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拳撃のシンデレラ   作者: なまくら
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全部で17000字くらいの予定です。

1日につき、1話か2話ぐらいのスピードで投稿します。

むかしむかし、あるところに、継母と二人の連れ子の義姉たちにいじめられている「 灰かぶり 」と呼ばれる男の()がいました。


虐められている原因は明らかでした。


本人は男の中の男のつもりなのですが、「 灰かぶり 」はそれはそれは嫌味なほど美少女顔をしていたのです 。


実子の娘たちとの容姿の差は明らかで、まるで亡くなった前妻と自分を常に比べられている気持ちがする継母はいつも癪にさわってならないのでした。


「 灰かぶり 」本人が泣いて嫌がるので、継母は「 灰かぶり 」に、ぼろぼろの女の子の服をわざと着せ、女の子言葉を使うことを強要しはじめたのですが、それがまたかえって薄幸の美少女感を際立たせ、継母の苛立ちはとどまるところを知らないのでした。


「 灰かぶり 」は朝から晩までそれこそ召使いのようにこき使われていました。

でも、本人はちっとも堪えず、いつも元気いっぱいでした。

「 灰かぶり 」は継母たちのいじめを修行と勘違いしていたからです。


灰にぶちまけられた豆を素早く拾うことで拳速を、いい豆悪い豆を短時間でより分けることで一瞬の判断能力を、拭き掃除でまわし受けの練習に日夜励んでおりました。


そう「 灰かぶり 」はどうしようもない武道馬鹿だったのです。


家事の合間を縫い、「 灰かぶり 」はよく亡くなった母親の墓にお参りに行きました。

そしてさめざめと泣きました。


「 ・・・・・おかあさま、百人組み手がしたいです 」


すっかり女言葉が板についていました。

心配して様子を見に来ていた鳩たちが、ハシバミの枝の上でずるっと滑りました。


「 灰かぶり 」は稽古相手がいない寂しさを紛らわそうと、亡くなった母親の墓のそばに生えているハシバミの木で打ち込みの練習に日夜励みました。

そして、ついにハシバミを根元からへし折ってしまいました。


天が遣わした鳩達はやるせなくなって、哀しく鳴きながら空の彼方に飛び去っていきました。

ほんとうは窮地に陥った「 灰かぶり 」がこのハシバミを揺すると、さまざまなお助けアイテムが降ってくる予定だったのです。

鳩達はそのことを「 灰かぶり 」に教えてあげるため、天に遣わされてきたのです。


なのに、「 灰かぶり 」は心優しきものにさしのべられた天の助けをへし折り、自分の拳ひとつを頼りに、荊の道をすこやかに歩み続けるのでした。

         

さて、そんなある日、この国の王子様が、花嫁選びの舞踏会をもよおしました。


国中の若い娘たちは色めきたちました。


「 灰かぶり 」の二人の義姉たちも例外ではありません。

いつも以上に「 灰かぶり 」を酷使し、精一杯おめかしし登城の準備にいそしむのでした。

なにしろ未来のお后さまになれるかもしれないのです!


そのうえ、王子様は容姿端麗文武にすぐれた人格者でした。


ふたりの義姉は「 灰かぶり 」に髪を結い上げさせながら、ぺちゃくちゃと王子さまの噂話に花を咲かせていました。


「 ・・・・・それに王子様はたいそうな武術の達人だそうで、お城の騎士たち十人がかりでも歯が立たないんですって 」


「 ああ、ぜひ舞踏会では、王子さまのお相手うけたまわりたいわ 」


それまで二人の会話を聞き流し、黙々と働いていた「 灰かぶり 」の手がぴたりと止まりました。


目ざとく気づいた義姉達があざ笑います。



「 まさか おまえもお城に行きたいのかい? おまえのような小汚い灰まみれの娘などお城に入れるはずもないのに 」


義姉たちは「 灰かぶり 」がそもそも男の()という事をすっかり忘れているのでした。

もともとお嫁さん選びの対象外なのです。


継母と義姉たちが楽しそうに連れ立って出て行くのを、「 灰かぶり 」は一生懸命に笑顔を浮かべて見送りました。

そして三人が見えなくなってしまうと、とうとう耐え切れなくなってつっ伏して泣き崩れたのです。


「 おやおや、涙をおふき。かわいい顔が台無しだよ 」


やさしい声に「 灰かぶり 」が顔をあげると、いつも「 灰かぶり 」を気にかけてくれる仙女がそこに立っていました。


「 仙女さま・・・私・・・私も行きたいのです 」


あとは嗚咽で言葉になりませんでした。 


・・・・・はるかなる武の高みへ、と続けるつもりだったのですが。


無双の王子様と命のやりとりがしたい、それが「 灰かぶり 」の熱望でした。


でも、こんなみすぼらしい格好でお城に行けば、不審人物としてつまみ出されてしまいます。


「 灰かぶり 」のぺたんこの胸は哀しみで張り裂けそうでした。


仙女はわかっているというふうに頷きました。


「 心配いらないよ。わたしがお城に行かせてあげる。王子様にも会わせてあげる 」


そして、いたずらっぽくウインクしました。


「 負けるんじゃないよ。わたしがついてる 」


継母や義姉たち、それにつらい運命に負けるな、仙女はそうエールを送ったのです。


「 はい ありがとうございます ! 私は絶対に負けません 」


「 灰かぶり 」は感動にうち震えながら、王子様打倒を誓うのでした。


エールはまったく通じていませんでした。


「 さあ、早速準備をはじめなきゃね。裏の畑のかぼちゃをひとつ、もぎとっておいで 」

 


「 準備 ? 準備運動のことですね ! 」


うきうきした足取りで裏の畑にふっとんでいく「 灰かぶり 」。


仙女はなんだか悪い予感がしました。



どこから見つけてきたのか、大人三抱えほどもある化けものかぼちゃを、意気揚々と「 灰かぶり 」が担いで戻ってきて、仙女は悪い予感があたったことを知りました。


かぼちゃの中身をくりぬいてから、魔法で馬車に変える予定でしたが、こんな化けものかぼちゃ相手では、下準備だけで三日三晩ほどかかりそうでした。


おまけに「 灰かぶり 」は、試し割りをするのだと勘違いし、化けものかぼちゃを前に精神統一をし、息吹を行いはじめたではありませんか。


コオオッという鋭い呼吸音が、メルヘンの世界に響き渡ります。


そして、仙女が止める間もなく、気合一閃、かぼちゃに手刀を叩き込んだのです。


爆砕されたかぼちゃの破片を頭から浴びながら、仙女は「 灰かぶり 」があほの子だとようやく気づいたのでした。


お読みいただきありがとうございます。

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