バロバロ解体と宴なんだってさ
イイオオに重い所を持ってもらい、
ウウダギと僕でバロバロ雄の大きな喉元と脇の下と腹の心臓の辺りと、
色んな所に穴を開けては血抜きを進める。
流石にこのバロバロはデカイので、
そのまま吊るして何かをするとか出来ない。
吊るしても木が支えることを拒否するからだ。
まぁ寝そべってる所を色々とやるしか無い。
血の匂いで肉食の動物が寄ってきそうだけど、
警戒はしてるから問題はないだろう。
続いて、雌のバロバロも大きいので雄と同じ様に血抜きを進めた。
更に子供たちだけど、三匹の内、袋に入っていた一匹は既に事切れてしまった。
生きている二匹はまだ意識がない。
物凄く浅い息をしながら足を縛られて倒れている。
調べると雄雌なわけだけど・・・。
「ねぇ?」
「ああ?なんだ? さっさと済ませないと皆が来てからじゃどうにもならんぞ?」
「いや、そうなんだけどさぁ?」
「だからなんだ?」
「あれ?イイオオ何キレてるの?」
「キレてねぇ。だからなんだ?」
「そう?まぁいいや。 僕はさ?あまり良くわからないんだけど、シシブブ辺りにこの二匹の子供持ってけば飼っちゃわない?」
「・・・おまえ・・・天才かっ!」
イイオオがビックリした顔をしている。
「いや、肉は親の二匹で十分足りるよね?」
「・・・言われてみればそうだな・・・」
「じゃぁ、わざわざ殺さなくてもよくない?」
「・・・それもそうだな・・・だけど移動してる最中に暴れてもなぁ。これだけ大きい子供だと押さえきれないだろ?親でこれだぞ?」
「ポンピカ。子供飼う」
ウウダギが決定したので飼う方向になります。
「ウウダギが飼うって言ったから飼います」
「おいおい。俺に相談してたんじゃないのか?」
「そーだけど、ウウダギの決定は絶対なので」
「絶対なのか?」
「うん。絶対」
「・・・絶対・・・なのか・・・そうか。仕方ないか」
イイオオが頭を捻ってるけど、
ウウダギは絶対なので問答無用です。
そんなこんなで、子供たちの拘束を更に強化する。
準備ができたので、パレンケ達が戻ってくるのを待つとしよう。
手持ち無沙汰になってしまった。
どうしようかな?
僕等三匹とは別に少し離れた辺りで、言い合ってる二匹。
方や「ワシはお前の先祖ではない!」と言ってる精霊さんと、
「俺の先祖がスケスケなんてかっこわりーだろ!」と言ってるパパムイ。
どっちも微妙に噛み合ってないけど、
両方とも先祖が精霊さんだと言った僕の言葉について、
議論を重ねている。
しかも、議論のテーマをどっちも否定すると言う・・・ワンサイドだ。
なぜ議論になるのか今一わからない。
頭がどうかしてるとしか思えない。
遠巻きでパパムイと精霊さんとのやり取りを三匹で地べたへ座って眺めていると、
集落からの応援が来たようだ。
茂みからギギリカが血相を変えた面持ちで顔を出す。
僕等を見に入れると、なんだか安心したような顔をした。
続いて、パレンケとデデンゴにシシブブ、
そして、珍しくギュギュパニとバルバル、ベネネズ。
結構力自慢が揃った。
遅れる形でパチャクケチャクと、
ヒュルル、ンダンダと、
荷台を運んできたオルギュスとイヂジン。
そてと、イヂジンと一緒のセルセルだ。
なんだか随分たくさん来たね。
「ポンピカ。大丈夫だった?」
ギギリカがまっさきに僕の所へ来て話しかけてきた。
だけど、パレンケから事情きいてるよね?
大丈夫だった?とはどういう意味?
「あ・・・ああ。別にこれと行って変わったことはなかったよ?ね?ウウダギ」
その問いにウウダギがサッと耳を覆ってうずくまる。
もう咆哮はしないから怖がらないで欲しい。
「・・・変わったことないよね?イイオオ」
「・・・ああ。俺等が気絶したことを省けばなっ」
凄いぶっきらぼうに言われた。
気絶したのは手違いなんだ。
あんなに効果が大きいなんて知らなかったんだよ。
「まぁ、変わったことないよ」
「皆気絶したって話しウソじゃなかったのね」
「好きくはウソつかないだろ?パレンケから聞いたんでしょ?」
「ええ。聞いたけど信じられないじゃない・・・声だけで、バロバロを狩ったんだって?」
「いや、それも誤解だよ。雄の彼処に倒れてるデカイバロバロだけは、気絶しなかったんだ・・・取り敢えず錯乱してたから隙が多くてね。安全に仕留めることができたよ。ラッキーだった」
「・・・そう。じゃぁ、集落まで聞こえたあの獰猛な動物の声・・・あれはポンピカの声ね」
・・・集落まで届いちゃったの?
かなりの距離だよ?
「・・・何かの間違いじゃない?結構な距離だし」
「あの声のせいで、一時集落のみんなが錯乱したのよ!?わかったるの?」
それも初耳。
そうかぁ・・・もう咆哮はよそう。
被害がでかすぎる。
「ごめんなさい。そんなに被害でてたのか・・・知らなかった」
「・・・まぁ、知らなかったんなら仕方ないけど・・・」
「それより、疑義理科はあのバロバロの回収に来たんだろ?」
「そうよ。皆集めてきたわよ。ギュギュパニも珍しく集落にいたからね連れてきたわ」
珍しくかぁ。
まぁ最近ギュギュパニとは顔を合わせていない。
なんていうか、皆脱皮時期なのもあって、薄い皮がペラペラしてたり色々だ。
ただ、明らかに僕だけ浮いてる。
なぜなら僕だけ脱皮してないからだ。
目の前に居るギギリカは元々赤い色の鱗が有るタイプだったけど、
ペラペラしているすき間から見える鱗には、赤いと言う色より、
雰囲気的なところで、紅色といったほうが良いだろう物がチラリしてる。
なるほど・・・。
皆この時期に鱗の色の変化がおきるのか?
だけど僕は以前、クウォンを倒したときからこっち急激に身体の形が変わったし、
何より僕の体に有る鱗は元々少し黒い模様が有ったのがドンドン黒く侵食してきて、いまじゃ、
ファイヤーパターンの様な模様に縁取りで赤い線が入ってるようなかんじだし・・・。
最近気づいたけど、ファイヤーパターンの黒い無地の場所に金色のパターンまで入ってきてる。
日に日に変化しているので、あまり気にならないけど、
もう鱗の模様で僕を判別するのは無理だろう。
まぁいいや。
僕はウウダギがあまり変化しなさそうなのが逆に安心で落ち着くんだ。
そっと、ウウダギを見る。
未だに耳に手を当てて目をギュッとしてるので、
大丈夫だよと言い聞かせる。
「よう。ポンピカ、最近顔を合わせなかったねぇ。元気にしてたかい?」
ギュギュパニだ。
「うん。なんとかやってる」
「そう言えば、バルバルから採掘場の事聞いたんだって?」
「そうそう。聞いたよ。でも今度実際に見に行きたいんだ」
「そうか・・・。まぁ、大丈夫だろう・・・」
なんだろうその溜めは?
「ん?ああ、ちょっとねぇ。掘りまくっちまったせいで、縦穴が大きくなっちまったんだよ」
・・・ベベビドにハシゴかもうこの際だから鉄とか作ってエレベーターでもこさえるようにする?
「そうか・・・昇り降りは大変?」
「あたしゃ大丈夫なんだけどねぇ・・・バルバル達はまだ足腰が弱くてねぇ・・・はぁー」
どうやら、あまり役に立ってないの?
バルバルとベネネズは今の話を聞いてしたを向いちゃってる。
「ギュギュパニ。二匹ともまだ始めたばっかりなんだから最初から出来るわけじゃないんだ・・・根気よく付き合ってやってくれない?」
「はははっw。言われなくても分かってるよ!オルガから頼まれてるからねぇ」
どうやら、オルガとも話したりしてるみたいだ。
「それより、体調は良さそうだけど、胸の所はどう?」
「ああ、随分違和感はなくなったよ。筋肉も衰えていないしねぇ」
どうやら危惧していたことは起きてないようだ。
良かった、良かった。
「じゃぁ、ギギリカと一緒に指示出ししてくれない?一応血は抜いておいたんだ」
「そうかい。いいよぉ、任せなっ」
任せなといってギギリカと話を始め、すぐに其の場に居る皆へと号令をかけた。
あっという間に親バロバロが解体されて、一匹死んでしまった子バロバロも解体。
そして、荷台へとドンドン積んでいっては、二匹でその荷台を運んでいる。
おっつけもう一台がすぐに荷物を積んで二台で自転車操業。
早めに片がついた・・・。
「ねぇ。ポンピカ・・・」
「・・・シシブブどうしたの?」
「バロバロ・・・本気で飼うの?」
「飼えない?」
「飼い方知らないわよ?あたし」
「なんとかならない?観察はしてるんでしょ?」
「してるけど・・・まぁ、食べ物は若草で今の頃は良いかもしれないけど、バロバロって雑食なのよ。普段どんなものを食べてるかわからないことも有るし・・・」
「そうかぁ・・・上手いことできないかな?」
「そうねぇ・・・今はケルケオの子供たちで手一杯なのにバロバロもって成ると手が回らないわ」
「じゃぁ、誰かつけようか?選んでいいよ?」
「なら、ンダンダかしら?それなら多分大丈夫よ」
「わかった。イイオオから其の話を振っておいて」
「わかったわ。それとバロバロは行動範囲が広い生き物なの。あの牧場じゃ狭すぎるわ」
「増築の件もイイオオに直接話してくれ。きっと、ギギリカ経由でいい感じに成ると思う」
「そう?なら問題はないわよ」
「よかった。ウウダギが飼いたいって言っちゃったからね。後に引けなかったんだ」
「もう。やっぱりあんたはウウダギに甘すぎるわね」
「面目ない」
シシブブとの話しの後は、
皆が手分けして色々やることで、
思いの外早く、作業が終わった。
集落へと皆で帰ると、
結構な量の肉の塊が大きな葉っぱの上に仕分けされて置かれている。
その前に族長が何故か出てきて立っていた。
「なんで族長が出迎え?」
「なんじゃ?出迎えてはダメなのか?」
「いや、いんだけどさ?」
「ふむ・・・。まぁよい。今日は思わぬ収穫が有ったようじゃな」
なんだろう?
族長まで出張るような獲物だったの?
「そんなにバロバロって貴重なの?」
「ん?知らんかったのか?バロバロは凶暴だからのう。それに体も大きく強い。狩りで取ってこれる事は稀じゃ。」
へー。
そーゆーもんなんだね。
「まぁ、今回はポンピカが殺ったと聞いておるから当然じゃろうと思うが、それにしてもあの声の主がポンピカだとはのう・・・」
其の話は知ってるんだね。
まぁ、ウソじゃないし良いんだけどさぁ。
「・・・ふむ。まぁよかろう。まずは、みなで祝いじゃっ!バロバロで宴を催そう!」
族長が何時になくなにかやる気で、
皆に向かって宴とか言ってる。
僕とウウダギは首をかしげているけど、
周りの皆は、嬉しいらしく声をあげて大喜びだ。
そんなに喜ぶ獲物だったのかなぁ?
ふと、周りの大騒ぎしている連中の中に混じってはしゃいでいる変なやつ・・・。
ありゃ精霊さんだなぁ。
なんだろう?精霊さんもバロバロ好きだったのかな?
そんなこんなで、宴が催された。
バロバロを直火に掛けながら、
それにいつの間にやら創ったらしいソースっぽい物をかけて、
さらに塩を振っている。
どうやら料理はギギリカが取り仕切っているようだ。
ギギリカって何でもできちゃうんだなぁ。
すごいなぁ。
それにしてもあのソースどうやって創ったんだろう?
皆で美味しく焼きバロバロを食べる。
バロバロの味についてだけど、
なんと言うか、久しぶりに牛肉食べたなぁって思うような味だった。
そして、ソースだけど、にんにくでも入っているのか、
すごくスパイシーな匂いがするし、他にもコショウのようなものも入ってると思う。
とてもBBQ向けの味だった。
甘さも果実をペーストしたんだろう。
もしかしたら熱を加えて凝縮したかもしれない。
それ程に甘かった。
まぁ、結局の所、すごく美味しかったわけだ。
宴というだけは有って、パチャクケチャクとパレンケが、
日頃から温めている踊りと歌を披露したんだけど、
何ていうか、一応様になっている。
前の吠えたり暴れたりとかではない分良いと言う程度だけどね。
それにしても、要所要所でオリジナルのステップや、音もそうだけど、
聞いたことのないテンポも入ってるし、とても楽しめた。
どうやら、一部だけが異常な成長をとげているわけではなく、
この集落の中のすべてが可笑しいんだろう。
そう捉えるしか無い。
さて・・・一応考えないようにはしてたけど、
至る所で、異変が出ている。
普通にゆっくり成長する分には、良いんだろうけど、
このまま急激な成長と変化が訪れれば、やがて取り残される連中が出てくる。
主に・・・ヴァレヴァレの連中には極僅かな変化しか無い所を見ると、
この集落に長く居る連中が変化しているのであって、
新参のヴァレヴァレやパチャクペチャクやパレンケはそれ程大きい変化がない。
そう。
この土地が多分原因なんだと踏んでる。
そして、その効果というか変化に対しては、動物や植物。
生き物全てに影響が出ているんだ。
なんとなくだけど、その変化を起こしている原因というか何と言うか、
それに繋がる者は知ってる気がする。
というか一匹で相手にされなくても浮かれてるヤツが、
パパムイの側でギャーギャーしてるんだよね。
絶対、精霊さん関連の事だろうなぁ。
それに変化が起きた時期とか色々考えてもそれ以外に無いんだよねぇ。
隣で、肉を丸呑みしながらご機嫌なウウダギに少し精霊さんと話してくるっていって、
僕は一匹妙に浮いてる精霊さんへと声をかける。
「精霊さん。ちょっといい?」
”なんじゃ?今一番楽しいときじゃぞ!話しかけるでない!”
なんだろう?
相手にされてないのにそんなに楽しい?
皆の一員に成ってるつもりなんだろうけど、
精霊さん?アンタを直視出来るの三匹だけだからね?
ウウダギと僕とパパムイの三匹ね。
「そんな事言わずにさぁ?結構重要な話が有るんだよ」
”今良いところではないか!あの雌のスキクの踊りは格別じゃぞ!お前も見ればよかろう?”
いや、格別とかじゃないよ。
微妙だよ。
「そんなの大した踊りじゃないだろぉ・・・それよりずっと重要な話なんだって、いってるじゃん」
”うむ・・・今ではないとダメかのう?”
・・・今じゃなくても良い。
今じゃなくてもいいけど、後でだと絶対忘れそう。
「後ででも良いけど、今ならちょうどよかったんだよ」
”ふむ・・・では、ここで聞いてやろう。なんの話じゃ?”
顔!顔こっち向いてない!