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 喉が渇き、口が渇いて嫌な気分で目が覚めた。

 PCのスリープを解除し、SNSと掲示板をチェックする。書き込みの流れが見えないほど進んでいるせいか、読んでも特別、感情が起こらない。

「まさお、ご飯だよ」

 いつもの母の声だった。

 呼びかけに返事もせずに、一階に降りていく。

 母が、にっこりと笑ってからお盆に乗せたトーストと、目玉焼き、ベーコンをテーブルに運んだ。

 俺は、テーブルに着くと、目玉焼きをトーストに乗せ、黄身を崩して食べ始めた。

 あれ、朝ごはん…… 昨日の晩御飯…… て、何食べたんだろう。

 トーストを見つめながら思い出すが、昨日の晩飯の記憶がない。

 もしかして、昨日、昼に起きてきた後は食べていない。

 そんなに疲れていたのか?

 違う、何か大切なことを忘れている。

「どうしたのまさお」 

 お腹は空いている。

 けれどこれを食べる前に思い出さなきゃならないことがある。

「まさお?」

 母が正面に立って、俺の両頬に手を触れた。

「まさお、しっかりご飯食べて。はい、これ今日の分」

 テーブルの上に錠剤を二つ置いた。

 ピンク色の錠剤。

 ……こ、これだ。

 あの後、俺は何をどうしたのか分からない。

 どうしたのか分からないけれど、今日のこの時間…… 十一時過ぎ、になっている。

 おそらく、意識が朦朧(もうろう)となって…… そのまま寝て……

 それ以外に何も実害がないなら、ただの睡眠薬、ともいえるが……

「トーストが食べれないなら、昨日の餃子、温める?」

 俺は首を横に振った。

「昨日なんで起きてこなかったの?」

 思い出せない。おそらく薬のせいだ。けれど、母に飲まされた薬せいだ、とは言えない。

「まあ、いいわ。温めておいておくから。食べたい方を食べて、最後に薬をちゃんと飲むのよ」

 母は電子レンジで餃子を温め、テーブルに置いた。

「ああ…… 眠くなっちゃった。私は昼寝をするわ、まさお」

 奥のふすまを開けて、母は中に入っていく。

 俺は、母から見えないように持って降りていたタブレットを開く。

 薬を裏返し、名前を確認する。

『エキノパフィアン』

 G〇〇GLEに入力する。

 途中で、サジェストがでるが、それはエキノコックス症という肝臓に寄生虫が入って引き起こされる病気の事だった。

 この薬の名前では有用な情報が調べられなかった。

 いつもの掲示板に、匿名でこの薬の名前を入れてみる。反応があるか、ないか。

 SNSにも、普段は監視用に使っているアカウント側で入ってみる。

 これで、なにかわかるかどうか。

「まさお?」

 ふすまの方から声がする。慌ててタブレットの画面を消す。

「食べてる?」

 慌ててトーストを口にほおばり、ふすまの方に向かってアピールする。

「薬も飲むのよ」

 母がふすまから下がっていくのが見えた。

 うつ病…… 確かに、母の行動は何か変な感じがする。けど、うつ病って、こんな感じなんだろうか。

 俺は、ふすまのすきまをチラチラ見ながら、母が横になったのをみて、立ち上がった。

 一階にある父の書斎の前に立った。

 もう時間的には会社に行っているはずだ。

 だから、中には誰もいない。父には相談出来ないことは初めから分かっていた。

 俺はノックもせずに書斎の扉を開けた。


 壁沿いに大きな本棚があり、読んでいるのかは知らないが、ハードカバーの蔵書が並べられている。

 本棚の暗い茶色の木目と合わせたように黒いほどの茶色の机が置いてあり、ノートパソコンが真ん中に置かれている。

 ここで寝起きする為のベッドがあるが、シーツがピシッと張り付くようにかけられている。

 小さなテーブルに下着や肌着が重ねて置いてあった。

 本の匂いなのか、ホコリの匂いなのか、カビ臭く感じる。

 部屋全体が物置部屋のような雰囲気(ふんいき)なのだ。

 そもそも父の性格などよく覚えていないが、部屋の様子から、ここで父が生活する姿が全く想像つかない。

 人がいる部屋ではない。漠然とそう思った。


 そっと扉を閉めて書斎を出た。

 テーブルに戻ろうとした時、その先に人影があった。

「まさお?」

 母だった。

 母は疑うような顔でこっちを見ている。

 言い訳をしようとしたが、思いつかない。声も出なかった。

 ヤバい。子供のころから、食事中にうろつくな、と言われていた。

「トイレに行ってたの?」

 俺は何度もうなずいた。  

 書斎の方向と、トイレが同じで良かった。流している音はしていないが、これで誤魔化せたかもしれない。

 母と一緒にテーブルに戻ると、食事をつづけた。

「まさお、ほら、先に薬をのみなさい」

 まだ、まだ、食べ終わっていない。薬というのは普通、食後に飲むもんじゃないのか。

 俺は餃子やベーコンなどを指さし、食べ残しがあることを主張した。

「いくらかお腹に入って入れば、薬は飲めるのよ」


 寝ている時、一階から声がした。

 母が、泣き叫んでいる。

「まさおが、まさおがお財布からお金をを取った」

「それは本当なのか」

「そうよ、あたしの貯金箱からもお金とった」

「まさおはどうした」

「二階で寝てる」

 トントントン、と母が階段を上がってくる音がする。

「まさお、まさお、起きなさい」

 また怒られるのか。

 やめてくれ、もうしないから……

「まさお、まさお、なんでお金を盗んだりしたの。父さんが」

 俺は布団を頭からかぶって、部屋から出なかった。

 ドンドン、ドンドン、と扉を叩く音がする。

「まさお起きなさい」

「まさお」

 父まで上がってきたのか。

「おにいちゃん、出てきて謝りなさいよ」

 体が震えている。

「開けるわよ」

 扉が開いて、部屋の明かりがつく。

 俺は布団をはねのけて、床に頭を何度も叩きつけるようにしてい謝った。

「まったく、どろぼうするなんて」

「取ってない、とかウソつかないでよ」

「まさお、どうしてそういう悪いことばっかりするの」



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