スカウトとかめんどくさい
「頼む、俺たちと一緒に来てくれ!」
「お断りします」
目の前にはそれはもう深々と頭を下げる先程の2人組。なぜ我が家にいる。
はーい、泊まりに来たからですね。ありがとうございます、いらっしゃませ。何故覚えている。
いや、本当になぜだ?忘却魔術をかけ...忘れてたわ。お腹空きすぎてそれどころじゃなかった。やばい、忘れてた。うわぁ、めんどくさい。どう誤魔化そう...あれからだいぶ時間が経っている。今更忘却魔術をかけたところで効き目など殆どないだろうし…
(いくら私といえど、世界の理にまで手は出せないしな...めんどくさい)
「〜〜だから、君に着いてきてもらえれば心強いんだ」
「あ、すいません。聞いてませんでした」
いけないいけない、考え込むと周りの音を無意識に消しさってしまうのは私の悪い癖だ。ちなみにこれも魔術です。ちゃんと周りには影響の内容にしてるから問題ない。
「神術師にも遅れをとらない...いいえ、それ以上の実力を持つ貴女様に手を貸して頂ければ、きっとこの旅も上手くいくと思うのです。どうか私達の旅にご同行下さいませ」
再度深々と頭を下げる女の子。パッと見、神官系の職業か…ヒーラーかな。
それよりも。
「神術師ってなに?」
この世界独特の職業か?聞いたことない。
「ご存知無いのですか...?」
「全く」
さーせん、この街から出るつもりなど全くなかったので、必要なことしか覚えていないんだ。
「例えば、水や風、炎を自分の思うままに操ったり、未来を予言したり...神術師というのは、そうした魔術を極め奇跡を起こすことが出来る人達に付けらてた名です。特に城に使える神術師は、魔術の2重行使が出来る、さながら神に選ばれた人達でもあります」
「え、嘘でしょ!?」
「ええ、嘘みたいですが本当なんです」
「えー、たかが2重って...それで神術名乗るとか大丈夫?神様に怒られない?」
「えっ...?」
沈黙。
やばい、話が噛みあってなかったらしい。
いやだって、2重って...2重ってなに?しょぼすぎない?仮にも神術()名のっておいて、そんな初歩の初歩みたいな事しか出来ないなんて、流石に目眩がする。この世界、魔術のレベル低すぎる…
「あっ、魔女様にとって2重なんて子供の遊びの様なものですよね…失礼致しました」
ヒーラーちゃんが慌てて謝ってくる。何故そんなに焦る。そんな様子に勇者(仮)もすごい勢いで頭を下げてくる。
「おい、魔女の機嫌を損ねるようなこと言うなよ…!」
「うぅ...すいません、すいません...!」
小声で話してるつもりだろうけど、丸聞こえだからな御二方。
てか、これはもしかしなくても、あれかな?
人だと思われてないかな?
どうやら、この世界の魔女は女性の魔術師を指す言葉ではなく、エルフとか精霊とかそっちの部類に入るのかもしれない。人型の幻想種的な何かかな?
「あの、私、魔女じゃないです...」
ヒーラーちゃんがあまりにも震えていて可愛そうだから、ちゃんと訂正する。
「女神様ですか!?それとも精霊様でしょうか!?大変失礼したしました、殺さないでください!!」
土下座の域になってしまった。やめろ!ほかの客がザワザワしてるだろ!
「あー、もう、とりあえず私の部屋で話しましょう」
2人を立ち上がらせて部屋に向かう。
(とりあえず、今の記憶は消しておこう)
消しゴムで、他人の頭をゴシゴシする様子をイメージする。本当は、記憶を本のような形にして取り出して、そこからページをめくって...などいくつかイメージしなきゃいけないんだけど、慣れれば普通にすっ飛ばせる。
とりあえず、今の一連の記憶だけ綺麗に消しておく。忘却魔術最高だぜ。