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ギルド受付嬢の話

作者: 杵島 鵜月

はじめはどうでも良いおっさんの話です。

間が空いて主人公の話です。たぶん。

着地がわからず複雑骨折したみたいな終わり方になってます。

詳しい話は活動報告で。


デカイ魔物が吼える声がする。

人々の悲鳴があがる此処は、街。

魔法や武術に長けた者が集うギルドがある街である。

普通であれば魔物など寄せ付けない筈だが、この時期は違う。

どういうわけか、この時期になると下級の魔物の氾濫が起こり街の中であろうと暴れ始める。

ギルドの職員も狩りに出されるほどの大賑わい。

悲鳴はすれども、大体慣れてない移住民と子供だけだし、若い冒険者に至っては稼ぎ時だと目の色を変えて飛び出すほどに弱いので脅威はない。が、今回は勝手が違った。


「チィッ!!」


風圧を伴う攻撃をギリギリで回避して広場へと逃げ込む。

ここまで来れば広さがあり遮蔽物が少ないのと、他の冒険者が通りかかって一緒に倒してくれる筈だと思ったからだ。

しかしどうしてかな、だーれもこっちに居ないんだわ。

助けてくれ、と思ったとき、影が射した。


「あらあら、まさかこんな方が来るとは思いませんでしたわ。」


目の前に立つは淡い色の服を着て、母親のような困った優しい声で喋る華奢な女性。

しかし、その手に握られた得物はその女性に似合わない背丈ほどある大剣。

大振りながらも細かく施された装飾は美しく煌めいていた。

その女性に相対するは、ここらにある陽炎の森(ダンジョン)ではまず見かけない…居ないと言った方がいい巨人のような魔物トロール。

背丈は裕に3mは越えている。

はじめて討伐した時は4人パーティーでようやく倒せた相手に、女性がひとりで戦おうとしている。

男としてはそんなことさせられない!と立ちあがり前に出ようとすれば、肩に手を置かれる。


「フレインおじさん、先輩に任せておいて。下手すれば巻き込まれちゃうから……」


振り向けばギルドのアイドル、レニアス嬢が困った顔でそう言ってきた。

アイドルと侮るなかれ、彼女の祖先は魔王を倒した勇者で自身も高位魔術が出来る。なんで受付窓口やってるんだ。

そんな()が《先輩》と呼んだ相手、先程の女性はつまり──


「剛腕のセレ……?!5年前に他所のギルドに行ったんじゃないのか!?」


「ふふふ、髪が伸びていて気が付きませんでしたか?ドッキリ大成功ですね。」


ギルドの窓口嬢にしてギルド内実力者女性トップ5入りをしている人物が、トロールの攻撃を誘発させ避け、そしてその隙に確実にダメージを入れながら余裕綽々といった様子で笑う。

そりゃあそうだな、噂じゃ下級の龍を斬ったとか言われてるもんな。なんでこの人も受付窓口やってるんだ。

ちなみに横に立ってるレニアスもトップ5入りをしてる。

「魔物の氾濫?大型のを撃った方が早く片付きますよね?」とか発言して街中で魔法禁止にされてるらしく、着ている魔女っ娘風の制服には魔力抑制効果があるらしい。この間酒場で愚痴っていた。


「広場まで誘導してくださりありがとうございます、私も気兼ねなく動けますので助かりますわ」


大剣がブォンと音を立てて風を裂き、トロールの持つ棍棒を斬った。

勢いがついていたとしてもおかしなほどに綺麗に斬った。

これが俺より3個上の級を持つ人間の実力かよと思う。

昇級はまだまだ先になりそうで諦めるかな……と遠い目をしたとき、「グォオオオォォ………」と呻き声がして小さな揺れがした。

どうやら倒したらしい。

もうアンタは受付窓口やめちまえ………


「なぁ、他所でなにしてたんだよセレ」


問わずにはいられなかった。


「期限が迫った討伐系クエストの処理を長から直々に命じられて斬って斬って斬りまくって来まして、この度私の弟子が一人立ちしたので帰ってまいりました!

また窓口で会いましょうね~」


絶句した。

もう一度言う、受付窓口やめちまえ………そもそも他所で受付窓口やってねぇならそのまま冒険者やれ……



翌日、魔物の氾濫が収まったあと街中で討伐された魔物のドロップアイテムを換金しようとギルドの換金窓口に人がごった返していた。

俺も何体か下級魔物を狩っていたので並ぶ。


「次の方どうぞ~」


ふわふわとした優しい声は、昨日聞いたセレの声だった。

なんで窓口に拘るんだこのひとは。




───

────



────

───




戦いたくなんてないんですよ。

けれど、人が願うのならば応えなければならない。

だって私は、勇者パーティーの一員でしたから。

もし戦わなくて済むのであれば、私はその道を選びましょう。

帰ってきた方に「おかえりなさい」と言って帰ってきた喜びに頬笑み、帰ってこられなかった方に「おつかれさまでした」と泣いたとしても、それを選びましょう。

薄情でしょうか、罪深いでしょうか。

ですが、今のギルドに前の私を知っている者が居ないので大丈夫だと思っていました。


「ねぇ先輩、先輩は“パジェン”に聞き覚えはありませんか?」


鈴を転がしたような声で後輩のレニアスちゃんが聞いてきて、私の胸は殴られたような痛みを訴えた。

グルグルと、どうして?が頭を駆け巡ります。

どうしてレニアスちゃんがソレを知っているの?だってソレは、その名前は


「……」


何も答えられないまま目を反らした。

それが決定打だったのでしょうね。

レニアスちゃんが言いました。


「……“パジェン”に“また”付き纏われてるんだよ助けろ“セドリック”」


懐かしい名前で呼ばれて、え?っと見る。

パジェン、それは勇者に惚れた魔族の男の名。

どこで惚れたかわからないけれど、いつの間にかしれっと着いてきていた。

他の魔族に裏切り者と罵られてもめげず、ここは任せて先に行け!と魔王城で死に別れた。

死に目にあったとき勇者に「来世こそは既成事実を」とか言って死んだ。それ故にパジェンの名前は後世に伝えまいとして残さなかった。

まさか本当に既成事実を作りに転生したの?


「いやーまさかお互いに女子になってるとは思わなかったぜー」


気が楽になったと大胆に足を広げて座るレニアスちゃ……いや、レイノルド。

女の子なんだからやめなさい、と言えば「これだからお堅い騎士さんは」と文句を言いつつも姿勢を正す。

その台詞は遊び人のフロッドがよく言っていたなぁと遠い目をした。


「よく、私がセドリックだとわかりましたね」


「ギルドの裏庭で素振りやってただろ?動きに見覚えがあったのと、言ってたじゃねぇの戦いたくねぇって」


俺も戦いたくねぇけど、守りたいからこの職に就いた。真顔で言われる。

何だかんだ、私たち勇者パーティーは戦いたくないと言っては酒盛りをしていたことを思い出す。

フロッドだって、アドフルだって、ミシェルだって望まれるがままに送り出されたり、戦わざるをえない状況にいた人間だったからその酒盛りは盛り上がった。

勿論、パジェンは簀巻きにして抜け出せないように転がしてからした。


「……私は、許されるのかな?」


「…前は前、今は今だ。許される許されないはねぇよ。

でもまぁ、あれだ、戦わざるをえない状況になるのは今も変わらねぇけど頻度は一定期間だし前よりましだろ。」


魔王は消えたんだからとレイノルドが笑う。

見た目は違くとも、その笑い方は変わってない。

あぁ、そうだ、お礼を言えず終いだったんだ。


「レイノルド、魔王を討ってくれて本当にありがとう」


「セドリック、共にきてくれてありがとう

ということで、これで前の話は終わり!今はパジェンを何とかするの手伝ってください先輩!!!!」


このままじゃ本当に既成事実を!といきなりレニアスの口調に戻って吃驚する。

そっか、パジェンの問題を解決………一肌脱ぐしかないかな。

女の子に生まれちゃったから余計に危機感が凄いもんね。


「なら、冒険者として私に勝てたらって条件はどうかな?」


私を実力で抜かせば良いという条件。

人間相手には気が引けるけど普通の魔物相手であれば楽に勝てる。

日課の鍛練も欠かさずしてきたし、他の冒険者相手に遅れは取らない強さを自負している。


「え、でも私達は自由にクエスト受注は出来ないんじゃ?」

「試験さえこなせばクエストに出なくても級は貰えるよ」


にっこりと笑えば「そっか!!!!」と食い気味に声をあげた。

それから二人して試験に挑んで無事に級を取った。何級かは秘密。少なくとも人数がそこそこいて女性も少なからずいるから怪しくはない……ハズ。


それから暫くして噂のパジェンを見たらビックリした。

今の名前はハンゼルトと名乗った。

普通に人間として生まれて育ったらしいけれど、どう見てもパジェンだった。

整った顔立ちは女性受けが良い。オールバックで切れ長の目と片眼鏡(モノクル)、しゃんとした立ち姿はどこかの良家の出来る執事みたいな雰囲気。

これで既成事実とか言ってたのが残念だった。

というかどこで会ったか聞いたら街中で普通に話しかけられたと聞いて愛はすごいと言わざるをえなかった。


そんなこんなで、受付をしながらハンゼルトを負かしたり冒険者の話を聞いたり過ごしていたらギルド長に他所のギルドの援護を頼むと言われて飛ばされた。

文字通り。転移魔法で一気に飛ばされて、話はついていると制服を渡されて何枚かの討伐依頼を渡されてとっとと出される。

早く帰ってレニアスの貞操を守らねばと躍起になっていたら新人育成も任されたりしてあれよあれよと5年が経った。

ギルド長ふざけんなよ!!と思いながらもこなした私を誰か褒めて欲しい。

新人が無事に育ち、私に教えられることがないと言えば泣かれた。

気がつけば「おかあさん」と呼ばれていて頬がひきつった。こんなおかあさんがいてたまりますか!と思って年齢を確認したら完全に行き遅れだった。


5年ぶりに地元の石畳を踏んだ。

所々で「うおりゃあ!」だの威勢の良い声とぶつかる音がする。

氾濫の時期にぶちあたったらしい。周期が掴めないのは離れていたせいね。

けれど、この街の冒険者はなかなかに強いしレニアスがいる。

なにも心配することはないわと歩を進めれば、どこかで誰かが助けてくれと言っているような気がして広場の方へと走る。

広場に入って思ったのは、下級の魔物しか居ないんじゃないの?

それだけ。


「あらあら、まさかこんな方が来るとは思いませんでしたわ。」


向こうで身に付いたしゃべり方。

なるべく女性らしくしようとした結果、「おかあさん」になった。

煽って隙を生み出すのもなれたもの。大剣だって極めたさ。

被害を出さないように慎重に場をなにもない場所へとトロールを誘導する。


「剛腕のセレ……?!5年前に他所のギルドに行ったんじゃないのか!?」


「ふふふ、髪が伸びていて気が付きませんでしたか?ドッキリ大成功ですね。」


驚いた声がおかしくて、笑う。おかしな理由はわからなかったけれど楽しくなった。


「広場まで誘導してくださりありがとうございます、私も気兼ねなく動けますので助かりますわ」


本当に、助かった。

一気に仕留めようと体全体で大剣を振るって棍棒ごとトロールを斬り倒す。震動が響いて、終わった。

実にあっけなくて、こんな弱かったのかと思った。


「なぁ、他所でなにしてたんだよセレ」


「期限が迫った討伐系クエストの処理を長から直々に命じられて斬って斬って斬りまくって来まして、この度私の弟子が一人立ちしたので帰ってまいりました!

また窓口で会いましょうね~」


素直に答えれば、瞬きをして絶句していた。

そんなところもよく似ていて、ふふっと笑ってギルドへと向かった。

レニアスは回復も使えるし、それだけは制限されてない!と喜んで魔力を開放していた。

相変わらず化け魔の並みの魔力………あとでハンゼルトとの状況も聞こう。


ギルドの扉を開けると、ギルド長が「おかえりなさい」と言ってきたので「ただいま帰りました」と1発殴りかけたのは記憶に新しい。

トロールも討伐したし今日の仕事は無しにしてくださいね?と言ってギルドの奥に引っ込んで、待機していた職員にお土産を渡した。


後日、臨時の換金受付に配属されて思う。

やっぱり私は受付が落ち着きます。


主に行き遅れで、最近大剣で肩が凝り始めたせいもあるけれど第一に、私は戦いたくありませんから。

読んでくださりありがとうございます。

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