遺伝子
遠い昔。
エルサレムという国にサゾという部族が居た。
彼らは温厚だったが、国の為の戦いになれば、残虐で、卑怯な手を使ってでも、効率の良い殲滅方法を編みだし躊躇無く使い、敵を滅ぼす邪悪な一族として知られていた。
そしてかの国に平和が訪れた。
しかし、平和の中に強力な武力は疎まれ始めた。
国の裏切りにあい、罠に嵌められ、あらゆる濡れ衣を掛けられ、一族は断絶された。
かに見えた。
しかし、立派なレンガからなる村から井戸が流れており、それは地下水脈によって遠い街まで続いていた。
妃「あなただけでも生き延びなさい、きっときっと幸せになるのですよ、きっと、きっとですよ・・」
大きな頑丈な瓶に産まれたばかりの赤ん坊が入っている。
妃「さよなら!」 投げ入れた。
妃は井戸の側で首を切り、自殺した。
森の中に国軍の幹部の弟が待っていた。
瓶が流れて来た。
拾い、一旦蓋を開け、また直ぐに閉めた。
弟「君は今日から農民だよ、大切にうう・・良い人だったのに・・うう・・た、大切に・・育てます・・うう・・」
ラクダに乗り、砂嵐の中に消えた。
2612年後。
2025年4月。
日本。
首都、京都。
今年度から施行された遺伝子検査による向いている職業選別。
髪を抜き、AI が調べ、13秒で結果が出る。
それは高校生レベル知能検査合格者に最初に課せられる検査である。
ここに13歳で入る子供も少なくない。
検査結果項目は肉体か、頭脳か、もしくは両方が得意とする結果が出る。
それは体育館で入学式の翌日に行われ、それにより、クラスが振り分けられる。
いじめられっ子の11歳の少年が居た。
細い。
身長も低い。
顔も普通より少し下。
いつもおどおどしている。
並んでいる最中も後ろから蹴り、頭にげんこつ。
検査の人「はい、次の人」
???「に、新島新 (あらた) です・・」
検査の人「はい、髪を抜きますからねー、ごめんねー〈プチ〉はい、これで解りますからねー、君は何の職業に向いているかなあ?ワクワクだねー11歳で高校生は凄いねー楽しみだねー」
新「・・」
いじめAが後ろからこづく。
いじめA「どうせ、勉強以外に取り柄なんかねえよ、はははは、大きくなったら、J株やって引き籠るんだよな?ぎゃはははは」
〈ポン,ポン,ポン〉 上から順に頭脳、体力、両方の系統が表示される。
頭脳×
体力×
両方×
〈ブブブブブブブ〉赤く光る。
画面にはerrorの文字。
皆
何やら検査の人達が5人程集まり話している。
5人『見つけた、まさかこんな細い子供が?しかし実際に!直ぐに本部に連絡して、驚いた、まさか本当に居たなんてザワザワ』
検査の人が一人体育館を出ていく。
女検査の人「君は遺伝子に問題があるようなので、今から別の所で詳しく検査をします」
新「え?あ、あの?問題って?ぼ、僕死ぬんですか?何か病気何ですか?」
女検査の人「いいえ、ただ、とても珍しい遺伝子みたいなの、それを別の所で詳しく検査をしますから、今から私と別の病院みたいな所に行くからついて来て?直ぐに帰れるから、荷物は学校に置いて行きます、いいわね?」
新「は、はい」
連れて行かれた。
新が体育館から出ていく姿を目で追う女の子。
生徒会長の後釜の13歳の女性、白羽百合枝 (しらはゆりえ)
百合枝「だ、大丈夫かな?」 友達に問う。
友達「なあに?気になる男なん?」 にやける。
百合枝「は?別に~?」
友達「そ?まあ、どれもバツじゃあね、あちゃあー、って感じ?可哀想だけど、グリーンクラス決定じゃん?」
百合枝「でも、11歳で高校生って頭良いのに・・何でバツなんだろ?」
友達「きっと涙涙の努力家なんでしょ?才能は無いって事よ、さあ、列が動いたよ、前、空いたよ」
百合枝「う、うーん、うん・・」
大学病院地下。
薄暗い通路。
まるで迷路。
新「あの?こ、ここは?」
女性「大丈夫よ」 真顔。
新「・・」
小さい扉。
何重にもパスワード。
指紋、静脈認証。
扉をくぐり、また通路。
博士助手女性「こちらになります」
新「・・」
年寄りの男性博士が椅子に腰掛けながらこちらに回った。
博士「やあ、連絡を聞いた時は驚いたよ、しかし、現実は小説より奇なりだねえ、いやいや・・」
舐め回す視線。
新「ここはどこですか?僕は今から何をされるんですか?」
博士「むかーし、むかーし、それはそれは優秀な人間ばかりが産まれた部族が居た」
新「は?」
博士「まあ、聞きなさい、しかし、国に裏切りにあい、全て息絶えた・・かに見えたがその実、数多くの妃が殺される中、一人の妃が抜け出し、井戸に赤ん坊を投げ入れた」
新「・・」
博士「それは遠い遠い未来に賭けたギャンブルだった、そして、エルサレムの復活の時が近くになるにつれ、神殿の王に相応しい人物、人種が求められるようになる、まあ、自然な成り行きというやつかな、そこで名前が上がったのが、その部族という訳だ、その部族が王様になる事を許さなかったあらゆる馬鹿共が、罠に嵌めて断絶に追いやった、その歴史を知る者、そして、真の意味での神殿の復活を望む者達にしてみれば、その部族の生き残りがいるのならば、是非!」 立ち、歩み寄る。
新「そ、それって・・」
博士「是非、その部族に王の役割をやって頂きたいのです、あなたが王ならば、皆が納得するでしょう、そして、それは遺伝子検査という絶対的な鑑定書付き、異論はありますまい」
新「・・それが・・僕?」
博士「左様」
新「優秀な遺伝子って・・そんなの嘘だ!ぼ、僕はそんな優秀じゃない!だって僕は・・」
博士「いいえ、あなたはサゾ族の末裔です、間違いありません、これを・・」
注射器。
新「な、なんです?それ?」
新の体を押さえる周りの大人達。
新「え?え?」
博士「怖がらなくていい、これは、そうですなあ、遺伝子を目覚めさせる薬と考えて貰って結構、これを射てば貴方はサゾ族の神秘な遺伝子が目覚め、あらゆる能力が開花する筈です」
新「い、嫌!嫌!嫌嫌嫌嫌嫌いやだあ!離せ!離せよお!嘘付き!直ぐに帰れるって言ってた癖に!嫌だ!いやだあ!」
博士「許してください、どんな副作用があるか分からないので、睡眠薬やら、なんやらの薬は使えないんです、どうか、許してください」 新の袖を捲る。
新「離して!離してよお!離せ!くんのお!離せ、はなせえ!」
〈プス〉 刺さり、注入されていく。
新「ああ!い、いやぁあ!く!くそおぉぉ・・〈ドッッックン〉かは!?〈ドッッックン!〉くほ!?〈ドッッックンドッッックンドッッックンドックンドックンドックンドックンドックン〉」
倒れこみ、唸る。
心臓の鼓動に合わせ、体が跳ねる。
博士「直ぐに運べ、すぐ隣だ急げ!絶対に死なせるな!」
新「ハ!ハ!ハ!ハ!ハ・・」 気絶した。
〈チュンチュン〉朝。
新のベッドの上。
新「ん・・・・ふぁぁ・・」 光で目が覚めた。
新「・・・・・・・・・・ハ!?そうだ!僕は注射射たれて!?」
ベッドの上で体をあちこち触る。
左腕のガーゼを発見。
新「ゆ、夢じゃないじゃああん!うああああ!こんの!〈ベリベリ!〉」
剥がして捨てる。
何の変哲もない注射痕。
眼鏡を掛ける。
新「早く、お母さんに、いや、お父さんに!いや、警察に!」
眼鏡をかけながら階段を降りる。
視界〈クラア〉
新「え?」〈ズル!〉階段を降りる最中に上段からバランスを崩しー。
新「う!?うおおお!?」 ボヤける視界で突起、段差を推理しながら、手、肩、背中、足の裏、階段横の壁を利用し、最後はバク転し〈ダアン!〉着地。
新「・・・・は?」
台所、リビングから両親登場。
母「ちょっと!どうしたのお!!うるさいじゃない!朝っぱらから!」
父「なんだ、怪我ないか?はははは、いきなり逞しくなったなあ?昨日の病院のお陰かあ?はははは」
新「いや・・あの・・その・・ごめんなさい」
食事をしながら聞く話では病院の関係者だという何人かのスタッフが新を送り届けたらしい。
荷物も一緒に。
両親には遺伝子検査の結果はオールトリプルSだったと伝えたらしい。
そのせいで両親は見た事ない笑顔と、気持ち悪い優しさで溢れていた。
流れ的に注射云々は言えず、取り敢えず学校行って自慢して来いと追い出された。
渋々学校へ行く新。
眼鏡は登校途中で外した。
新「どうなってんだこれ?視力こんなに良くなって、体は自動で動くし、どうなってんのこれえ・・僕、化け物になっちゃったのかな・・う、うう・・」
〈トボトボ〉 バス停に着いた。
百合枝「あ!」
新「?」
百合枝「昨日体育館から連れて行かれた人だよね?大丈夫だったんだ?良かったあ〈ニコ〉」
新より少し背が高い綺麗なハーフ美少女。
新「あ、あう」お辞儀。
百合枝「あ、私は同じクラスの白羽百合枝、ゆーりって皆呼ぶから、君もそう呼んで?」
新「あ、あう」お辞儀。
百合枝「君ってこのバス停だったんだ、私は今年引っ越してきたばかりなの、宜しくね!」
新「〈ペコリ〉」お辞儀。
百合枝「そういえば昨日検査大丈夫だった?何か異常見つかった?」
新「・・」 戸惑う。
百合枝「え?シカト?」
新「あ・・えと・・だ、大丈夫、だと思・・いたいです」
百合枝「ぷは!?なあにい?それえ?あははははおっかしい!あははははあはははは君面白いねーあはははは」
新「そ、そんな事ない!」 人の気も知らないでとムカついた。
百合枝「え?何?怒った?え?何で?あ!やっぱり何か異常あったんだ?どんな異常?」
新「教えない」 むくれる。
百合枝「えー、クスクス怒らせちゃったね、ごめん、ごめんね?」
新「・・」
バスが来た。
その日は体育。
体力測定。
腕力、脚力、持久力、瞬発力、肺活量、柔らかさ、上位とは行かないが、平均以上の記録を出した。
その結果に教師は勿論、小学生からの同級生達の口噂もあり、驚く周囲。
不良達は面白くない。
いじめてくる8人グループはいつものように絡もうとするが、上手くかわしていた。
そして最終種目、動体視力、脊椎反射神経同時測定。
VR、手元の両手銃を握る。
要はゾンビゲーム。
弾は無制限。
但し、ステージが進むに連れて難易度が難しくなる。
ステージは1から0の10ステージ。
このテストは5年前から始まっており、今までには7ステージに行った者が12名、8からは居ない。
広いグランドでまばらに人を配置。
〈ブー!〉テスト開始。
不良Aと新は同じ時間に始めた。
のだが。
いじめA「あー!くそ!7までしか行けなかったあ!ふはは!けど凄くね?今までで12人しか行ってない領域に行ってやったぜ!・・おい!聞いてんのかよ!」グループに駆け寄る。
不良達『まじかよ・・嘘だろ?』
いじめA「おい!てめーら!無視してんじゃー・・あ?何見てー・・」
テストが終われば次の者が空いている近い場所でテスト開始。
しかし、新のテストはまだ終わっていなかった。
ダンスのように動き続ける新た。
いじめA「は?・・あいつ?俺と同じ時間に始めたよな?なあって!?」
いじめB「あいつ・・あんなに運動出来てたっけ?」
いじめC「んな訳あるか!あいつはいつもどん臭くてー・・」
不良達『・・』
最後のまばらな人数。
しかし、新のテストは続いている。
皆『ザワザワ』
皆が新の動きに魅入る。
とうとう新が最後の一人になった。
75分経過。
テスト教師「電源オフだ」
スタッフ補助教師「え?しかし?」
テスト教師「レベル0になってから3分経過、もう十分だろう、これ以上は時間の無駄だ、体力テストじゃないんだ、電源オフ、急げ」
スタッフ補助教師「は、はい直ぐに〈カタカタカタタン!〉」
新の動きが止まる。
VRを外す新。
皆『うおおおおおおおおお』 男子達は皆駆け寄り、胴上げ。
新「な、なんだこれええええええ!?!?」
新、喧嘩最強伝説。
新には友達?は増えなかったが、普通に話し掛けられるようになった。
当然の如く不良達に呼び出される新。
肩を組まれ屋上へ。
不良達には先輩達もいる。
合わせて38人が屋上に集合した。
先輩1「喧嘩最強なんだって?」
先輩2「こいつがあ?へ!プカアフウウウウウ」煙を吹き付ける。
先輩3「そんなんには見えんなあ?誰かボコれや、んなら分かんべや?」
先輩4「んなら俺行くわ?あ?いいべ?」
新「・・」 震えている。
先輩4「ぎははははは!震えてんべや?こいつちょーびびってんし!?やばね?チョーかいいしょ?」
先輩5「いいからはよやれや、話が進まんだろがコラ?」
先輩4「ぶひゃひゃひゃ、ひゃーー・ウラア!」右手殴り。
新は背中を左反り、ながらみぞおちを右足で蹴る。
勿論体が自動で動いた結果だ。
先輩4「うべー~~~~~~~~~〈ゴロゴロ〉」転がる。
先輩5「へえ!」
同級生不良達はただ呆然。
先輩1「次やで、いったるワイな」 かなりデカイ。
新「~~」 泣きそう・・いや、泣いてる。
先輩1「ほんなら、行くで~・・はらあ!」右手殴り打ち下ろし。
新は飛び込み、腕をクロスさせながら、襟を持ち、背中を向け、投げた。
先輩1「え」〈ガゴオオ!〉 頭を強打し、転がる余裕すらない。
先輩達『おー・・』
新「~~」 泣いてる。
先輩5「解った、よー、解った、お前らじゃ無理やな、どおら、ワシ行こ」
一番雰囲気がある男が立ち、上着を脱ぎ始める。
先輩5「んなら、誰か合図出せやな」 腕、肩を回す。
先輩8「では、始めい!」
先輩5はじりじり近づく。
新「~~」 震えて泣いてる。
先輩5「弱いフリはもう通じんで、ふはは」
新「~~」
先輩5「むん!」 タックル。
新は飛び、かわしながら、髪を掴み、
先輩5「むお!?」 自分のタックル威力で、首が上がる。
髪を両手で、引っ張りながら、一気に背骨を両足で蹴る。
《ボギ》 嫌な音が響く。
先輩5「あ!あ・ああ~、うあ~」 うつ伏せに倒れ、尻を上げたまま、うあ~しか言わない。
立てず、息が苦しいらしい。
救急車が到着。
タイマン勝負だということで動画が証拠となり、罪にはならずに済んだ。
半身不随。
一生歩けない、立てない体になったらしい。
新は伝説の不良となり、結構有名になった。
本人は真面目に勉学、英語、ロシア語、中国語、3つの研究会という部活に勤しみ、噂の人物とは似ても似つかない。
百合枝には手加減を知らない人というレッテルを貼られ嫌われてしまった。
高校2年になった春。
天下を取りに猫を被っていた不良達が新に挑んでくる。
が。
新は慣れてしまった為、上手く手加減し、上手に部下を増やし、真面目が格好良いと教え、自身をお手本とするように躾た。
新は不良浄化フィルターとしてその名を轟かせた。
そうしている内に夏になり、百合枝がバスで話掛けてきた。
百合枝「お、おはよ」
新「あ、おはようございます」新は背が伸び、体格もガッチリしてきた。
目覚めた遺伝子のせいなのかは解らない。
顔も彫りが深くなり、目鼻立ちがハッキリしてきて、イケメンになっていた。
百合枝「あ、あのさ近頃はさ、あんまり暴れないよね?何で?」
新「あのですね、人を暴力魔みたいに言わないで下さい、僕は暴力は嫌いなんです、しかし、降りかかる火の粉は払います、それだけのことです」
百合枝「ふ、ふーん」
新「・・」 景色を見る。
百合枝「・・」 新を見る。
新「・・」
百合枝「・・」
新「・・何か?」前を向いたまま。
百合枝「!え?いや?別に?」 景色を見る。
新「・・」
百合枝「・・」
バスの人が多くなり、ぎゅうぎゅうに。
新「あの・・少し離れて」
百合枝「な!?何よ!?仕方ないじゃない!ちょ!どこ触ってんのよ!」
新の胸に百合枝の胸が片方当たる。
新「両手は上げてます、そっちがずれてくださいよ」
百合枝「・・く・・無理」
新「は?」
百合枝「むうり!仕方ないわね、着いたら5千円ね?」
新「・・やっす」
百合枝「〈ボボカアアア〉10万ね」
新「・・やっす」
百合枝「え?」
新「・・」
百合枝「・・じゃ、じゃ、50万?」
新「・・」首を振る。
百合枝「100?」
新「100億」
百合枝「は、はあ?馬鹿・・」下を向く。
新「ブハ」
百合枝「な?何よお?わ、笑ったなあ?」
新「だって、100億って、クククまんざらでもないようなククク」
百合枝「なあ?〈ボボカアアア〉なななななもう、知らない!」
新「・・柔らかい」
百合枝「それ以上言ったら殺す」
新「はい、ごめんなさい、すいませんでした」
2028年4月1日。
結婚を約束した2人が新しいアパートで荷造りをしていたら、チャイムが。
六芒星家紋の黒塗りリムジンがお迎えに来た。
戸惑いながら乗り込む二人。
連れて行かれたのは、京都、蚕ノ社。
それぞれの両親や、親戚も来ていた。
事情を説明する新。
受け入れる百合枝。
天皇からの儀式?も執り行われ、その後、時期を強制結婚式。
京都に新エルサレム、地下神殿が築かれており、そこで、新のみ、儀式。
新エルサレム王国顕現をあらゆる国々の首相達の前で宣言。
世界の国々の枠を越えた一つの国のみが地球に栄える事を宣言させられた。
正しいかどうか。
そんな事は解らない。
しかし、大きな、大き過ぎる時代のうねりは想像を越えていた。
放射能除去細菌散布ミサイル200万発は世界中の軍に用意されていた。
2028年4月1日PM 18時18分48秒
第三次世界大戦開幕。
しかし、それは国々が示し合わせた戦争だった。
核ミサイルがあらゆる方角から、あらかじめ決められていた予定通りのコースを飛んでいく。
日本には東京、横浜のみに落ちた。
泣き暮れる新。
一緒に泣く百合枝。
3年後。
放射能除去ミサイルによる、除去がほぼ完了。
人類は約20億人となった。
そこから、飢え、異常気象により、一年後には9億人に、2年後には6億人に。
そして、3年後。
新「・・~です!我々に出来る事は!犠牲者達をただ振り返る事ではない!我々には明日を生きなければないという天命がある!出来る事は!前に進む事!進み続ける事!間違いだらけだった、人間の営みを!新たな世界へと創造し直すのだ!我々は!ここに!全く新しい人類の未来を約束する!そうだ!我々には立ち止まる時間などありはしない!我々には、憂鬱に浸る時間などありはしない!我々は!我々の未来の為に!平和を願い、散っていった人々の為に!これからも生きて、生きて、生きて!前進し、イメージし、創造し続けなければならないのである!」
民衆『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
新「今ここに!新しい新世界秩序の設立を宣言する!さあ!皆の者!立ち上がれ!今、この瞬間こそ!我々の先祖、偉人達が恋い焦がれ、挑戦し、敗れ、それでも願いの灯火は尽きる事は無かった!消える事は無かった!流れ星に願わない瞬間は無かった!願い、願い続けた先人達の夢が今、この、そうだ、今、今、今!まさに、この瞬間に!現実に!顕現し!ついに、ついに、ついに!追い付いた!追い付いたのだからああああ!」
民衆『うおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
京都から全世界に発信された新しい電波による、衛星を使った放送は大人気となり、世界は関東が無い日本をリーダーとし、急速な発展を遂げる。
そして、その発展は空を飛ぶ車により、道路が必要なくなり、自然と共存出来るシステムのモノだった。
そして、物流の速度はあり得ない程になり、人々の仕事もロボット達のサポートのみに。
新「ゆーり?」
百合枝「なあに?」
新「人類は・・他に・・他に選択肢はなかったのかな?」
百合枝「・・解らないわ・・でも・・これだけは言える、あなたが地獄に落ちるなら、私も落ちるわ、だからー・・寂しくないよ?」
新「僕が王にならなきゃ世界は一つにはまとまらないって言われたから、仕方なくなったけど、本当に・・」
百合枝「あーちゃん・・」
新「僕が王にならなきゃ、民族同士の玉座の奪い合いが起きるって・・うう・・どうして・・はは、今更だよな・・今更何言ってんだろ僕・・はは遅いよな・・」
百合枝「あーちゃん!〈ギュウ〉」
新「今まで考える余裕もなかったから・・暇になってからが精神の勝負って言われてたが・・はは、凄いなコレ・・凄いよ・・はは・・こ、壊れてしまうよ・・ううひっぐううひっぐ」
百合枝「・・私も背負ってるよ!私も頑張ってるよ!あーちゃんも頑張って!まだまだ子供作ろ?ね?頑張ろう?ティムトもまだまだ育ち盛りだよ!見守らなきゃ!ね?」
新「死ねない・・死ねないよな・・ひっぐ・・今死んだら玉座の奪い合いが起きる、俺は死ねない、うう、嫌だ!王様なんか嫌だ!嫌だアアアアアア!あ、ああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
百合枝「・・いいの、泣いていいんだよ、泣き虫の、いじめられっ子さん」
その後。
その王国は繁栄を極め、宇宙時代に突入。
太陽が寿命を迎え、地球を去ったという。
今は何処にいるのかー。
きっとー。
まだきっと、平和を守れている筈だと。
私は流れ星に願う。
《END》