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負け組奴隷生産職は『武具生成』チートで成り上がる ~無限に生産できる最強装備なら復讐も簡単です~ 作者:八神鏡
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第三十一話 運命

「まさかこんなところで君と出会えるなんて、運命を感じちゃうよ」

 血だまりの中で、彼女は倒れている俺に手を差し伸べる。
 真っ白だったであろうワンピースは、既に俺の血で赤く染まっていた。

 それでも彼女は、まったく気にせずに俺を助け起こそうとしてくれる。

「なんで……」

 驚きすぎて、喉が詰まった。
 上手く言葉を発することができなかったが、その代わりと言わんばかりに彼女の方がたくさん喋っていた。

「なんでぼくがここにいるのか、だって? いやはや、それが自分でもびっくりするんだけど、君に会いに来てたんだよ。魔族の暮らす場所はここから遠くにあるんだけど、どうしてもまた君に会いたくてさ……人間の国に向かっている途中で、君を見つけたというわけさ」

 違う。

「こんなに血を流しておきながら、魔物にも見つからなかったなんて運がいいよ。雨が降ってるおかげかな? 匂いが消えてるのかも。そういうところにも運命を感じちゃうのは、ぼくの頭がお花畑だからなのかな?」

 違う……聞きたいことは、それじゃなかった。

「なんで、俺を助けてくれたんだ?」

 どうにか、言葉を絞り出す。
 俺を助けてくれた理由。それが俺には、分からなかった。

 魔王は以前、俺が復讐のために利用した。
 俺たち二人の間に、何の関係もなかったはずなのに。

 俺に会いに来た理由もそうだし、俺のせいで汚れても気にしない神経も意味が分からなかった。

 どうしてこいつは、俺に手を差し伸べてくれるのだろう。

 そんな俺の疑問に、彼女はなおも優しく笑いながら答えを返す。

「ぼくの気持ちさ。君を助けたかったんだ。ただそれだけだよ」

「……意味が、分からない。お前の気持ちが、分からない」

「え? そうか、分からないのか……自分でもかなり露骨だと思うんだけどなぁ。うーん、こればっかりは気付いてくれた方がいいんだけど」

 彼女は照れたようにはにかんでいた。
 それでも、嫌がらずに魔王は俺と向き合ってくれる。

「えっとね、あれだ……ぼくの気持ちはさておき」

「……そこが、気になるんだ」

「や、やめてくれよっ。流石に恥ずかしいんだからね……ダメだなぁ。君の前だとどうも平静さが保てなくなる。これ以上の前で醜態を晒したくないから、勘弁してくれないかな?」

 俺が手を取らずとも、彼女はまだ手を差し伸べ続けている。
 それが不思議でしょうがなかった。

「そうだね……建前だけど、理由はあるよ。君は以前、ぼくを……いや、ぼくたちを助けてくれた。その時の恩を返しているって考えてもらってもいいよ」

 以前のことだ。
 こいつは人間に捕まりかけていた。それを俺は復讐に利用したのだが、結果的には彼女たちを助けたことになってかもしれない。

 だけど。

「俺は、助けたつもりなんてなかったのに」

 俺はこいつらが死のうと、何をされようと、まったくどうでも良かった。
 だから助けたつもりもないし、恩を感じる必要もないと思う。

 しかし、彼女は小さく首を振った。

「君にその気がなかったとしても、助けられたことには違いないさ。君のおかげで、ぼくたちは元気に生きている。毎日、朝起きるたびに幸せを実感できるのは、君がぼくたちに手を差し伸べてくれたからだ」

「……でもっ」

「いいよ。君の本音が別のところにあったのだとしても、ぼくはそれを気にしていない。むしろどうでもいい。ただ、君に助けられたという事実には、深く感謝している」

 と、ここで彼女は焦れったくなったのだろう。
 いつまで手を取ろうとしない俺の手を、強引に握った。

 そして、手をギュッと握りながら、彼女はこんなことを言う。



「ありがとう。君のおかげで、ぼくは救われた」



 そのまま俺の上体を起こして、彼女は柔らかく笑った。

「ようやく、感謝の言葉が言えたよ……あの時は余裕がなくてお礼も言わずに逃げちゃったから、ずっと心残りだったんだ。ぼくは君にとても恩を感じている。だから君を助けたのさ」

 ――その時、気付いた。
 これが『好意』なのだと……俺は生まれて初めて理解した。

 魔王はどうも、俺のことを好ましく思っているようだ。
 理由はなんであれば、助けてくれた俺に好意的な感情を抱いているようだ。

 あるいはこれを『優しさ』と表現するのだろうか。

「っ……」

 ……なんだか、胸がいっぱいになった。
 情けないが、自分よりも年下の少女にしか見えない魔王を前に、俺はいつの間にか涙を流していた。

 他人の温もりって、こんなに心地よかったのか。
 優しさって、こんなに嬉しいものだったのか。

 初めての感情にどう向き合っていいか分からなくて、俺は俯いてしまった。

 だというのに、魔王はそんな俺を……ゆっくりと、抱きしめてくれた。

「よしよし、無理に喋らなくてもいいよ……君の代わりにぼくが喋るから。前にも言ったと思うんだけど、ぼくはお喋りが大好きだからね。でも、えっとね……君の名前を、そろそろ教えてくれないかな?」

「な、まえ?」

「や! 嫌だったらいいんだけど……ちなみにぼくの名前はレイラって言うんだよ? 魔王なんて仰々しい響きより、こっちの名前で呼んでくれた方がぼくは嬉しいよ」

「レイラ……」

「んっ。な、なんだい? 早速呼んでくれるなんて、びっくりするじゃないか」

 レイラ。復唱すると、彼女は頬を染める。
 そんな彼女に、俺は――自分の名前を、告げた。

「……アーム」

 すると、魔王……レイラは、俺を抱きしめる力を強くした。

「アーム。よし、覚えたよ……前は教えてくれなかったから、実はちょっと不満だったんだからね? まったく、アームは本当に素敵なやつだな」

 彼女の言葉が心を満たす。
 感情が、制御できなかった。

「――っ」

 そのまま俺は、彼女の胸で泣き続けてしまう。

「うん、大丈夫。いっぱい泣いてくれ……何があったのかは、気が向いたら教えてくれればいい。今はただ、感情をぶつけてくれよ。ぼくは君のことなら喜んで受け止めるから」

 いつの間にか、雨は上がっていた。
 レイラはずっと、俺を抱きしめてくれた――
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