目をつけられるとかめんどくさい
(どうしてこうなった)
ぐだぐだライフを送ると決めてから早く12年。いつか通りおつかいしてただけなのに、謎のおっさんに捕まった。
自分の首元にはナイフ、背後からおっさんに羽交い締めされている。前方の2人組に対して喚き散らしている。どう考えても人質ですねわかります。
(めんどくさい...早く帰ってご飯食べたい。コーンスープだっけか、お母さんのコーンスープは大変美味なので娘は嬉しいです…お腹すいたな…そして煩い、人を挟んで口論するな五月蝿い)
はっきり言おう。私はチートであるからして、このおっさんをぶっ飛ばすのは寝ながらでもできる。
だがしかし、それをおおっぴらにしては面倒事に巻き込まれる。
平和に暮らすためには何も出来ないか弱い町娘を演じていなければならない。
言い訳をさせてほしい。
私はお腹がすいていた。そして耳元で騒がれてイライラしていた。
だから、つい。
パキンッ。
凍らせてしまった。おっさんを。
(これで良し、帰ろ)
最早目の前の2人組など忘れさっていた。私の心はご飯を求めていた。仕方ない、空腹に勝てるものなどない。
「待て待て!お嬢さん!」
「なんですか」
やっと帰れると思っていたところを引き留められらのだ、睨んでも仕方ない。
「え、あ、いや、あの...さっきのは君が?」
「そうですがなにか」
もう一度睨む。はっきり喋れ。
喋らなくなった男の代わりに可愛らしい女の子が話しかけてくる。
「さっきの氷魔法、無言詠唱ですよね?それをあんな正確に発動できるなんて、貴女は名の知れた魔女様なのでしょうか?」
「え?そんな難しくなくない?」
簡単なことだ。
魔術なんて属性の魔力をイメージ通りに実体化させるだけものだ。詠唱はその補助。慣れてしまえば脳内イメージだけでどうにかなる。
至近距離で自分に当たりそうなら自分に刻印付与をして、魔術対象から外してしまえばいい。
ついでに先におっさんを盾で囲い、その後に周りを凍らせれば凍死することも無い。
チートの自覚はあるが、今回はそんな大袈裟なことはしてないぞ。
「十分大袈裟です!魔術の多重行使なんて城仕えの神術師ですら出来ないですよ!」
おっと、読心術が使える子だったか。危ない危ない、黙ろ。
「あの、全部声に出てます...」
「マジか」
相当頭がまわってないな、反省。
まあいい、もう話は終わりだろう。
(やばい、お腹なりそう...)
流石に人前で盛大に鳴らすのは恥ずかしい。お腹のあたりを手で抑えて、さっと顔を逸らす。
「もういいですか、帰らないと...失礼します」
これ以上は本当に耐えられない。とういことで、足早にその場を去らせてもらった。
(アディオス、名も知らぬ2人組。私の事は忘れてくれ。私も忘れる)
この時、私は空腹のあまり大切なことを忘れていた。
そしてこのミスが私の立てたフラグを回収してしまうことも、この時の私は知る由もなかったのだ。