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拳撃のシンデレラ   作者: なまくら
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3

こんなのお読みいただいてる皆様、なんかほんとすみません・・・・・・

「 ・・・・・まったく ! 時間がないから、やむをえないけどさ。クズリに魔法をかけた経験(こと)のある仙女なんていないんだから、どうなったって知らないからね 」


ぶつくさ文句を言いながらも、仙女はクズリを御者に変身させる魔法をかけるしかありませんでした。

大ねずみをあらためて探すなどしていては、舞踏会が終わってしまうからです。


「 ・・・・そもそも北に住んでるクズリが、なんでこんなところに・・・・ 」


「 え、森で散歩してたら頭の後ろからじゃれついてきて、遊んだあと友達になったんですよ 」


ねーっ、と言いながらクズリの脇の下に手をいれ、抱きあげている「 灰かぶり 」。


クズリが、しゃーっと相槌をうちます。 

そのごつい手足と外見はやはり小熊のようにしか見えません。


仙女は寒気がしました。

嘘かまことか、クズリは樹上から獲物の背後(すき)をつき襲いかかると伝えられます。

「 灰かぶり 」はクズリに捕食されかけたのではないかという疑念が頭から離れません。

あほの子だから気付いていないだけで。


・・・そして、魔法をかけられたクズリが光り輝き、人間に変化してむくりと立ち上がりました。

アイマスクのような鼻覆いのついた鉄兜をかぶり、鎖帷子に毛皮を羽織った戦士が、ブフォーっと息を吐き出しました。

 

手斧を握りしめ、凧型の盾をかまえ、鋭くあたりを見回します。 

その張り詰めた空気は、血迷い出た地獄の戦士さながらでした。


「 ・・・・・・・・・ 」

仙女と「 灰かぶり 」の視線がだいぶ下に落ちました。


そこにいたのは古のヴァイキングの格好をした5才くらいの幼児でした

「 ・・・あのね こんばんは ぼく御者です ・・・んと、がんばります ! 」


唖然とした仙女の視線に気づき、元クズリのヴァイキング幼児はあどけない笑顔を浮かべ、無理に言いくるめようと可愛さアピールしてきます。

仙女は魔法が完全に失敗したと悟りました。 

うさんくさいにも程がありました。

こんな擬態に騙されるあほがいるわけがありません。


「 か・・・ かわいい ! 格好いい ! 」


・・・・・いました


()()()()()()()()()()()、目をきらきらさせて興奮に頬を染める「 灰かぶり 」。


仙女はそのあまりのちょろさに頭痛がしてきました。


・・・・・ん ? ()()()()()()() ?


仙女は蒼ざめました。

オムレツが皿にあるのに、材料になったはずの卵を持っているようなものです。

おそるおそる問いかけます。


「 ・・・・・あのね「 灰かぶり 」、あなたのそのお友達って()()いるのかしら 」


「 紹介します ! 私の強敵達(ともだち) 全部で十二匹のフェレットちゃん軍団(いっか)です ! 」

まだペットイタチと言い張るあほの子。


「 灰かぶり 」の足元から一斉に飛び出してきた残りのクズリたちが、目を燐火のように光らせて、しゃーっと声を揃えました。 


地獄の野獣軍団が現れました。


仙女は頭を抱えました。

たとえ失敗しようと、一度発動した魔法は止められないのです。 

そして、今放った変身魔法の効果はまだ消えてはいません。

不幸の連鎖は続くのです。

すべてのクズリたちが光輝き、姿を変えていきます。


「 ぼく御者です 」「 ぼくこそ御者です 」「 ぼくが御者だもん 」「 ぼくが御者なの 」「 せっしゃ御者なり 」


可愛らしいヴァイキング幼児軍団が揃い踏みして、小鳥のようにぴーちくぱーちく囀ります。

・・・・・キャラだてに一生懸命な子も混じっているようです。


頬をふくらませて紅葉のような手をつきあげて自己主張しあうさまは、幼稚園のお遊戯会のほほえましさでした。


「 ぼくが御者っていってるのに ! わーい 死んじゃえ 」


「 死ねって言ったやつが死んじゃえ 」


「 この剣のるーん文字にかけて、われに勝利をー! 」


「 くく こんや・・・こよいの妖刀は血にうえておるわ 」



殺意をふくらませて剣をつきあげて自己主張しあうさまは、修羅道の死亡遊戯のおぞましさでした。


御者台一枠をめぐって、あっという間に開始された、生き残りをかけたバトルロワイヤル。


笑顔のまま飛び交う殺気。ぶつかり合う斧とブロードソードが火花を散らします。

いくら可愛く見えても、やっぱり中身は凶悪なクズリのままなのでした。


仙女と「 灰かぶり 」があわてて馬車に押し込まなければ、互いが首を切り落とされるまで、戦いは続いたたことでしょう。


「 いいかい。魔法は午前零時までしか持たないよ ! 零時をすぎたら、ドレスも、馬も馬車も、なにもかも元通りの姿をさらすことになるよ 決して忘れるんじゃないよ。よく覚えておおき ! 」


お約束の確認です。


「 はい !! 小柄な私の体力は長期戦(ながいあいだ)はもちません。零時までに王子様と決着をつけなければ、大通りに屍をさらすことになるのですね。ゆめ忘れませんとも !! しかと心に刻み込みました ! 」

お約束のボケです。

なぜか馬車の屋根の上に仁王立ちし、力強く答える「 灰かぶり 」。

バランスの鍛練をするつもりなのです。


その足にはガラスの・・・・・一本歯の下駄。


いくらガラスの靴の魔法をかけても「 灰かぶり 」の闘気が魔法を変にゆがめてしまうのです。

仙女はもういろいろ諦めざるをえませんでした。



「 心配しないで !  行ってきます ! 」


仙女には心配しかありませんでした。


結局、最初に変身した元クズリのヴァイキング幼児が御者になりました。

馬への合図にあわせ、馬車別当(ばしゃべっとう)たちが、馬の鼻革を掴んで出発を促します。

馬車が走りだし、別当達はひらりと後部のタラップに飛び乗りました。


馬車は風をまいて突き進みます。 

血に飢えたヴァイキング幼児たちを満載し、馬車屋根の上には腕組みをして、王子様との対戦に胸高鳴らせる「 灰かぶり 」。 

まるきり陸を行く海賊船です。

得体の知れない闘気の航跡をひく馬車に、森の狼たちも怯えて、仲間たちに注意を呼びかける遠吠えをするのでした。


おつかれさまでした。


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