕何も悪いことしてないのになぁ・・・。