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こ、こんなの読んでる方いらっしゃるんですか!?
ほかにもっといい作品ありましょうに・・・・・・
・・・・・さて、「 灰かぶり 」たちがどたばたしている間に、お城では大変なことが起きていました
王子様の花嫁選びの舞踏会の隙をつき、なんと悪徳大臣たちがクーデターを成功させていたのでした。
大広間の片隅に集められ、兵士たちに剣を突き付けられた貴婦人と令嬢達が、かわいそうに恐怖でがたがた震えています。王子様の花嫁になる幸せな夢から一転、今まで出会ったこともない荒事の真っただ中に放り込まれた箱入り娘たちです。何人かは耐えきれず気絶してしまいましたが、介抱する余裕など誰もありません。ただ小鳥のように身を寄せ合って、なすす術もなく青ざめていました。
その中には「 灰かぶり 」の継母や義姉二人の姿もありました。
「 さあて、王子。うかつに動くと・・・・・おわかりでしょう? 御婦人方の命を散らせたくなければ、剣をお捨てなさい 」
いまや城のほとんどを掌握しながらも、悪徳大臣の顔は緊張で強張っていました。
それほどまでに王子の武勇は国内外に鳴り響いていたのです。
「 くっ!! 大臣、気でも狂ったか ! こんなことをして、この国の誰がおまえについてくると思っている !? 我らを皆殺しにしても、憂国の士も貴族もまだいるぞ 」
人質を盾に脅され、剣を投げ出し、悔しさに歯がみする王子。
やっと安心した悪徳大臣は高笑いしました。
「 ひーっひっひっ ! この国の貴族などもう不要 ! なんといっても隣国が私のバックにはいるのですから !! だから、私に従わない男はすべて皆殺しです!! 女達は隣国の兵士どもへの慰みものとして生かしておきましょう 」
人質の女性達から絶望の悲鳴があがりました。
「 この売国奴があっ ! 恥を知れ !! 正義無きおまえには必ず天の報いがあるぞ ! 」
売国奴・・・・・・絶対童話では出なさそうな言葉です。
「 ぬかせえっ ! 勝ったもんが正義なんだよっ ! そのむかつく澄まし面、穴だらけに変えてくれる ! 接近戦でチャンスは与えねぇ ! 遠くから一斉に射殺せ !! 」
かっとなつた悪徳大臣は、とりすました仮面をかなぐり捨て絶叫しました。
その醜い形相は、ゆがんだ心をそのまま映し出す鏡でした。
自分達が辿るであろう悲惨な末路を聞いた「 灰かぶり 」の義姉達がわっと泣き出しました。
「 きっと罰があたったんだわ。なんの罪もない「 灰かぶり 」をいじめたりしたから ! 」
「 そうね。きっとそうよ。ああ、どうして「 灰かぶり 」に優しくできなかったんだろう ! あたしたち、きっといい姉妹になれたのに 」
義姉たちは手を取り合って、罪を悔いて泣きじゃくりました。
・・・・・いえ、あれは男の娘です。姉妹にはなれません。
それをきっかけにあちこちで泣き声がわきおこり、あたりは騒然となりました。
悪徳大臣はいらだたしげに眉をしかめ、兵士に命じました。
「 うるさい奴らめ。見せしめに何人か斬って黙らせろ 」
「 はっ 」
残酷な命令に従い、兵達の凶刃が閃きます。
「 やめて !! 」
継母が悲鳴をあげてとびだし、義姉たちを背中で刃からかばうように、ぎゅっと抱きしめました。
「 おかあさま !? 」
「 母が ! 母が愚かだったのです ! つまらぬ嫉妬に狂って、あの子につらくあたりました ! あの子の亡くなったお母様に負けたくない、それだけの理由で !! 本当に悪いのはこの母です ! 姉妹の仲をゆがめたのはこの母です ! 」
「 ・・・・・おかあさま 」
親子三人は悔悟の涙を流し、固く抱き合って最後のときを待ちました。
そのとき轟音がして、大広間上部の飾り窓が蹴破られました。
「 なにっ !? 」
驚いて見上げる悪徳大臣たち。
「 ぐえッ !? 」
破片とともになにかが降ってきて、義姉たちに剣を振りおろそうとした兵士が、蛙の潰れたような声をあげて崩れ落ちました。
飛び降りてきたのは一人の人間でした。
着地しざまに剣速より早く、兵士を腹パンチ一発で気絶させたのです。
その神速を目で追えた数少ない者たちが、驚愕にまなこを見開きます。
王子もその中の一人でした。
輝くようなドレスを身にまとい、それ以上に美しい少女が凛と立っていました。
まるでその少女のまわりだけスポットライトのあたっているような圧倒的な存在感。
凍りついている継母と義姉達に振り向き、にっこりとします。
雪を溶かす春の陽だまりのようなその笑顔に、王と王妃がほうっと息をつきました。
一発で心を射ぬかれた義姉たちが、うっとりとその令嬢を見つめます。
いつもと違い見事に着飾ったその人物がだれか、義姉たちにはわからなかったのです。
人々は突然現れた少女の美しさに窮地さえ忘れ、ひきこまれました そして首を傾げました
その乙女、「 灰かぶり 」が、なぜかガラスの一本歯の高足下駄を履いていたからです。
「 ・・・・・御婦人たちを人質にとったのですか。恥を知りなさい !! 」
再び厳しい顔に戻った「 灰かぶり 」の裂帛の声が響き渡ります。
「 な、なにものだっ!? 」
目を見張る悪徳大臣。
しかし、その手で抜かりなく部下達に合図を送っていました。
「 悪党に名乗る名前などありませんッ !! ・・・・・笑止 !! 」
柱のかげの死角から放たれたクロスボウの矢数本を難なく掴み取る「 灰かぶり 」。
振り向きさえしませんでした。
「 魂のこもっていない矢など、真の武人には通用しませんよ 」
その技の冴えと言葉に感銘を受けた王子側の将軍達が、状況を忘れ拍手喝采しました。
「 ば、化け物め ! だが、こっちにはまだ人質が ! おい・・・・・・・! 」
「 させません ! イタチちゃんず !! 」
「 「 「 「 はーい !! 」 」 」 」
「 がっ !? 」「 げっ !? 」「 なっ !? 」
悪徳大臣があらたな指示を出すより早く、「 灰かぶり 」の声がとび、元気いっぱいの幼児たちのお返事が響きます。人質に剣を突き付けていた兵士たちが一斉に倒れ伏しました
「 みんな、よくやりました 」
にっこり笑う「 灰かぶり 」。
「 わーい 」「 ほめてほめて 」「 なでてなでて 」「 きょーえつしごくでござる 」
カマイタチのように走りまわって兵士たちの足の腱を切り裂いたヴァイキング幼児たちが、わらわらと血刀をぶらさげ「 灰かぶり 」のもとに集まってきます。
見かけはお遊戯会でおねえさんと楽しく遊ぶ坊やたちですが、実態は地獄の軍勢です。
さすが元クズリだけあって、小柄な身体に似合わぬ一騎当千の兵なのでした
「 ・・・・・「 灰かぶり 」が私たちを助けてくれた。あんなひどいことをした私を 」
「 灰かぶり 」の継母の頬を滂沱の涙が伝わります。
義姉たちがその言葉に、自分たちを助けた令嬢の正体にようやく気付き、息をのみます。
・・・・・継母は仮にも「 灰かぶり 」の母親でした。
心の眼の曇りが拭われさえすれば、たとえどんなに「 灰かぶり 」が美しく着飾っていたとしても、たとえ名を伏せていたとしても、おのれの娘だと気付かない筈がなかったのです。
「 王子様 ! 剣を ! 」
「 かたじけない ! 」
「 灰かぶり 」が叫ぶよりも早く剣を拾い上げた王子が切っ先を悪徳大臣に突き付けます。
「 形勢逆転だな。観念しろ。因果応報、やはり天より悪業への報いはあったのだ 」
メルヘン世界に似合わないパワーワードが続々です。
「 灰かぶり 」のほうをちらっと見て、美しい天使による報いがな、と小さく呟きます。
王子は、飛び降りてきて窮地から救ってくれた「 灰かぶり 」の背中に天使の翼を見たのです。
まさか背中に翼ではなく、股間に異物が生えているなどとは思いもしないのでした。
王子の流水のような無駄のない動きに「 灰かぶり 」がほうっと息をつき、頬を染めます。
王子の武の才能を認め、昂ぶっているのです。
目ざとい王様が王妃様の袖を引っ張りささやきます。
「 ・・・・・どうやらあのお嬢さん、うちの王子に気があるようだぞ 」
・・・・・大間違いです
あるのはそっちの気でなく、殺る気のほうです。
お嬢さんどころか、ひどいぽんこつ男の娘です。
むしろお茸さんです。茸と書いてジョウと読むのです。
「 まあ ! あんな素敵な子が私の娘になったら、きっと毎日どきどきが絶えないことでしょう! 」
王妃様も王様の勘違いを大歓迎です。
考え直してください。絶えるのは笑顔ではなく血筋です。
「 ・・・・・こんな、こんな馬鹿な・・・・・! なんなのだ おまえたちは !? 」
あっという間に人質を奪還されてしまった悪徳大臣が唇をわななかせます。
急展開についていけず目が泳いでいます。
はい、女装少年とクズリどもです。
ほんとになんなんでしょう。こいつらは。
突然、高足下駄を履いた令嬢が窓から降ってきて、古のヴァイキングの格好をした幼児達が乱入して、順調だったはずの企てを一瞬でおじゃんにされたのです。
悪徳大臣の混乱は当然です。
「 私にもぜひ我が国の恩人のお名前をお聞かせいただきたい。美しい姫君よ 」
王子様も目を輝かせて問いかけます。
それはこの場にいる誰もが知りたい答えでした。
「 ・・・ふっ 名乗るほどのものではございません 」
「 灰かぶり 」はあほの子でした。
空気をいっさい読まず、一度は言ってみたい格好いい台詞を優先したのです。
その場の全員の目が点になりました。そして一斉に思いました。
〝 じゃあ、なにしに花嫁選びの舞踏会に出てきたの !? 〟 と。
「 灰かぶり !! 」
「 はーい 」
突然、継母の声が飛びました。
反射的にいいお返事して振り向こうとするあほの子。
格好つけたさきから正体即バレです。
「 後ろ ! 」
「 え 」
不穏を察知し、とっさに身を屈めた「 灰かぶり 」の頭上を剣が通り過ぎました。
髪の毛の数本が切り飛ばされて宙に舞います。
「 へえ 」
いま剣を振るった風采のあがらない、ぼさぼさ髪の小男が感嘆の声をあげます。
ばっと大きくとびのいた「 灰かぶり 」の頬を冷や汗が伝わります。
気配ひとつ感じられなかったのです。
継母の声がとばなければ、首が切り落とされていたところでした。
継母は、ほっと胸を撫で下ろしました。
「 お義母さま・・・・ 」
「 灰かぶり 」は感動しました。
そしていじめられたつらい日々を思い出し、感謝の念でいっぱいになるのでした。
〝 私が気づかなかった相手の動きを把握しているなんて ! お義母さまは達人だったのですね ! では、あの修行にはやはり意味があったのです 〟と。
・・・・・ありません。あれはただのいじめでした。
感動のポイントが完全にずれている「 灰かぶり 」。
せっかく芽生えかけた義母子の情は、あほの子のせいですれ違ったままなのでした。
頭からっぽにして書ける話は、やってて楽しいです。
りふれっしゅ~