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3

 ぐつぐつと小鍋の中で煮詰められていく液体を柄の長い匙でゆっくりとかき混ぜる。青臭い緑色の液体と手にした古い本との間を鋼色の目が行き来する。時折混ぜる手を止め、傍らに置いた何かを小鍋の中へと放り込み、またかき混ぜる。


 そんなことを繰り返していたグレンの魔女の耳元で白い毛玉がチィと鳴いた。


「あぁ、起きたか」


 興味なさそうに何かを知らせ鳴いた白い毛玉を労い、細い指先でくすぐるように撫でながら彼女は小鍋の火を落とす。作業を中断させると、古い書物に囲まれた火を扱うには相応しくないだろう地下工房から硬い靴音を鳴らし出て行く。


 扉を開き、細く薄暗い階段を上りきれば、こじんまりとした部屋に出る。木で造られた柔らかくも温かみを感じるその室内は、所々に花が飾られ、山小屋と呼ぶには少し可愛らしい雰囲気をした家であった。


 そんな室内から続く扉で仕切られていない個室へとグレンの魔女は足を運ぶ。


「っ!」


 部屋の半分を占拠している簡素な造りのベッドの上で彼女の登場に何かが息を呑み震えた。ギシリとベッドを軋ませ、姿を隠そうとでもしているのか温かそうな掛け布に包まったまま、小さな塊はじりじりと姿を現したグレンの魔女から離れて行こうとする。


「蓑虫かお前は」


 そんな蠢く何かである物体に呆れ、逃れようとしている様子を取り合うことなく、グレンの魔女は足早にベッドへ近付くと何かが隠れている掛け布を鷲掴む。

そうして掴んだ勢いのまま、ベリッとそれを剥ぎ取った。


「っぃ!」


 ばさりと翻る掛け布の下から現れたのは、子供だった。角が生えている訳ではなく、耳がとがっている訳でもなく、羽が生えている訳でも尻尾が生えている訳でもない。何もない普通の子供。それは、人間の子供だった。


 怯えた様子で己を見上げる人の子をグレンの魔女は興味なさそうに一瞥し、剥ぎ取った掛け布をベッドの上に落として窓辺の一人掛けテーブルへ向かう。視線で追われているのを感じながら椅子に腰かければ、テーブルの上に転がっていた黒い毛玉が彼女の肩へと跳ねた。


「いい子だ。よく知らせた」


 それを見た子供はビクリと震えたが、彼女が驚くことはない。迎えられた黒い毛玉は労いの言葉と共に細い指先でくすぐり撫でられチィと鳴き、グレンの魔女の耳元を飾る白い毛玉に寄り添い納まる。黒い毛玉へと向けられたほんの少し緩められた鋼色と口元に子供は怯えを緩め、不思議そうに彼女を見つめた。


 だが、黒い毛玉から子供へ視線を移した鋼色は冷たい色になり、その変化に子供は小さな体を抱き締めてより小さくなった。そんな子供の様子は無視しても存在を無視する訳にはいかないグレンの魔女は問う。


「おい蓑虫、何処から迷い込んだ」

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