8
「蓑虫、お前子はおらぬのか」
唐突な疑問は人の子の噎せる音をティータイムの音楽にした。
「っぐ、ごほっ……い、いません、がっ何事でしょうか?」
一人掛けだった窓辺のテーブルに一脚増えた椅子。そこを定位置にした人の子が噎せ返るのを迷惑そうに眺めたグレンの魔女は己の茶に口を付ける。
「人の子は年頃になると婚姻を結び、子を成すと聞いた。丁度お前くらいが年頃ではないのか?」
鋼色の目に浮かぶ純粋な疑問。それを察した人の子は顔色を朱に染めたまま、どうしたものかと胸中で唸った。問いに解を待つ視線が痛い。
「た、しかに年頃ではありますが、子を持つにはまず相手が要りましょう」
「おらぬのか?」
続く疑問の無垢さに人の子は顔を覆って逃げ出したくなる。だが、問いに解を示さぬことをグレンの魔女は許さないと知る故に、黙ることは出来ない。
「…………い、意中の者ならば」
決死の覚悟で答えたそれだが、問うたグレンの魔女は興味なさそうに相槌を打ったのみ。その様子に人の子は小さく肩を落とす。己から聞いておいてその態度はないのではと恨めしく思わないでもないが、このような問いをかけてくるだけの興味を持たれていると前向きに取る。面倒くさいが口癖の魔女は問いをかけることすら珍しいのだから。
「その、何故そのような問いを私に?」
恐る恐る問いかければ、カップをソーサーに戻したグレンの魔女は席を立った。機嫌を損ねたかと人の子は慌てたが、彼女はベッドチェストから小さな木箱を手に戻り、コンッとテーブルにそれを置いた。軽い音を立てた木箱から鋼色へと視線を移せば、開けろと無言で示され人の子は木箱を手に取り蓋を開けた。
「指輪?」
疑問が付いたのには訳がある。光沢のある素材がわからぬ赤い輪が二つ、同じく赤色の細い鎖で繋がっている。装飾品であることは間違いないが、その形状故に指輪と呼んでよいものかと人の子は首を傾げた。
「お師様の形見だ」
否と言われぬことでそれが指輪であるとはわかったが、告げられた内容に新たな疑問が湧き起こる。
グレンの魔女、彼女が師と呼ぶのであれば、それは不老不死の魔女に違いない。では形見とはどういうことなのか。声には出さないその疑問が伝わったのか、久遠を生きる魔女は語る為の口を開いた。